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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第二章 隣の国の勇者さん
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第五話 勇者は今日も最強だ!③

どういう事なんだろう?

なぜ、俺ではなくリーンの事を魔王とか言っているんだろう?

勇者と思われる亜麻色の髪をした少女の言葉に、俺は意識を失いかけてたのに、今はハッキリしている。


「ごめんなさい、いきなり来た上に、四天王や部下の方々に攻撃してしまって。でも、私達はあなたを倒しに来たわけじゃないんです」


ん? どういう事だ? 頭が追いつかない。

俺は勇者の言葉を理解しようとしているが、さっぱり言っている意味が分からない。

それはリーンとリムも同じらしく、お互いに顔を見合わしている。

ええっと……もしかして、勇者一行はデーモンアイに選ばれた奴が魔王になることをしらないのか?

だから先代魔王サタンの娘であるリーンを新魔王だと勘違いしているのか?

だったら今の状況ラッキーじゃないのか!?

などと思っていると、リーンは俺を指を指しながら。


「確かに私がリーンだけど……魔王はそこでぶっ倒れているコイツよ」

「「「「……えっ?」」」」


オーマイガアアアアアアアアアアアアアアア!

リーンの野郎、秒でバラしやがって!

と、俺がリーンを睨みつけていると、勇者は恐る恐るといった感じで。


「え、ええっと……あなたが魔王なんですか……?」

「…………はい」

「じゃ、じゃあ、何で床に伏せているんですか……?」

「……さっきの魔法で吹き飛ばされた」

「「「ええ……」」」


何か後ろの三人に引かれた。

泣きたいです。






「――まずはどういう事か説明して貰おうか」


ちょっと経って今現在。

万が一のため、一応住民は避難させたままで、俺は玉座に座りながら――。


「あの、何で玉座の後ろに隠れてるんですか……?」


――ではなく、玉座の後ろに隠れながら勇者に訊いた。


「お、おい、ほんとにコイツが魔王なのか……?」

「さ、さあ……?」

「しかもこの人、人間です……?」


勇者の後ろにいる、くしゃっとした青髪で背中に大剣をしょっている戦士風の少女の言葉に、真横の赤髪でいかにも魔法使いの格好をした少女が首を傾げて答え、白髪の聖職者のような格好をした少女が俺をジーと見る。

悪かったな、魔王なのに人間でビビりでよ。

ってか、赤毛の魔法使いの声って、ローズ達を吹き飛ばした時に聞こえた声だよな?

この魔法使いの格好といい、恐らく風魔法を放ったのはコイツだろう。

しかしどうしようか……。

リムはハイデル達の救出に向かっているので、今この魔王の間には俺とリーンと勇者一行しかいない。


「ええっと、私は隣国、フォルガント王国の第一王女、レイナ・ブライト・フォルガントです。いきなり押しかけてきてごめんなさい」


レイナと名乗ったのは、やはり亜麻色の髪の少女だった。

歳は俺より一つ二つ下に見えるその少女は、何だか仔犬をイメージさせられる。

……ほんとにコイツが勇者なのか? 

