第四話 成り行き魔王は今日もくたくただ!⑦
走る。ドラゴンに向かってただ全力で走っていく。
だけどどうしよう、特に何も考えてない!
格好付けて飛び出しちまった!
ど、どうしよう、俺どうすればいい!?
冒険者の一人が言っていたように、俺はステータスはあの中でも一番低い。
なのにそんな奴が、俺が魔王だあああああ! なんて格好付けて無策のままドラゴンに突っ込んでいく。
本当にバカだわ! 俺!
アイツらに向かって、人をステータスや見た目で判断するんじゃねえぞ雑魚共がって勢いで言っちゃったけど、どの口が言ってんだよ雑魚!
と、今更になって後悔しても、ドラゴンはそれを許してはくれない。
ドラゴンは腕を大きく持ち上げる。
恐らく俺をその腕で叩き潰すのだろう。
だけどそれが分かっていても、俺の身体は恐怖で思うように動かない。
ただ、俺はそのゆっくりと下ろされていく腕を凝視したまま走り続け……。
……ん? ゆっくり?
今更になって違和感に気付いた。
ドラゴンの腕が、全体の動きが、やけにゆっくりに見える。
しかも、俺もドラゴンと同じくゆっくりと走っている。
この世界の全てが、スローモーションを見ているかのようにゆっくりと見える。
……コレ、俺が初めてローズに会って襲われそうになった時にあったな。
何なんだこれ?
やっぱり、これって俺の能力なのか?
いやでも、俺ってユニークスキル無いんだよな。
だったら何なんだよこの現象?
と、不思議に思っている暇は無い。
俺はゆっくりと動く足で地面を蹴り、真横に飛ぶ。
その瞬間、世界の速さが元に戻る。
「っぶねええええええ!」
ドラゴンの腕を紙一重で回避した俺は、唯一攻撃が入る尻尾に向かっていく。
そして、俺は飛び込みざまに、手にした剣をドラゴンの尻尾に思いっきり突き刺す。
『グルルルル――!』
「どうだトカゲ野郎! さほどダメージ入ってないだろうけどざまあみやがれ!」
剣を突き刺され唸るドラゴンに、俺がハッと鼻で笑っていると。
「えっ、ちょ、ちょっと待……ってギャアアアアアアアアアア!?」
ドラゴンが尻尾をブンブンと振り回してきた。
「うわあああああああごめんなさいごめんなさい! 俺絶叫系無理なんだよおおおおおおおおおお!」
と叫びながら、突然のことで尻尾にしがみつく状態になった俺が、振り落とされまいと必死になっていた。
無理無理無理! 手、離したら死ぬ!
ってか何なんだよこの尻尾!? 掴みずらい! 鱗付いてるのに妙に滑らかで……!
と、俺はあることに気付いた。
ドラゴンの尻尾に、うっすらと紫の膜っぽい何かが張られている事を。
その膜っぽい何かは妙に硬い。
何だこれ? これ膜って言うよりバリアアアアアアアアアアアアアアアア!?
「アアアアアアアアアアアアアアアァァァァ――!?」
違和感に気付いた瞬間、ドラゴンが思いっきり尻尾を振り上げ、俺は空中に投げ出された。
自分の身体が上へ上へと上がっていく感覚。
そして、その感覚がなくなり、うっすらと目を開けてみると。
「ああもうこれ死んだわ……」
高い外壁に囲まれているバルファスト魔王国が一望できるほど高くまで投げ飛ばされていた。
そして、俺の身体は位置エネルギーから運動エネルギーに変換されていき、
「ァァァァアアアアアアアアアアアアアアア――!?」
うわああああああああ紐無しバンジイイイイイイ!
「もう今度こそ終わったわ! もう死んだわ! かあああああああちゃああああああああああん!」
と、俺がピンチになったときのジャ●アンみたいな事を叫んでいると、ふと、真下に居るドラゴンを見て気が付いた。
何で今まで見えなかったのだろう、ドラゴンの身体の周りに紫色のバリアが張られていた。
よくよく見てみると、ドラゴンの胸部らへんがバリアが厚く、逆に尻尾が薄い。
なるほど、道理で尻尾にだけ攻撃が入って、そんでもって攻撃してもあまりダメージが無かったのか。
そして、そのドラゴンのバリアを維持しているであろう場所を見つけた。
紫色のオーラを纏い、唯一バリアから突き出ているそれは。
「角だああああああああああああ!」
ドラゴンの額から生えている螺旋状の角だった。
つまり、これはゲームで言うところの、弱点がむき出しのタイプのボス。
あの角さえ破壊できれば、バリアが消えてどこからでも攻撃が入るようになるはずだ。
そう思っていたのもつかの間、真下にいるドラゴンが落ちてくる俺に向かって口を大きく開けた。
ヤバいコイツ俺にブレスぶつける気だ!
どうしよう、避けようにも空中だから避けられないし、仮に避けれたとしても地面に叩き付けられて死ぬ!
俺が手足をバタバタさせている間、ドラゴンの喉の奥が段々と赤くなっていく。
ちくしょう、とりあえずあのブレスをどうにかしないと!
そう思った俺は、ドラゴンに向かって片手をかざした。
そして、ドラゴンがブレスを放とうとしたその瞬間――!
「『フラッシュ』――ッ!」
俺はドラゴンに向けて、リムに教えて貰った閃光魔法を放った。
ノータイムで放たれる強烈な光に。
『グルアアアアアアアアアア!?』
ドラゴンの目を焼き、そして。
「ギャアアアアア! 目エエエエエエッッ!?」
俺の目も焼いた。
何でえ!? この魔法、自分にも効果があるのおおおおおおお!?
何で相手の命中率下げさせる技で自分も命中率下げないといけないんだよ!? 洞窟の中でフラッシュ使ってるとき主人公大丈夫なの!?
などとポケ●ンに対する大変どうでもいい事を思っている俺の真横を、何かもの凄く熱いものが通り過ぎた。
目が眩んで見えないが、恐らくブレスの軌道が逸れたのだろう。
だけどこのままじゃ地面にぶつかる! ダメだああああああああああああ!
と、手足をジタバタさせていると、俺の足が何かに引っかかった。
それは何か棒のようなもので、俺は落下の勢いでグリンと一回転し、鉄棒で言うコウモリの状態になった。
……生きてる?
その実感とともに、視界もやっと回復してきた。
そして、俺の視界が完全に回復したときに見えたのは。
『ゴルルルルル……!』
ドラゴンの両目だった。
「…………」
更に俺が何にぶら下がっているのかも理解した。
俺は通じるはずもないのにドラゴンに不敵な笑みを向けると、俺は上体を起こしてそのぶら下がっていたものにまたがった。
そして、俺は両手で剣を握り直すと。
「これでも食らえやああああああああああああああああッ!」
『ゴガアアアアアアアアアアアアアアア――!?」
俺がまたがっている角に思いっきり突き刺した。




