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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第八章 知りたい姫と麦畑の王子
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第三二話 いざこざは今日も出し抜けだ!①

これは、春から冬へ逆戻りしたような、肌寒い日だった。

俺は執務室で一人、書類仕事を熟していた。

一年近くともなれば、こういった仕事も慣れてくる。

最初は何をしたら良いか分からず、とりあえず、適当にハンコを押せばいいんじゃね? 的なノリでやってしまった自分であるが、今ではちゃんと内容を確認してるし考えてサインもしてる。

しかし、奢ってはいけない。

そもそもウチの国自体小さいから、多分他所の王様より簡単な仕事なのだろう。

フォルガント王は、これの数倍近く仕事してるんだろうなぁ。

と、一人感心しながら、孤児院の補助金の集計を確認していた時だった。

正面の扉の向こう側から、タタタタッ、と何者かが掛けてくる足音が聞こえた。

この足音からして……ハイデルかな?


「ま、魔王様!」

「おう。最近皆ノックしねえな」


予想が的中したようで、ノックも無しに入ってきたハイデルに、俺は顔だけ上げて返事をした。

一見緊急事態っぽいが、ハイデルの表情が晴れやかなのを見て、吉報なのは間違いないだろう。


「どうした? もしかして、遂に炭化させないで目玉焼きが作れたのか?」

「い、いえまだ。ちゃんと監視しているはずなのに、何故かいつも炭になっていて……って、そうじゃありませんよ!」


いや目玉焼きを炭にするって、やろうと思ってもなかなか出来ないぞとツッコみたくなるが、それを飲み込みハイデルに改めて訊いた。


「じゃあ、どうしたんだ?」

「は、はい! 先程、カムクラの使者と名乗るエルフが訪れたようです!」

「な、何だって!? わととと……!」


俺が思わずバンッと机を叩くと、手元の資料が落ちそうになり、慌ててキャッチした。

そして俺は勢い良く資料を机の上に置きながら、何度も何度も頷く。


「そっかそっか、やっと来たかぁ……!」


って事はリグルさん、無事に着いたんだなぁ。よかったぁ! 


「じゃあ、すぐに行かないとな! ハイデル、その人を魔王の間に通してくれ!」

「そ、それがですね……!」


俺が興奮気味でそう指示したのだが、ハイデルは焦ったように。


「その使者と名乗ったエルフはどういう訳か、門番が目を離した隙にどこかへ行かれてしまったようで……」

「はいぃ!?」


何で使者がどっか行っちゃってんだよ!?

何だ、エルフだからこういった街並みが珍しくって、つい観光してしまった的な!?


「ってか、その門番って絶対あの新人君だよな!? 絶対そうだよな!?」


この国の唯一の出入り口である城壁の門を守る門番は二人。

長年門番をしていて頼れるおっちゃん門番。

そして勇者一行を始め、この国に来た侵入者を大体通してしまっている新人門番。

恐らく、目を離していた門番は後者の方だろう。


「あーもうっ、分かった分かった! とりあえず、その使者を連れ戻してから魔王の間に通して……ああ、リーンにもこの事報告しなきゃ……!」


俺は執務室から飛び出すと、足早に進んでいく。

もうすぐ仕事が終わりそうで、休憩しようかと思っていたが、すぐに忙しくなってしまった。

けれども、全然嫌ではない。

ミドリが故郷へ、家族の元へ帰れるかもしれないんだから。

でも、アイツら寂しがるだろうなぁ。

折角仲良くなれたのに、すぐにお別れなんだから。


でも、うん。向こうのお偉いさんに会ったら、友好的な関係を築こう。

そうしたらまたいつでも、ミドリと孤児達が会えるだろうから。

と、心の中でそう決意し、自分の鼓動が早くなっているのを感じながら階段を降りようとした時だった。


「「リョ、リョータ(ちゃん)!」」


呼吸を荒げたレオンとローズが、踊り場まで駈け上って来ていた。

二人も俺に用があるらしく、俺の名前を呼ぶとすぐさま駆け寄ってきた。


「大変よ、カムクラからの使者が……!」

「分かってる、ハイデルから聞いたよ! でも、その使者がどっかに行ったらしくて……」

「そのどっかに行った使者が現れたのだ! 城壁の上にな!」

「何故に!?」


レオンの言葉に、俺はますます使者が何をしたいのか分からなくなった。

何!? 今度はこの街を一望したいなぁってか!?

自由過ぎるだろ、普通に国際問題上等じゃねえか!

でも、カムクラって陸の鎖国らしいから、そういった他国との関わり合い方が分からないのか?

だとしてもだろ……!


