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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二五話 封印の期限は今日もギリギリだ!③


「ゼエ……ゼエ……! ま、待て……! 一旦止まれ、ハイデル……!」


私の後ろを息を切らしながら付いてきていたレオンが、その場で立ち止まってしまいました。

私は振り返ると、声を張って呼び掛けました。


「レオーン、もう少し頑張ってくださいよー!」

「し、仕方ないであろう……今は憎き太陽が登りし昼、体力が通常の二分の一なのだ……! それにこんな急斜面を登っていて、逆にまだ元気な貴様がおかしいのだ……!」


レオンの情けない声を聞き、私はやれやれと肩を竦めました。

……私達は今、魔王様の命令を受けてこのヴァルナ火山の調査に来ております。

ここ最近、地獄で起きている謎の地震を魔王様自らが調べたいとご所望になりました。

ああ、何て偉大なのでしょうか、我が主は……!

我々は三ペアに別れて調査をすることになり、私とレオンは噴火の可能性が高いこのヴァルナ火山に訪れたのですが……。

この通り、レオンがすぐにバテてしまい、一向に前に進むことが出来ません。


「まったく……このペースでは、調査をする前に集合時間になってしまいますよ?」


私がそう言いながら道を引き返し、レオンの元へ向かうと人差し指を立てて説明します。


「いいですか? 魔王様は、我々に火山の調査をして欲しいと仰いました。ならば、我々はその魔王様の期待に応えなくてはならないのです」

「クッ、このリョータの忠犬め……!」

「褒め言葉です!」

「ええ……」


レオンが何故かドン引きしていますが、どうしてなのか分かりません。


「それに、いくらアズベルにこの領土を任せていると言っても、私も地獄の公爵。住人の不安を取り除かなくてはならないのです」

「うむ……それに関しては我も同じだが……ええい、分かった! 歩けば良いのだろう!」


ゴニョゴニョと呟いていたレオンでしたが、やがてヤケクソ気味にずんずんと歩き出しました。

やはりレオンも魔王様と同じで、根っこの部分は優しいのですね。

その優しさに嬉しくなり、つい口元を綻ばせながら、私はレオンの後に付いていきます。


「しかしハイデルよ、火山の調査と言っても、我々は何をすれば良いのだ?」

「火山噴火の前触れは地震だけではないそうです。黒い煙が多く出ていたり、泥水が噴き出していたり。それらを調べましょう」

「ほう、博識だな」

「フッフッフッ……そんなそんな!」

「……」


何故か顔を顰めたレオンに内心首を傾げながら、私達は奥へと進んでいきます。

やがて、硫黄の臭いが濃くなり、視界が少し悪くなってきました。


「うう~ん……見たところ、それらしき物は見当たりませんね」


私達の周りには、漆黒の溶岩がゴロゴロと転がっているだけ。

私達が時間内に調べられる場所は調べ尽くしましたが、火山噴火の前触れとなりそうな証拠は見当たりませんでした。


「火口から噴き出る煙も白いな……本当にこの火山は噴火するのか?」

「あくまで可能性ですからね。集合時間も迫って来ていますし、ここまでにしましょう。とりあえず、私達の調査の結果は、火山噴火の前触れは見つからなかったということで」

「うむ」


懐中時計で時刻を確認し、私達は元来た道を引き返しました。

その時、後ろのレオンが何とも言えない表情で。


「しかし、噴火の危険性が無かったのは良かったのだが……何だか無駄足だったような気がするな」

「そうですか? 謎の地震と火山噴火の前触の繋がりに気付いたのは、我々が始めてでは……」


と、顎に手をやりながら呟いた私に、レオンはポツリと。


「……今更だが、その考え方は案外普通だな」


…………。


「オイ、何故急に立ち止まるのだ」


……レオンが近付いてくるのが足音で分かります。


「そういえば、ここの役人も地震の調査をしているらしいではないか。その関連性に気付かない程、その役人もマヌケではないであろうな」


そうでした。

地震の調査チームのリーダーは、役人の中でもかなり優秀な方でした。

そのような方が、そんな大きな穴を見逃すわけがありません。


「そもそもリョータは、我々に火山の調査をして欲しいと言ったのだ。わざわざこの火山に出向けとは言っていない」


そうでした。

魔王様は決して火山に出向けとは言っていませんでした。

ですが私は解散後すぐに屋敷を飛び出し、この火山に向かいました。


「……」

「オイ、我の目を見ろ! ここはもう既に役人が調べ上げた後だったのではないか!?」

「……その可能性はありましたね」

「だああああああああああああぁぁッ! このポンコツめ、少しはやるではないかと感心したのに!」


