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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第七章 君と僕のバースデー
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第二九話 プレゼント選びは今日も懊悩だ!④

先生……もとい、フォルガント王と対談した後。

壮絶な人生を歩んできたフォルガント王の話を聞き、ついボロ泣きしてしまった俺。

そんな俺を、次の予定を知らせるために来たアルベルトが嫌な顔をしながらも連れていき、そのまま見送ってくれた。

そして帰って来た際、出迎えてくれたハイデルが俺の顔を見て仰天し『誰が魔王様を泣かせたのですかッ!?』とヘルファイアを掌で燃やしながら怒り狂ってしまったので、それを止めるのが大変だった。

しかし今回のフォルガント王との対談で、色々な事を得た。

カムクラへ向かう為の地図や、使者を遣うという案。

過去俺以外に日本人が転生、もしくは転移していたという事実。

そして、自分の王様としての心構えも。


話を聞いている中で、俺とフォルガント王は何となく境遇が似ている気がした。

俺は異世界の小市民、フォルガント王は追放された元王子。

全然違うようにも思えるが、俺達はどちらも、本来王様になるはずがなかった。

いざ王様になっても、最初は何も出来ないでいた。

そして自分自身が弱く、代わりに仲間の女の子に頼ってばかりだった。

三つ目に関しては、俺の場合現在進行形ではあるけど……。


とにかく、俺が王様の先生として見ていたフォルガント王は、俺なんかよりも弱くって、大変な思いも経験もしてきた。

だからフォルガント王は、誰よりも優しくて、人の気持ちにより添える王様になれたんだと思う。

フォルガント王は自分はまだまだ学ぶべきことが多いと、だから俺の先生ではなく先輩なんだと語っていた。

だけどやっぱりフォルガント王は俺にとって先生だし、見本だし、理想像なんだ。

その理想の王様へ近付くためにも、俺はミドリを何とかしてやりたい。

そしてその行動に、俺自身胸を張れるように。





――その日の内に俺はポーション屋を訪ねると、サラさんが出迎えてくれた。

俺がリグルさんに話があると伝えると、サラさんが二階からリグルさんを呼び出してくれた。

リグルさんはどうやら明日にはこの国を出るそうで、身支度をしていたらしい。

滑り込むセーフだったと安堵しながら、俺は促されるままにリビングのテーブルに腰掛けた。


「それで、どうしたんだい? こちらとしては、出発前に君に挨拶でもしようと思ってたから、手間が省けてよかったんだが」

「実は、リグルさんに大事なお願いがありまして」


俺はリグルさんに、カムクラに使者を送りたく、その使者をリグルさんに任せたいという旨を話した。

俺の話を最後まで静かに聞いてくれたリグルさんは、コクリと頷くと。


「勿論、是非やらせてくれ」


と、二つ返事で承諾してくれた。


「えっ?」

「何だい、何かおかしかったかな?」

「いや、そういう訳でもないし、寧ろメチャクチャありがたいんですけど、ここまで乗り気だとは思ってなくて」


そう言うと、リグルさんは少し興奮気味に。


「だって、あのカムクラに行けるんだよ? こんな機会、一生に一度あるかないかだ。それにカムクラに、未知の薬草やポーションがあるかもしれない」


それが狙いか……まあ、俺も旅のついでにお願いしますって気持ちで来たから、文句は無い。

なんて俺が苦笑していると、リグルさんはニッと笑って見せた。


「それに、あのエルフの子の為になるなら喜んでやるさ。君に頼られて嬉しかったしね」

「リグルさん、ずっとあの子の事、気に掛けてましたもんね~」


……うん、やっぱり皆優しいな。

その優しさや期待に応えられるように、俺も頑張らないと。


「ありがとうございます」

「ああ。魔王様も、リムを頼んだよ」


俺は立ち上がり深く頭を下げると、リグルさんは俺の肩に手を掛けた。

