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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第七章 君と僕のバースデー
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第二八話 エルフ娘は今日も寡黙ちゃんだ!⑩

後の事である。

孤児院から魔王城に戻った俺は、早速フォルガント王宛に書状を書いた。

内容は、謎のエルフ少女ミドリがバルファスト国内の森で倒れていたということ。

健康状態には問題はないが、記憶喪失になってしまい、自分が誰かも分からないこと。

しかし着ていた服装や状況から、カムクラから転移事故で飛ばされた可能性が高いということ。

そして、何かエルフやカムクラの事で知っていることがあれば、御助力ください。

最後に、最近寒いのでお身体に気を付けてと書き加え、封筒に綺麗に入れると、リムのテレポートで直に出しに行った。

こういう場合国同士なら使者を使わせるのが普通だが、もうアポ無しで何回も来てるから向こうもさほど気にならなくなっている。

暇そうにしてた既に顔なじみとなっている門番に事情を簡潔に説明し、上の人を呼んで貰う。

するとたまたま近くに居たアルベルトが来てくれたので、書状を渡して貰うように頼んだ。

アルベルトが言うには、フォルガント王も最近忙しいらしく、書状にはすぐ目を通してくれるだろうが対応は遅くなるかもしれないとのこと。

何だか申し訳なくなりながらも俺は宮殿を後にし、ついでに街の本屋や図書館でエルフに関する資料を探してみた。

結果、何の成果も得られなかったが……。


しかし、個人的に気になる事が多々ある。

まず、エルフの国カムクラについてだ。

わざわざ指摘しなくても分かるくらい、あからさまな和風の国名。

オマケにミドリが着ていた服が着物に袴と、もうほぼ和服。

そもそもミドリって名前自体が和風。


よく異世界ラノベの舞台に日本、しかも江戸時代の文化とまったく同じような国がある。

ご丁寧に将軍や殿様や、何なら帝だって居る事もある。

だけど、それはあくまでフィクションの話。

いくら本当に異世界が存在していたとはいえ、そんな都合良く日本っぽい国があるのだろうか。

その辺りは実際に行ってみないと分からない。


それともう一つ。

いくら転移事故に巻き込まれたからって、記憶喪失になるのだろうか。

転移と記憶喪失、この二つの関連性が全く分からない。

だから、もしかしたらミドリは転移する直前、何か別のトラブルに巻き込まれていたのではないだろうか。

勿論そのトラブルの内容は分からないし、俺の考えすぎかも知れないが、それでも気になる。

ミドリが記憶を失う前はどんな子で、どんな日々を送っていたのかを。





――あんなに色々あったというのに、もう数日が過ぎ去っていた。

フォルガント王から貰った手紙によると、アルベルトの言った通り、最近色々と仕事が溜まっていて、直に会って話せるのは数週間後になるとのこと。

例え遅くなってしまうとはいえ、こうしていきなりの頼み事にもちゃんと対応してくれるフォルガント王は優しいな。

とはいえ、この数週間を無駄にするわけにはいかない。

こっちもこっちで、色々と対応しなくてはいけない。

だけど、一体何をすればいいんだろう?

何て考えながら……俺は魔王城の正門前で、雪玉を転がしていた。


「リョータ、頭の部分はこのぐらいでいいか?」

「んー、もうちょい欲しいかな」

「流石に大きすぎないか?」

「雪だるまはデカい方が達成感あるの。それに男のロマンだろ、バカデカい雪だるま」

「分からなくもない」


少し離れた所で、俺が転がしているものより一回り小さい雪玉を転がしていたレオンが、声を掛けてくる。

俺は手元の雪とのサイズ感を見極め、そう指示した。

……あれこれ考える時には、ジッと座って考えるよりも、何らかの作業しながらの方が捗る。

だから暇そうなレオンを誘って、本格的な雪だるまを作っていた。

他にも何かあるだろ、と周りからツッコまれそうだが……。

あと、単純に俺が作りたかった。


「しかし、記憶喪失の謎のエルフの少女か……またトラブルに巻き込まれそうな気がするな」


再び雪玉を転がし始めたレオンは、ふとミドリを話題に出してきた。


「言うな言うな、言霊って本当にあるかもだかんな?」

「例のフラグというヤツか」

「分かってて言うんじゃねえよ。それに、もし本当にトラブルに巻き込めれる事になったとしても、絶対にミドリのせいじゃないし、俺自身悔いはねえよ」


あれから、ミドリは孤児院で生活している。

最初は魔王城の方が空き部屋多いから、そっちの方がいいんじゃないかとは思ったが、ただでさえ外装も内装も不気味だし、暮らすには広すぎるしで、結局リーンの孤児院に任せることにした。

孤児院の方が同世代の奴らも多いし、リーンも居るしで寧ろ安心出来る。


「ハァ……せめてミドリの記憶が戻ったらなぁ」

「ローズに相談しなかったのか? 彼奴なら、失った記憶を呼び起こす事が出来るかもしれんぞ?」

「いや、それは真っ先に俺も思ったんだけどさ。ローズ曰く、失った記憶を無理に呼び起こそうとすると、かえって脳に負荷が掛かるんだと。それもまだ未発達な子供の脳なら尚更らしい」

