第四話 成り行き魔王は今日もくたくただ!⑥
『ゴルアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「何なんだよあのバケモノ……!?」
いまだ大暴れしているドラゴンに、地面に膝を突いた一人の冒険者が絶望に染まった表情で呟く。
その雰囲気が伝染して、他の冒険者達も悔しそうに唇を噛む。
そんな中、俺は後ろで頭を抱えていた。
ヤバい、これはマジでヤバい。
もう全員体力が殆ど残ってない。
なのに何なんだよアイツ、体力どんだけ余ってるんだ!?
どうする!? この状況、どうしたらいい!?
と、俺が必死にこの状況を打破する方法を考えていたその時だった。
「ゴホッ!?」
「ハイデ――ぐへっ!?」
前線でドラゴンに黒い火弾を放っていたハイデルが、ドラゴンの尻尾によるなぎ払いをもろに食らい、俺の方に吹っ飛んできた。
その吹っ飛んできたハイデルを受け止めようと俺は両手を広げたが、その勢いに負け俺も後方に吹っ飛び、地面に頭を強打した。
「いったあ……!」
「リョ、リョータ様……申し訳ありません……」
打った部分を押さえる俺に、ハイデルが胸を押さえ苦しそうな顔をしながら謝ってきた。
「謝らなくていいって! もうお前ら止めろよ、あんなの勝てっこないって!」
ドラゴンの周りには誰も居ない。
冒険者達は全員やられ、その冒険者達を操っていたローズも魔力を使いすぎたのかフラフラだ。
レオンもシャドウを使いすぎたのか、普段から青白い顔が更に生気がなくなっている。
そしてハイデルもリムも、もうろくに魔法を放つことも出来なさそうだ。
俺はハイデルを抱き起こしながらもういいからと叫んでいると、そばで膝を突いていたリムが。
「ど、どうかリョータさんだけでもここから逃げください……!」
は……? 何言い出してるんだこの子……?
「私達は最後までここでドラゴンを食い止めますから……リョータさんは街にいる人を連れて逃げてください……!」
固まっている俺にリムはそう言って立ち上がると、こっちまで歩いてくるドラゴンに向かい合った。
「リョータさん、心配しないでください! 私達は大丈夫ですから!」
そう言うリムは俺に笑顔を見せるが、リムの身体は微かに震えている。
そしていまだに固まっている俺の腕からハイデルがヨロヨロと起き上がると、リムの隣に並んだ。
「ええ、ここは我々に任せてください……! まだ魔力は残っていますから……!」
「そうね、ここで立ち向かわなくっちゃ、四天王の名折れよね」
「フッ、我の真の力を解放するときが来たか……。いいだろう!」
それに続いて、ローズとレオンも同じように俺に背を向ける。
「思えば、リョータ様にはこの一週間、大変な目に遭わせてばかりでした。私がカラスにデーモンアイを盗まれていなければ、ゴブリン討伐の時も、孤児院の子供達の時も、そしてこのような事にも巻き込まれていなかったのに……」
「…………」
気付けば、周りの冒険者もヨロヨロと立ち上がってきている。
「だから、我々が今まで貴方にしてきた償いとして、ここでドラゴンを食い止めます! だからリョータ様は、どうかお逃げください!」
覚悟を決めたような顔をして、そんな事を言ったハイデルに、俺は――。
――コイツら、何で急に感動ドラマしだしたんだと、メッチャ戸惑っていた。
そんないきなり、クッソ重い雰囲気出されても困るんだよ。
大体、何を今更謝ってきてるんだよ?
自分が? カラスにデーモンアイを盗まれていなければ? こんなことにはなってなかったと?
まったくそうだよ、俺は好きでこの世界に転生してきたわけじゃねえのに、ゴブリン討伐の時も、街に出たときも、酷い目に遭わされまくってよ!
それを今謝れても困るんだよ! ふざけんじゃねえ!
まったくもう……!
本当によおぉ――!
「……リョータさん?」
俺は立ち上がると、無言でみんなの前に出た。
そして俺は、腰に着けた剣を鞘から抜く。
「俺がアイツの気を引く。その間、お前らは怪我人後ろに下げて体勢整えといてくれ」
「な、何をしているリョータ!? 早く逃げろと言っているのだ!」
「ダメよリョータちゃん! 死にに行くつもり!?」
そんな俺を見て、レオンとローズが口を開く。
「そうだ、止めるんだリョータ!」
「お前ステータスメッチャ低いんだろ!? あんなバケモノに勝てる訳ねえって!」
それに続いて、周りの冒険者達も俺を止めようとする。
「リョータさん! お願いです、逃げてくださいっ!」
「リョータ様!」
ああ、そうだよなぁ。
雑魚が急に何やってるんだって思うよなぁ。
国民連れて逃げちまう方が、いいに決まってるのになぁ。
でもさ、しょうがねえじゃん。
逃げられねえじゃん。
こんなに騒がしくて楽しい奴ら、見捨てられねえよ。
「だーまらっしゃああああああああああああああああああ!」
振り返らずに、いきなり天に向かって吠えると、後ろで止めろと言っていた奴らが静まり返る。
「さっきから何なんだよお前ら、俺じゃ敵わないって。てめえら人をステータスや見た目で判断してんじゃねえぞ雑魚共が!」
「てめえ、どの口が言ってやがる!」
「お前がこの中で一番雑魚だろうが!」
ヘッと鼻で笑いながら挑発すると、血の気が多い冒険者達が口々に言ってくる。
「うるせー! てめえら誰に向かって物言ってやがる! これ以上口答えするんだったら権力酷使してギルドの資金ストップさせんぞ!」
そう言い捨てると、もうすぐそこまで迫って来ているドラゴンに向き直る。
「はあ!? そんな権力お前にな……い……?」
「リョータ様……? それはつまり……」
あ~あ、何やってるんだろう俺?
大体、本屋の時といい、冒険者をクレーターから助けたときといい、今といい。
俺っていつから自分の命落として他人を助けようとする主人公になったんだ?
主人公ってガラじゃねえのに。
捻くれ者だし面倒くさがりだしスケベだしクズ発言ばっかりするし。
……だけど、今この瞬間ぐらいは主人公みたいに格好付けたい。
チートもない、勝率もない、ただの無駄死にかもしれない。
でも、最後くらい立ち向かわないと。
だって俺は、コイツらの――。
「さあ来いよトカゲ野郎! 俺を誰だと思ってやがる! 俺は――!」
そして俺は、このろくでもない魔界に、このクソみたいな世界に、そしてこの澄み切った大空に轟く大声で――!
「俺はバルファスト魔王国の魔王、ツキシロリョータだああああああああああああああああッッ!」
俺はドラゴンに向かって掛けだした――!




