第三六話 宴会は今日も陶酔だ!①
……ここは、いつか見た草原。
揺れる若草、遠くに見える鬱蒼とした木々、紫に染まった空。
そして風に吹かれ足下でピョコピョコと跳ねている、ポイズン・ティアラの花。
やはり何処かノスタルジックというか、郷愁にかられる。
それが一体どうしてなのか、自分の事なのに理由は分からない。
だが、今はそんなしんみりと出来る余裕なんて、俺には無かった。
「あー、もうっ! 長えんだよ! いつになったら目が覚めるんだよ、俺!?」
そう怒鳴り散らしながら、草の上をゴロゴロしている俺、ツキシロリョータ。
只今、絶賛夢の中に捕らわれ中である。
こんな状況説明じゃ何が何だか自分でもサッパリなので、改めてここまでの経緯を振り返ろう。
数ヶ月前バルファスト魔王国へ飛ばされてきた、エルフの国カムクラの姫、ミドリ。
実はその子は、今回の騒動の首謀者件アダマス教団幹部であるアカツキの手駒として、今まで孤独の中働いていた。
ミドリは両親を人質に取られていた為、今までアカツキの指示に黙って従っており、自分の触れた相手を道連れにする呪いを国民に振りまいてきた。
そんなミドリと、ふざけた理由で宣戦布告され戦争の危機に瀕したバルファストを助ける為、俺達はカムクラへ向かい、壮絶な戦いを繰り広げた。
奇跡を信じ、仲間を信じ、自分を信じ。
そして文字通り命を削り、何とか勝利を収めた……ハズだった。
アダマス教団の教皇とかいう、最悪すぎる横槍が入らなければ。
「あの野郎は何なんだよ……強いって次元越えてるだろ……」
突然パッと現れたと思った瞬間、あっという間に俺はアイツにやられてしまった。
何をしたのか、何をされたのかサッパリだ。
更にはあのバカげた魔力……正直、気が重い。
皆の強力あって、俺が命を削って。
やっと倒したあのアカツキでさえも、教皇と比べると雲泥の差がある。
あんなバケモノ……いや、神にも近い奴に、俺達は挑まなきゃいけない。
というか今まさに、皆が教皇と戦っているかもしれない。
そう思うと、気が気でない。
仮に教皇が何もしないで去ったとしても、アイツは圧倒的な絶望という最悪な置き土産を残していくのだろう。
どこまで強くなっても、どこまで頑張っても、正直アイツに勝てるビジョンがこれっぽっちも見えない。
そう考えると、流石にメンタルがゴリゴリ削れていく。
「ハァ……」
俺は大きくため息を溢すと、そのまま空を見上げた。
相変わらず、ここの空は地獄と瓜二つだ。
というかこの夢の場所を、もう地獄だと認めてしまってもいいのかもしれない。
でも、何故この夢の舞台は地獄なんだろう……。
……この夢の中に居るって事は、俺は辛うじて生きてはいるって事だ。
前回と今回を踏まえて考えるとこの夢の中に入る条件は、恐らく俺が大ダメージを受けて気を失っている時。
死にかけて見る夢なんて、まるで走馬灯だな……こんな光景記憶の何処にも無いが。
そしてこの夢の中には、初代魔王が何処にも居ない。
「今まで好き勝手に人の夢の中に出てきたってのに、今は出てこないとか何だよもう……」
この夢が何なのかサッパリ分からないままだけど、少なくともコレは俺にとって、何か重大な事だってのは分かってる。
分かってるけど、カイン達の安否が心配でそれどころじゃない。
ああ、早く覚めねえかなぁ……。
というか、今回は前回より夢の中に居る時間が長いな。
夢の中での一秒は現実世界の一時間とか言うし、目が覚めたとき一体どれぐらい経っているんだろうか?
前回は三日間眠ってたから……今回は一週間? もしかして一ヶ月?
最悪一年以上なんて可能性もある。
そう、嫌な方向に考えが進んでいき、ドンドン不安が募ってくる。
ああもう、何で今回こんなに長いんだよ!?
前回みたいに寝ればいいのか!?
でも、何度も試しても一向に眠くならないんだよ!
最悪気絶しようって、思いっ切り自分の顔面殴ってみたり、地面に脳天からダイブしたりしたけど、痛みも衝撃も無いから不可能だし!
周りに誰も居ないからいいけど、現実でやったらただのヤベえ奴だからな!?
