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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二四話 地獄は今日も極楽だ!④

という訳で、俺達は温泉にやって来ました。

この地獄の数ある温泉の中で、ハイデルがオススメした場所である。

温泉と言っても勿論馴染みのある旅館みたいなものではない。

まず建物は旅館と言うよりホテルっぽい造りになっている。

しかしどことなく立ち込める硫黄の匂いが温泉らしさを引き立て、ワクワクしてくる。

今まで俺は魔王城のローマ風呂のような質素な風呂に入っていた。

広いし文句はなかったが、やはりただの風呂と温泉は違うのだ。

突然地獄の公爵が二人も訪ねてきて、従業員も他の客も仰天してしまった事に関して申し訳ないと思いつつ、早速温泉の入り口に向かった。

異世界の温泉、どんなところなんだろう。

日本じゃないのなら、もしかしたらデデンと混浴という文字が構えているかもしれない……!

と、淡い期待を抱いていたのだが。


「混浴ねえのかよ……」

「いっそ清々しいわねこの男……」


混浴がない事に盛大にため息をつく俺を、リーンがゴミを見る目で見てきた。


「アンタね……そんなに女の裸を見たいの?」

「そうだよ何が悪い、健全な男子としては当たり前の事だってーの!」

「も、申し訳ありません魔王様、私の知る限り混浴がある温泉は無く……」

「気にしなくていいわよそんなくだらないこと!」


バカ正直に反省するハイデルにリーンが怒鳴るように返すと、こめかみを押える。


「折角の休養なのに、疲れが溜まる一方だわ……」

「リーンさん、大丈夫……じゃなさそうですね。もうっ、皆さんはもうちょっとリーンさんを労るべきです!」

「勝手にツッコミ入れてるのはリーンなのに……」


リムにぷんすかと怒られ、俺はそっぽを向いてそう呟く。

べ、別にリーンサイドに付かれて悔しいって訳じゃないんだからね!


「あっ、そうだ」


なんて心の中でツンデレってると、リーンがレオンの方に歩み寄った。


「む?」

「レオン、リョータがもし女風呂を覗こうとしたら全力で止めて。この中で止められるのはアンタだけだから。何なら力尽くでも構わないわ」

「何故我がそんな面倒な事を……」

「この面子の中でアイツを止められるのはアンタだけなのよ。お願い!」

「ええい分かった分かった! 止めれば良いのだろう!」


手を合わせ頭を下げられ、レオンは渋々その頼みを了承した。

っておおおおおいッ!


「ちょっと待てーい! 何で俺が女風呂覗く前提の話してるんだよ!?」


俺が思わず食って掛かると、リーンはジト目で俺を睨む。


「だってアンタ、絶対覗くでしょ。透視眼とか使って」

「あっ、その手があったか」

「リーンちゃん、リョータちゃんにアイデア与えちゃってどうするのよ!?」


ポンと手を打つ俺を見てローズが身体を隠すように抱くと、リーンは俺を引っぱたこうとしているのかジリジリにじり寄って来た。

それに対し、俺はケラケラ笑いながら。


「なーんて、そんな事しねえよ」

「嘘つけ」

「嘘じゃない。俺は犯罪にならない程度のエロスを大事にする男なんだよ、女風呂における覗きは普通に犯罪だ」


そうなのだ。

アニメや漫画でしょっちゅうある、柵を乗り越え女風呂を覗こうとするシーン。

アレは普通に痴漢と同等の犯罪であり、変態紳士である俺がすることじゃない。

そもそもこのご時世、ガチで覗きをしようとする男子高校生は居ないはずだ。


「ふうぅぅうん」


リーンは俄にも信じていなさそうな顔をすると。


「要するにヘタレね」

「……」


コイツ、的確なこと言って来やがった……。

何も言い返せずブルブルと拳を握り絞めている俺を見てため息をつく。


「もういいわ。リム、ローズ。行きましょ」

「は、はい。それじゃあ皆さん、また後で」

「じゃあね~……そういえばリーンちゃん、私が透視眼を使って男風呂を見るのは……」

「ダメに決まってるでしょ!?」


そんな会話をしながら女風呂へ向かう三人を見送っていると、ふとアズベルの姿が目の端に入った。

あっ、いけねえ! 折角誘ったのにずっと放置してた!

アズベルは相変わらず無表情だが、気にしてるかな……?

と不安になっていると、アズベルはハイデルに歩み寄った。


「アズベル?」

「お前達は、いつもこうなのか?」

「ええ、まあ。あまり魔王軍らしくありませんがね」


と、苦笑するハイデルにアズベルはやはり表情を変えずに。


「そうだな」


……一瞬、悲しそうな顔をしていた気がしたのは気のせいだろうか。






「――温泉だあああああッ!」


入って開口一番に叫んだ俺に、先客はビックリしたように俺を見てきた。

だが関係ない、目の前には夢にまで見た温泉があるのだから。

やはりここの温泉は日本のようなものではなかった。

広さがレジャープールぐらいあるし、長方形の浴槽だ。

ってかまんまプールだ。

だがこの湯気! 温もり! 匂い!

