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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二五話 封印の期限は今日もギリギリだ!⑪

魔王様達と別れた私達三人は、アズベルの後を追っていました。

アズベルが身体を支配しているマケンは言わずもがな、犬型モンスターです。

犬型モンスターの特徴の一つは、その俊敏な身のこなし。

そしてこのマケンも例外ではないようで、その巨体でも俊敏さは他の犬型モンスターよりも明らかに上です。

そんな彼に、私達は到底追いつけません。


「待ちなさーいッ!」


リーン様一人を除いて。

リーン様はその身体能力を生かし、岩などの障害物を難なく飛び越え、アズベルと同等の速さで追いかけていきます。

一方私とリムは、魔力はありますが身体能力も体力も少ないので、前の二人とはだいぶ距離が空いてしまっています。


「ハア……ハア……エ、『エレクト・ショット』ッ!」


私の後方から息を切らして走っているリムが、アズベルに両手を翳し魔法を放ちます。

それぞれの掌から放たれた二つのエレクト・ショットは、真っ直ぐアズベルに飛んでいきます。

しかし、アズベルはこちらを一瞥しただけで回避もせず、そのまま二つのエレクト・ショットを受けました。

しかし、少々毛皮を焦げ付かせただけで、ダメージはないようです。


「あ、足止めにもならない……! あぅ……」


リムは悔しそうに呟くと、そのままよろけてしまいました。

私は立ち止まり、リムの身体を支えます。


「リム、あまり無理をなさらずに!」

「ハア……ハア……」


リムの顔が少し赤くなっています。

元々ここで生まれ育ちこの気温に慣れている私ならまだしも、リムは人間、しかも子供です。

リムが、こんな気温が高い場所を走って大丈夫な訳がありません。

このままでは熱中症になってしまうでしょう。


「うっ、く……!」


リムは悔しそうな顔をしながらも、まだ歩き出そうとします。

私はそんなリムをおぶると、再び走り出しました。


「ハイデルさん……ゴメンナサイ、さっきから足手纏いになっちゃって」

「何を言っているのですか、そんなことはありませんよ。寧ろ……」


寧ろ、私が一番の足手纏いです。

私がヘルファイアを放ったせいで、ヘルズ・コアが完成してしまいました。

アズベルにあんな啖呵を切っておきながら、結局一番何もしていません。

それに、こんな事になる前に、私が事前に防げた可能性もあったはずです。

何が地獄の公爵、ハイデル・アルドレンですか。


自分に対する情けなさと無力感が、私を包み込みます。

その感覚に、ふと懐かしさを覚えます。

子供の頃、アズベルの才能に嫉妬した時、同じような情けなさと無力感に包み込まれたのです。

ですが、あの時は案外早く立ち直ることが出来ました。


「…………」


しかし、その経緯が思い出せません。

私は何故、立ち直れたのでしょうか……?

……いいや、そんな事を思い出している場合じゃありません。

私はリムを背負い直すと、走るスピードを上げました。


やっとの事で二人に追いつくと、二人はお互いに睨み合い身構えていました。

アズベルはリーン様から逃げ切れないと判断したのでしょう。


「鬼ごっこはお終いよ、アズベル」

『……そうだな、このまま逃げ続けても時間の無駄だ』


アズベルはコクリと頷くと、尻尾の先端を地面に突き刺します。


『あまり慣れていないから加減が出来ない。下手をすれば死ぬかもしれないぞ』


まるで確認を取るかのようにそう忠告すると、リーン様の足下の地面が揺れ出しました。


「ッ!?」


その瞬間、リーン様は真上に高く飛びました。

まるで何かを直感したように、目を見開いています。

刹那、リーン様が立っていた地面から、まるで巨大な剣のような大岩が突き出しました。

もしあの大岩の剣がリーン様に直撃していたと思うとゾッとします。

しかしアズベルは回避されるのを見越していたのでしょう、素早く尻尾の先端を地面から引き抜き、そのまま横薙ぎを振るうかのようにリーン様に斬りかかりました。


「くぅッ……!!」

「「リーンさんッ!」」


空中に居てはリーン様でもまともに回避は出来ません。

リーン様は身体を捻りましたが、尻尾の先端が当たった瞬間、ガキンッという鈍い音を立てました。

巨大な岩の壁をも細切れにするその尻尾が直撃しては、流石のリーン様でもただではすみません。

そしてリーン様はそのまま地面に落ちていき……!

……ん? ガキンッ?