「あーもうッ! 初代ー、早く助けに来てよー! がんばえー、ホイップちゃーんッ!」
……煽ってみても反応無し、か。
本当に、どうしたもんかなぁ。
どうもこの草原からは抜け出せないみたいだし……。
それにこの世界に一人っきりみたいで、何か寂しい。
昔親友が遠くに引っ越して、それっきり一人だった。
それでも全然平気だったのに、今は無性に皆の顔が見たい。
どうも、俺は皆のお陰で、孤独に弱くなってしまったらしい。
なんて、ちょっとしんみりしていた時だった。
「あっ、ここに居たんだ」
「……え?」
突如、背後から声を掛けられた。
弾かれたように振り返って見ると、ソコには……。
「はっ? 初代……?」
初代魔王、ホイップ・ギル・ルシファー……の子供の姿があった。
「? どうしたの? そんなキョトンとした顔して」
一見、歳がリムと同じぐらいの、ただの可愛い美少女。
だが、その瞳は紅と紫のオッドアイだった為、一目で初代だと分かった。
それに顔立ちも幼いがちゃんと初代の面影があるし、髪色も、生えている翼と角も一緒だ。
…………。
「……流石にキツいと思うよ、ソレ」
「え?」
「アンタ、精神年齢ザッと2000歳だろ……いくら新鮮味出そうとしたって、幼女になるのはやり過ぎな気がする」
「何の話?」
コテッと小首を傾げる仕草は普通にキュンと来るが、ソレを初代がやってると思うと流石に引く。
でも、以外と恥ずかしがり屋なホイップちゃんが、こんなあざとい仕草自ら進んでするか?
というか、こんな危機的状況で、そんなおふざけをするか?
さっきだって、気絶した俺の意識の中に現れて、魔王の力の扱い方を教えてくれたのに。
もしかしてこの子……初代であって初代じゃない?
「そんな事より!」
「うおうっ!?」
「見つけたよ、あっち!」
そう言って初代……ロリ初代は、森の方を指差し俺の服の袖を引っ張った。
「み、見つけたって、何を……?」
「何言ってるの、見つけて来てって言ったのそっちじゃん!」
「…………」
俺はこの訳が分からない状況に対し、一つの仮説を立てた。
だが、あくまで仮説だ。今はこの状況を呑み込む必要がありそうだ。
「……そーだったな。じゃあ、ソコに案内してくれない?」
「うん」
取りあえず、俺はロリ初代の会話に合わせる。
何を見つけたのかはまだ定かじゃないが、彼女の明るい表情を見るに、少なくとも危険な物ではないのだろう。
しかし、この子は森の方を指差したが、果たして行けるのだろうか。
今、巨大なランニングマシンの上にでも立っているようなもんだし。
どうしたものかと悩んでいると、スッとロリ初代が俺の手を握った。
「ホラ、行くよ?」
「お、おう」
……何だろう、初代相手だっていうのに、何かキュンとした。
やはり俺がロリコンだからであろうか?
そもそも、アニメに出て来る魔王キャラって美少女か美幼女が多いしな。
もし許されるのならば、次に初代が夢に出てきたとき、この姿でえええええええッ!?
「あああああああああああああああ――ッ!?」
突然重力の向きが変わったように、俺の身体は横へと引っ張られた。
でも重力じゃない。ただロリ初代が俺の手を引っ張っているだけだ。空を飛びながら。
しかも、バカみたいなスピードで。
「待って、待って、待ってえええええええええあああああああああああああああッ!?」
風圧で顔面がエラいことになりながら、俺は必死に懇願する。
だがロリ初代は首を傾げるだけで、一向に聞いてくれなかった。
しかし、そのスピードのお陰か、1分も経たずに森の中に入れたけど。
「ひい……ひい……! 母なる大地よぉ……!」
地面に降ろされた俺は、そのまま地面にへばりつくように倒れ込んだ。
し、死ぬかと……死ぬかと思った……! 夢の中だけど……!
俺、マジで絶叫系のアトラクション苦手なんだよ……!
「もう、本当にどうしたの? 普段だったら私より速いのに」
「そ、そうなんだ……スゲえな、俺……」
「?」
恐怖と戸惑いで息を切らしながら、俺は引っ張られていた自分の右肩を見る。
外れてるぅ……肩外れてるぅ……!
夢だから痛くないし支障は無いけど、もうちょっと優しく扱って欲しいもんだ。
相変わらず何でもアリはこの姿でも健在のようだ。
「ホラ、こっちだよ」
「分かったよもう……ヨイショッ」
俺は深いため息を溢しながら立ち上がると、自分の外れた右肩を元の位置に戻した。
というか、人の肩外したのに完全にスルーですか、そうですか。
「しかしまあ……」
森だな。
木々の間から見える紫色の空以外、至って普通の森だな。
でも、正直バルファストの森より、こっちの方が魔の森って感じがする。
ロリ初代の後に付いていき、そんな事を考えながら辺りを見渡す。
にしても、わざわざ森に入って見つける物って何だ?
