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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第九章 ワンウィーク・スクールデイズ
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第三八話 学校は今日も青春だ!⑨

取りあえず剣を手に取った俺は、訓練場の中心で柔軟体操をしていた。

思えば、リーン以外とのこう言ったただの模擬戦は初めてのように思える。

アルベルトの時はレイナの婚約者決め(仮)、クルルの時は冒険者ギルトの未来と、一応ソレっぽい理由があったから、分類的には決闘になるだろう。

対戦相手のテレシアは自分とほぼ互角の身体能力だという。

流石に黒雷は封印するが、全力で行かなければまず勝てないだろう。

それに相手にも失礼だ。先進誠意戦おう。

なんて思っていると、向かい側でヒュンヒュンレイピアを振っていたテレシアに、一人の男子生徒が歩み寄ってきた。


「オイ、委員長……気を付けろよ?」

「どうしたの? わざわざ忠告なんて」


その男子生徒はそう言いながら、俺の方を見る。


「俺、さっき更衣室で見ちまったんだよ。コイツ、一見弱そうに見えるけど……腹筋バキバキだったぞ」

「へえ、意外」

「それだけじゃない! アイツの身体の至る所に、スゲえ傷跡が残ってたんだよ、右腕とか脇腹とかさ……!」 

「僕も大浴場で見ましたよ! この御方、相当修羅場を潜っていると思います……!」


もう一人、丸眼鏡を掛けた知的っぽい男子生徒も加わり、ギャラリーにどよめきが広がる。

どうしよう、何か盛り上がっている。

確かに、この一年の修行でシックスパックにはなれたし、この傷跡なんて歴戦の猛者感はあるけど、俺より凄い筋肉してるリグルさんが居るからイマイチピンと来ない。

いや、比較対象がおかしいだけか。

それに、何だかんだで潜って来た修羅場の数も多いと思うしな。あまりにも短期的だけど。

と、マシュアがトコトココチラに近付いてきた。


「リョージー、今の話本当ー?」

「ん、ホレ」

「わー、本当に割れてるー! しかも何この傷、痛そー……」

「いやぁんちょっと突かないでー! 痛くはないけど擽ったい……ハッ」


マシュアに脇腹をツンツンされ満更でもないと思っていた矢先、背後からビンビン感じる殺気に俺は身体を跳ねさせた。

振り向かなくても分かる、多分この殺気の主はリーンだ。


「さ、さーて、そろそろ始めっか! マシュア、離れんしゃい」

「はーい、それじゃあテレシアー、頑張ってねー!」

「こっちに来たのに俺は応援しないのな!?」


意外と薄情なマシュアの背中を見送って俺とテレシアは対峙する。


「最初に言っとく。俺は基本、勝つ為だったら何だってする。使えるものがあれば何だって使うし、相手も騙す。正々堂々とか騎士道とか、そういうのは微塵も無い……そんな俺だけど、大丈夫?」

「ええ、構わないわ。寧ろ、実戦的で良いじゃない」

「良い人だぁ」


なんて、軽いやり取りを交わしているのだが、テレシアの目が怖い。

流石にリーンと対峙しているとき程ではないが、かなりの気迫を感じる。


「勝負内容は、致命打となるであろう一本を取った方が勝ちだ。お互い、構え!」


審判役の先生が両手を挙げると、俺とテレシアは同時に剣を構えてた。

一瞬の沈黙が訓練場を包んだ後、先生が上げていた両手が振り下ろされた。


「始め!」

「「「うおおおおお……おお?」」」


ソレと同時に、ギャラリーに歓声が沸くが、すぐに静まった。

俺とテレシア、互いに一歩も動いていないのだ。

……向こうもカウンター狙いか。

俺の基本戦法は、魔神眼で底上げされた動体視力を活かしたカウンターだ。

先手よりも、後手の方が俺には合っているのだが……どうやら、向こうも同じらしい。

テレシアの武器はレイピア、攻撃速度が特徴の武器だ。

だからてっきり、一気に詰めて来ると思ったのだが。

さてどうする? 何時までもこうしている訳にもいかないし。

取りあえず、フラッシュを放って目くらましを……ッ。


「『ゴッド・フレア』ッ!」

「うへッ!?」


初手上級魔法、しかも広範囲攻撃! 

