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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第七章 君と僕のバースデー
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第二八話 エルフ娘は今日も寡黙ちゃんだ!⑫

カイン視点からです


「うーん……」


午後四時頃。

配達のバイトから帰って、暖炉で身体を暖めようと思っていると、その暖炉の前でルニーが足を抱えながら座り唸っていた。


「? どうしたんだよ、眉間にしわ寄せて」

「あっ、おかえり。それがさ……」


コートを脱ぎながらそう声を掛けると、ルニーは俺に気が付き振り返る。

そして、少し困ったような笑みを浮かべながら。


「私達、あんまりミドリちゃんと仲良くなれてないなーって」

「あー……」


ルニーの言葉に、俺は思わず曖昧な返事をしてしまう。

……にーちゃんがエルフのガキ、ミドリをここに連れてきてから数日経った。

エルフという見慣れない種族であり、更に記憶喪失でもあるミドリに、最初は俺達も距離を取っていた。

だが、少しずつだが下の連中を中心に、ミドリに寄り添おうとしている。

だが実際、ミドリとの間には壁がある。

俺達に対しての受け答えは最小限だし、下の連中が遊びに誘っても首を横に振る。

ただずっと部屋の隅で本を読んでるか、窓の外を眺めているか、ねーちゃんの背中に張り付いているだけだ。

もしかしたらミドリは自分がよそ者である事や、記憶喪失である事を気にしているんじゃないか。

勿論そんな事は、あの鉄仮面みたいな表情からは読み取れないが。


「カイン、何かいい案ある?」

「そんなすぐに思いつく訳ねえだろ。そりゃ、仲良くなるに越したことはねえだろうけどよ」

「だよね。でも、しつこすぎると逆効果になりそうだしなー」


ルニーはそう呟くと小さくため息をつき、暖炉の火を眺め始めた。

……外では、下の連中が総出で雪だるまを作っている。

何でも、魔王城の前にそびえ立っている雪だるまより、もっと凄いのを作るんだそうだ。

もし、その中にミドリが混じっていたなら。

記憶喪失だとかよそ者だとか、そんな事を、アイツらと遊んでいる時だけでも忘れてくれたら。

なんて、外から聞こえる下の連中の喧噪を聞きながら、柄にもなく思っていたその時だった。


「カイン、ちょっといい?」


部屋の扉が開き、ねーちゃんが入ってきた。

その後ろには、さっきまで話題に上がって居たミドリが、ねーちゃんの服を掴みながら立っている。


「何だよ?」

「今から夕食の仕込みがしたいんだけど、食材を買い忘れちゃって。だから、おつかいお願いしたいんだけど、いいかしら?」

「おつかいぃ?」


頬を掻きながらそう頼むねーちゃんに、俺は少し怪訝に思う。

ねーちゃんは基本買い出しは計画的にするから、買い忘れはほぼ無い。

たまに下の連中ににおつかいを頼むときがあるが、それは買い物の勉強をさせたい時だけだ。


「おいおい、おつかいの勉強なら俺は流石に対象外だぜ?」

「こ、今回は純粋に買い忘れたのよ」

「ママが買い忘れなんで、珍しいね」

「しょ、しょうがないじゃない、私だって人だもの。ミスの一つや二つ、たまに起きるわよ」


ねーちゃんの言ってる事は別に普通だがが、どうも引っ掛かる。

だがまあ。


「おつかいぐらいだったら、別にいいぜ。まだコート着たまんまだったしな、丁度いい」

「ありがとう、帰って来て早々ゴメンね? それで、後……」


ねーちゃんは付け足すように言うと、自分の背中に張り付いていたミドリを前に出した。