「っと。あっぶなかった……」


地面に落ちる瞬間身体を捻り綺麗に着地したリーン様は、頬に一筋の汗を流して呟きました。

リーン様の手には、刃がボロボロに砕け散った包丁の柄が握られていました。


「それ、お兄ちゃんが持ってた……」

「アイツがホーソンを助けた時、落としっぱなしだったのよ。拾っておいてよかった……」


リーン様はふうとため息をつくと、包丁の柄を地面に置きました。


「ゴメンねハイデル、後で弁償するから」

「い、いえいえ! それよりもお怪我は……!」

「平気よ、ちょっと腕が痺れてるけど」


そう言うリーン様の腕は、確かに小刻みに震えています。


『ただの包丁一本でこの攻撃を受け流し、衝撃を弱めたのか。身体能力もそうだが、凄まじい技術だな……』


アズベルはリーン様の動きに感心し、同時に一層警戒を強めました。

しかし、アズベルはチラと私を一瞥しました。

いや、見ていたのは私ではなく、私がおぶっているリムのようです。


『そこの……リムと言ったか?』

「……ッ! な、なんですか……?」


突然名前を呼ばれて、リムが動揺しているのが背中で感じられます。


『もう俺達は戦いを避けられない、周りの被害は相当なものになるだろう。だから今のうちに山を下りろ。俺は子供まで殺したくない』


アズベルのその言葉に、リムの呼吸が一瞬止まりました。

怯えているのでしょうか……? 

やはり、アズベルの言う通りリムを離れさせて……。


「……リム?」


リムは無言で私の背中から降りると、私の横に立ちました。

その目には、怒りの色が見えました。


「子供だから戦わないなんて、そんなの嫌です。私だって、あなたみたいな人なんかに故郷を奪われたくないですから」

『……そうか、仕方が無い』


アズベルは残念そうに顔を伏せると、同時に尻尾の先端を地面に突き刺します。


『遠距離魔法は目障りだからな、まずはお前達から片付けさせて貰う』

「……ッ!?」

「リム、下がって下さい! 『ヘルファイア』ッ!」


私はリムの前に立ち、すかさずヘルファイアを放ちました。

しかし私のヘルファイアは前足で揉み消されてしまいました。


「クッ……! やはり効かなうわあッ!?」

「キャアァ!?」

「二人ともッ!」


私達の足下の地面が隆起し、バランスを崩してしまいます。

その瞬間、四方から大岩の柱が突き出し、私とリムに迫って来ました。

先程の大岩の刃じゃない事から、本気で殺そうとはしていないようですが、喰らってしまったらひとたまりもありません。


「『ヘルファイア』ッ!」

「『ファイア・ボール』ッ!」


私達はそれぞれ前方後方の柱を破壊しようと魔法を放ちます。

四つの柱の内三本は破壊できましたが、残りの一本が目前まで迫って来ました。

ま、間に合わない……! せめて、リムだけでも……!

そう、私がリムを庇うように前に立った瞬間でした。


『グアッ……!?』


アズベルの呻き声が聞こえたのと同時に、柱が私の目の前で止まりました。

何事かとアズベルを見ると、その首元に何か長い棒が突き刺さっていました。

よく見ると、それはガルードの槍でした。

そして遠くから、聞き慣れた怒声が。


「おんどりゃあッ! 俺の仲間に何しようとしてんだクソ犬が! ぶっ殺すぞゴラアッ!」

「ま、魔王様!」


見ると、遠くから魔王様が双眸を紅と紫に輝かせて走ってきていました。

恐らくあの槍は、魔王様が投擲スキルで投げた物なのでしょう。

ということはつまり……。


『……ガルードとホーソンを倒したのか』


アズベルが意外そうに呟き、槍を前足ではたき落とします。


「『ハイ・ジャンプ』ッ!」


魔王様はアズベルに向かって真っ直ぐ跳躍します。

その手には、刀身が砕けたホーソンの剣が握られています。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおブフォアッ!?」


