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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第八章 知りたい姫と麦畑の王子
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第三三話 世界観は今日もゴチャゴチャだ!③


「わああああああ、ちょ、わああああああああ!?」


ドドドドドッと、地鳴りのような足音を立てて迫ってくる数千弱を越えるエルフ達の猛攻に、俺はもう叫ぶしかなかった。

今俺達が陥っている状況は、最悪も良いところだ。

その一人一人の強さは軍の兵士より劣るだろうが、その数が比じゃなかった。

カインとミドリを除いたら五対数千、圧倒的すぎる。

更に俺達は、この人達を過度に傷付けてはいけないというペナルティーまである。

だからアカツキは、自分の軍を全隊バルファストに向かわせ、その代わりに庶民達に武器を持たせたのだろう。それが街に兵士が居なかった理由だ。

まさにアカツキが言っていた通り、俺達は今、一つの国そのものを相手にしている。


「お前らの国が堕とされる前に俺達を殺しに来たんだろ!? そうはさせねえぞクソ魔族!」

「おお、お待ち下さい皆様! 私達は貴方達を殺すために来たのではありません! ただ、私達はミドリ様を利用した首謀者を倒そうと……!」

「アカツキ将軍が仰っていた通りだ! そっちが姫を利用しようとしてるクセに被害者ぶってやがる! そんな分かりきった嘘に騙されるかよ!」

「既に現在進行形で騙されているのだ貴様らは!」


次々に襲い掛かってくる庶民達の攻撃を何とか躱しながら、ハイデルとレオンが説得を試みるも、聞く耳を持たない。

まあ、普通に考えりゃそうなるのが当然だ。

俺達の言い分とアカツキの言い分、どちらにもソレを裏付ける決定的な証拠は無いが、そのどちらかを信じるなら元々味方サイドに立っているアカツキを信じてしまう。

そして無意識的に、アカツキが自分達を騙していると思いたくないのだろう。

畜生、上手いこと立ち位置を利用してんな……。


「ミドリ様はその荷台の中に居る! 先程説明したように、ミドリ様はそこの桃色髪の淫魔の洗脳魔法を受けて、魔王達の味方となってしまっている! 何としてもこの者らを殺し、魔の手からミドリ様を救うぞ!」

「「「オオオオオオオオオッ!!」」」

「ちょっと待って私!? 何でぇ!?」


突然濡れ衣を着せられ困惑するローズに、荷台の上でミドリを背に守っているリムが。


「あの人が私達の能力を把握してるなら、精神魔法が得意なローズさんに擦り付けるのは当然だと思います! あとローズさん、一応やろうと思えば出来ますしね……」

「だからって酷いわよ、出来るけども! ああもうっ、『ヒプノシス』!」


襲い掛かってきたエルフ達に向かって、ローズは半泣きになりながらも洗脳魔法を放つ。

このヒプノシスを喰らった者は、為す術無く身体が硬直し意識を飛ばしてしまうという、まさに所見殺しのチート技だ。

しかし。


「効くかそんなもん!」

「ええええっ、何で! キャアッ!?」


エルフ達は魔法に掛かった素振りさえも見せず、そのままローズに飛びかかった。

間一髪でローズが飛翔し躱したが、精神魔法が効かなかった事に驚きを隠せないようだ。

そんなローズの様子に、実に愉快そうにアカツキが告げる。


「一応言っておくが、俺を含めた全員に、精神系魔術を遮断する魔道具を持たせてある」

「な、何と言う事だ……! この女から精神魔法を除いたら、飛翔出来るだけのただのデカ乳女だぞ!?」

「レオンちゃん後で覚えときなさいよ!?」


だが事実、ローズの精神魔法が通じないのは痛手どころの話じゃない。

リグルさんを救出するために、ローズの能力でエルフ達の脳内から居場所を引き出す必要がある。

それが出来ないなんて……。

戦いは情報戦だとよく言われるが、正しくそうなのだと痛感させられた。


「オイ、何を悩んでいる魔王。サッサとコイツらを殺して押し通ればいいだけだろ」

「俺達が一人で殺したら、もうコイツらの怒りに歯止めが利かなくなるだろうが! だったら依然変わらず不殺勝利だ!」


何だよコイツ、自分が本来守るべき庶民が殺されたっていいのか!?

ってか寧ろ殺して欲しそうなのは何でだよ、サイテーだなコイツ!


