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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二六話 友人は今日も面倒だ!⑪

アズベルの屋敷は、ハイデルの屋敷と正反対に位置する。

やはりアズベルは領主だからか、地獄にとっての身分が少々上らしく、正直アズベルの屋敷の方が豪勢だ。

勿論、ハイデルの屋敷も十分立派だが、流石にこれと比べると見劣りしてしまう。

一軒家とほぼ同じ高さの、金色の門の向こうに見えるのは、ハイデルの屋敷よりも一回り大きい豪勢な建物。


「……」


門の前に俯きながら立っている俺に、二人の門番が如何にも不審者を見るような目で俺を見る。


「何者だ貴様は? ここは地獄の公爵、アズベル・グラード様のお屋敷であらせられええええええええ!?」

「オイ、門を飛び越えられたぞ!? 侵入者ーッ!」


門番をスルーし、門を跳び箱で言う抱え込み跳びで越える。

向こう側に着地した瞬間、背後からけたたましい笛の音が聞こえた。

それもスルーしそのまま走っていくが、建物までの距離が無駄に長い。

その道中に噴水を初め、離れや馬小屋、更には花園なんて無いのにお嬢様がお紅茶を嗜んでそうな四阿あずまやまで遠くに見える。


「止まれ、侵入者! 大人しく抵抗しなければここで叩き斬る!」


目の前に、屋敷のから出てきた兵士十数人が飛び出してきた。

その中の、恐らくリーダー格である一人が俺に剣先を向けて脅してくるが、俺はそのまま真っ直ぐ駆けていく。


「ッ。仕方が無い、目的を知るため殺しはしないが、手足の一本は覚悟し――なにッ!?」


リーダー格の兵士の剣をサッと躱した俺は、その先で待ち構える兵士の群れに突っ込んだ。


「バカか、この人数の攻撃を避けきれるはずが……ッ!?」

「た、隊長! 我々の攻撃が一つも当たりません!」

「何なのだあの動きは!? 全ての攻撃を紙一重で躱している! まさか奴には全て見えているというのか!?」


そんなやりとりを聞き流しながら、兵士の群れを突破すると、俺は屋敷の扉を蹴破った。

エントランスの階段を駈け上り、迷路のような屋敷の中を進んでいく。

俺は今座標眼を使っているため、向かうべき場所が分かる。

深い緑色の絨毯が敷かれた廊下を、背筋がピンと伸びた使用人が往来している。


「キャア!? な、何者ですか貴方!?」

「ヒイッ、オーガのような形相の男が……!」


メイドさん達がビビって廊下の隅に避けてくれるのがありがたい。

俺は廊下を真っ直ぐ、短距離走をしているかの如く全力疾走しているのだから、ぶつかったら危険だ。

もしこれが学校ならば指導もいいとこだ。

やがて、俺はとある一室のドアの前に辿り着いた。

廊下のずっと奥で、兵士達が追いかけてくるのを横目に、俺は大きく息を吸い込み。


「このホモがああああああああああああああああああああッ!!」


ドアを蹴破ると同時に盛大に怒鳴った。


「「ぎゃあああああああああああああッ!?」」


すると、目の前に戦闘態勢で立っていた二人の男が、同士に悲鳴を上げながら飛び上がった。

その二人の男というのが、ガルードとホーソン。

二人は何故か私服姿で、俺の姿を見るやいなや目を見開いた。


「ままま、魔王様ぁ!?」

「何でここに!? ってか、侵入者ってもしかしなくても魔王様っすよね!?」

「ようお前ら、元気にしてたか? ってか、何でここに居るんだよ? 確か正式にハイデルんとこで働くことになったんだろ?」

「一応アズベル様は元雇い主っすし、最後に辞職届を出しに来たんすけど……」

「ってか、発言と顔が合ってませんよ!? ってかそのバカみたいな威圧感何なんですか!? そんな状態で気さくに話し掛けられると怖いですって!」


怯える二人の肩を軽く叩いた後、そのまま両端にどけ前に出る。

俺の目の前には大きなベッドがあり、その上に奴が鎮座していた。


「やはり魔王だったか」


手元に書類やらを広げているアズベルが、ため息交じりに言う。

俺はその言葉には応えず、目を爛々と光らせながら笑顔で。


「オイこの野郎、まずは俺に何か言う事があるんじゃねえか、ええ?」