後ろから肩を掴んで激しく振ってくるレオンに、私は思わず振り返ります。


「な、何ですか! レオンだってさっきこの事に気付いたばかりじゃないですか! お相子ですよ!」

「そ、それはまあ否定出来んが……だが貴様は地獄の公爵だろうが! 役人の行動ぐらい把握しておけ!」

「この領土に関する事の殆どはアズベルに任せていますので!」

「そうだったなッ!」


と、火山のど真ん中で言い争いを始めてしまった私達。

ですが、それはすぐに収まりました。

いや、収まらなくてはいけなかったのです。


『ブヒイイイァァァァッ!』


突然煙の奥から轟いた咆哮に、私達は固まりました。

そしてすぐに声の方に向き直り、戦闘態勢を取ります。


「地獄にも、モンスターは居るのだな……」

「勿論。しかも向こうの世界よりも手強いモンスターが多く……」

「それを早く言え!」


とその時、煙の奥からそのモンスターが姿を現しました。

そのモンスターを見て、レオンがギョッと目を見開きます。


「ぶ、豚だと!?」


私達の前に現れたのは一匹の豚でした。

しかし、豚と言ってもその大きさは小屋一つに相当するほどの巨体。

口には鋭い牙がずらりと並び、その隙間からヨダレが音を立てて落ちています。

そして……。


「しかも何故燃えている!?」


その豚は、全身が赤い炎に包まれているのです。


「このモンスターはフレイムポークですね……身体に纏った炎とその体躯から繰り出される突進が強力な、大変危険なモンスターです。そして、地獄では貴重な食肉として人気のモンスターです」

「や、焼きの調理の過程を省けそうなモンスターだな」

「ええ、実際にそのまま食べられますよ」

「そうなのか」


そんな、地獄の住人の好物であるフレイムポークは、ギロリと私達を睨んできます。

フレイムポークは肉食、肉なら何でも食します。

それは勿論、悪魔やヴァンパイアも含まれる訳で……。

今この状況、逆に私達がフレイムポークの好物になっているのです!


「オイ、ハイデル何とかしろ。情けないが今の我は戦力外だ。今攻撃手段を持っているのは貴様しかいない」


ジリジリと後退りながら、そう呟くレオン。

昔は昼でも関わらず敵に突っ込んで行ったレオンですが……成長しましたね。

私はその成長を少しだけ嬉しくなりながらも、苦笑いを浮かべました。


「申し訳ありません、フレイムポークは炎系魔法がまったく効かないのです。寧ろ、炎系魔法を吸収し、更に凶暴になってしまい……」

「……つまり勝機は?」

「絶望的です」


その言葉を聞き、レオンは真顔で更に後退ります。


「……オイ、この豚ずっと我らを見ているのだが? そして凄く涎を垂らしているのだが?」

「どうやら完全に狙いを定めてしまったようですね……」


私も当然真顔で後退ります。

そして、私とレオンは顔を見合わせると。


「もう、この場合この手しかあるまいな」

「ええ、助かるためにはそう――」

『ブヒイイイイイイイイァァァァッ!』

「「全力で逃げるッ!!」」


足下が非常に悪いですが、転ぶ可能性など考えません。

転んでも食べられ、スピードを緩めても食べられるのなら、私達は全力疾走を選びます。

急斜面を猛スピードで下る私達を、フレイムポークが追いかけて来ます。


「レ、レオン! 影を!! 影を探してくださいいいいいいいいいッ!」

「ぬおおおおおおおおおおお!? クッ、この煙のせいで影が見当たらん!」

『ブヒャアアアアアァァッ!」

「「あああああああああああああああああああああああッ!?」」


レオンのシャドウでやり過ごす事も出来ず、私達はただただひたすら走り続けます。

しかし、私の隣を同じ速度で走っていたレオンが、徐々に後方に下がっていきました。


「だ、ダメだ、もう体力が……!」

「レオン頑張って下さい! 煙が少なくなってきました!」


クッ……このままではレオンが美味しく食べられてしまいます!

しかし私に攻撃手段はヘルファイアしかありません。

ああ、どうしたら! どうしたらいいのですか!?

と、私がせめてとレオンに手を伸ばしたその時でした。


『ブヒイッ!?』

「「えっ?」」


フレイムポークの短い悲鳴のようなものが聞こえ、私達は振り返りました。

そこには、フレイムポークの姿はありませんでした。

一瞬何が起きたのか理解出来ませんでしたが、私達の頭上が急に暗くなり、上を見上げた事で察しました。

フレイムポークが躓き、高く飛び上がってしまい、今私達は下敷きにされる瞬間なのだと。


「ま……」


まるで空中に停止していたように見えたフレイムポークですが、そんなのは一瞬で、私達の頭上に落ちてきました。


「魔王様あああああああああああああああああああああああッ!?」

「『シャドウ』――!」


間一髪!