「だったら死ね」

「っ!?」


なんて顔を顰めていると、そのアカツキが一瞬で詰めてきた。

縮地でも使ったのだろうか、一瞬で俺の前に迫って来たアカツキは、その刀を振り上げる。

ヤベえ、何とかしな……きゃ……。


「……ッ?」


俺は早く避けるとか、受け止めるとか、そんな事を出来ずに、ただその刃を見つめていた。

いや、見つめるしか出来なかった。

何だアレ……刃に、変なモヤが纏っている?

だけどそれは魔力とかの類いじゃない。

もっと不可解で、もっと異常で、もっとゾッとする何か。

だが、ただ一つだけ、本能で確信した。

この刃に、少しでも擦ったら死ぬ。

しかし俺の身体は金縛りに遭ったように動かず、そのまま――。


「うぅッ!」

「リーンッ!?」

「おっ、コレも受け止めるか!」


俺とアカツキの間に割り込んだリーンは、振り下ろされたアカツキの刀を受け止める。

しかし、その剛力に苦しそうな声を上げている。

こ、この隙に俺がコイツを……!


「こ、こんの! 来るんじゃねえ!」

「あっ、ヤベ!」


そう思って刀を握り締めた瞬間、後方から聞こえたカインの声に弾かれるように振り向いた。

見ると、いつの間にか迫っていたエルフ達が、荷台に乗り込もうとしている。


「……ッ!?」

「そっちは任せろ!」


俺はリーンにそれだけ告げると荷台に向かって駆け出す。

申し訳ないが俺じゃ力不足だ、アカツキに唯一対抗出来るのはリーンしかいない。

ならばリーンの変わりに俺がコイツらを……!


「こ、こっち来ないで下さい! 魔法を撃ちますよ!?」

「そっちだって大人しくしてろ! ガキでも承知しねえぞ!」

「上等だオッサン! ミドリ、俺達の後ろにいろ!」

「…………」


怯えるミドリを庇うように立ち塞がるリムとカイン。

だが、唯一まともに戦えるリムであっても、この狭い荷台の中じゃ魔法は迂闊に放てない。


「オラ、ガキ相手に大人げねえぞ! テメエらの相手はこの魔王様だ!」

「魔王がこっち来たぞ、固まれ!」


すると、百を超えるエルフ達が荷台と俺の間に壁を作るように並び始めた。


「うぐ……!」

「理由は知らないが、コイツらは俺達を攻撃出来ないらしい! その隙にミドリ様を!」

「チッ、攻撃しないのはアンタらの為でもあるってのに……!」


などと足踏みしている間にも、荷台にエルフ達が侵入して……!


「……!」

「ミ、ミドリ!?」

「ミドリちゃん!?」


その時、カインとリムの間から、ミドリが意を決したように飛び出した。

その瞬間、エルフ達がギョッとしたように目を見開く。


「こ、この御方がミドリ姫様……?」

「若草の髪に朱色の瞳の同族……間違いなく姫様だろうが……」


何だ、コイツらミドリを見たことないのか?

いや、まあ普通なら庶民が王族の姿を見ることなんてないが……。


「何やってんだ、早く戻れ!」

「…………」


そうカインが怒鳴るも、ミドリは無言でそのエルフ達に近付いていく。


「「……ッ!」」


すると、エルフ達は何故か顔を真っ青にして後退り始めた。

な、何だ、何でコイツら後退ってる……?

今がミドリを捕まえる絶好のチャンスだってのに。

理由は分からないが、この隙を逃すわけにはいかない。


だがどうする、迂闊に刀を振り回して斬っちゃったりしたら取り返しが付かない。

じゃあ黒雷で感電させるか……? いや、俺の黒雷も対策されてるかもしれない、魔法反射とかされたらどうする……?

こうなったらもう、ステゴロでやるっきゃ……!

