第五話 勇者は今日も最強だ!②
緊急警報が鳴ってから早十分。
勇者一行はもう、この魔王城に潜入していた。
アイツらの狙いはもちろん魔王である俺。
どうしよう……いやマジでどうしよう……。
とりあえず、まず土下座してその後お茶出してお土産渡してお帰り願おう。
……いや、絶対問答無用で殺されるな。
「ど、どうしましょう……?」
「待てリム、今頭フル回転して打開策考えてるから……」
オドオドしているリムに、俺は頭を押さえながら答える。
クッソ、どうしたら、どうしたらいいんだよ……!
そう、俺が涙目になっていたときだった。
――バアアアアアアアアンッ!
いきなり、目の前の扉が勢いよく開け放たれた。
「出たあああああああああああああああああああああああああ!?」
「ッ!? って何よ、いきなり大声出すんじゃないわよ!」
「って何だリーンかよ、心臓止まったかと思った……! お前もうちょっと扉優しく開け閉めしろ、いつか壊れるぞ!?」
「う、うるさいわよ! 今はそれを言ってる場合じゃないでしょ!」
激しく脈打つ心臓に手を当て睨みつける俺に、リーンはカッカとこちらに歩いてくる。
「リーンさん、今までどこにいたんですか!?」
「子供達の所よ。全員避難が終わったから、急いで戻ってきたの」
コイツ、いつも肝心な時に子供のところに居るな。
いやまあ、孤児院の院長としては当たり前だし、素直に感謝すべきことだが。
「…………」
などと思っていると、今まで黙っていたハイデルが扉の方に歩いて行った。
「リーン様とリムはここで魔王様の護衛を頼みます。私は今から勇者一行の元へ向かいますので」
「いやバカかお前!? 自殺願望者かよ!」
思わず叫んでしまったが、まったくその通りだ。
しかし、ハイデルはこちらに振り向くことなく。
「私は魔王様をお守りしなくてはなりません。私は四天王として、その義務を果たさなくては……」
「守るんだったら俺を外に逃がせよ 何か矛盾してね!?」
「例え勇者一行に敵わないとしても、私は魔王様のために戦います!」
「うん、だから全員で逃げればオールオッケーだろ!?」
「リーン様、リム、後は頼みます」
「ちょっとー!?」
急にシリアスな雰囲気になった後、覚悟を決めたような顔をしたハイデルは、魔王の間から出て行ってしまった。
「もう、あのバカ……!」
「ハイデルさん……」
リーンとリムは扉を見つめて悔しそうに拳を握り絞めている。
そして、その数十秒後。
『勇者一行! ここからは絶対に通しませんよ! ヘルファ――グフオオオオォォッ!』
「ハイデルーッ!?」
遠くから大型トラックが衝突したような爆音とともに、ハイデルの断末魔が聞こえた。
クソゥ、やっぱり逃げ出すしかねえ!
こっそり逃げだそうにも、ここの出入り口は正面の扉しかない。
仮に今出て行っても、勇者一行と鉢合わせになるだろう。
そうだ、リムのテレポートがあれば……!
いや、時間的に詠唱を済ます前にここに来ちまう……!
などと考えながら、ジッと扉を見ていた俺は。
「あっ、そうだ!」
「な、何か思いついたんですか?」
「ちょっと待ってろ!」
そうリムに返すと、俺は腰に下げた剣を鞘ごと持ち、扉の前に立つ。
俺は思っていた。
なぜRPGゲームの城とか家とかって、鍵閉めてないんだろうと。
そして、その剣を扉の取っ手に通したら、即興のかんぬきの出来上がり!
「いや無理でしょ!?」
「しょうがねえだろ、コレしか俺に出来ることねえんだから! それに、もしかしたら『アレ、扉が開かないぞ? 魔王の間ってここじゃないのかな?』ってなってやり過ごせるかもしれないだろ!?」
「た、確かに、そう……なの……かなぁ?」
思わずと言ったリーンのツッコミに俺が事細かく説明したが、リムは首を傾げる。
頼む、出来ればそうなってくれ!
そう俺が願っていたその時、扉の向こうで何かが爆発したような音が聞こえた。
そして、数人がこちらに駆けてくる足音が。
(き、来たああああああああああああああ!)
俺が小さな声で叫ぶと、リーンとリムは戦闘態勢になる。
そして、俺が扉の前で息を潜めていると。
『ご、ごめんくださ~い!』
扉の向こう側から女の子の声が聞こえ、思わず固まった。
『あの、ここに魔王様はいらっしゃいますかー!?』
何で確認取ってるんだコイツ!?
普通勇者なら扉蹴破って入ってくるだろ!? リーンを見習え!
と叫びたい気持ちを抑え、俺は息を殺して待つ。
――ガチャガチャガチャ!
『ア、アレ? 開かない!』
目の前の扉が揺れたと同時に、扉の向こうからそんな声が聞こえた。
向こうもまさか魔王の間に閂が掛かっているなんて思いもしなかったのだろう。
俺の思惑が通じてちょっと安堵していると。
『もしかして、ここじゃないのかな?』
いや、ちょっとじゃない、完全に俺の思惑通りになった。
その声が二人にも聞こえたのか、『マジで?』といった感じで目を見開いていた。
フッフッフッ……計画通り……!
そう俺が勝利を確信して親指を立てていたときだった。
『ちょっとそこどいて、魔法で開けてみるよ』
扉の向こうから別の、あの風魔法を放った奴の声が聞こえた。
「は? え、ちょっ待――!」
『『エア・ブラスト』――ッ!』
「ブフアッ!」
強力な風によってかんぬきの剣がへし折れ、勢い良く開け放たれた扉に直撃し、俺は後方に吹き飛ばされた。
「リョータさ……! ひゃああ!?」
「うううう……ッ!」
その風は扉を開けただけでは勢い止まらず、後方で構えていたリーンとリムにまで届いた。
「リーン! リム! 大丈夫ガッ!?」
二人が踏ん張ってる間吹き飛ばされた俺は、魔王の間の隅の壁にビタンッと直撃。
そのままズルズルと滑り落ちて、床にぶっ倒れた。
全身を壁に打ち付けた痛みに、俺が意識を手放しそうになっていると、開け放たれた扉の方から。
「私達は勇者一行ですッ!」
ああ……終わった……!
俺はボンヤリとした意識の中、その声が聞こえた瞬間自分の死を覚悟した。
「あ、あなた達! 一体何しに来たの!?」
頭の中で故郷の両親の事を思い出していると、リーンのそんな声が聞こえた。
そして、リーンとリムに向かい合っている四人の中から一人、亜麻色の髪をした少女が一歩前に出ると。
「あなたが新魔王、リーン・フェルネア・デストロさんですか……?」
「「「えっ?」」」
俺とリーンとリムが綺麗にハモった。
登場人物紹介 パ~ト2
リーン・フェルネア・デストロ
先代魔王サタン・フェルネア・デストロの一人娘。幼少期からモンスターを狩りまくってたため、レベルは60。冒険者としてのジョブは無く、スキルや魔法も使えないにも関わらず、そのフィジカルだけでバルファスト魔王国最強の座に立っている。
人間軍との戦争で親を失った子供のために孤児院を開いており、子供達からママと呼ばれている(兄貴君にはねーちゃんと呼ばれている)が、本人は嫌がっている。
四天王や街の人、子供達には純度百パーセントのツンデレだが、リョータには冷たい。




