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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二六話 友人は今日も面倒だ!①


「『ヘルファイア』……!」


数発ヘルファイアを壁にぶつけ、ようやく破壊することに成功した私達は、


「ハア……ハア……!」

「大丈夫かハイデル、顔色が悪いぞ……」

「大丈夫です……!」


レオンの指摘に、私は額の脂汗を拭いながらそう応えました。

しかし実際、私の体力はもう限界です。

魔力も殆ど残っていません、撃ててもあと二、三発が限界でしょう。

ぼやけた視界の中、私は魔王様とリーン様を探します。

そして土煙の切れ目から、綺麗な金髪が靡いているのが見えました。


「リーン様!」

「バカ者、無闇に駆け出すな!」


レオンの静止を無視し、私は一直線にリーン様の元へと向かいます。

リーン様の前にはアズベルが立っていますが、何もしないどころか一歩後ろに下がりました。

その動きの意図が分からず一瞬動揺しましたが、私は足は止めませんでした。


「う、うぅ……」

「リーン様ッ、ご無事ですか!?」


小刻みに震える腕で身体を支えながら起き上がろうとするリーン様を私は支えます。

リーン様の身体に致命傷になるような傷は見当たりませんが、ダメージは大きいようです。

遅れて来たレオンは、辺りを見渡して呟きました。


「リョータはどこだ……?」

「……ッ」


私の言葉に一瞬、リーン様の呼吸が止まったのが分かりました。


「アズベル……貴方、魔王様を何処に……!?」

『安心しろ、殺しはしていない。魔王は俺のヘルズ・ゲートで魔界に摘まみ出した』

「えっ……」


そんな、魔王様を魔界に……!?

固まる私に、アズベルは淡々と続けます。


『あの男は今の俺にダメージを与えられる力を隠し持っていた。もしこのまま戦えば危険だった』


何ですって?

魔王様が、アズベルにダメージを与えたというのですか?

しかし魔王様は火力の高い魔法を扱えませんし、武器も持っていなかったのに……。


『それにあの男は、お前達の主軸のような存在だ。戦うでも、活躍するでもなく、その場に居るだけでお前達に安心感を与えている。現に、あの男がいないと知った瞬間不安になったんじゃないか?』