「そうだな……元気そうで良かった」

「そりゃどーも、だけどもっと言うべき事があると思うんだよ」

「……俺の見舞いに来てくれて感謝する」

「違ーよバカたれが! テメエが何で魔界を手に入れようとしたのかの理由についてだクソがああああああああああああ!」


相変わらずのこの無表情とすかした態度に、我慢の限界を迎えた俺は、鞘から刀を引き抜こうとする。

が、それをガルードとホーソンに抑え付けられた。


「止めろ、はっなっせ!」

「何やってんすか魔王様!? 取りあえず落ち着いて下さいっす!」

「今度はアンタがいざこざ起こすつもりなんですか!?」


アズベルがその場でジタバタと藻掻く俺を見下ろしていると、遅れてあの兵士達が部屋に流れ込んできた。


「ア、アズベル様、お怪我はありませんか!?」

「この野郎、ぶっ殺してやるから覚悟しろゴラァ!」

「なっ……無礼者が! 今すぐこの男を拘束いたしますので!」

「止めろ。この男は客人だ」

「どこが客人ですか!? 今アズベル様をぶっ殺してやると叫んでいましたよね!?」

「聞き間違えだ。それに、この男は魔界のバルファスト魔王国を治める魔王、ツキシロリョータだ」


その言葉に、兵士達が一斉に動揺しだす。


「魔王ツキシロリョータ……? ハイデル様の主であり、三日前地獄の怒りの討伐に協力したという、あの……」

「こ、これのどこが魔王なんだ……? 確かに、あの時の動きは凄かったが、この威厳も風格も感じられない男が……」

「だが、アズベル様が俺達にそんな嘘をつく必要があるか……?」


相変わらず、俺が魔王だとすぐに信じてくれる奴がいない。


「とにかく、この男は俺を殺しはしないから安心しろ。命令だ、全員元場に戻れ」

「は、はぁ……」


兵士達は納得していなそうな表情のまま、部屋を出て行った。


「お前達も離してやれ。魔王、取りあえず座れ」

「ケッ、落ち着き払ってんのが癇にさわる……」


ガルードとホーソンから解放された俺は、その辺にあった椅子を引っ掴むと、背もたれを前にして座る。

そして背もたれに肘を乗せながら、俺は口元を腕に押し付け曇った声で話を戻した。


「単刀直入に訊くけど、お前ハイデルが好きなの?」

「……そうだ」


するとアズベルは、素直にそう頷いた。

しかしハイデルは、アズベルの好意に全く気付いていなかったようだった。

まあ、男友達にそっちの目で見られてるなんて、普通は誰も気付かない。

だが、ハイデルはアズベルの感性を理解していた。

それで気付かないのは、ただただハイデルが鈍感なだけだったからか、それともアズベルが気持ちを全く表に出さなかったからか。

恐らくどっちもだろう。


「悪いか?」

「悪くはねえよ、恋の形なんざ人それぞれだ」


そう応えたが、俺は大きくため息を付く。


「たださぁ……ハイデルを手に入れたいんだったら、サッサと告れば良かったじゃん! それで万事解決じゃん!」


そう、それだ。

何もマケンの力を利用して魔界を手に入れなくっても、それだけで済むことなのではないだろうか。

しかしアズベルは、静かに首を横に振った。


「しかし、ハイデルは魔王軍四天王だ。仮に気持ちを伝えたとしても、それを理由に確実に振られただろう。だから、俺は魔界を手に入れると同時に、ハイデルを手に入れるしかなかった。せめて、可能性を0から1にでも上げたかった」

「もっと別の理由で振られそうだけど……」


何というか、大袈裟というか、回りくどいというかか。

まるで身勝手でくっそ迷惑なヤンデレと言うべきか。

まあ、例え魔界を手に入れたとしても、俺達は住民に何の危害も加えず、今までの生活を保障しようとしてくれたことだけはいいんだけど。


「ってかさ、ずっと言おうとしてたけど、お前ハイデル好きなのに他の男にもちょっかい掛けようとしてんじゃねーよ! 特に俺とかさぁ! 温泉の時の未だトラウマだわ!」

「……俺はこれでも性欲が強い。恐らくお前よりも。だが、ここには男の風俗店がないんだ。だからたまに我慢できなくなる」

「害悪じゃん、超害悪な変態じゃん! アイヌの金塊争奪戦の囚人と肩並べられるわ!」


無表情のクールイケメンなのに、実はホモで俺より性欲強いとか、どんなヤベー奴だよ!?

