第二九話 プレゼント選びは今日も懊悩だ!⑤
改めて思い返してみると、今までの俺の人生の中で、歳の近い女の子にプレゼントを渡すなんて事は一度も無かった。
というか、友達に誕生日プレゼントを渡すという行為自体ほぼない。
辛うじて記憶の奥にあったのは小学生の頃、遠くに引っ越してしまう親友へ、ラジコンカーを譲ったとき。
勿論小学生が新品のラジコンカーをプレゼントするなんて事は出来ない。
よく俺が公園で走らせていた、言ってしまえば中古品。
だけどソイツにもよく走らせてあげていた思い出深い物だったし、まだまだガタも来てなかったから譲ったんだよな。
流石に今はもう持っていないだろうけど、一度でも引っ越し先で走らせてくれたらそれだけで十分だ。
……なんて、思い出に浸って現実逃避するのはそろそろ止めとこう。
「うーん……」
リーンへの誕生日プレゼント。
この世界に転生してから、ある意味一番世話になったであろう、俺の尊敬する人。
そんな人へのプレゼントだ。出来るなら、ちゃんとした物を送りたい。
だが女の子へ贈り物なんてギザな事も出来なかった、そもそも仲の良い女子が周囲にいなかった俺には、一体何を送れば良いかまったく分からない。
だから俺は、プレゼントを買いに出たリムとローズの後にちゃっかり着いていき、二人が選んだプレゼントを参考にしようと考えた。
そしてとある雑貨屋の棚の前で、あれが良いこれが良いと相談し合っている二人の後ろで唸っているのが現状だ。
「そもそも、リーンってどんなのが好きなんだろ……」
俺は側の棚の上で、チョコンと座っていたウサギのぬいぐるみを手に取り、その手を振ったりしながら呟く。
いや、リーンはこんな可愛いぬいぐるみとかは興味無いだろうな。
少なくとも、この類いはレイナかエルゼ辺りだ。
リーンの性格上やっぱりオシャレ~とか、かわい~とかよりも、実用的な物の方が喜びそうなんだよなぁ。
じゃあキッチン用品? いやいや、誕プレにキッチン用品は無いだろ……。
クソ、こんな事なら日本に居るとき『女の子が喜ぶプレゼント』ってネットで検索しとけば良かった……将来の望みを掛けて。
「悩んでますね、お兄ちゃん。あっ、かわいい……」
ヒョコッと俺の横から顔を出し、俺が手に持ったぬいぐるみを見て実にかわいい感想を溢すリム。
「リム達の方は決まったのか?」
「候補は何個か絞れましたね」
「スゲえな……なあ、どういう基準で選んでるんだ?」
「基準も何も、ただリーンさんにプレゼントしたら喜びそうだなって物を選んでるだけですよ?」
「それが難しいんだなぁ、俺には」
多分リム達の基準は、リーンと関わった時間に比例している。
実際、俺はリーンと初めて会ってからまだ1年も経っていない。
仲良くはなれたとは思うが、まだまだ相手の知らない事は多い。
例えばそう、誕生日とか……うぅ。
「どーしたもんかなぁ……」
俺はぬいぐるみを棚に戻すと、再び悩み出す。
リーンが好きそうな物……。
ハンカチ? いや、被る可能性が高いな……。
あっ、何だっけアレだ、お風呂に入れる……バスボム! ……そもそも異世界にねえよ。
ううううううううううううん……。
ダメだ、一向に分からん。
何が一番尊敬してる人、だよ。その尊敬してる人の好きな物すら分かんねえのに……。
なんて自虐しながら、俺はチラとリムを見る。
……そういや、何個か候補を絞ったって言ってたな。
「なあリム、あのさ……」
「リョータちゃん」
「うおっ」
俺がリムに訊ねようとした時、棚の奥からローズが声の聞こえて来た。
だが棚は俺達の身長より高く、互いの姿は見えない。
恐らくローズは透視眼を使っているんだろう。
「急に声掛けるなよ、ビックリしたじゃん」
「ゴメンナサイね、わざわざ迂回するのが面倒だったから」
「それで、何?」
「リョータちゃん、もしかして私達が選んだ候補の中から選ぼうとしたでしょ?」
姿が見えない上に心を読まれた事に、俺は思わずビクッとする。
「お前、いつから遠距離で心読めるようになったんだよ……?」
「別に精神魔法は使ってないわ。リョータちゃんが分かりやすいだけ」
「う、うっせ」
相変わらずの自分の分かりやすさに恥ながら、俺はぶっきらぼうに返す。
棚の向こう側で、ローズが可笑しそうに笑っている姿が想像できた。
「あくまで、女の子である私の意見だけどね」
「女の子じゃねえだろさば読むなよ」
「お黙り! ンンッ、いい? そもそもプレゼントはね、相手の事を思って贈る物。さっきリョータちゃんが考えてたみたいに、自分で考えないで誰かさんが選んだ物をそのままプレゼントにしようとするのは、あんまりよくないわ」
「あっ……」