しかし魔王様の目の前に突如として岩の壁が盛り上がり、魔王様は顔面から勢い良く激突してしまいました。


「ま、魔王様ーッ!?」

「何やってんのあのバカ……!」


魔王様は鼻血を撒き散らしながら落下し、そのまま尻餅をつきました。


「いってって……!」

『先程あの二人との戦闘を少し見ていたが、やはり身体能力や純粋な力は劣るな』

「ケッ、俺の一番気にしてる所言いやがって……」


魔王様はヨロヨロと立ち上がりますが、アズベルは一瞥だけして私に視線を移しました。


『さて、次は当てるぞ……何?』

「えっ?」


アズベルは私のすぐ横を見て固まりました。

その視線の方向にはリムが居るはずですが、そこにはリムの姿はどこにもありませんでした。


「リ、リム、どこです……ッ!?」


私が慌てて辺りを見渡した瞬間、地面に立っている感覚が消えました。

そして私の身体は垂直に落下し、目の前が真っ暗になります。


『こ、これは……!』

『ハイデルよ、貴様にしてはいい度胸だったではないか』


首の後ろを引っ張られる感覚と共に、レオンの声が聞こえました。

やがて目の前が明るくなると、私はレオンと共にアズベルの左手側に立っていました。


「レオン! いつからそこに!?」

「ああ。リョータが彼奴の気を引いてくれたおかげで、我らはバレずに近づけた」

「我ら……ということは!」


レオンは頷くと、視線を上に向けます。

そこには、リムを抱きかかえているローズが浮かんでいました。


「ロ、ローズさん、大丈夫ですか……?」

「だい、じょうぶよ……! リムちゃんは小さいし軽いから……!」

「絶対無理してますよね!?」


心配するリムに、ローズは口元をヒクつかせて笑っていました。


「遅れて悪い」

「そう? アンタにしては早かったんじゃない?」

「修行の成果かな? ありがとよ師匠」


鼻の下を拭いながら、魔王様はヘッと笑い飛ばし、アズベルを見据えます。


「さてと、これで五対一だ」

『またしてやられたな。お前の行動の全てに裏があるとしか思えない』


あまり感情を表に出さないアズベルですが、今回ばかりは忌々しそうに魔王様を睨みます。

そんなアズベルに、魔王様はニヤリと笑って見せました。


……ああ、やはり魔王様は凄い御方です。

先程アズベルが言っていましたが、確かに魔王様は純粋な身体能力はあまりありません。

ですがこの御方なら、どんな危機的状況でも、必ず何とかしてくれる。

根拠も何も無いはずなのに、不思議とそのような安心感があります。


『…………成程な』

「……?」


アズベルは魔王様をジッと見つめ、やがてポツリとそう呟きました。

それに対し魔王様は訝しげな顔をしました。


『さて、こうなっては仕方が無い。この身体もようやく慣れてきた頃だ。そろそろ本気で、お前達を倒すとしよう』


その言葉に、私達は全員身構えました。

先程の攻撃が、本気ではなかった。

私はその事実に冷や汗を垂らします。


『グルオオオオオオオオオオオオオ……!』


アズベルの声ではない、マケンの野太い唸り声が空気を揺らします。


「ッ!? ヤバイ、コレ、もしかしなくても必殺技!?」


魔王様は辺りの地面とアズベルを交互に見て、顔を引きつらせます。

魔王様にしか見えない、何かがあるのでしょうか。

やがて、マケンの口から赤い光が漏れ出しました。


「お前ら下がれ! 何か凄く嫌な予感がする!!」


魔王様がそう叫んだ瞬間。


『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


鼓膜が破けそうな程の大音声と共に、マケンの口から赤い光線が放たれました。

光線が当たった地面は轟音と共に爆発し弾け飛びます。

その光線は、地脈に流れる魔力をそのまま凝縮したような凄まじさでした。

アズベルは光線を放ったまま首を横に振ります。

すると光線も横に動き出し、こちらに迫って来ました。


「ハイデル、掴まれッ!」

「ッ!」


私がその手を掴むと、レオンはそのまま影の中へ飛び込みました。

それに続き、私も影の中に飛び込みます。

次の瞬間、私達の入っている影の中が一瞬白くなり。


「えっ!?」

「な、何ぃッ!?」


私達は、いつの間にか外へ弾き出されていました。

視界の中は爆発で舞った黒い土煙で覆われています。


「地面もろとも噴き飛ばされたのか!?」


驚愕するレオンと共に、私達はそのまま地面に落下します。


「いだっ……! だ、大丈夫ですかレオン……!?」

「あ、ああ……いてっ!?」


しかし小さな岩の粒が舞い散り、それらが私達に直撃してきます。

それに視界が悪く、辺りの様子が見えません。

私達は腕で顔を守りながら立ち上がります。


「アズベルめ、こんな奥の手を隠し持っていたとは……我々が入っていた影の少し上を掠めていたようだが、もしあの光線が直撃していたら、影もろとも消し飛んでいたぞ……!」


やがて視界が晴れ、私達の目の前に巨大な影が現れました。


『やはりそのヴァンパイアのユニークスキルで回避したか、流石だな』

「フンッ、織り込み済みだったというのか」


アズベルのその言葉に、レオンは胸くそ悪そうに鼻を鳴らしました。

そして、アズベルは横に視線を向けると。


『まあいい。そもそも、俺の狙いはお前達じゃない』

「何ですって……?」


その仕草に嫌な予感を覚え、アズベルの視線の先に目を向けました。

アズベルの視線の先には、光線で出来た巨大な溝があり、依然土煙が揺らいでいました。

そしてその向こう側に……。


「あっ……」


私は目を疑いました。

土煙の奥の地面で、二つの影が倒れているのが見えました。

……そうです、きっと何かの見間違いですよ……。

まさか、まさかそんなはずが……。

そう信じていたのも束の間、その土煙は風に吹かれ消えてしまいました。

そして、私の視界に、地面に倒れる二人の姿が飛び込んで来たのです。


「魔王様ッ、リーン様ッ!?」

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