第五話 勇者は今日も最強だ!⑤
「ハア……フォルガントじゃボク達は英雄なのに……あんなに泣き叫ばなくてもいいじゃないか……」
「だって、戦ってた側からしたらお前らなんて絶望じゃん」
あの時の冒険者達の反応が酷くショックを受けたらしいジータ。
そんなジータに、俺はそう言うとお茶を啜った。
場所が変わって、俺達は魔王城の一室にて。
しっかりハイデルに怒鳴りまくった後、俺とレイナ達は机を挟んで向かい合った状態で座っている。
そして更に。
「……ってか、何でお前がここにいるんだよ?」
「何? 何か文句ある?」
何故か俺の隣にリーンが座っていた。
「そうじゃなくて、何でコイツらが来ること知ってたんだよ?」
「洗濯してたら、急に頭の中にジータの声が聞こえて来たのよ。通信魔法でね」
「それ俺にもやれよ!?」
「いやぁ、魔王君に繋いだら来るなって言われそうだったから」
ジータはまったく反省してなさそうに頬を掻いている。
「それよりも、アンタ達」
ゲンナリしてる俺を無視し、リーンは俺達のやり取りを苦笑いを浮かべながら眺めていたレイナ達に向き直る。
「最初に、どうしても伝えなきゃいけない事があるの」
「は、はい……!」
そういい、リーンはスッと立ち上がった。
この前レイナ達が去った後に言っていた事だろうか。
ジッと黙ってその様子をみていると、リーンは勇者一行全員の顔を見てから。
「ごめんなさい」
深々と頭を下げた。
「ええっ? な、何で謝るです……?」
いきなり謝罪してきたリーンに、フィアが困惑の表情を浮かべながら言う。
それは他の三人も同じらしい。
俺も一瞬疑問に思ったが、なんとなく謝罪の理由が分かった。
「私の父さん……サタンが、アンタ達に……アンタ達の国や他の国にも迷惑を掛けた……本当にごめんなさい……」
やはり、自分の父親の事だったか。
「そ、それは、リーンさんが謝る必要はないですよ……!」
表情はよく見えないが、暗い表情をしているであろうリーンに、レイナが立ち上がって制す。
レイナはそう言ったが、リーンは謝らなくて気が済まないのだろう。
それもそうだ、自分の父親がフォルガント王国。
更には他の国にも侵略戦争を仕掛けたのだ。
俺だって自分の親が犯罪まがいのことをしでかしたら責任の一つは感じる。
俺が初めてリーンとちゃんと話したときもそうだったが、リーンは悪いと思った事はちゃんと謝る奴だ。
自分の父親の悪事を止められなかったことに、責任を感じているのだろう。
「そ、それに、私達はリーンさんのご家族を手に掛けたんです! だからっ!」
「私はアイツを家族なんて思ってないわ。それに、散々国民を苦しめていたアイツを殺してくれたあんた達には、感謝してるのよ?」
それでも身を乗り出したレイナを、宥めるようにリーンは優しく言った。
……今まで、被害者も同然だったリーンが、こうして頭下げて謝ってるんだ。
なら、俺だって。
「俺からも謝らせてくれ。本当に悪かった」
「ま、魔王さん!?」
「……ちょっと、何でアンタまで」
突然立ち上がってリーンと同じように頭を下げた俺に、レイナだけでなくリーンも驚く。
俺は頭を下げたまま話す。
「確かに俺自身全く無関係。でも、俺はこの前なったばかりだけど、この国の魔王だ。だから今まで散々お前らに戦争吹っ掛けてきた、歴代の魔王達を代表して謝ってる」
「リョータ……」
どうだ、見てるか歴代の魔王達。
今頃こんな俺を見て、自分達を否定されて、怒り狂ってる事だろう。
ざまあみやがれ、コレが魔王になった俺だから出来る、テメエらへの最大の嫌がらせだ。
そんな俺を見て、今まで散々オドオドしていたレイナは、少しだけ真剣な面持ちになると。
「分かりました。勝手ではありますが、こちらも歴代の勇者を代表して、あなた達の謝罪を受け入れます」
……今後、絶対に争いが無くならない保証なんてないけれど。
この因縁が消えるわけじゃないけれど。
今この瞬間、この長きに渡った勇者と魔王との関係に、一つのピリオドが打たれた気がした。
「……さてと、それじゃあこの件は一旦置いといて、お前らの用件を聞かせてくれ」