間違いない、まごう事なき温泉だ!

俺は早速かけ湯で身体を洗い、湯船に浸かった。


「ああァあああァァぁぁあああぁあああァああぁァァぁ……」

「オイ、声帯がおかしくなっていないか……?」

「随分喜ばれているようで、提案した甲斐がありました」


肩までドップリ浸かり奇声を上げる俺の後にレオン、そしてハイデルが続く。


「コレだよコレ、俺が求めてたものだよ……」

「そ、そうかよかったな……透視眼を使うでないぞ」

「信用ねえ……まあ自業自得か」


そもそもこの浴場では覗きは不可能だ。

その理由は、まず俺から見て後方にある男風呂と女風呂を仕切る壁の問題だ。

いや壁じゃない、アレは黒くて巨大な岩。

形はオーストラリアのエアーズロック、そしてその縮小版といった感じだろうか。

恐らく流れている途中の溶岩が固まって出来たものを、そのまま利用しているのだろう。

俺の透視眼は壁一枚程度の厚さなら難なく透視できるようになったばかりで、こうも分厚いと透視は不可能だ。

ローズなら出来るかもしれないが……えっ、覗いてないよね?


「……ふむ、いいものだな、温泉というのは。普通のお湯よりも身体が温まる」


と、俺が別の意味で女風呂の方を気にしていると、肩まで湯船に浸かったレオンがホッと呟いた。


「だろ~?」

「でしょ~?」

「何故貴様らが自慢げなのだ……」


しかし温泉の醍醐味は湯だけにあらず。

ここは露天風呂、露天風呂ならば絶景を眺めるべきだろう。

だけど火山帯で絶景は流石に無いか……?

などと思いつつも、俺は底に手を突き泳ぐように、しかし水しぶきを立てないようにスイーと移動する。

そして景色が見れる所まで来てみ……て……。


「スッゲエ……」


前言撤回。

その光景を見て、そう呟かずにはいられなかった。

それほどまでに、凄い光景なのだ。


「でっけえ……!」


巨大なマグマの湖だった。

その大きさは魔王城から見るバルファスト魔王国とほぼ同じぐらいの大きさだ。

まるで巨大なスプーンで地面をえぐり取ったような半球の中で、真っ赤なマグマがグツグツと煮えたぎっている。

ここからマグマの湖までかなり離れているが、熱気がここまで来ている気がする。

流石異世界。いや異世界の異世界。

こんな光景、地球じゃ絶対に見られない。

美しいという感覚は無いが、その圧倒的な迫力は見る者を飽きさせないといった感じだ。


「凄いな、コレは……」


いつの間にか隣に来ていたレオンも、呆然と呟いている。

と、後ろに居たハイデルが。


「ああ、ルキフェルの湖ですね」

「ルキフェルの湖?」

「ええ。二千年前からあるとされている、巨大なマグマの湖です」

「巨大火口とかじゃなくて?」


その問いに、アズベルが応える。


「火口ではない。地面に出来た巨大な窪みに、溶岩が少しずつ流れて出来たものだ」

「はへ~、自然の力は凄いなぁ」


こんなもの、人の手なんかじゃ絶対に作れない。

やはり自然の力は、どこの世界でも偉大である。

などと思いながらボンヤリとルキフェルの湖を眺め、湯船に浸かること約十分。

ハイデルやレオン、アズベルが各々好きな場所へ向かい温泉を楽しんでいる。


「よし、身体洗ってこよ」


程よく額に汗が滲んできた俺は立ち上がる。

そして洗い場へ移動し、桶のお湯を頭から被った。

いやぁ、素晴らしい。ちゃんと良い石鹸を使っていらっしゃる。

流石に異世界にシャンプーとボディソープなんてものは無いが、この石鹸ならば問題ない。

この普段使っていない高級石鹸が使えるのも、温泉の醍醐味だよなぁ。

などと思いながら手で石鹸を泡立て、早速身体を洗おうとしたその時。


「魔王」

「?」


突然声を掛けられ振り向く。

そこにはタオルを腰に巻かず、スッポンポンのアズベルがいた。

しかし俺は座っている状況、アズベルは立っている状況だったので、俺の目の前にモノがぶら下がっていた。

…………。


「……どうしたんです?」


俺は視線を上に上げ、アズベルの顔を見た。

……畜生ッ! 負けたッ!!

ってかこの人股間隠さないタイプの人か。

温泉だから別に良いけど、ちょっとビビった。


「身体でも洗ってやろうか」

「んえ?」


突然そんな事を言われ、俺は変な声を上げてしまう。

しかし、今日会ったばかりの人の身体を洗うとな?

