第二四話 地獄は今日も極楽だ!③
「う、うむ……わ、我の屋敷程ではないが、な、中々いい屋敷ではないか、ハイデルよ……」
「それはどうも」
ハイデルの屋敷の大部屋にて。
俺達は長机の前に並ぶ椅子に座り、少し休憩していた。
そんな中、引きつった笑みを浮かべて辺りを見渡していたレオンの言葉に、ハイデルはバカ正直に頭を下げた。
レオンの様子、どう見てもハイデルの屋敷の方がいいのだろう。
石レンガで造られているこの屋敷は、空の色と相まって薄暗い印象があるが、逆にそれが悪魔っぽさを引き立てて良い感じになっているし、血のような深紅のカーペットや天井に吊り下げられた綺麗なシャンデリアには味がある。
レオンと同じく、俺が辺りをキョロキョロ見渡していると、扉からノックが聞こえた。
「どうぞ」
「「「失礼します」」」
ハイデルの声に扉が開くと、そこから入ってきたのは。
「メイドだって……!?」
そう、絵に描いたようなメイドさん三名であった。
全員クラシカルメイド服を着込んでいるが、角や翼などはバラバラだ。
「紅茶をお持ちいたしました」
「あ、ありがとうございます」
目の前にティーカップを置かれたリーンは、やはり慣れていないのかどこかぎこちなく頭を下げた。
そんなメイドさんを見ながら、俺は独り言のように呟いた。
「ハイデル、お前ってホントはスゲえ奴なんだな……」
「ありがとうございます、魔王様。しかし先程から同じ事を言っておられますが?」
ハイデルの言うとおり、今の台詞を計五回ぐらい言ってる。
だってしょうがないじゃん、普段とのギャップが凄いもん。
確かに身なりや口調、立ち振る舞いなんかは高貴な人らしいのだが、それを遙かに凌駕するドジと脳筋っぷりだし。
紅茶を入れ終わったメイドさん達は、綺麗に一礼すると部屋から出て行った。
しかし……。
「さっきの門番ちゃん達とは随分違うわね」
「そうですね。あの人達は良い意味で、ハイデルさんを軽く見てる感じです」
と、俺が疑問に思っていたことを、ローズとリムが言ってくれた。
するとハイデルは、苦笑いを浮かべながら。
「彼女らはちゃんと身なり作法、奉仕を学んだ由緒正しきメイドです。ですがガルードとホーソンは一年前、私が個人的に雇った者達なのですよ」
「どういう事ですか?」
「彼らはここに来る前、賊をしていたのです。その時、この屋敷に金目の物目当てに侵入したのですが、私が事前に察知し捕らえまして。彼らは当時初犯だったので、このまま私に仕えるなら罪は問わないという契約をしまして」
へえ、そんな事があったのか。
確かに元賊ならばあの態度とか納得できる。
でも多分、ちゃんとハイデルのことを慕ってるんじゃないだろうか。
賊なんて仕事も金も無い奴がやることだから、寧ろ働き口が見つかって喜んでいると思う。
「ですが、見ての通り忠誠心が薄く……まったく、二人が自ら提案した事だというのに」
「だけど、よく捕まえられたな」
「フッ、どうという事はありませんでしたよ」
そう、ハイデルが渾身のドヤ顔をしながら紅茶を啜る。
それと同時にノック無しに扉が開いた。
「ちょっとハイデル様、話を大袈裟にしないで下さいよ。あの時のハイデル様俺らにビビって尻餅付きながらヘルファイア連発しただけじゃないですか」
「ブーッ!?」
そこから表れたガルードの暴露に、ハイデルは紅茶を噴き出す。
「ってか察知してたって、あの時ハイデル様トイレに行こうとしてただけじゃないっすか。嘘は良くないっすよ」
「ゲホッ! ふ、二人とも、ノックも無しに失礼ですよ! それにまた持ち場を離れて……!」
続いて入ってきたホーソンの更なる追撃に、ハイデルは顔を真っ赤にし、むせながら立ち上がった。
俺を含めたこの場の全員が『だと思った』と思っているのが呆れた表情で分かる。
「またサボって来た訳じゃないっすよ。ここに来たのにはちゃんとした理由があるっす」
「何です……?」
「それは……」
そうホーソンが言い掛けた時だった。
「俺をここまで案内する為だ」
突如として、謎のイケボが大部屋に響く。
そしてガルードとホーソンの間から、一人の男が現れた。
シンプルだが高貴さが滲み出る深青の服を着こなした、高身長のイケメンだ。
少し金色がかった茶髪に紫色の瞳をしており、耳がエルフのように尖っている。
「アズベル、貴方でしたか……!」
「一年ぶりだな、ハイデル」
少し驚いたようなハイデルの言葉に、アスベルと呼ばれたその男はそう返しながら入ってきた。
そして俺を一瞥すると、空いていた俺の隣の席に座った。
ってええ……!