「と、とにかく、そうね! バルコニーに来て!」

「そ、そうだな! そっからならよく見えるだろうし!」


俺は三人を引き連れて、すぐ側にあるバルコニーへ向かう。

ここまで階段をダッシュで駈け上って来て疲れ果てていた三人より先に、俺はバルコニーに辿り着いた。

そしてそのまま、塀にもたれ掛かるようにして遠くの城壁を見つめた。

確かに、ここから真正面の城壁の上に、豆粒サイズの人型が二つ見える。

どうやら使者は二人だったらしい。

そしてその真下には騒ぎを聞きつけたのだろう、大勢の人集りが出来ていた。


「……『千里眼』」


俺は千里眼を使い、遠くに居る使者を観察する。

正面、腕を組んで街を見下ろしているのは、高身長で長い緑色の髪を後ろで一つに束ねた女性……いや、男だ。

あまりに美顔だったから女性かと思ったけど、細身ながらも体躯はガッシリしている。

日本とは多少差異はあるが、羽織や袴を着ていて侍のような印象を受ける。

その後方に控えている男は、言い方は悪いが、色がスッカリ抜け落ちたような黄緑色の髪をしている。

そしてこの男も格好は和服っぽいのだが、侍と言うより陰陽師のような印象を受ける。

そして二人とも、澄んだ空色の瞳に尖った耳をしている。

間違いない、カムクラのエルフだ。


「ハァ……ハァ……! な、何がしたいのだ、彼奴は……!」


遅れてやって来たレオンが息を絶え絶えにしながら、遠くのエルフ達を眺める。

俺もその言葉に大いに賛同しながら、ジッと見つめていると。


「……ん?」


緑色の髪をしたエルフが、懐から何かの書状を取り出す。

そしてそれを広げている間に、もう片方のエルフが小さな魔法陣を空中に出現させた。


「な、なんだあの魔法陣……?」

「よく見えませんが……恐らく、拡声魔法ではないかと思われます。戦場などで、味方に指示を出すために使う魔法ですが……」

「何で今、そんな魔法を……?」


ハイデルの解説に首を傾げるローズ。

千里眼を使ってハッキリ見えている俺には、緑髪のエルフはあの書状の内容を拡声魔法を使って読み上げようとしているのが理解出来た。

でも、それこそ何でだ?

書状なら、ここまで来て俺に渡せばいいのに。

何か……嫌な予感がする。

俺の頬に、ベタ付いた汗が一筋流れた、その時だった。


『――バルファスト魔王国魔王、ツキシロリョータ! 及びその国民へ告ぐ!』


拡声魔法を通して発せられたその声は、バルファスト全土に響き渡った。


『貴国からの書状にあった、威圧的かつ非道な内容は、もはや看過できるものではない!』

「「「「はあああッ!?」」」」


その、憎しみが籠もった声音と共に発せられた言葉に、俺達四人全員が声を上げた。


「な、な、何、何ですって!?」

「威圧的、かつ、非道……!?」

「リョータ貴様、どんな内容の書状を送ったのだ!?」

「だだだ、断じて変な文章は書いてない! それに、ちゃんとフォルガント王さんに添削して貰ったんだ!」


そうだ、俺が送った文章は、フォルガント王に送ったときと同じ内容。

要約すると『我が国の領土内で、カムクラの住民だと思われる、エルフの少女ミドリを保護しました。彼女は恐らく転移事故によりここまで飛ばされてしまったと思われ、現在記憶喪失となっております。何か彼女について知っていることがあるならば、御返事下さい』と言った内容だ。

決して変な文章でもないはずだ。

なのに、威圧的かつ非道だって……!?


『貴国は――』


訳が分からず混乱する俺の耳に、再びあの声が届く。

そして俺は、この言葉で、全てを理解した。



『――我がカムクラの第一王女であらせられる、カムクラミドリ様を誘拐した挙げ句、記憶操作を行い監禁した事実がある! これは最早、我が国への挑発行為であると認めざる終えない!』




「……ッ!?」


今、何て言った……?

誘拐……記憶消去……!?

いや、それより……。


「カムクラ……ミドリ……?」


カムクラの、第一王女……?


理解が追いつかず頭がショートし掛ける俺に、その声は更に事実を突きつけて来た。

俺が、最も恐れる事実を。


『以上から、我がカムクラは貴国に対して武力行使を辞さず、血を持って報復するものとする!』


その言葉を聞いた瞬間、俺の全身の血の気が一気に引いた。

脂汗が全身から噴き出し、目眩や吐き気も感じる。

俺はなんとか倒れないように塀に体重を掛けながらも、そのエルフを見つめた。

そして、俺の頭に、一つの単語が浮かんだ。


『そしてこの布告文書をもって、我がカムクラは、バルファスト魔王国に対して、宣戦布告を宣言する!』

「せ……宣戦布告……!?」

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