「ミドリも連れて行って欲しいの」

「……あ?」

「……え?」


ねーちゃんの言葉に、俺だけじゃなくミドリも声を上げた。


「……リーン、私そんな事聞いてないよ?」


やっぱり何も聞かされていなかったようで、ミドリは無表情のまま首を傾げる。


「いいじゃない。アンタ、ずっと孤児院の中に居たんだから。少しぐらい外に出ないと」

「……でも、リーンは居ないんでしょ?」


ギュッと、ねーちゃんの服を掴む力を強めるミドリ。

するとねーちゃんは身を屈めミドリの頭を撫で、宥めるように。


「心配しなくても大丈夫。カインは子供達の中で一番年長だし、頼れる子よ。それに、ずっと私の後ろにばっかり引っ付いてちゃダメだもの」


……ははーん。

成程、そういう事か。


「…………」


ミドリは、少しだけ考え込むように顔を伏せる。

やがて顔を上げると、コクリと頷いた。


「……分かった。おつかい頑張るね」

「うん、偉い偉い。じゃあ、出掛ける準備してきなさい」

「……うん」


ミドリはねーちゃんの側から離れると、トテトテと廊下に出て行った。

アイツのコートは、幼少期のねーちゃんも物を借りている。


「ふぅ……」


ミドリを見送った後、一安心したようにため息をつくねーちゃん。

その姿を見て、俺とルニーは苦笑しながら言い合った。


「ねーちゃん、演技力ねえなぁ……」

「だね」

「な、何のことよ?」


身体を少しだけ跳ねさせた後、引きつった顔で笑いかける。


「とぼけんなよ。ミドリと俺らを仲良くさせるために、まずは俺と仲良くさせようって魂胆だろ? 見え見えなんだよ」

「うっ……」

「まあ、ミドリちゃんが一番最初にお話ししたのはカインだもんね」

「ううっ……」


ねーちゃんも、俺らと考えてることは一緒か。

でも、何で俺なんだよ……。

確かに、目覚めたアイツと一番最初に話したのは俺だが、ルニーの方が同じ女同士だし、仲良く出来そうだと思う。

まあ、ねーちゃんのご指名なら、仕方ねえか。


「ゴメンね……? 改めて、お願いできないかしら……?」


観念したのか、両手を合わせて申し訳なさそうに頼むねーちゃん。

俺は大きなため息をついたあと、頷いた。


「回りくどくしないで素直にそう伝えりゃいいだろーが……まあ、何とかやってみる」

「うん、お願いね」


ねーちゃんはそう言うと、食材の名前が書かれたメモを私、台所へ向かっていった。

どうやら本当に、夕食の仕込みをするようだ。

俺は買い物籠を引っ掴み、メモを見つめながら呟く。


「でも、仲良くするったって、何すりゃいいんだか……」

「何か、ミドリちゃんが欲しそうなの買ってあげたら? カインのお金で」

「俺の出費かよ!? まあ、一応頭には入れといてやる」

「……カイン、準備できた」

「おう」


いつもの変な服の上に亜麻色のコートを着たミドリが、玄関先から俺を呼ぶ。

ルニーは何故かイタズラっぽい笑みを浮かべて、その場で俺を見送っていた。

だが最後に、ヒラヒラと手を振りながら。


「カイン、後でデートの感想聞かせてねー?」

「おつかいっつってんだろ!?」





――外へ出た俺達は、露店街へと向かった。

俺達と同じく、露店街は今晩の飯の材料を買い求めている奴らでごった返している。

そして、ソイツらの視線が一斉に俺達に。

いや、主に俺の横に注がれていた。


「……こんにちは」

「お、おう、こんにちは、お嬢ちゃん」


この視線の数に気付いていないのか、ミドリは道行く人の手を握りながら挨拶している。

一瞬ソイツらは戸惑うが、相手が見た目が綺麗なミドリだからか、すぐに頬を綻ばせる。

中にはハアハア呼吸を荒げているヤベえ奴もいるが……。

