第三五話 重さは今日も奮然だ!②
歯を食いしばり、俺は一気にアカツキの懐に入る。
そのまま剣を斬り上げるが、片手で握ったアカツキの刀に受け止められる。
だが……。
「っとぉ!? 結構キツいな、こりゃ!」
顔は依然笑みを浮かべたままだが、初めてアカツキの口から焦りの言葉が出た。
恐らく、やっと俺はほんの少しだけ、アカツキのパワーを上回ったらしい。
本当に、そうじゃなきゃ困る。
だってもう、俺の身体中から骨の軋む音が聞こえてきてるから。
もう、いつ俺の身体が堪えきれなくなって、全身複雑骨折してもおかしくない。
覚醒してパワーアップしたからって、それ以上のリスクが返ってくるんだから、使い勝手の悪い能力だ。
「フンッ!」
「グウ……ッ!」
俺とアカツキの動きは、最早常人には到底目に追えない域に達しているだろう。
実際魔神眼をフルに使ってようやく、アカツキだけじゃなく自分の動きが把握出来る程だ。
というかお互い捌いては責め、捌いては責めの繰り返しの防戦一方の中、どう動くかとかもどう攻撃するかとかも、実際何も考えてない。
ほぼ感覚だ、ほぼ勢いだ。
でも、それでも何とか戦えてる。
「…………ッ」
だけど、流石に体力が無くなってきた……!
そりゃそうだよ、バルファストからカムクラまで行く道中一睡もしなかったし、ずっと戦い続きだし、何だったら横っ腹刺されてるし!
今こうやって戦えてることが奇跡だよ!
持久戦や泥仕合は得意な方だけど、流石にいつ倒れてもおかしくない。
なら早めに勝負を終わらせるしかない……!
「『黒雷』ッ!」
「うおっと!」
俺が左手から黒い稲妻を迸らせると、アカツキは流石に危険と判断したのか後ろに下がった。
だが、今のは攻撃じゃ無い。ただのモーションだ!
「『黒雷弓』ッ!」
そのまま両手の中で黒雷の弓と矢を形成した俺は、後に下がるアカツキに狙いを定めて矢を放った。
だがあの時と同じように、アカツキは矢を刀で弾いた。
アレが普通の矢のように弾けるのは、多分アレが妖刀だからだろう。
でも、これだけじゃねえよ!
「乱れ打ちだこんにゃろーッ!」
「上等ッ!」
矢を同時に何本も形成し、その側から放ちまくる。
しかしアカツキは、この広い部屋中を四方八方に走り回り避けまくる。
もう動きが完全にアクション映画の世界なんだよ、ワイヤー無しでどうやって壁走ってんだよコイツ!?
「どうした、まさか怖じ気づいた訳じゃねえだろーな!?」
「壁走り格好いいから今度俺もやってみようと思っただけだよッ! 『流電鞭』ッ!」
そう強がって見せながら俺は黒雷を何本も鞭のように引き延ばし、辺りの畳を絡め取る。
そして、自分を軸として回転しながら、思いっ切り腕を振り回し。
「ぬうううううええええええええいッ!!」
「おっほ、怖え怖え!」
アカツキ目掛けて、何枚もの畳を投げ付けた。
またコチラの死角から消えないように、透視眼と座標眼も同時に発動している。
これでさっきみたいに、屋根からの奇襲は出来ないはずだ。
そして、今度はこっちが仕掛ける番だ!
「『フラッシュ』ッ!」
「ッ!」
「『隠密』からの『ハイ・ジャンプ』……ッ!」
俺は閃光魔法で一瞬の隙を作った直後、隠密スキルを発動して跳び上がり、アカツキの方へ飛んでいく畳の陰に隠れた。
気配を消しながら畳の裏に身を隠し、そのまま間合いを詰める。
このランダムに飛んでくる何枚もの畳、そのどれの後ろに隠れているか、アカツキでもすぐには分からない筈だ。
そしてそのまま、畳越しに刀で突き刺す!
目を離すな、少しの動作も見逃すな!
「…………」
アカツキは何を思ったか、飛んでくる畳を目の前にして目を瞑り、刀を自身の直線上に掲げた。
何だ、何を仕掛けるつもりだ!?
まさかこの畳全部、剣を振った衝撃波で吹き飛ばすつもりか!?
だけど、一切刀を振るモーションを見せない。
何が狙いだ、コイツ……?
と、その時。
アカツキの妖刀の先端が、突然俺の隠れている畳の方へ向いた。
だが、アカツキは何もしていない。
まるで強力な磁石が引き合うように、アカツキの刀が俺の方に向いたのだ。
「そこかぁ!」
「ッ!?」
瞬間アカツキはニヤリと笑い、俺の隠れている畳に、コチラに突っ込んできた。
くうっ、この状態じゃ避けることも捌くことも出来ねえ!
なら、先にコイツを……!