エグいな!? 思わず変な声出ちゃったよ!

流石実技学年一位、俺でも使えない上級魔法を使えるのか。

マズいな、俺は広範囲攻撃にはめっぽう弱いんだ。

魔神眼で動体視力を上げても、避けられようがない攻撃だから。

訓練場だからか威力は控えているようだが、流石にサイドステップで躱せる規模じゃない。

となれば。


「『ハイ・ジャンプ』!」


俺は唯一の逃げ道である上空に飛び、迫り来る炎の壁を回避する。

だが、恐らく相手はソレを読んで……!


「『ライトニング・レイ』ッ!」


来た、魔法の中でも射出速度トップクラス、雷属性上級魔法!

真っ直ぐにコチラ目掛けて飛んでくる光線、どう足掻いても空中に居る俺には回避する術は無い。

そう、普通ならな!


「『アクア・ブレス』ッ!」

「ッ!」


俺はアクア・ブレスの勢いで、光線を紙一重で回避する。

やっぱり空中回避が出来るだけで、そこらの中級魔法よりよっぽど使えるぜ、アクア・ブレス!

俺はその勢いのまま水を放つ掌の向きを変え、上空からテレシアへ詰め寄る。

恐らくテレシアにとって予想していなかった動きに若干躊躇いが生じるも、すぐに彼女はレイピアを構えた。

だが、上空から攻める俺の方が攻撃の重さに分がある。

このままテレシアを押し倒して……いや、ダメだなこりゃ!?

と、互いの間合いに入った瞬間、俺はほぼ直感で攻撃の構えから即座に防御の構えを取った。


「イーグル・トゥラスト!」

「うおッ!?」


おっもッ!?

剣から伝わってくるその衝撃に、思わず声が漏れた。

その衝撃は俺の大体60キロは越えている身体を後方へと吹き飛ばした。

そのまま地面をスライドするように後退った後、テレシアは口角を上げた。

だが、その顔には『嘘でしょ?』と書かれているようにも見えた。


「まさか、私の技を受け止められるとは思わなかったわ。というか普通、レイピアの刺突を刃先で受け止められないでしょ……」

「あの威力だ、刃先で受け止めなきゃ剣がへし折れてたわ。というか、なぁにその威力? 致命打になるであろう一本じゃなくて、普通に致命打になる攻撃だったんですけど……」


お互いに『コイツヤベえな』と思っている状況だ。

俺と同じ、魔法と剣を組み合わせて戦うタイプ。

厄介だな……。


「さて、これからドンドンいくわよ?」

「ふー……掛かって来いや!」


と、一呼吸置いてからそう怒鳴ると、今度は真っ直ぐテレシアが飛び込んで来た。

まるで雨のようにコチラ目掛けて飛んでくる刺突の乱撃を、俺は最小限の動きで躱していく。

刀身が曲がるレイピアの刺突を躱すのは、いくら魔神眼を持っていたとしても至難の業だ。冷や汗が噴き出してくる。

だけど……成程、そういう感じか。

だいぶ分かってきたぞ、コイツの戦闘スタイル。


「『ハイ・ジャンプ』、『アクア・ブレス』ッ!」

「ッ」


俺がハイ・ジャンプとアクア・ブレスの勢いを利用し後方へ飛ぶと、攻撃が空振ったテレシアが前のめりにバランスを崩す。


「『投擲』ッ!」


その瞬間、俺は後方へ飛んだまま自分が持っていた剣を投げ付けた。


「ッ!?」


テレシアはその投擲に対し、身体を捻って何とか躱そうとする。

しかし回転した剣は、彼女の左肩に当たった。

刃は落としてあるとは言え、当たれば痛いだろう、テレシアは顔を顰める。

その怯んだ一瞬の隙に、俺はギャラリーの中に飛び込んだ。


「うーん、流石に今のは致命打にはならねえか」

「オイ待て、何でこの中に入ってくるんだよ!?」

「言ったろ? 俺は使えるものがあれば何でも使うって。という訳で、必殺肉盾潜伏! ずっとこの中に居れば俺が無敵!」

「きったねえ! 予想以上にコイツ汚えぞ!」

「さっきまであのテレシアと真正面からやり合ってた奴とは思えない程セコいぞこの男!」

「サッサとこの中から摘まみ出そう!」


どうやらクラスメイトの反感を買ってしまったらしい。

いや、流石に肉盾にはしないけどね?