当のミドリは笑顔って訳でもなく、ずっと無表情のままだから、本当に何を考えているのか分からない。

いつの間にかミドリの周りに人が集まり、まるで有名人みたいだ。


「鬱陶しいな、色んな意味で……」


俺はそう小さく呟き遠巻きにミドリの様子を眺めながら、買い物を済ませていく。

まあ口ではそう悪態をついてみたが、この国の住人との関わり合いは大事だ。

だけど肝心な、俺達との仲を良くさせなきゃいけねえ。

その為に、俺が最初に仲良くなれ、か……。

改めて考えてみると、何だか小っ恥ずかしくなってきた。

仲良くなれったって、今更何していいか分かんねえしな……。

ここまで来る道中、何度か話題を振ってみたが、二、三回言葉を交わして終了だ。

仕方ねえ、ルニーの案を試してみるか。


「オイ、ミドリ!」

「……何、カイン」


最後の食材を買うと、俺はミドリを呼ぶ。

ミドリは自分を囲んでいる人達に何か告げてから、こっちへ駆け寄ってきた。


「折角だから、何か買ってやるよ」

「……何で?」

「な、何でって……」


そうは言ってみたが、ミドリの予想外の反応に言葉に詰まる。


「あ、ああ。お釣りを勝手に使って大丈夫なのかって事か? 大丈夫だ、今回は俺の奢りだから」

「……何で? 私、カインに奢って貰えるような事してないのに」

「なっ……」


コイツ、親に何か買って貰ったりとか、そんな事ねえのか?

いや、コイツ記憶喪失だったな。

そういう思い出があったとしても忘れてるか。

でも、もう少しは言葉に甘えてもいいんじゃないか?

下の連中は、何か奢ってやると言うと、素直に喜ぶんだが……。


「う、うるせー、何となくだよ! いいから、何が欲しいか言ってみろ!」


思わずぶっきらぼうになってしまう。

チッ、仲良くなろうとしてんのに、何カッカしてんだよ俺。

俺の言葉を聞き、ミドリはボンヤリと辺りを眺めていたが、やがて一つの屋台に視線が止まった。


「……じゃあ、アレ」


そしてミドリが指差した先にあったのは……串焼きの屋台だった。


「お前……いいけどよ、晩飯前だぜ?」

「……大丈夫」

「そうかよ。じゃ、行こーぜ」


とは言ったが、ここから串焼きの屋台までは結構距離がある。

しかもタイミング悪く、人の壁が俺達の前を塞ぐ。

このままじゃ、流されるかもしれない。


「ん……」


俺は後ろを振り返らず、スッと手を差し出す。

……だが、いつまで経っても握られる感触がない。

痺れを切らして振り返ってみると、ミドリが俺の差し出した手をジッと見つめていた。

が、すぐに俺の視線に気付くと、ミドリは首を横に振った。


「……ありがとう、大丈夫」

「~~~~~~ッ。そ、うかよ……!」


畜生、何なんだよもう!

他人の手は握るのに、俺の手は取らないのかよ!

別に握って欲しかった訳じゃねえが……チッ、恥掻いた……。

だが、この憤りをミドリにぶつけるわけにはいかない。

俺はコイツと、仲良くなんなきゃいけねえんだ。

やがて、俺達は串焼きの屋台に辿り着いた。


「おうおっさん! 串焼き一本よこせやコノヤロー!」

「客とは言え失礼だなオイ!? って、何だお前かよ」


おっさんは俺の顔を見て顔を顰める。

この串焼き屋台で昔、よく店員の隙を見て串焼きを掻っ攫っていたから、俺に対していい印象はないんだろう。

だが俺が客である以上、対応しない訳にはいかず、串焼きを一本持ち上げた。


「三百トアル……って、オイオイ坊主、まさかその娘に奢るってのか?」

「う、うるせー、アンタにゃ関係ないだろ! ホラ、三百トアル!」


ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべるおっさんに噛みつきながらも、俺は台に三百トアルを雑に置いた。