てっきり、俺は筋肉ダルマをみたいな奴だと思ってた。


「……ホラ、アンタも」

「お、おう……えっと、ツキシロリョータです。昨日この国の魔王になったばかりなんだ」

「あの、何で魔王サタンの娘さんじゃなくて、あなたが魔王をやっているんです?」


隣のリーンに促され俺が自己紹介すると、白髪の聖職者が不思議そうに訊いてきた。


「何か魔王って血筋とかじゃなくて毎回ランダムに決めるっぽくてな。それで、何故か俺が魔王に選ばれたんだ」

「ねえ、それより一ついいかしら?」


流石にデーモンアイの事を話すわけにはいかないので、俺が超簡潔に説明すると、リーンが訊ねた。


「何で、私の名前を知ってるの? 私、あなた達に会った覚えないんだけど……」

「ああ、それはね。半年前ここで魔王サタンと対峙してた時『仮に俺を倒そうとも、我が野望は娘のリーンが果たす』って言ってたからだよ」

「アイツ……」


魔法使いの言葉に、リーンは顔に影を落とし、唇を噛み締めた。

そりゃそうだ。詰まるところ、父親であるサタンは結局、リーンを世界征服の道具としてしか見ていなかったって事だから。


「あ、あれ? 何かマズい事言っちゃった……?」

「あっ。ううん、何でもない。それより、あなた達は何の目的でコイツに会いに来たの?」

「ちょっ!?」


その様子に魔法使いが慌てるとリーンは我に返り、そう言いながら俺を前に突き出してきた。


「実は、お願いしたい事があって……」


こちらを伺うように言ってくる勇者レイナ。

そのお願いというのは恐らく、俺に死んでくれとか、死んでくれとか、死んでくれとかだろう。

魔王を倒しに来たわけじゃないと言っていたが、ぶっちゃけ信用できない。

だから俺は今も警戒心マックスで接しているのだ。


「古来より、魔族と人間は戦争を続けていました。皆さんが悪いと言っている訳じゃないですが、その戦争の原因は、歴代の魔王の世界征服願望が原因だと聞いています」


……しかし、もし仮に、それ以外のお願いだとしたら恐らく。


「最初に言っとくけど、俺世界征服しないからね?」 

「どうか世界征服をしないで欲しいんです!」


……やっぱり世界征服の件だったみたいだ。


「って、え、えええ!?」


勇者レイナと重ねて言った俺の言葉に、勇者レイナは少し固まると驚きの声を上げた。

後ろの仲間の三人も、俺の言葉に目を見開いている。

俺はポケットからギルドカードを取り出し、レイナにポイと投げ渡した。


「えっ? コレってギルドカード……」

「ステータス見てみ」

「え、あ、はい……」


そう言って俺のステータスを見たレイナは固まった。


「……どうしたんだい、レイナ?」


固まったレイナの後ろから、赤毛の魔法使いが覗き込むようにして見ると。


「うっ……」


呻き声を上げた。

もし俺のステータスが高いのなら、こういった反応はさぞ気分のいいことだろう。

しかし、彼女らが驚いてるのは逆の理由。


「一応言っておこう、俺のステータスは器用度と知力以外平均以下。おまけにユニークスキルもない。あと、ジョブはレンジャーな」

「なあ、お前ってほんとに魔王なのか……?」

「そう言ってんじゃん」

「信じられないのです……」


いまだに俺の事を魔王と信じていない様子の青髪戦士と白髪聖職者。


「分かっただろ? こんなステータスの俺が仮に世界征服しようとしたとして、バケモノであるあんたらに秒殺されるだけだよ……今でも殺されるかもだけど」


俺が頭の後ろをバリバリ掻きながら言うと、赤毛の魔法使いがズイッと前に出た。


「バケモノってなんだい。それに、レイナが自分でも弱いって言ってる君を一方的に殺すような子に見えるかい?」

「いやまあ、いい人っぽいなとは思うけど、出会ったばかりの人を信用しろって言われても……」

「ですよね……」


俺の言葉にレイナはアハハと苦笑いをした。

見た目や喋り方で騙されちゃあダメだ。

後で実は演技で、メッチャ腹黒でしたなんて事だったら取り返しが付かない。


「そんな事ないよ! レイナはすっごくいい子なんだよ!」


しかし、赤毛の魔法使いはそう言って自分の事のように胸を張った。


「ホントかよ魔法使いさん。とかいって、隙を突いて俺を殺そうとしてるかもしれないし」

「勇者一行がそんな外道みたいなことするわけないじゃん! あと、ボクの名前はジータだよ」

「ゴメン、やっぱまだ……」

「何でっ!?」


俺が片手を突き出すと、ジータと名乗った赤毛の魔法使いは涙目になった。

漫画脳の捉え方だけど、ボクッ娘も腹黒い奴らが多い。


「そういえば、そこの二人の名前は?」


リーンが後ろに立っている青髪戦士と白髪聖職者に訊くと、二人は顔を見合わす。


「……エルゼだ。あまりレイナとジータをいじめてやんなよな」

「フィアです。よろしくです」


青髪戦士のヤンキー口調がエルゼ。

そんで白髪の聖職者がフィアですか。なるほどです。

と、そんな事よりも。


「話を戻すけど……まあ、仮に俺が世界征服しようとしてて、その前にお前らが平和的……平和的? に、話をつけようとしてた事は分かった。だけど安心してくれ、俺は関係ない人達巻き込んで戦争するような度胸もクズさも持ち合わせちゃいないよ。それに、平和に暮らしたいってのがここの奴らの願いだからな」