ただ、ちょっと俺の作戦上この中に紛れる必要があったんだ。


「リョージの声がするのに何処に居るか分からないねー」

「多分隠密スキル使ってるのよ、アイツ」


流石リーン、良くお分かりで。

でも、審判は何も言っていないからオッケーな筈だ。


「でも、自ら武器を捨ててどうするつもり? 勝負はまだこれからよ?」


ギャラリーの外から、テレシアの挑発が聞こえて来た。

そんな挑発、普通だったら乗らないが、今は一応授業中。

普段なら相手が痺れを切らすまで何時までも潜伏するのだが、流石に時間をこれ以上食うのはマズそうだし、このままずっとここに隠れてては埒が明かない。


「……! そこ!」


ならいい加減、この中から出るとしよう。

勿論セコい手を使ってな!


「……ッ!?」


ギャラリーの中から目の前に飛び出してきたそれを、テレシアの刺突が確実に捉える。

しかし、バフッという軽い音を立てただけで、ソレはただ空中を舞った。

何て事無い、俺がさっきまで着ていた体操着の上部分だ。

その隙にテレシアの背後から飛び出した俺は、彼女の背中に襲い掛かる。


「イーグル・トゥラストッ!」


だが、俺が背後から襲い掛かるであろうと瞬時に悟ったテレシアは、振り向きざまに先程の必殺技を放ってきた。

その刺突は、今度こそ正確に的の中心を貫いた。


「ま、的!?」


全くの文字通りに。

自分の放った渾身の刺突が、俺が予め構えていた木の的の中心に突き刺さり、テレシアは驚愕に眼を見開く。

この的は、先程俺がアクア・ブレスを放った物。

丁度、丸盾のような形と大きさをしているコレを、先程ギャラリーの中に紛れ込んだと見せかけて、コッソリ拝借してたのだ。

迎え撃つように押し込み敢えて深々と突き刺させた為、木の的はレイピアの刀身の付け根まで食い込んでいた。


「……ッ!」

「させねえ、よ!」


テレシアはすぐさまレイピアを引き抜こうとするが、そのまま俺が木の的と共に突進した為、バランスが崩れる。


「ホイッ!」


その一瞬の隙に、俺は右腕で木の的の上部分を全力で叩き、グルンとひっくり返す。

すると根元まで突き刺さっていたレイピアも同じようにひっくり返り、その際テレシアは握っていた手を離してしまった。

そして、俺がレイピアが刺さったままの的を遠くに投げ捨てたのと、テレシアが尻餅を付いたのはほぼ同時だった。


「まだ……ッ!?」


それでも立ち上がろうとするテレシアの目の前には、俺が突き付ける剣が待ち構えていた。

それを見て、固まったテレシアはため息を溢し、中途半端に浮かせた腰を再び地面に落とした。


「……ソレ、何処に隠し持ってたの?」

「さっきギャラリーの中に入ったとき、そこの人から掻っ攫った」

「えっ、あっ、ホントだいつの間に!?」

「手癖が悪いわね」


今更腰の鞘から剣が消えている事に気付き驚く男子生徒の顔を見て、苦笑いを浮かべるテレシアに。


「さっきも言ったろ? 使えるものは何でも使えだ」

「本当に、宣言通りだったわね」


そう言ってニヤリと笑ってみせると、笑い返したテレシアがチラリと先生の方を向いた。

先生は頷くと、右腕を上げてこう宣言した。


「勝者、ワズミリョージ!」

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