いや待て、カインが持ってるのって……。


「カイーン! それ寄越せー!」

「ッ!? お、おお!」


俺がそう怒鳴ると、カインは武器代わりに持っていたそれをこちらに投げてきた。

エルフの壁を越えて俺の手元に渡ったソレは。


「何だ……鍋?」

「フライパンだよ」


刀を鞘に仕舞いフライパンを利き手に持ち直した俺は、大きく息を吐き出すとエルフ立ちに告げた。


「俺達は絶対にアンタらを殺さない。殺さないけど……退かないならコレでぶっ飛ばす!」

「な、舐めんなよガキのクセに! やっちまうぞ!」

「「「オオオッ!」」」

「そうかよ! 怪我したら後で医療費払うから、今は全員ぶっ飛ばされろ!」


そう確認した後、俺はエルフ達の壁に真正面から突っ込んで行った。

まずは正面、二人の男が俺を包丁で刺そうとしてくる。

それに対し俺は身を屈めて躱すとその内の一人の顔面に、全力でフライパンをフルスイングした。


「ぼばぁッ!?」

「オイ今スゲえ音したぞえぁッ!?」


続けざまに空いた左手でもう片方の顎にジャブを入れると、二人の男は顔面から地面に倒れた。

うん、やっぱりエンの部隊よりは遙かに弱い。

それに。


「おい、魔王何処行った!?」

「畜生、この人混みの中に紛れ込みやがった!」


この大人数に対して連携が取れてない。

やはりただ数で押している分、それが逆に足枷になってる。

この人集りの中心に行けば行くほど、俺を見失い迂闊に動けないようだ。


「ゴヘッ!?」

「うぶえっ!?」


そして一人、また一人と、フライパンで殴り倒しみぞおちに拳を沈め、数を減らしていく。


「お前ら! アレ使うぞ、構えろ!」


埒が明かないと思ったのか、エルフの一人がそう叫んだ。

すると上空に、無数の球体の影が散らばった。

ってアレ、俺専用の閃光玉じゃねえか!

すぐに目を瞑らなきゃ……でもこの中で目を瞑るなんてリスクが高い!

だが、魔神眼が使えなくなるよりは……!

と、俺が迷っている合間にも、閃光玉の導火線は縮んでいき……!


「『ヘルズ・カーテン』ッ!」

「あああああっ、燃やされたぁ!」


突如として上空を覆い被すように見覚えのある黒炎が広がっていき、宙に浮いていた閃光玉を完全に消し炭にした。


「ヘルファイアを使うには少々威力が高過ぎます故、せめて閃光玉は私にお任せを!」

「ハイデルちゃん、どうしたのその技!?」

「密かに特訓した成果です! と言っても、ただヘルファイアを一極集中しないで出しただけですが!」


遠くからそんなハイデルの声が聞こえ、俺は思わずニヤけてしまう。

スゲえよハイデル、よくやった!

俺も負けてらんねえな!


「『黒雷』!」

「うがががが……!?」


俺は目の前の男に小さく黒雷を流してみる。

どうやら電撃系の対策はしていなようだ。

ならば!


「『アクア・ブレス・スプリンクラー』ッ!」

「おわっ、何だ!? いきなり雨が降ってきたぞ!?」

「いや、雨じゃねえ! 魔王の奴の仕業だ!」


俺は上空に向かってアクア・ブレスを放ち、辺り一帯に満遍なく水を撒き散らしていく。

ちなみに、技名スプリンクラーが付いてるからといって、アクア・ブレスと何ら変わりない。


「オイここだ! 魔王はここに居るぞウゲエ!?」


しかし流石に目立ってしまったようで、俺を見つけたエルフに跳び蹴りをかまして黙らすも、周囲のエルフ達に気付かれてしまった。

そして全員が俺から距離を取ったため、俺はエルフ達の真ん中にポツンと取り残され囲まれてしまった。


「卑怯な真似しやがって! テメエそれでも王様か!」

「一人に対してこの人数で攻めて来てるテメエらの方が卑怯者だろーが、自分の事棚に上げてるんじゃねえよクソ共が金玉潰すぞ!?」

「お兄ちゃんいつもより口悪いですよ!? 逆に挑発してどーするんですか!?」


リムの言うとおり、確かに今のは逆効果だ。

でも何だかなぁ、イラッと来たんだよ。

勿論コイツらはアカツキに騙され利用されてるだけだし、コイツらも被害者の一人とも言える。

でもコイツらが何も知らないからこそ、イラついてしまうのだ。


「んだと!? お前ら、一斉に掛かるぞ!」


そんな俺のイラつきの理由も知らずに、エルフ達は俺に飛びかかろうと姿勢を低くする。

だが、大丈夫。もう仕込みは済んである。

寧ろ全員纏めて掛かってこい!

そう、俺が敵の出方を待っていると。


「う、うわぁ!?」

「ど、どうした!? ってうおおおおッ!?」


突如、荷台側のエルフ達が騒ぎ始めた。

な、何だ? リムが魔法を使ってるのか?

それともカインが、俺直伝の千年殺しでも使ってるのか?