するとおっさんは隣のミドリに、串焼きを差し出しながら話し出す。


「嬢ちゃん、最近有名なエルフの子だろ? 皆可愛いって言ってるが、その通りだな」

「……そうかな」

「ああ。この生意気でプライド高くて、迷惑者だった坊主が奢ってくれたんだ、間違いねえ。もしかして、ガールフレンドか?」

「ガールフレンドじゃねえ、いい加減にしろ!」


このおっさん、まるで昔の仕返しとばかりに煽ってくるな。

まあ、流石にもうあんな真似はしねえが、この店ならいいかと思ってしまう。


「……カイン、迷惑者だったの?」


俺がおっさんを睨んでいると、ミドリが首を傾げてそう訊いてきた。

するとおっさんは懐かしむ様に、俺を見つめてくる。


「ああ。少し前、丁度今の魔王様が来た時までな。そりゃあ酷いもんでよぉ、店の商品盗むわ壁に落書きするわ通行人の財布スるわで」

「うぐ……」


俺自身の事だけど、酷えな……。

今更罪悪感が湧いてきて、俺は唸るばかりだ。


「……そうなんだ。カイン、すっごく優しいのに」

「ハハッ、そうかよ。まあ、魔王様が来てからコイツら随分丸くなったのは、見て分かるよ」


…………。

俺を置いて、俺の話をされるのはどうも恥ずかしい。


「オイ、貰ったんならサッサと食えよ。ホラ、そこにベンチあるからよ」

「……分かった」


側のベンチを親指で指しながらそう指示すると、小走りでベンチに向かって行った。

だが、俺はその場に残る。


「? どうしたよ?」


それを不審に思ったのか、おっさんが訝しげに尋ねてくる。

……今まで、あやふやになっちまったけど。

俺達は、この人らに迷惑掛けてたんだな。

親を殺されて、その苦しさを知らない大人に同情されて、それを惨めに思って、腹が立って。

だけど、この人らに悪気があったわけじゃない。

寧ろ、心配してくれていたんだ。

なのに俺達は……。


「……悪かったな、今まで沢山、迷惑掛けちまって」


小さく、呟くように謝罪する。

本当は頭を下げた方がいいに決まってるが、おっさんが言っていたプライドが邪魔をしてしまう。

おっさんは一瞬キョトンとした顔をしたが、やがてフッと笑う。

そして串焼きの一本をひっくり返しながら、言った。


「俺らより、リーン様に謝った方がいいぞ? あの人、お前らが問題起こす度に、何度も何度も俺らに頭下げてくれたんだからな」

「え……?」


おっさんの言葉に、俺は思わず顔を上げる。

そう、だったのか……?

あの頃は、問題を起こしたらゲンコツ飛ばして説教するだけだと思ってた。

俺の表情を見て何かを察したのか、おっさんは遠巻きに魔王城を眺めながら言う。


「俺みたいなただの国民が言うべき事じゃねえかもだが、あの人はサタン様が死ぬまでずっと苦しんでた。だが、サタン様が死んだ後も、尚国民やお前らの為に頑張ってきたんだ。少しぐらい、労ってやんな」

「…………」


そう、だな……。

荒れていた俺達の気持ちを、どこの馬の骨かもしれないにーちゃんが察してくれた。

だけどそれ以前に、ねーちゃんが俺達を拾って、世話をして、見捨てないでいてくれた。

でも、今更その事実に気付いたなんて、とんだ恩知らずだ……。

そう、自分を諫めていると、目の前に一本の串焼きが差し出された。


「一本サービスだ。ホラ、嬢ちゃんがまってるぞ。暗い顔してないで行ってこい」

「……ありがとな、おっさん」


胸の奥がジンワリするのを感じながら、俺はおっさんから串焼きを一本手に取ると、ベンチに向かう。

すると、おっさんが俺の背中に呼び掛けた。


「折角のべっぴんさんなんだ、手放すんじゃないぞ!」

「だーかーらーっ、そもそもそこまでいってねえんだよッ!」

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