その手にこもる力は強くもあり、優しかった。





――翌朝の、まだ空が暗い時間。

リグルさんにカムクラへの地図を渡し、そのまま見送った。

その見送りにはサラさんも来ていたが、リムの姿は無かった。

今の時刻は六時ちょっと前。基本早起きのリムでも、流石に起きられなかったようだ。

俺はというと最後の仕事が残っていて、その為に徹夜してただけだけど。

そして俺が魔王城に帰ってきた時だった。

大きなあくびをしながら歩いていると、正門の前でハイデルが立っているのが見えた。

様子を見るに、どうやら俺の帰りを待っているようだ。

渋谷の名犬を頭の片隅で思い出しながら、俺は足早にハイデルの元へ向かう。


「ハイデル-」

「あっ、お帰りなさいませ魔王様」

「ただいま。で、どうしたんだよ? 俺の事待ってたの?」

「はい、実は魔王様にお客様が来ておりまして」


俺の元へ駆け寄ってきたハイデルの言葉に、俺は首を傾げる。

今は早朝、客が来るような時間帯じゃない。


「客? 誰だろ……」

「今、応接室で待たせております」

「応接室って……あのローズの縄張りに?」

「ええ。何でも魔王様だけでなく、我々四天王全員にも用があるらしく」

「それで応接室に。マジで誰だろ……」


俺達全員に用がある人に、心当たりがない。

少なくとも、ハイデルが名前を覚えていない人ってことは分かる。

もし来たのがリーンなら、ハイデルは普通にリーンが来たと伝えるだろうし。


「分かった。皆もう揃ってるんだよな?」

「はい。後は私達だけです」

「じゃあ早く行かねえとな」


俺は足早に魔王城に入ると、その足で応接室に向かう。

一体どんな人が待っているのだろうかと少々緊張している間に、応接室に着いた。

ハイデルはササッと俺の前に移動し、ノックをするとドアを開けてくれる。


「魔王様が戻られました」

「遅れてごめんなさーい……って、アレ?」


そしてペコペコと頭を下げて入った俺だったが、目の前のソファに座るソイツらを見て、声を上げた。


「カイン? それにミドリまで」

「おはようさん、にーちゃん」

「……おはよう」


カインとミドリは二人並んでソファに座っており、俺に軽く挨拶を済ませた。


「客ってお前らの事だったのか。緊張して損した」

「悪かったな」

「そんなそんな。いらっしゃい」


俺は二人の向かいの、リムが座っているソファに腰掛ける。


「あっ、リグルさん見送ってきたぜ」

「そうですか……うう、今回こそはちゃんと見送ろうって思ってたのに……!」


ついでにそう報告すると、リムは早く起きれなかった自分を悔やむように膝の上の拳を握り絞めた。

リグルさんとしては、娘には無理して早く起きるよりもしっかり寝ていた方が嬉しいと思うだろうけどな。


「それでふぁあふ……我らに何の用で来たのだ? こんな朝早くから……」


朝が苦手なレオンは、マヌケっぽいあくびをかみ殺しながら、ジト目でカインに尋ねる。

するとカインは申し訳なさそうに後頭部を掻きながら。


「悪いな。実は俺ら、ねーちゃんに内緒で来ててよ」

「リーンちゃんに内緒で?」

「ああ。コイツと朝の散歩するってねーちゃんに嘘ついてな」

「……ちょっと怪しまれたけどね」

「ま、まあな。でも、朝なら全員魔王城に居ると思ったし、今のうちににーちゃん達に話しておきたくって」


リーンに内緒で、俺達全員にする話ってなんだろう?

まったく見当が付かねえ……。

俺が無言で首を傾げていると、カインが改まったように口を開いた。


「三日後、ねーちゃんが誕生日だって知ってるよな?」


……え?

誕生日……? リーンの……?

それも三日後に……?


「はい、勿論知ってます」

「何なら、プレゼント何にしましょうかねって、この前リムちゃんと話していたとこだしね」


えっ、そうなの……?


「私も同じく、何かお祝いできることはないかと考えておりました」

「我もまあ、一応知ってはいたが」


えっ、そうなのッ!?

女性陣だけでなく、ハイデルやレオンも知っていたなんて……!