ローズの言葉に、俺は思わずハッとする。
「女の子の好きそうな物は~とか、他の人と被らないようにするには~とか、勿論それも考えた方がいいんだろうけど……」
俺はローズが立っているであろう棚の奥を見つめる。
すると棚の姿がスッと透けて、コートやマフラーで完全防寒対策状態のローズの姿が露わになった。
無意識に、俺も透視眼を発動したようだ。
障害物越しに目が合ったローズは、ニコッと微笑みながら。
「自分の事を考えて贈ってくれた物なら、大体何でも嬉しいものよ?」
俺は少しだけ顔を伏せ、その言葉を噛み締めるように何度も頷く。
そうだよな……そもそも、人へのプレゼントをそんな適当に選んだら失礼だよなぁ。
「そういうもんなのかな?」
「はい。私も、そうだと思います!」
そう訊くと、リムは大きく頷いた。
「よっし、じゃあちゃんと自分で考えて選ばないとな……」
とはいっても、結局プレゼントを何にしたら良いか分からずじまいで。
「女の子への贈り物……ア、アクセサリー系?」
「お兄ちゃん、そういうのはファッションセンスのある人の贈り物だと思います」
「うぐっ、年中パーカーの俺には絶望的じゃん……じゃあ、こ、香水……?」
「リョータちゃん、流石に男性から女性に香水を贈るのはちょっとキモいわよ……」
「はぷあぁっ」
「変な声を上げながら崩れ落ちないでください!」
最終的にリムとローズは選べたけど、俺は選べなかった。
そしてどこまでいっても俺は童貞なんだなと改めて気付かされた。
――魔王城に戻り、レイナ達に誕生日パーティーの事を知らせようと、自室で準備していた時。
「んええええええええッ!? お前らももうプレゼント買ったの!?」
「はい、早めに買っておいて損にはなりませんから」
俺がリムとローズの後についていっている間に、ハイデルとレオンもプレゼントを買いに出掛け、そして購入したという事実が発覚した。
手に持っていた財布を取り落としそうになりながらも、俺は食い気味に。
「ど、ど、どうやって?」
「実は、カリンさんに協力して貰いまして」
「カリンちゃんに?」
「我ら男だけでは、女の好みは分からんからな。カリンに付き添って貰い、我らが選んだ品物をチェックして貰ったのだ。まあ、五回以上ダメだしを喰らったが……」
「『兄様はもっと女の子の気持ちになって選ぶべきです! 私の誕生日の為にも!』と、お説教されていましたね」
「うるさい! 貴様だって何回かダメだったではないか!」
と、可笑しそう笑うハイデルにレオンがギャーギャー喚いている中、俺は冷や汗をダラダラ流していた。
マジかよー……まさかこの二人の方が早く決められるなんて……!
しかもカリンちゃんの手助けがあったとはいえ、二人ともちゃんと自分で選んできてるし!
ってことは、魔王城組の中でプレゼント選べてないの俺だけじゃん!
「で、リョータよ。反応を見る限りまだ決まっていないようだな?」
「……そーだよ。マズいなぁ」
「そこまで焦る必要はないだろう。まだ二日も期間があるのだ、ジックリ考えればいい」
「でもさ、ハイデルが言ってた通り早めに準備して良いに越したことないじゃん。考えたけど選べませんでしたーって事は絶対したくないし……」
床にあぐらを掻きながら腕を組んで唸る俺に、ハイデルが顎に手を添えながら。
「魔王様はこれからフォルガント王国に向かうのですよね? なら、フォルガント王国で探せば良いのではないでしょうか。あの大国なら、バルファストより多く、より珍しい物が置いてあると思いますが」
「そうだなー。うん、分かったそうしてみる。ありがと」
色々見ている内に、これだーって物があるかもしれないしな。
俺は肩掛けバックに荷物を仕舞うと立ち上がり、揃って部屋を出た。
「じゃあ、行ってくるな-」
「行ってらっしゃいませ魔王様。お気を付けて」
「悩みすぎて帰りが遅くなりすぎるでないぞ」
廊下で二人と別れると、俺はリムの元へと足早に向かう。
その道中も、俺はリーンのプレゼントを考える。
タイムリミットは今日を含め後二日。
他の皆には十分な期間なのだろうが、俺にとっては凄く短い気がする。
だけど絶対に、リーンに喜んで貰えるようなプレゼントを選ばなきゃ。
いつも迷惑掛けてるお詫びも、修行に付き合ってくれるお礼も、何だかんだで俺と仲良くしてくれる感謝も込めて……。
「……?」
何だろ、それだけなのかな……?
自分でも分からないけど、もっと他に何かがあるような気がする。
……っていうか、何で俺はこんなに緊張しているんだろう。
まだ三日もあるってのに、今日が本番みたいにドキドキしてる。
「変なの」
俺はボソッとそう呟くと、リムの部屋のドアをノックした。