「それ、は……ッ」

『ハイデル、俺はお前のおおよその残りの魔力量を把握している。もうヘルズ・ゲートを開けるほど、魔力は残っていないだろう』

「ぐ……」


図星を突かれ、言葉に詰まる私に、アズベルは既に勝敗は決したとばかりに言い放ちました。


『つまり、魔王ツキシロリョータは完全に退場した』


……………………。


『もう諦めろ。お前達にはもう体力も魔力も残っていない』

「…………」

『これ以上の戦いは無駄だ。先程も言ったように、俺はお前達やバルファスト魔王国の民を殺そうとは思っていない』

「………………」

『さあ、降参しろ。そしてハイデ――』

「『ヘルファイア』……!」


話を遮るように放ったヘルファイアは、アズベルの顔面に直撃します。

アズベルは不意を突かれたように瞼を閉じ、首を振りました。


『……何のつもりだ?』


そして、呆れが含まれた声音でそう訊いてきました。

……私も、頭の中では理解しています。

私の残り魔力、主力となるリーン様のダメージ、そして魔王様の退場。

もう、勝てる算段がほんの少しも思い浮かびません。

ですが、私は無意識にヘルファイアを放っていました。


「だから何よ……」

「リーン様……」


ヨロヨロと、リーン様が歯を食いしばりながら立ち上がりました。

その目には、微塵も諦めの色が見えませんでした。


『まだ立ち上がるのか……』

「死ぬまで何度だって立ってやるわよ……」

『何故諦めない。力の差はもう――』

「力の差……? そんなんで諦められる訳ないじゃない……力が及ばないから降参しましたなんて、そんな事言ったら国の皆に顔向け出来ないもん……」


そう、リーン様と同じです。

私も、諦めたくなかったのです。

リーン様と同じく、国を守りたいという気持ちもありますが、それと同じくらいに諦められない理由がありました。

友として、アズベルを止めたい。


「それに、どーせアイツの事だもの。全部俺の責任だって言うに決まってる……」


リーン様はそう呟くと、地面をグッと踏み締め大きく息を吸い込むと、上空に向かって。


「ローズ! リム! まだいけるわよね!?」

「は、はい! でもローズさんが……」

「大丈夫よリムちゃん……! 死んでもリムちゃんを守ってみせるから……!」

「じょ、冗談ですよね!? 死なないでくださいね!?」


ローズも限界のはずなのに、そう言って笑って見せます。

それに対しリムがアワアワと首を振りますが、多分本音だと思います。


「レオンもいけますか?」

「フッ、そろそろ日も傾き始める頃だ……寧ろここからが我の真骨頂……!」


私の隣に立つレオンも、そう不敵に笑ってみせました。


大丈夫ですよ、魔王様。

魔王様がいなくても、私達は絶対に負けませんから。


『本当に……諦めが悪い……』


そう言い掛け、アズベルは尻尾の先端を地面に突き刺しました。






「――ぐううがぁああ……!!」


マズい、意識が飛ぶ……!

あの野郎、何が殺したくないだよ、踏み潰されるかと思ったわ!

畜生、痛みで視界がぼやけて周りが見えねえ……!

これじゃここがどこかも分からない……!

だけど、何か甘い匂いがするような……?

何だコレ、パンケーキ……?


「オイ……にー……!」


だ、誰か居る……!?

まさかここ、どっかの民家か……!?

時間帯と言い、おやつの時間だったのかもしれない。

申し訳ないけど、それを謝ってる場合じゃない……!


「俺から……離……れ……!」


何とか力を振り絞り、俺はその誰かにそう伝える。

もう黒雷を抑え込むのは不可能だ……!

多分この家どころか、ここら一帯を吹き飛ばしてしまうかもしれない。

弁償するなら自腹切っていくらだって払ってやる。

でも、人の命は絶対に戻らない。

だからせめて、この人達だけは……!!


「俺に、構わないで……速く逃げろ、遠くに……!」


クッソ、耐えろ、耐えろ、出来るだけ長く……!

……ッ!?

何だ、誰か俺の側に寄ってきた!?

何でだよ、普通逃げるだろ!?

まさか好奇心旺盛なガキンチョなのか!?

バカッ、速く逃げ――!


「しっかりしろ、にーちゃん!」

「アダァッ!?」


突然、後頭部に走る衝撃。

その瞬間、視界がハッキリとした。

俺はガバッと起き上がり、頭をぶっ叩いたであろう張本人を睨んだ。


「テメー、いきなり何するんだって……カ、カカカ、カインッ!? 何でお前がこんなこんな所に!?」

「こんな所って何だ! そっちこそいきなり降ってきて、人が作ったパンケーキ台無しにしやがって!」

「うえええええええええん!」

「見ろ! コイツら泣いてんじゃねーか!」


周りを見てみると、そこには怯えた様子で俺を見ている孤児院の子供達が。

ってことはつまり……。


「ここ、もしかしなくても孤児院か!?」


そうだ、この見慣れた光景、孤児院の大部屋だ。

そりゃこんな所扱いしたら怒るわな。

さっきまで頭がバグっていた。

ってかアレ……?

何か、黒雷が引っ込んでる……?

いや、引っ込んでるっていうかぶたれた瞬間、力がパッと消えた感じだ。

それにさっきまでの息苦しさもない。

右手は正直まだメッチャ痛いままだが……。

もしかして、俺自身に強い衝撃を与えれば暴走が止まったりするのか?

何だよその一昔前の家電みたいなシステム……。


「ってか、今気付いたけどスゲえ怪我じゃねえか! オイ、誰か救急箱持ってこい!」


カインの指示を受け大部屋を出て行く年長組数人を見送ると、周りの子供達が恐る恐る近寄ってきた。


「大丈夫、まおー様……?」

「怪我痛くない……?」

「顔真っ青だよ……?」


中には、目の端に涙を溜めたまま俺の頭をワシャワシャ撫で回す奴も居る。

ジンワリと胸の中が温かくなる。

だが、すぐに背中をつららで突き刺されたような感覚に襲われた。


「…………ッ」


パニックになりそうな自分を必死で抑え込んだ。


「ありがとう、俺はもう大丈夫……。それよりも、皆ここから早く逃げてくれ……」

「逃げるって、どういうこったよ? さっきの変なの、もう出てないじゃねえか……」


マズいな、声が震えてる。


「その、何て説明したらいいのかな……リーンと俺達が、地獄って所に行ってたの知ってるだろ……? そこのアズベルって奴が、魔界を手に入れるって言って、バカデカいモンスター身体を乗っ取って暴れてて……」