ええ、じゃあまったく知らなかった俺って……。


「……リョータ、知らなかったの?」

「ッ!?」


強ばった表情を見て察したのか、ミドリが単刀直入に聞いてくる。

俺は挙動不審になり目を泳がせながらも早口で。


「い、いやぁ、俺も覚えてたよ勿論! うん、リーンの誕生日ね、誕生日……うん……」

「「「「「「…………」」」」」」

「ゴメンナサイ、まったく知りませんでした……ッ!」


嫌な沈黙と視線に堪えられず、俺は両手で顔を覆いながら崩れ落ちた。


「……リョータ、知らなかったんだ。リーンと仲が良いから、知ってるかと思った」

「うごぉッ!?」


無表情でキョトンとしたように呟くミドリの言葉に、俺の精神的ダメージが一気に減らされる。

リーンは俺の修行に付き合ってくれるし、俺がクヨクヨしてるときなんかビシッと言ってくれるし、俺の弱いところも受け入れてくれるし……!


「どうしよう、何ならこの中でリーンに世話になってるの俺じゃん……! ってか一番誕生日祝ってやんなきゃいけないの俺じゃん! それなのに俺はぁ……!」

「リョータちゃん、あんまり自分を責めないで! だってリョータちゃんはここ最近ずっと忙しかったじゃない! 知らなかったことには正直ビックリしたけど……」

「がっふっ!?」

「この淫魔、フォローしたと思いきや追撃しよったぞ……」


一応、この中で一番女心が分かるであろうローズの言葉に、俺の心のHPケージは赤まで減らされた。

つまり女性として見て、俺がリーンの誕生日を知らなかったという事は信じられないという事だろう。

例えるなら、バレンタインにチョコを貰っても何もお返しせず、寧ろホワイトデーの概念を忘れていたようなものだ。


「俺、今後リーンにどの面下げて会えばいいんだろ……」

「そんなに落ち込まなくても……。そもそもリーンさんは、自分の誕生日にこだわりを持ってませんから、気にしないと思います」

「そ、そうなの?」


苦笑しながらフォローを入れるリムの言葉に引っ掛かり、俺は思わず顔を上げる。

するとカインが、リムの言葉に同感するように頷いた。


「そーなんだよ。ってかこだわり無い以前に、自分の誕生日がいつだったかも忘れ掛けてるんだよな……」

「……ルニーがね、だいぶ前にリーンの誕生日聞いたんだって。そしたらすぐに思い出せなくて、カレンダーを見てやっと思い出したらしいよ」

「70過ぎたばあちゃんかよ!?」

「リョータちゃん、流石にそのツッコミはアウトよ」

「ま、まあとにかくだ。ねーちゃんに世話になってるのは俺達も同じだし、沢山迷惑掛けちまった。だからその分、祝ってやりたいんだ」


そう、真面目な面持ちでそう伝えるカイン。

その言葉に、嘘は無いんだろう。

……というか、リーンはまだ俺と同じ16歳。いや、後三日で17歳だ。

普通自分の誕生日なんて、俺が思わずツッコんでしまったように、じいちゃんばあちゃんにならない限り忘れないはずだ。

きっとリーンは、自分の誕生日なんてどうでもよくなる程辛い日々を送ってきたのだろう。

それは恐らく、カインを初めとした孤児達が一番知っている。

だからカイン達は、せめて誕生日ぐらいは普通に祝ってやりたいと思っているんだ。


「それで三日後、サプライズパーティーを孤児院で開くって計画を立てたんだが、にーちゃん達も手伝って欲しいんだ」


それでリーンに内緒で俺達に……そりゃあサプライズだもんな。

俺はグルッと周りを見渡し、四天王の顔を見る。

全員、考えている事は同じみたいだ。


「寧ろこっちからお願いするよ。手伝わせてくれ」

「ああ、ありがとよ」


子供達の為じゃない、四天王がそう言っているからでもない。

今までリーンの誕生日すら知らなかった自分への罪滅ぼし……というのは多少あるが。

だけど一番は、俺がリーンにちゃんとお礼を伝えたい。


「さーてと、まず俺達がやるべき事は……ハイデルの口を何かで塞ぐか」