「どらぁッ!!」
透視眼で畳み越しでも見えていた俺は、そのまま刀を畳に突き刺す。
だが、アカツキは顔を横にずらして間一髪で俺の刺突を避ける。
「ッ!」
俺はすぐさま刃を上に向け、そのまま畳を斬り上げて追撃する。
だがアカツキは、なんとその畳を足場にして軽く跳躍し、俺の真上に回り込んだ。
マジかよコイツ!?
早く防御――ッ!
「『霧雨』ッ!」
「――がぁッ!?」
そのアカツキの斬撃は正しくその名の通り、傘を差しても完全に濡れることを防ぐことが不可能な、霧雨のようだった。
俺の腕に、足に、腹に、胸に、顔に、何十カ所も切傷がつけられる。
魔神眼フル発動で何とか致命傷になりかねる攻撃は受け流せたが、全身から血が噴き出る。
そしてそのまま、俺は地面に転げ落ちた。
「ウゴッ!?」
「斬られた……! この俺に切傷が付くなんて何年ぶりだよ、オイ!」
一方アカツキは綺麗に地面に着地すると、そう笑いながら血を垂らす頬を親指で拭った。
「さっきの身を隠しながら間合いを詰める戦法、いいとは思うぜ。ただ、俺の刀と刀で斬られた奴は、呪いで引き付けあうようになってるんだ。そこんところは、まあ残念だな」
「チッ……ほんっと厄介な刀だな……!」
勿論、アカツキ本人の戦闘能力が一番の脅威だ。
だがコイツの持ってる妖刀も、非常に危険。
だって擦っただけで呪いが発動して、あの痛みがその部分に……。
……って、オイ……。
さっき、俺この刀で全身斬られまくったよな……?
「さっきの霧雨って技はな、刀で相手を切り裂くっつーよりも、相手の全身に切傷を付けることに特化してるんだよ。理由はお察しの通りだ」
「…………ッ」
「さてと、流石に死ぬかもしれねえが……まあ、楽しい時間を過ごしてくれ」
「恐怖の時間の間違いだろ、この――アァッ!?」
せめて呪いが発動しない間にと、俺が踏み出した瞬間、全身にあの痛みが走った。
「ゴエッ、ウアァアアアアアアッ!?」
もうそれは、熱した鉄の棒を押し付けるなんてレベルじゃなく、ごうごうと燃え上がる炎に全身を包まれたような感覚だった。
何も出来ない、何も出来る筈なんてない。
ただ、喉が潰れん絶叫を上げながら、痛みに襲われるだけだ。
ああ、ヤバイ……死ぬ……流石に、死ぬ……ッ!
もう、駄目だ……意識が……ッ。
……寧ろ、死んじまった方が楽かもしれない……。
その方が、この地獄のような苦しみを、味わわなくて済むから……。
ああ、完全に、目の前が真っ暗に…………。
「にーちゃん!!」
「リョータぁ……!!」
……!!
「――ぬあああッ!!」
意識を失い前のめりに倒れ掛けた瞬間、俺は右足を前に出し何とか踏み止まった。
「フーッ……フーッ……ッ!」
涙や鼻水、涎をダラダラと垂れ流しながら、呼吸を荒げてアカツキを睨む。
そうだ……俺は、負けてなんかられねえ……!
さっき、自分で言っただろうが……!
コイツを絶対に許さないって……!
それに……カインとミドリに、国民達に、こんなドデカい不安要素残したまま、死ねるかよ……ッ!
「……ホント、何で生きて、何で立ってられるんだ? 流石の俺でもちっとばかし怖くなってきた」
いつものような軽口にも聞こえるが、ほんの少しだけ、俺に対しての視線が戸惑いに揺らいでいた。
「き……きあ、いと、こんじょ……ッ!」
「ハ、ハハッ、ハハハハハッ! やっぱお前最高だよ、本当に頭おかしい!」
リーンの掌といい今といい、コイツの称賛の言葉は相手を煽るもんしかねえのかよ……!
と、一頻りに笑っていたアカツキは、そのまま大きく息を吐き出し。
「あーあ、まったく。この国の奴ら……もとい、エルフって種族が全員、お前みたいに気概の良い奴らだったらなぁ」
「あぁ……?」
エルフって種族……?
そういやコイツ、さっきカインに、自分達の目的はエルフという種族の行く末に関わるとか何とか言ってたな……。
「そしたらこんな回りくどい事しないで、速攻戦争出来たのに」
「……オイ」
「ああ、すまねえ。早く再開しようか」
「違えよ、戦争フェチの変態野郎……テメエの、目的って、何だ……」
「今聞く必要あるか? 話聞いてる間でも、その呪いはお前の身体を蝕むんだぞ?」
「堪えてやるから、サッサと話せやド変態……ッ」
「……ヘッ、ホントお前って面白え奴だなぁ」
俺の威勢にアカツキは口元を歪めると、肩を鳴らしながら。
「まあ、そうだな。作戦が全部台無しになっちまったけど、幸いソコに居る姫越しに、下の連中にも伝えられるか」
そう言ってから、アカツキは真っ直ぐに俺の目を見据えながら、こう口火を切った。
「――この大陸の北西部で、エルフが奴隷になってるって、知ってるか?」