「ううむ、中々思う通りにいかんな」

「まあなぁ」


でも、やろうと思えば記憶戻せるんだよなぁ、ローズの奴。

アイツ地味に、記憶や精神に纏わる事なら何でも出来るチートなんだよなぁ。

そう考えると、今日も暖炉の前を占領しているだろうローズが恐ろしく思えてくる。


「よっし、じゃあ頭乗っけるか。レオン、そっち持て」

「うむ」

「じゃあせーのな」

「「せーのっ」」


自分達の上半身よりも大きい雪玉を、息を合わせて持ち上げる。

っと、お、重っ……!?


「うおっ!? オイリョータ、ちゃんと持っているのか!?」

「持ってる持ってる!」


だが、何とかいけるな、うん……!

俺達はゆっくりと、下の段の雪玉の元へ運んでいく。


「いいか、少しでもタイミング合わなかったらどっちかの腰が確実に砕けるからな……!」

「雪だるま作りはそこまで命がけなのか……!? というか、腰が砕けるは流石に無いだろう……!」

「いいや、一昨年作ったとき、父ちゃんがやらかしたんだ……!」

「身内に被害者が!? というか貴様、その歳で家族と雪だるまは……」

「うるせー! 月城家の冬の行事なんだよ!」


その道中大変どうでもいい事を言い合って運んでいく。

運ぶだけで腕の力が限界だが、もう一頑張りしなくてはいけない。

上の段の雪玉を下の段に乗っける作業だ。


「よし、もういっちょせーのでいくぞ! マジでタイミング会わなかったら死ぬからな!? 覚悟を決めろよ!」

「だから雪だるま作りに命を掛けすぎだ貴様は! ああもう、いくぞ!」


この半年間、同じ屋根(と呼ぶには流石に広すぎる)の下で過ごしてきたレオン。

一緒に暮らしていると、自然と相手のタイミングも分かるもんだ。

俺とレオンの視線が合った瞬間、互いに息を吸い込んで。


「「せー――」」

「何やってんのよ?」


――グギッ。


「「おごぉぁッ!?」」


突然、下の段の雪玉の陰から姿を現したリーンに驚き、俺とレオンのバランスが崩れる。

そして同時に腰が砕け、雪玉と共に地面に崩れ落ちた。


「あ……こ、腰が……!」

「ほ、ほ、本当に命がけ、だっただと……!?」


このタイミングは合って欲しくなかった!


「テメ……いきなり声掛けるんじゃねえよ……ってか、お前の挨拶『何やってんのよ?』しかねえのか……!?」

「アンタが毎回変な事してるからでしょ!?」


腰を押えながら冷たい雪の上にうつ伏せになる俺を、リーンが見下ろしてくる。

その隣についさっきまで噂してたミドリも立っていた。


「アレ、ミドリ……?」

「……おはよう、リョータ」


ミドリはリーンのコートの端を掴んでおり、それだけなのにとてつもなく可愛く見える。


「……何してるの?」

「いってて……雪だるま作ってんだ。ミドリはどうしたんだ?」

「……探検」


腰を押えて立ち上がった俺とミドリが会話している中、俺達が落とした雪玉に近付きながらリーンが言う。


「いくら記憶喪失でも、ずっと孤児院に籠もってたら退屈でしょ? それに、健康にも悪いしね……レオン、コレ乗っければいいの?」

「う、うむ……しかし、我とリョータの腰を砕いたこのデビルスノーボール相手に貴様一人では……」

「よっと」

「「…………」」


リーンは少々重たい段ボール箱を持ち上げるかの如く気軽さで、デビルスノーボール(笑)を持ち上げると、そのまま下の段の雪玉に綺麗に乗せた。


「取りあえず街の色んな所周って、最後にここに来たの。だからちょっと、一休みさせてくれない?」


コートの胸部分に付いた冷たい雪を。手で叩いて落とすリーン。

その仕草がとても失礼だけど、ドラミングに見えた。


「ご、ゴリラぁ……」

「アンタが私にちょくちょく言うそのごりらってのは何なのよ!? 素直に怒れないじゃない!」


ま、まあ、リーンのおかげで雪だるまは完成したし、素直に感謝しよう。

と、そんな時、腰の痛みに顔を顰めていたレオンが、ミドリに歩み寄った。


「うぐ……それで、貴様が例のエルフか」

「……あなたは?」

「我か……くっくっく」


するとレオンは、不敵な笑みを浮かべるとバサッとマント……ではなく、今回はマフラーを棚引かせた。

あ、いつもの来るか?