すると荷台側のエルフ達が、まるで何かを避けるように端により始め、一つの道が出来た。

その道を通ってこちらに駆け寄ってくるのは、リムでもカインでもなく。


「ミドリ!?」

「……リョータ……!」


トタトタと、遅い足取りで駆け寄って来るミドリ。

しかし、エルフ達は手の届く距離に居るミドリを捕まえようとはせず、寧ろ少しでも離れようと後退っている。


「ミドリ……?」

「じゃあアレが攫われた姫様……?」

「あの朱色の瞳は間違いない、ミドリ姫だ……!」


ザワザワと騒ぎ出すエルフ達を尻目に、ミドリは俺の元に辿り着くや否や。


「…………!」

「ミドリ、何やってんだよ!?」

「ダメだよ、ミドリちゃん!」


カインとリムの言葉に、ミドリは首を横に振って、俺を庇うように両手を広げた。


「ミドリ……」


四方八方から同族に敵意を向けられて、こんなに身体が震えてるのに、俺を庇おうとして……。

記憶を失っても、幼くても、この子は強いお姫様なんだな。

思わずウルッとしてしまいそうになり、俺は袖で目元を拭うと。


「ありがとな、ミドリ」


そう言って、いつものようにミドリの頭に手を置い……て……。


「……な、何だよ?」


今まで騒がしかった周りの連中が、急に水を打ったように静まり返った。

敵意とは一転、まるで信じられないようなものを見ているような視線が俺に刺さる。


「な、何やってんだアイツ……!?」

「ミドリ様を利用しようとしてるんだろ……? なら、何でアイツ……」


困惑、焦り、戸惑い。

そんな視線と共に、エルフ達の口からポツポツと聞こえる意味不明の言葉。

ただ、頭を撫でただけでこの反応。


……先程から、ミドリに対するエルフ達の反応がおかしかった。

攫われたはずの自分達の姫が目の前に居るのに、安堵の欠片も見えない。

寧ろ、何でここに居るんだよと責めているようにも見えた。

……あーあ。

これじゃあ、カインの言い分も分かっちまうなぁ。


「よっと」

「わっ……!」

「「「ッ!?」」」


俺はその視線の中、ヒョイとミドリを抱き上げた。

突然俺にお姫様抱っこされて、ミドリは微かに濡れた瞳を向けて困惑している。

周りの連中も、更に困惑している。

再び静まり返ったこの空間で、俺はポツリと声を出した。


「アンタらがミドリを避けてる理由は、まだ全然分かんないけどさ……幼い女の子を、あからさまに汚いみたいに扱ってんじゃねえよッ!!」


その怒声は思った以上に大きく、木霊するようにカムクラに響き渡った。

俺は大きく息を吐き出すと、腕の中のミドリに笑いかけた。


「心配すんな。ついさっき、俺は強いって発覚しただろ?」

「……う、うん」

「……さてと、テメーら何ぼさっとしてんだ、サッサと掛かってこいクソ野郎共!」


そんな俺の言葉に、エルフ達はハッと我に戻ったように顔を上げた。


「……や、やるぞ」

「ああ……!」


そして身を屈めて、ジリジリと俺に詰め寄ってくるエルフ達。

そんな中、俺はいつものように呑気な口調で。


「ミドリ、ほんのちょっとだけ怖い思いするかもしれないけど、我慢してな?」

「……な、何する――」

「高い高~いレベル100ぅッ!」

「わ――ああぁぁ……!」


こんな俺でも流石はレベル40越え、全力でミドリを真上へ投げ飛ばすと、その華奢の身体は家屋の屋根より高く舞い上がった。

その瞬間、エルフ達はギョッとするも、まるで邪魔は消えたとばかりに一斉に飛びかかってきた。

俺は両の掌に黒雷を流したまま、大きく拳を振り上げる。

そして、俺は足下に広がる水溜まりに、思いっ切り拳を叩き付けた。


「『黒雷網こくらいもう』――ッ!」

「「「がああああああああッ!?」」」


先程撒き散らした水を伝い、まるで蜘蛛の巣のように広がっていく黒雷は、次々にエルフ達を貫いていく。

数秒後、俺は拳を地面から離し、そのまま上空を見上げた。


「ぁぁぁぁああああっ……う……!」

「おかえり」


そして落ちてきたミドリを、しっかりとキャッチした。

すると同時に、感電したエルフ達がバタバタと音を立てて一斉に倒れる。

ミドリが宙を舞っていた、十秒にも満たないその短い時間の中で。

俺は、百を超えるエルフ達を倒してのけた。

その事実に、内心心臓バクバクさせながらも、俺は苦笑した。


「殺しちゃいねえけど……やり過ぎたなこりゃ」

小ネタ

数ヶ月前、リョータはカインに戦い方を教わりたいと言い寄られ、その際『男相手なら下半身を狙えば良いぞ』と、カインに金玉蹴りとカンチョーの仕方を教えていた。そしてそれがリーンにバレて二人並んで怒られた。

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