「は、はい! 分かりました!」
再び椅子に座った俺とリーンに、レイナは改まったように話し始めた。
「「――同盟ぃ!?」」
思いも寄らない言葉に、俺とリーンが声を揃えた。
レイナの話はこうだ。
三日前、勇者一行がこの国に襲撃……訪れた後の事。
レイナ達はジータのテレポートでフォルガント王国に帰った後、バルファスト魔王国の魔王、もとい俺が世界征服をしないと宣言した事をレイナの父親であるフォルガント王に伝えた。
フォルガント王はそれから三日後、バルファスト魔王国と友好な関係を築きたいと宣言。
そしてレイナ達に、魔族と人間が友好な関係を結ぶ為の同盟の提案を俺に伝えるように命じ、再びジータのテレポートでこの国に訪れた。
そして、ギルドでヒューズと腕相撲をして負けそうになっている俺を発見したという事だ。
「ってかジータ、お前何ちゃっかりテレポート先をここに登録してるんだよ」
「いや~、フォルガントからここまで三、四日かかるから、つい帰り際に魔王城前に登録しちゃったよ。あと、ここに来るまでに大型モンスターがわんさか襲いかかってくるし。いちいち倒すのももう面倒だしね」
「どおりで緊急警報が鳴らないわけだ……」
それよりも、同盟かぁ……。
俺は隣で同じく悩んでいるリーンに話し掛ける。
「なあ、俺同盟とか言われても何すればいいか分かんねえんだけど……」
「私だって分からないわよ……。あんたが魔王でしょ、あんたが考えなさいよ」
「だから俺は庶民だから政治とか分からないの! そう言うんだったらお前一応この国じゃ権力高い方だったじゃねえか! 今お前この国でどんな立場なのかよく分からないけど!」
「知らないわよ、まさかこの国がどこかの国と同盟を結ぶなんて思いもしないでしょ!?」
「確かに!」
ヤバいな……俺、現代社会の科目得意な方だけど、ほんとに何すればいいか分かんない。
「うう~ん」
てか、この前の襲撃の時点で既に国交問題な気がするんだが……まあいいか。
「ちなみに、その同盟についてなんだけど、どんな内容?」
「もう魔族と人間の戦争を繰り返さないよう、そして共存出来る未来を作るのが、同盟の目的です」
素晴らしい内容だ、断る理由も見つからない。
「その直接的な繋がりを持つため、出来るなら新たな交易を生み出したいと、お父様は言っていました」
交易……。
「なあリーン、この国に名物っていうか、何か特産品みたいなのあったっけ?」
「一応、この街の付近で果物とか小麦とかの栽培はしてるけど……交易相手が大国だし……」
リーンの言うとおり、相手は大国であるフォルガント王国。
他の国については全く知らないが、この小さな国で交易の相手になるかどうか。
「交易の件は、可能ならの話ですので、あまり気にしないで下さい」
「そう? それよりも気になったんだけど、その……ウチとの同盟の話って、そちらさんの国の偉い人達は全員賛成してるのか?」
「いや、正直に言うと五分五分なんだ」
「そりゃそうだよな。半年前まで戦争してたんだもん」
複雑な表情をしたエルゼの答えに、俺はうんうんと頷く。
「それに、魔族のことをよくないと思ってる奴もいるだろうし」
「それは……そうですね」
まあ、魔族っていうのは人間と似てる奴も多いが、基本的に姿形が怖い奴も多い。
そこに恐怖を感じているが、強がって魔族は下等な生き物だとか言ってくる貴族とかもいるだろう。
それに実際、何千年も戦ってきた間柄だ。
「……でも、私達はそうは思っていません」
うむむと唸っている俺とリーンに、レイナが静かに言った。
「確かに魔族を下等と言い張る者もいました。でも私、思うんです。魔族はみんなが思っているような怖くて悪い人達じゃないって」
「いや、怖くて悪いって言うよりはバカが多いな」
「アハハ……でも、私達は人間と魔族が仲良く出来たらいいなと思ってるんです。それはお父様、フォルガント王も同じです」
「…………」
スッと立ち上がったレイナに続き、他の三人も立ち上がる。