別にそこまで仲良くなった覚えは無いが……。

いや、もしかしたら俺と何か話す口実か?


「いいんですか? すいませんねぇ」


俺はヘラヘラと笑いながらアズベルに石鹸を渡し、背中を向ける。

するとアズベルは、俺の背中を洗い始めた。

……あっ、直ですか。


「それで、何か俺に話でも? ハイデルの事です?」

「察しが早くて助かる。向こうのアイツはどうだ?」

「多分こっちでも変わらないと思いますよ、基本ポンコツだし。でもま、ハイデルは普通に良い奴ですしね、国民からの信用は厚いですよ」

「そうか。なら良かった」


淡々と言うアズベル。

ううむ、やはりこの人感情が表に出にくいタイプかな?

表情や声からでは喜怒哀楽を察しにくい。


「ハイデルとの付き合い長そうですよね。やっぱり同じ地獄の公爵だからです?」

「それもあるが、俺とハイデルは同じ領地を治めているからな」

「どういう事ですか?」

「地獄の公爵は全部で七人。その七人が、地獄全土を治めている。公爵一人につき一つの領地を治めるのが決まりなのだが、俺とハイデルだけは違ってな。ハイデルは地獄の公爵でありながら、地獄と魔界を繋ぐ存在、ましてや魔王軍四天王だ」

「成程……領地経営と魔王軍四天王、どっちも多忙だからアズベルさんが変わりに領地経営をやってるって訳か」


道理で地獄の公爵なのにバルファストに居る時間が多い訳だ。

つまりハイデルとアズベルは持ちつ持たれつってヤツか。


「だけど一年間会ってなかったんですよね、忙しいとかで。何かあったんですか?」

「少し、個人的な仕事があってな。だが、もう終わった」

「そりゃ良かった」


ハイデルが四天王やってられるのがこの人のおかげなら、ある意味アズベルは陰の四天王なのかも。

それだと五人になってしまうが、日本では四天王は四人じゃなくて五人だ。

うん、これからもこの人とは仲良くしていこう。

と、思ったのだが。


「ちょちょ、ちょっと待ってください?」

「どうした?」


突然手を掴んだ俺に、アズベルが首を傾げる。


「いや、どうしたもこうしたも……」


俺はゆっくりと振り向き、微笑を湛えながら。


「流石にチンコは自分で洗いますよ」


そう、アズベルの手が俺の股間へと伸ばされていたのだ。

流石にソコはない。

ないのだが。


「いや、洗ってやる。寧ろ洗わせてくれ」

「はぁ……!?」


アズベルは無理矢理俺の股間に手を伸ばしてくる。

いやっ、ちょっと、え?

冗談、冗談だよね?


「ちょっ、止め、止めて……! 止めろって言ってんだよ!?」


必死に抵抗し、遂に敬語を使わなくなった俺に対し、アズベルはやはり無表情で。


「実は先程から、お前の身体を見て興奮していた」

「え、えええ……!?」


ま、ままま、マジで……?

そして、偶然なのか故意なのか。

アズベルは、俺の耳元で、囁くように。


「やらないか」


アーッ!


「やああああああああああだああああああああああああああッ!?!?!?!?」


ネットで有名なあの人の決め台詞を言ってきた!!

ホモの方だったかああああああああああああああああああああああッ!!

いや、別にいいんですよ!? 俺、そう言った人には偏見ないけれども!

同性愛も認められる時代、良いと思いますけど!

でも、強引すぎませんかねええええええあああああああッ!?


「止めて! 俺は変態は変態でもノーマルな変態なんだ! ノンケなんだ! だからゴメンナサイ!」

「もう俺は止められない。魔王、俺はお前のソレから目が離せない」

「ローズの男性バージョンかよおおおおおおおお!?」


そんなあああああ! 

常識人枠だと思ってたのに、一番ヤバイ人じゃん!

ちょっ、力強い! ってか何押し付けようとしてんだこの野郎!?


「ねえ待って!? お願いだから待って!? 大体俺のどこが良いんだよ!?」

「良いところばかりだ。割れているが固すぎない腹筋、引き締まった太股や尻。しっかり鍛えている証拠だ。そして、実は着痩せするタイプというのも高評価だ」

「そりゃどうもおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


それはせめて、女の子に言って欲しかったかなあああああああ!?

そしてアズベルは、俺を無理矢理四つん這いにさせて。


「さあ、俺と一つになろう、魔王。少し痛いかもしれないが、ほんの一瞬だ」

「ハイデル!! ハイデール!! たあああああああすうううううけえええてえええええええ! 掘られる、掘られるうううううううううううううッ!!」



――その後、駆けてきたハイデルとレオンに助けられ、俺の尻の処女は守られた。

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