「我が名はレオン・ヴァルヴァイア! 魔王軍四天王にして、闇を司り影を操る夜の王である!」


初対面の人間に対しての挨拶を済ませると、レオンはむふーっと満足げな顔をする。

ここ最近他所の人と会ってないからなコイツ。

まあ流石に、いくらミドリでも相手にしないだろう。


「……闇を司り影を操る、夜の王……? つまり、凄く強い人って事?」

「素直に信じたー!?」


相変わらずの無表情だが、リーンの背中に隠れ警戒態勢に入るミドリ。

まあ、ウチの国の出身じゃない上に記憶喪失だからな、そこんところ分からないんだろう。


「う、うむ……そ、そうだな……」

「自分からそう名乗っといて戸惑ってんじゃねえよ」


自分でも適当にあしらわれるだろうと思ってんなら、もうすんなよその名乗り。


「真に受けなくていいわよミドリ。格好付けてそう名乗ってるだけで、レオン自身まったく怖くないから」

「……じゃあ、強くもないの?」

「うぐっ」


記憶喪失だからか子供だからか、悪気の無いその質問が、レオンにダメージを与える。

止めてあげてよ、これでもレオン頑張ってるんだよ。

何て思いながら、俺は腕を組みながらレオンを見つめる。


「うーん……でも一応、夜になったら強いし、ユニークスキル持ってるし、何ならエクストラスキルに覚醒しつつあるし……」


何なら、ルチア単独撃破したことあったしな。


「でもそのユニークスキル、光が無いと使えないじゃない。なのに太陽が出てるときは弱体化するし」


それもそうだ。

そもそもルチアを倒せた最大の要因は、あの場所が屋内で、天井に照明がぶら下がってたからだもんな。


「種族と能力の相性が悪すぎるもんな。まあとにかくコイツは、時間と場所によって強くなったり雑魚になったりする、面白体質なんだよ」

「クッ……これが宿命か……」


俺の言葉に、右手でこめかみを抑えてオーバーなリアクションを取るレオン。

そんなレオンの左手を、ミドリが何も言わずにスッと手に取る。


「な、何だ?」

「……でも、凄いねレオン。それでも魔王軍四天王? なんだから」


出た、必殺天然たらし!

この手を握って見上げながら素直に褒めるという過程が、人の心をキュンとさせる。


「そ、そうか、わら、我は凄いか……!」

「……ねえ、後でレオンの事もっと教えて?」

「そ、それは別にかみゃわんが……」


現に、あのレオンでさえ口が上手く回らなくなっている。

やがて手を離し、再びリーンの元へ戻るミドリの背を見つめながら、レオンが呟く。


「な、何なんだ此奴は……」

「フィアに言いつけようかな」

「なっ!? や、止めろぉ!」


唐突にフィアの名前を出した事によって、更に顔が赤くなるレオン。

ここで『何故彼奴の名前が出るのだ?』ととぼけ顔で言わなくなっただけ、レオンもフィアを気にし始めたのだろう。

よかったね、フィア!


「コラ、またそうやって人の手を取って。レオンだから良かったけど、変な人だったらどうするの」


なんて、遠くのフィアに心の中でサムズアップしていると、リーンがミドリに注意している声が耳に入った。


「でも、この国の人達は皆優しいって、皆が言ってたよ?」

「あー……あの子達はまだ幼いから。それに、この国の人達は基本的に優しいけど、その分変人も多いのよ」


優しい変人って、ある意味おっかないな。

っていうか。


「何、また?」

「うん。この子、何故か分からないけど、道行く人の手を取って挨拶するのよ」

「なにそのフレンドリー対応!? 和服着てるのに欧米人みたいだな……」


ううんもしかしたら、コレがミドリの故郷の挨拶なのかもしれない。

記憶は残ってないけど、習慣がまだ身体に残ってる、的な?


「そんな事より、そろそろ中に入っていいかしら?」

「あ、そうだった。わりーな、変に立ち話させちまって。じゃあ俺らも区切り良いし、一旦休憩しようぜ」

「うむ」


スコップやらバケツやらを雪だるまの脇の、邪魔にならないところに置き、俺達は揃って魔王城に入っていく。


「……ねえ、レオンのユニークスキルって何なの?」

「ああ、我のユニークスキルの名はシャドウ。太陽や照明などの光源によって生まれた影の中に潜んだり、具現化させる事が出来てな……」


俺の少し前で、ミドリに意気揚々とユニークスキルの解説をし始めたレオンに苦笑しながら付いていっていると。


「ねえ、ちょっと」

「うん?」


いつの間にか俺の横に並んで歩いていたリーンが、小さく耳打ちした。


「実は、最後にここに来たのは、アンタに相談したい事があって……」

「相談? ……ミドリのことか?」

「うん」


リーンが俺に相談とは珍しい。

コイツは基本的に、自分の問題は自分で解決出来るからな。

そんなリーンがわざわざ俺に相談しに来てくれるとは……。


「いいよ、全然」

「ありがと」


それから会話は止まり、レオンの自慢話に聞き耳を立てながらも、俺は少しだけ嬉しさを感じていた。

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