「ええ。だから決して、私達から危害を加える事は無いわ」

「そうですか……よかったぁ」


俺の言葉にレイナはホッとため息をつくと、心から嬉しそうに微笑んだ。


「いや、嘘じゃないんだけど……そう簡単に信用しちゃっていいのか? しないって証拠ないんだぞ?」

「そうですけど、何だか魔王さんが嘘をついているようには見えなかったので」


は? 優しいかよこの子……っていかんいかん!

いくら可愛いからといって、現時点で百パーセント信用しちゃダメだ!

仮にも国王として、クールにならなければ。

にしても魔王さんか……なんか変な呼び方だな。


「とりあえず今日は帰ってくんない? 俺に世界征服しないでほしいってお願いしに来ただけなんだろ?」

「ですです」

「あとお前らのせいでうちの四天王と冒険者が伸びちまってるんだ。一応、アイツらの様子を見に行かないといけねえし……」

「それはお前らがいきなり緊急警報鳴らして襲ってきたからだろ!」


ため息交じりの俺の言葉にエルゼが食って掛かる。


「……仮に魔王が事前連絡も寄越さずに堂々とお前らの国に入ってきたとしたら、お前らは話聞こうとするか?」

「た、確かに……」

「いやまあ、まったく話も聞かずにパニクった俺達にも非はあるし……お互い水に流そうぜ。国民には俺から言っておくよ」


俺のド正論にエルゼはばつが悪そうに頭を掻くが、俺はヒラヒラと手を振った。

するとジータが前に出る。


「ごめんよ魔王君。君の言う通りだ」

「どしたの魔女っ子?」

「魔女っ子って言わないでくれないかな!? これでも宮廷魔術師だよ!?」


ってか魔王君って何だよ? 完璧に下に見られてね?

そんな事を思っていると、ジータがハアとため息混じりにいった。


「最初は君の言ったように連絡しようとしてたんだ。だけどちょっとトラブルに遭ってね」

「トラブル?」


リーンが聞き返すと、ジータの代わりにレイナが答えた。


「信じて貰えないと思うのですが……実は数日前、私達の国にブラックドラゴンが現れて……」

「「……は?」」


今コイツなんて言った?

固まる俺とリーンに、レイナは話を続ける。


「あのブラックドラゴンは、私達が一週間前に討伐したホワイトドラゴンのつがいだったらしく、私達の後を追ってこの付近にまで来てしまったんです。私達と国の兵でブラックドラゴンを追い返したんですけど、昨日この国に向かう途中、そのブラックドラゴンが血まみれの状態で再び私達の前に現れたんです」

「「…………」」

「あのブラックドラゴンの心臓には剣が突き刺さっていてね。調べてみたんだけど、不思議な事にその剣は何の力も付与されていなかったんだ」

「「………………」」

「アタシやレイナの攻撃でさえあまりダメージを受けていなかったのに、あんな安物の剣であのブラックドラゴンの心臓を突き刺したんだ。しかも角も綺麗に切られててよ! あんなスゲえ奴がまだいたんだな!」