「ええっ!?」


俺の言葉にハイデルが驚愕するが、他三人は何とも言えない顔をしている。


「酷いですよ魔王様!? まさかこの私が、リーン様に言ってしまうと!?」

「思い出してご覧、今までお前が口を滑らせてきた回数を」

「……リーン様の前では、極力話さないよう努めます」

「よろしい」


取りあえず第一関門はクリアした……多分。


「それで、本当に俺達にやってほしい事は?」

「そんな大した事じゃないけど、にーちゃん以外の四人は、当日俺達がねーちゃんを外に連れ出すから、その間大部屋の飾り付けを手伝って欲しい」

「ええ、任せて下さい」

「フッ、我のセンスの見せ場という訳だな」

「絶対レオンちゃん変に格好付けた飾り付けにするでしょ……」

「リーンさんの誕生日会場が、闇の儀式の会場になりそうですね……」

「好き勝手言いよって、流石に自重するわ!」


ハイデルがドジかまして大惨事になりそうな予感がするが、リムが居るから大丈夫だろう……多分。


「それで、俺は?」

「にーちゃんには重役になっちまうけど……料理の方、頼めるか?」


おっと、マジで責任重大だな。


「魔王城の台所番の力の見せ所ってか。任せな」

「あと、ケーキの方も」

「寧ろ望むところだ」

「……リョータ凄いね」


ドンと胸を叩きながら言って見せた俺に、ミドリがパチパチと手を叩く。

よかった、ぶっちゃけ飾り付けより料理の方が得意分野だ。


「それと出来ればだけど、勇者一行とかも呼べないか?」

「レイナ達?」

「ホラ、ねーちゃんとアイツら仲良いからさ。それに俺達も、もうあの四人に嫌な感情抱いてないからよ。とくにあの魔法使いのおかげ? でさ」


確かに、ジータ毎回孤児院に駆け込んでは孤児達とじゃれつきまわってるからな。

流石真のロリ&ショタコン。後でそれとなくお礼言っとこう。

それにそっか……コイツらも、レイナ達を受け入れられるぐらい成長したんだな。


「分かった。流石に向こうの都合もあるかもだけど、誘ってみるよ」

「助かる。それじゃあ、詳しい話はまた後でな。遅くなるとねーちゃんにバレる。いくぞミドリ」

「……うん」


カインは時計を見ながらそう言って立ち上がると、若干照れ交じりにミドリに手を差し伸べる。

が、ミドリはカインの手を取らずにスクッと立ち上がった。


「……今日は朝早くからありがとう」


そしてそう言いながら、俺達五人と握手をして部屋を出た。

一人、顔を赤くしながら歯を食いしばるカインを残して。


「~~~~~~~ッ」

「無表情の寡黙ちゃんの考えてる事なんて、分かんねえよなぁ」

「るっせえ!」


頬杖を突きニヤニヤする俺に、カインは吐き捨てるように怒鳴ると、そのまま部屋を飛び出す。

と思いきや急に立ち止まり。


「あっ、そうだ。プレゼントはそれぞれ用意な! オイミドリ、勝手に行くんじゃねー!」


最後にそれだけ伝えると、カインはミドリの後を追いかけていった。

これじゃあ、見送りはいらねえな。

俺が半分浮かせた腰を再びソファに下ろすと、ローズが面白そうにクスクス笑う。


「フフッ、あの子ったら、ミドリちゃんに振り回されてるみたいね-」

「もう、笑わないであげてくださいよ」

「それにしても、サプライズパーティーですか。去年はお誕生日おめでとうございますと口でしか言えませんでしたね」

「そうだな。折角の機会だ、我々もリーンの為にやれることをしなくては……リョータよ、急に黙り込んでどうした?」


四人でワイワイ話していたようだが、レオンが口元に手をやり悩んでいる俺に気付き声を掛ける。


そうだよ、誕生日といったらプレゼントだよな。

プレゼントはそれぞれ用意……か……。

プレゼント……。


「プレゼントって、何渡せばいいんだろう……?」

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