ふと後ろを見てみると、目を瞑り現実逃避をしているガルードとホーソンが。

自分の元上司がコレだと改めて知ったからだろう。

俺も、初めて会った時の威厳やらを微塵も感じられなくなってしまった。


「……ちなみに訊くけど、お前らは?」

「いや、俺達は普通っす。彼女もいますし」

「俺も同じく。ここんところ、仕事で全然会えてないですけど」


…………。


「何だよ何だよ、彼女いんのかよ裏切り者が! だったらこんな会話放っておいて、サッサとデート行ってこいや! 今までの彼女ほったらかしにした償いも兼ねて!」

「キレながら男前なこと言わないで下さい! どう受け取ったら良いのか分かんないっす!」

「アンタさっきっから情緒不安定だな……」


俺の反応に引きつった笑いを浮かべる二人に、アズベルが手元の書類を持ち上げながら。


「お前達も行っていいぞ、辞職届は確かに受け取ったからな」

「そうですか、じゃあ俺達はこれで。今までありがとうございました、アズベル様」

「魔王様も、またっす」

「おう」


アズベルに深く頭を下げた二人は、俺に軽く会釈すると部屋から出て行った。

……さて、これで俺とアズベル二人っきりになってしまった訳だが。


「で、アズベル。お前はこれでいいのか?」

「何がだ?」

「ハイデルに自分の気持ち伝えなくってよ、今更だけど。その方がスッキリするんじゃねえの?」


なんて素直に訊いてみると、アズベルはフッと笑う。


「確かにスッキリするだろうが、もういいんだ……それに、ハイデルにはお前が居るからな」

「……お前が言うと、忠誠心とは別の意味に聞こえるんだけど」

「違うのか?」

「違ーだろうがバカ! ハイデルを勝手にホモにすんじゃねえ! てか勝手に俺に好意を向けさせようとしてんじゃねえ!」


ハイデルから聞かされた『魔王は手強いぞ。それに、あの男には魔王の娘が居るのだからな』というアズベルの言葉。

字面だけ見ると、ハイデルが俺の事を好きで、それをアズベルが応援しているように聞こえる。

止めてほしい、ハイデルの忠犬っぷりには慣れてるけど、それをそっち路線に解釈するのはマジで止めてほしい。


「ったく、もういいや。言いたい文句はまだまだあるけど、何か疲れた。帰る……ってか、こっちに来たときヘルズ・ゲートでここに直接転移しようとして、出来なかったんだけど?」

「この屋敷を囲うように転移防止結界が張られているからな。普通王宮や貴族の屋敷には必ず備え付けられているぞ」

「外に出なきゃいけねえのか、めんどっちい」


ウチの魔王城、そんなの無いどころか転移版やらテレポートやらで行き帰りしてるんだけどなぁ……。

俺は立ち上がると、アズベルに背中を向ける。


「……お前、自分のヘルズ・ゲートがどこに繋がってたか聞いたか?」

「……ああ」

「なら、最後にこれだけ言っとくぞ」


そしてドアノブに手を掛けながら。


「いつかアイツらに土下座して詫びろよ。お前は何の罪も無い子供泣かしたんだから」

「ああ……そうだな」

「ふん、じゃあな」


最後に鼻を鳴らした俺は、部屋を後にした。

すれ違う俺を怯えながら見るメイドを横目に、俺は一人考え込む。


さて、最後に残る問題はハイデルだ。

今、ハイデルはあまり表には出さないものの、酷く落ち込んでいる。

自分の選択が正しかったのか、間違っていたのかと。


……アイツは地獄の公爵とは思えない程、脳筋だしドジだし落ち着きが無い。

だけど、自分なりに周りの人間の事を考えて、周りが喜んでくれるような事をしようと頑張っている。

その結果、更にトラブルを招くことになるんだけれど。

それでも、アイツのそういう色んな意味でバカなところに、皆元気を貰っている。

だから、一人悩んで落ち込んでるアイツをほっとけない。


「お騒がせしましたー」

「まったくだ!」


俺はヘルズ・ゲートを目の前に出し、魔界へと戻って行った。

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