「い、いきなり何だよ、そんな事急に言われても分かんねえよ……」

「だから、そのアズベルって奴がこの孤児院に来るんだよ……! このままじゃ、お前ら全員踏み潰されて、最悪死んじまうッ!」


俺がパニックになったら子供達が怖がる。

そんな事分かっているのに、俺はカインの肩を掴み半泣きでそう訴えた。


「もしかして、さっきの犬の足か……?」

「俺、さっきまでソイツと戦ってたんだけど、ここに放り出されちまって……向こうで、リーン達がまだ戦ってると思うけど、多分勝てないと思う……アズベルがここに来るのも時間の問題だ……!」

「ねーちゃんが負けるって……」


いきなりそんな事を言われても、誰も理解出来ないだろう。

でも、自分達が危険な状況にあるということは伝わっているようだ。

その証拠に、俺の頭を撫でていた女の子が、泣きそうな顔で。


「ここ、壊されちゃうの……?」

「……ッ!」


この孤児院は、この子達の第二の家なんだ。

先に親に死なれ置いて行かれた子供達が、今まで笑顔で暮らせた思い出の場所なんだ。

それにここはリーンの家でもあるんだ。

それに……それに……。


「ゴメン、俺、もう出来る事が無い……! 守れなかった、何も出来なかった……! ゴメン……ッ!!」


俺はついこの前、この場所で、リーンの腕の中で誓った。

コイツらが、リーンが安心して暮らせるように頑張ろうと。

だけど何だよこのざまは。


その場で膝をついて、嗚咽交じりに何度も謝る俺。

周りの子供達は、俺の事をどんな目で見ているのだろうか。

顔を上げるのが、怖い。


「いっ……!?」


ピシッと、俺の前頭部に強めのデコピンを喰らった。

俺は頭を抑え、恐る恐る顔を上げる。

そこには、イライラしたような、呆れたような、そんな表情のカインが立っていた。


「らしくねえな、にーちゃん」


カインが、ため息交じりに言ってきた。


「俺がフォルガント王国に行って、あのアダマス教団のおっさんに捕まった時、にーちゃんはもっと余裕そうだったのによ」

「何言ってんだよ……あの時と今とじゃ、状況が全然違うんだぞ……?」

「そうかぁ? 俺は違わないと思うね。あの時、実は絶対に助からないって思ってた。でも、にーちゃんは何とかしてくれた。明らかに自分よりも強い奴らにも勝っちまった。だから今回も、にーちゃんなら何とかしちまうと思うぜ、俺は」


カインは腕を組み、フンスと鼻を鳴らしてそう言い放った。

その目には、俺に対する失望も落胆も見えなかった。


「ありがとう、カイン……でも、もう……!」

「俺が憧れた男は! どんなピンチでもふざけて、笑って、調子に乗って、最後には何とかしちまうスゲー奴だ!」


…………。


「だからよ、また俺にスゲーところ見せてくれよ、魔王様」


……そんな事を言われたって、本当に今の俺に出来る事がないんだ。

せめて、コイツらをこの場から逃がして守ることしか、出来ないんだ。

分かってるんだよ、そんな事。


「俺……俺……!」


でも……諦めたくないんだ。

ここは俺にとっても大事な場所だから。

始めて魔王になって良かったって思えた場所だから。

だから、何も出来ないクセに、心の底から思ってしまうんだ。


「この場所を、守りだい……ッ!!」


そう、みっともない顔で言った瞬間、カインの背後に黒いモヤが出現した。


「ヤバッ!?」


俺は咄嗟にカインを庇い、その黒いモヤを睨みつける。

しかし一秒、十秒経ってもそこからアズベルが来る気配を感じなかった。


「あ……れ……?」

「何も、来ねえじゃん……」


以前として、その黒いモヤから人の気配を感じない。

それどころか、嫌な気配すらも感じない。

それに……。


「…………」


俺はゆっくりと、黒いモヤに近付いていく。

何故か分からない、どうしてか理解出来ない。

だけど俺の身体に、普段魔法を使うときと同じが感覚する。

まるで今この瞬間、俺が何らかの魔法を使っているみたいだ。

まさか……コレって……。


「俺が出してるのか……? コレを……」

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