第四話 成り行き魔王は今日もくたくただ!⑧
「オラッ! オラッ!」
『ゴルアアアアアアアアアアア……ッ!』
俺は運良くまたがったドラゴンの角を突き刺す。
弱点と言っても決して攻撃が通るわけではない。
突き刺しては弾かれ、突き刺しては弾かれ、頭から振り落とされないように踏ん張りながら、俺は無心で剣を突き刺し続ける。
すると角に少しだけだがヒビが入り、連動しているのかバリアにもヒビが入った。
よし、このまま攻撃を続ければバリアを破壊できる!
そうしたらアイツら全員で攻めれば勝てるはずだ!
しかし、もう冒険者の中でまともに動ける奴は殆どいない。
ハイデル達は大丈夫だろうか……?
そう思ってちらと後ろを見た俺がバカだった。
「しまっ……たアアアアアアアアアアアァァ――!」
後ろを気にしたことで足の力が少し抜け、その隙にドラゴンが角を振り上げたことで、俺は再び空高く舞い上がった。
しかも上へ上がっていく俺の後を翼を羽ばたかせて追いかけてきた。
俺はもう一度閃光魔法を放とうとしたが間に合わない。
ああもう終わった! 今度こそ終わった!
さっきっから死ぬと思って助かったけど今度こそ終わった!
ちくしょう、何も出来なかった!
せめてドラゴンの角が弱点である事を伝えられれば!
しかしもう遅い。
ドラゴンは口を大きく開け、猛スピードで俺に突っ込んでいく。
俺は死を覚悟し、目をぎゅっと瞑った――。
『――ッグルアアアアアアアアアア!?』
……は?
一瞬、自分がドラゴンに噛み千切られた音だと思ったが違った。
ドラゴンの苦しげな咆哮が聞こえたと瞬間、ドシンと重量があるモノが地面に落ちた音が聞こえた。
そして、誰かに抱えられているような感覚。
それを不思議に思い、うっすらと目を開けてみると。
「あんた、ほんとバカね!?」
「リーン!? 何でお前ここにいんだよ!?」
そこには、魔王城に残っていたはずのリーンの顔があった。
「あのブラックドラゴンに一人で、しかも真っ正面から突っ込んで行くなんて命知らずにも程があるでしょ!?」
「え!? え!? え!? ちょっとまて状況が掴めない!」
まるで叱りつけるようなリーンに、俺は混乱していた。
何!? 何でここに居るんだ!?
あの孤児院のガキ達と一緒に居たんじゃないのか!?
ってか、ドラゴンが地面に落ちてるんだけど!?
それよりも……!
「おいリーン、ここ上空だぞ!? 何でお前俺を抱えてるんだよ!?」
「ただジャンプしてドラゴンに攻撃してあんたを掴まえただけよ」
「ちょっと待ってやっぱ意味が分かんない」
ジャンプして攻撃して掴んだ?
コイツ何で平然とした顔で言うんだああああああああああああああ!?
リーンの言っている意味が分からず混乱していたとき、俺が下に猛スピードで落ちていく感覚がして気が付いた。
そうだよ、俺空中にいるんだった!
「ちょっ、何抱きついてきてるのよ!?」
「いやだってえええええええええええええ!」
「それよりもあのドラゴン、ダメージの手応えが無かった。皮膚とは違う何か硬いモノが当たったような感覚だったけど……」
「考えてる場合じゃないだろ! 落ちてる! 落ちてるってええええええええ! …………あれ?」
叫ぶ俺を抱え直し、リーンはまるでちょっとした台から飛び降りる感覚でふわっと地面に着地した。
「ほら、さっさと離れる」
「あたっ……!」
俺は乱暴に投げ捨てられ、地面に仰向けになりながら抗議するも、リーンは知らん顔だ。
くっそ……助けて貰ったから強く言えねえ。
「ってか、何でお前ここにいんの……? ガキ共の面倒見てたんじゃないのか?」
「子供達全員の無事が分かったとき、街の人達が自分達が面倒見るから助けに行けって言われて。だから武器と鎧引っ掴んで飛んできたのよ」
確かに、改まって見るとリーンは綺麗な装飾が施された片手剣を持ち、胸当てや小手などを着けている。
うわ、コイツ俺より強そうな装備じゃん。
ってか、俺の装備が貧弱すぎるのか。
「リョータ様、リーン様、ご無事ですか!?」
なんて考えていると、後方からハイデル達が駆け寄ってきた。
「おう、なんとか生きてる」
寝転がりながら腕を振る俺に、レオンが片手で額を押さえる。
「貴様、一人でドラゴンに突っ込む奴がどこにいる……!?」
「ここにいる」
「何胸を張っているのだリョータ! そういう事が言いたいのでは無い!」
「ハイハイ」
怒るレオンを適当にあしらって起き上がると、隣でリムが涙目になっていた。
「リョータさん……リョータさんがドラゴンに押し潰されそうになったり空に飛ばされたときは気が気じゃなかったですよぉ……!」
「ごめんなリム。でも俺は大丈夫だ。だから心配すんなよ。な?」
「おい貴様、我の時とは全然態度が違うじゃないか!」
涙腺から涙が溢れそうになっているリムの頭を優しく撫でていると、横からレオンが口を出してきた。
なんだよ、お前もなでなでしてほしかったのか?
「ねえみんな、ドラゴンが起き上がってきたわ!」
そんなローズの声に、俺達はバッとドラゴンの方に向く。
ドラゴンは怒りに染まった瞳でこちらを睨みながら、ゆっくりと起き上がる。
「あんた達は下がってて。ギルドの人達に言って、ありったけのポーションて持って来て貰ったから」
そう言われ振り返ってみると、カミラさんを始めとするギルドの職員達が、気絶した冒険者達に丸い瓶に入った液体を飲ませていた。
「あっ、そう言えば! おいリーン、あのドラゴン目に見えないバリアみたいなの張ってるんだ」
「ば、ばりあ? 何それ?」
「ああ、えっと、防御結界的な何か!」
「なるほど、だからさっき私が攻撃したときは手応えが無かったのね」
「ああ。そんでそのバリアはあの額の角で維持してるみたいで、あの角さえ破壊できれば尻尾以外でも攻撃が入るしダメージも大きくなるはず」
俺がそう言うと、リーンはドラゴンに剣を構える。
「分かった。私があの角を破壊する」
「いや、そう簡単に言ってもだな……! 俺が言うのもスゲー説得力無いけど、一人で突っ込むのはよくないって!」
「ほんとに説得力無いですね!?」
外野は黙ってろ。
俺がハイデルを睨んでいると、リーンが俺に振り返る。
そして、頼もしげに笑ってみせ。
「大丈夫よ。だって、私あんたより強いもん」