「ホラ、あの木」
と、突然立ち止まったロリ初代は、ある一本の木を指差した。
至って普通の、元の世界にあるような木だが、その枝には何個か果実が実っていた。
形はリンゴのようだが、色合いはオレンジ。初めて見るタイプだ。
彼女が見つけたと言っていたのは、コレの事だったのか。
「ね? 凄いでしょ?」
ロリ初代は、フンスと鼻を鳴らして胸を張る。
……かわええ。あの初代とは思えない程かわええ。
「よーしよしよし! 偉いぞー!」
「えへへ」
何が偉いのか自分でもよく分からないが、とりあえず可愛いのが偉いということにして頭を撫でまくる。
まったく、小学生は最高だぜ! この世界に小学生なんて概念ないけど。
「で、どうすんだっけ?」
「何言ってるの、一緒に食べてみるんだよ!」
やっぱりか。
いや、森に自生する果物見つける目的なんて、それしかないけども。
それでも、元の世界にも無い果物を食うとなると、ちょっと怖い。
だが、そんな俺の気持ちを察してはくれなかったロリ初代は、二つ果物をもぎって、その内の一つを俺に差し出した。
「……あんがと」
「それじゃあ、せーので食べよっか」
「えっ、待って? 何でせーの?」
「だって、コレ食べるの初めてだし。食べれないヤツでお腹壊しちゃっても、最悪死んじゃっても、二人一緒なら寂しくないから」
「怖いよ!? 肩のことと言い今と言い、何か君サイコパス味あるよね!?」
子供は残酷だとはよく言うが、この子はその体現者か何かか?
今度初代に会ったとき、この夢の出来事と一緒に盛大にイジってやろう。
「こういうのは年上に任せろよ。死にはしないと思うけど、もし腹壊したら……そんときゃ介抱してくれ」
「……分かった」
そもそも、夢の世界で腹が痛くなる事なんてあるのか……。
せめて味が良いか悪いかぐらいは判断着くだろ……いや、痛覚ないなら味覚もねえか?
とにかく、食ってみよう。
意を決した俺はその果物を、シャクっと一口囓ってみた。
「……うん美味い。食感リンゴ、味はポンカン。まんまだなオイ」
痛覚は無くて味覚はあるとな? やっぱりこの夢の世界よく分からん。
俺のその反応に、ロリ初代も大きく一口頬張ってみた。
「凄い、美味しい! やったぁ!」
そして、その味に目を輝かせると同時に、心の底から嬉しいとばかりに跳び上がった。
美味しくって『やったぁ!』? 何か変な反応だな。
なんて思いながら残りも食べ進め、改めて自分の仮説を思い返した。
あくまでだが……この少女は、やはり初代魔王の幼少期の姿。
この世界は、夢の中というより……初代の古い記憶の中だろう。
その証拠として初代が幼女化している事や、この夢の世界の舞台が地獄だという事が挙げられる。
そもそも魔族は、二千年前地獄からこっちの世界に転移してきた悪魔族から派生していって、今のような他種族になっているらしい。
だと言うなら、初代魔王である彼女は、地獄出身の悪魔族である可能性が高い。
いや、きっとそうだ。
そして俺は、初代魔王の記憶の中に居る誰か……メタ的に言うなら、初代魔王視点で展開される物語、その登場人物の一人として存在しているらしい。
だから急に当時まったく知らないであろう俺を、こんなよく分からん事に巻き込んできたんだ。
何故、そんな事が起きているのか。
この夢は、初代が何かを伝えたいから見せているのか、そうじゃないのか。
根本的な疑問は未だに解消されず、何とも歯がゆい。
だが、分からない事はいつまでも分からないか。
「うん。それじゃあ、この果樹があるこの場所をしっかり覚えて、種も全部持って帰ろうか」
「……おう」
皮も残さず食べたロリ初代は、指に着いた果汁も舐め取りながらそう言った。
なんかエロいと思ってしまった自分を心の中で引っぱたいて、俺は頷く。
「でも、本当に良かったなぁ。この種を育ててドンドン増やしていったら、皆コレを食べられるようになる。これ以外にももっと沢山見つけようね。そうしたら誰も、この場所を手に入れようなんて思わないからさ」
ロリ初代はトコトコと前を歩きながら、何やら意味深な事を語ってきた。
そしてロリ初代はクルリと俺の方に振り返り、再び手を差し伸べた。
またアレが来るのか、流石に勘弁……と尻込みしていたが。
「ねえ」
「な、何?」
「この場所を守る為に、皆の為に。これからも一緒に頑張ろうね!」
……やっぱり、これだけじゃよく分からない。
何となく話しの流れ? は少しだが掴めたが。
この時の初代は何がしたいのか、何が目的なのか。
分からない事だらけだが、俺は当事者という訳でもないのだが。
目の前の少女に、こんな満面の笑みを浮かべてそう言われたら、頷くしかなかった。
「ああ……頑張ろう!」
そう元気に笑って返して、俺は彼女の手を優しく握る。
そして、ソコで俺の意識は途絶えた。