「私達は魔族はそんな人達じゃないって、みんないい人達なんだって、国の人達に教えてあげたいんです。その為には、例え反対されてた蔑まれたって、行動をとらなきゃいけません」
俺の目を真っ直ぐ見つめるレイナの瞳には、嘘や見栄などの不純物が一切存在していなように見える。
その瞳を見た瞬間、俺は。
「……リーンどうしよう。この子マジでいい子だったわ……」
コイツには絶対裏があると、ずっと疑っていた自分が申し訳なく思った。
「あんたねえ……」
「そんな眼で見るなよ! しょうがねえだろ、こんな可愛くて天使みたいな性格の女の子、俺の故郷じゃ国の天然記念物並にしかいなかったんだから! いや、そもそも存在してないかもしれない!」
「あんたの故郷、どんなとこだったのよ……」
「日本っていう遠い国だよ!」
「あ、あの……」
と、俺が尋常じゃない罪悪感に見舞われていると、顔を何故か赤くしているレイナが。
恐らく俺がレイナに対し可愛いとか天使みたいとか言ったからだ。
…………。
「ゴメン俺ごときが気持ち悪いこと言ったな感じ悪くしただろ殴っていいよ」
「い、いえ……!」
うひゃああああああ恥ずかしい! 死にたい!
とりあえず俺はンンッと咳払いすると、四人に座るようにゼスチャーした。
「とりあえず、俺個人としては大いに賛成、是非組もうって思ってる。交易に関してはちょっと待っててくれ。それと俺だけで今決めるのも何だし、後で四天王や街の連中にも訊いてみるよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
ふう……これで一段落付いたな。
何か、魔王として初めてちゃんと仕事した気がする。
俺がそう満足感に浸りながら、手元のティーカップを持ち、口を付けた時だった。
――バンッ!
「リョータさんっ!」
「ングフッ!?」
目の前のドアが勢い良く開き、リムが飛び込んできた。
「リョータさん、大変です……って、ど、どうしたんですか!?」
「ゲッホ、ウエッホ! ハア……ハア……だ、大丈夫だ……!」
お茶が変なところに入ってむせ返る俺に、リムがオロオロしている。
「それよりも、何があった? ローズ辺りがまた捕まったのか? ほっとけほっとけ、あんなド変態」
「違います、そんな事じゃ無いんです!」
リムの慌てよう、確かにそんな事じゃなさそうだ。
俺はリムを落ち着かせようと立ち上がったその時。
――カーンカーンカーンッ!
「まった緊急警報かよおおおおおおおお!?」
けたたましく鳴り響く鐘の音に、俺は頭を掻きむしった。
緊急警報が二週間も経たずに三回って、トラブル起きすぎだろもうっ!
ってか、今回は何なんだ?
ドラゴンでもないし勇者でもないし……うん?
そういや、確かレイナ達もある意味あのドラゴンというトラブルに見舞われたんだよな……。
「ど、どうしたんです?」
ジッと見てくる俺にフィアが居心地悪そうに訊いてくる。
「……お前らって、よくトラブルに巻き込まれたりする?」
「えっ、ええっと……た、確かにそうですね。いきなりモンスターの大群が襲ってきたり、突然変異種が現れたり」
レイナのその答えに、俺はまさかと窓の外を見た。
レイナは勇者、つまり主人公ポジションである。
そんなポジションの奴には主人公補正という、トラブルに巻き込まれやすい性質になってしまう。
もしそんな奴が、わざわざ他所の国に来て何のトラブルも起きないということは、ラノベでもあまりない……。
恐らく、何かしらのトラブルが降りかかる可能性が……。
そう思いながら固まっている俺に、リムが叫んだ。
「モンスターの群れが、この街に攻めて来ているんですッ!」
俺の予感は的中したようだ。
登場人物紹介 パ~ト5
ローズ・リアトリス
魔王軍四天王のエロ担当。日夜《透視眼》の能力を使って男性の身体(特に股間)を見て採点するのが趣味のサキュバスクイーン。年齢不詳で、ローズに年齢の話をしようとするならばボコボコにされてしまう。ちなみに他のサキュバス達はローズよりも優秀で、もう経験済みだったり、更には結婚までしているサキュバスもいるので、ローズは色々と焦っている。
 