レオンがフレイムポークの影に潜ったのと同時に、私を引きずり込んでくれたのです。

私の頭が影の中に入った瞬間、その巨体が地面に落ち激しい音が鳴り響きました。


『た、助かりましたレオン!』

『どどど、どうってことないわああああああああああああああああああッ!?』


しかし、まだ私達は一安心することが出来ませんでした。

盛大に転けたフレイムポークは、急斜面を転がり始めてしまったのです。

そのフレイムポークの影の中は、まるで渦の中に居るように全体が回転しています。


『『ああああああああああああああ~~~~~ッ!?』』


うぐう……だ、ダメです……!

馬車でさえ酔ってしまうというのに、この回転はキツい……!


『うっぷ……!』

『吐くのか貴様!? 止めろ、我に掛かるだろうが! 抑えろ!!』


口元を両手で塞ぎ、込み上げてきた胃の中の物を吐き出さないように必死に堪えます。


『ブギャッ――ァ……』


やがてフレイムポークの身体は何かに激突したのか、ドゴンッ! という音と共に断末魔が聞こえました。

回転が止まり、やっと影から抜け出すことが出来た私は……。


「オエェェエエロロロロロ……」


すぐ側にあった岩陰に胃の中の物を出しました。


「ハァ……ハァ……き、貴様は本当に酔いやすいな……!」

「も、もうじわげありばぜん……」

「し、死ぬかと思った……クソ、何故我がこんな目に!」


と、地面に手足を投げ出し息を切らしながら天に叫ぶレオン。

その側には、身体を覆っていた炎が消えたフレイムポークが転がっています。

身体の炎が消えるのはフレイムポークの絶命を意味します。

全てを吐き出し少しスッキリした私は、レオンの元に駆け寄ろうと……。


「ん? 何でしょう、ここは……」


改めて辺りを見回してみると、ここは不思議な空間でした。

巨大な溶岩の壁に囲まれており、どうやらここは巨大なクレーターの中のようです。

そして、その壁には大きな横穴が空いていました。


「マズいですね……」


私はグルリと辺りを見渡しながら、冷や汗を垂らしました。

この高さ、到底自力では上ることは出来ません。

ここから一体どうやって脱出すればよいのでしょうか……?

と、思っていたのですが。


「オイハイデル、ここに階段があるぞ」

「何ですって?」


起き上がったレオンが指を差す方向に視線を向けてみると、確かに人の手によって作られた階段がありました。


「本当ですね……」


取りあえず地上に出れることに安堵しつつ、私は顎に手を当てました。

しかし何故こんな場所に階段を?

ここにわざわざ階段を作るほど、頻繁に来る理由が……。


「レオン、やはり……」

「かもしれんな」


レオンも私と同じ考えに至ったようで、その横穴を見つめています。

何でしょうか、この横穴からただならぬ気配と言いますか、嫌な感じがします。

不幸中の小幸いと言いますか、先程フレイムポークから全力で逃げたおかげで、だいぶ時間を短縮することが出来ました。

この横穴を調べる時間があるという事です。


「……行ってみます?」

「う、うむ……」


私達は頷き合うと、その横穴に入っていきました。


「取りあえず食糧確保だ」

「ええ」


その前に、フレイムポークから身を拝借して。





――この横穴は随分と深いようで、足音が反響しています。

私は掌にヘルファイアを灯し、フレイムポークの身を食べながら先頭を進んでいきます。


「むぐ……炎が黒いせいでそんなに明るくないな」

「我々は闇の中でも目が利きますから、これぐらいの明るさで十分でしょう……アム」

「そうだな……ゴクン」


やはりフレイムポーク、中々の美味です。

レオンはモンスターが出るのを警戒しているのか、私の背中から離れません。

この暗闇の中では、身を隠す影も出来ませんからね。

やがて、段々と空間が開けてきました。


「こ、この先に何があるのでしょうか……?」

「ここまで来たなら、もう行くしかあるまい」


先に進むほど感じる嫌な気配。

その気配に少し気圧されながらも、私達は意を決して前に進みました。

そして……私達は最深部に辿り着きました。


「ななな、何なのだコレは!?」

「……!」


慌てふためくレオンの横で、目の前に広がる光景に私は呆然と立ち尽くしました。

信じられませんでした。

私達の住む近くに、こんな場所があったなどとは……。

とにかく、ずっとこの場に留まるのは良くない気がします。


「も、戻るぞ、ハイデル。ここに居ると何故だか気分が悪くなる……」

「ですね……」



そう、私達が言い合い踵を返したのは。


いつの間にか後ろに立っていた、その人に襲われるのと同時でした。

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