「「……………………」」

「それで最後はレイナがトドメを刺したんです。瀕死の状態だったから楽にトドメを刺せたです。よかったです」

「「…………………………」」

「……あの、どうかしましたか?」


フフフ……なるほどねえ。

つまり、つまりつまりつまり――。


「テメエらかあああああああああああああああああああああ――ッ!」


俺は絶叫にも近い大声を上げ、玉座の影から飛び出し、レイナの肩をガッと掴んだ。

そしてガクガクと揺らしながら涙目で怒鳴る。


「きゃあっ!? ど、どうしたんですかいきなり!?」

「テメエ、いきなり何してやがんだ!」

「そうです酷いです!」

「うるせええええええええええええええええええええええええ! テメエらのせいだったのか! あのドラゴンはよおおおおおおおおお!」

「ちょっと、リョータ落ち着きなさいってば!」

「はなせえええええええええッ!」


リーンに引き剥がされジタバタする俺に、ジータが慌てたように。


「待って、ど、どういう意味だい?」


俺は拳を握り締めると、困惑している勇者一行に早口でまくし立てた。


「テメエらの後を付いてきたって言ってたあのブラックドラゴンが、昨日ここに来て暴れ回ったんだよ! それを俺達で何とか追い返したってのに、お前らドラゴンの素材も経験値も横取りしやがって!」

「ええええ!? そ、そうだったんですか!? じゃ、じゃあ、あのドラゴンの心臓に刺さっていた剣は……!」

「俺だよ! あと、額の角はリーンがやった! 畜生、俺が何度も死ぬ思いしてアイツの心臓に剣突き刺したってのに! 今朝から経験値が一向に入らなかったのはそれが原因かよ!? それよりも、テメエらがアイツを連れてきたせいで、危うく国が滅びかけたんだぞ!」

「ち、違うんです! そんなつもりは……! でもゴメンナサイ!」


怒鳴り散らかす俺の話に、レイナが何度も何度も頭を下げる。

それでもまだ言い足りない俺が、更に怒鳴ろうとした時、リーンがパーカーのフードを引っ張った。


「ぐえっ」

「落ち着きなさいよもう……コイツは私が何とかするから、アンタ達は国に帰りなさい。テレポートぐらいは使えるでしょ?」

「い、いいんでしょうか……?」

「いいの。またいつか、ゆっくり話しましょう。今はコイツが騒いでるから出来そうにないし」


勝手に進行するリーンに文句を言おうとするが、首が絞まって声が出ない。

レイナ達は顔を見合わせると、最後にもう一度頭を下げ。


「わ、分かりました。魔王さん達が世界征服をしないという意を、国王であるお父様に伝えておきます。あの、魔王さん! 後日ちゃんと謝罪を込めてお詫びします!」

「待て、話はまだ終わって――」

「『テレポート』ッ!」

「逃げんなやあああああああああああああああッ!」


ジータが詠唱を済ませていたであろうテレポートの光に包まれ、勇者一行は姿を消した。

俺は未だモヤモヤした気持ちを抱えながら、その場にあぐらを掻く。


「……いいのかよリーンは?」

「確かにブラックドラゴンがこの付近に来たのはあの子達が原因だったけど、この国を襲いに来たのも、トドメを刺したのも全くの偶然だから。そもそも、私達は今まで散々あの子達の国に迷惑を掛けてきた。だからコレはある意味因果応報よ」

「その因果応報、俺自身全く関係無いのに……」

「あと、それに……」

「それに?」


俺が聞き返すと、リーンは先程まで勇者一行が立っていた場所を見つめながら。


「私、あの子達にちゃんと伝えなきゃいけない事があるから」

「…………」

「だから、アンタもいつまでもいじけてないでよ?」


俺を置いて、スタスタと歩き始めるリーンの背中を、俺はジッと見つめる。

話しておきたいことって何だろう。

あの一瞬、リーンの表情が悲しそうに見えたのは、何故だろう。

そんな事を気にしながら、俺はリーンの後を追いかけた。

登場人物紹介 パ~ト3


ハイデル・アルドレン


魔王軍四天王の一人にして、地獄の公爵。常にタキシードを着込み、丁寧な言葉遣いの、高身長のイケメン……に見えるが、かなりの脳筋。《ヘルファイア》と呼ばれる、灼熱の黒炎を生み出し、自由自在に操るユニークスキルを持っている。しかし、あまりにも魔力を消費する上、本人が節約せずに最大火力で一掃したがるため、すぐに魔力切れを起こす。ちなみに、地獄では名の知れた公爵だが、配下の悪魔達に陰で馬鹿にされているとか。ちなみに普段は人間と変わらない姿で生活。理由は寝るとき翼や角が邪魔だから。

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