急に来て何!? ってか何でわざわざそこに座った!?
ハイデルの知り合いみたいだけど……とりあえず挨拶するか。
「えっと……どうも」
「……お前が魔王ツキシロリョータか?」
な、何でこの人俺の名前を知ってるんだ……?
「そう警戒するな。ただ少し、推理しただけだ」
「推理……?」
「まず、地獄に悪魔族以外の、しかも人間がいる。だが地獄にはヘルズ・ゲートを使わなくては人間は来られない。そしてここはハイデルの屋敷だ、ならばハイデルが連れ込んだと考えるのが妥当だ。そしてハイデルがわざわざ地獄に連れ込む人間、それは最近話題になっている人間の魔王、ツキシロリョータ意外にあり得ない」
「な、成程……」
なんとまあ、頭の回転が速い人だ。
あの時俺をチラと見ただけで俺が何者なのか気付くとは。
ってか、俺って地獄でも話題なのね。
いやぁ、照れますなぁ。
「そしてその他は魔王軍四天王……ん? 一人多いな」
「あっ、どうも。私、リーンって言います」
「リーン……ああ、先代魔王の娘か」
「……」
リーンはその言葉に対し何も言わず、ただ微笑んだ。
まあ、向こうも悪気があって言った事じゃないしな。
なんて思っていると、男は少しだけ身体をこちらに向けた。
「では、挨拶をしないとな。俺はアズベル・グラード、地獄の公爵の一人だ。そこのハイデルとは古い仲でな」
成程、ハイデルの友人だったか。
しかし同じ身分だとは言え、やはりこの人の方が公爵っぽい。
何というか、風格が違う。ああこの人凄い人だなと直感で分かる。
ハイデルに言ったら泣くだろうから絶対に言わないけど。
「それで、いきなりどうしたのです? 今まで忙しいからとずっと連絡も寄越さなかったのに」
「ああ。その事だが……いや、何でもない。たまにはお前の顔でも見ておこうと思っただけだ」
アズベルは何故か俺をチラと見て言い淀むと、表情を変えずにそう返した。
何だろう? まあ、関係の無い俺が気にする必要ないか。
「そうですか。まあ、私も久々に貴方の顔が見れて安心しましたよ」
ハイデルは安心したようにため息を付きながら、再び紅茶を啜る。
それを見たアズベルは、座ったばかりなのに立ち上がった。
「では、俺は帰る」
「えっ? 来たばかりじゃないですか」
「主君を屋敷に招き入れているのなら、俺は邪魔だろう」
この人……状況をわきまえている!
凄い、今までこんなしっかりした人を見たことない!
でも、そんなにアッサリ帰って良いのだろうか。
「あの~、アズベルさん」
「何だ魔王?」
帰ろうとするアズベルを引き留めると、俺も椅子から立ち上がった。
「俺達、これから温泉に入るんですけど、よかったら一緒しませんか?」
「何?」
「よろしいのですか?」
「一年ぶりに会ったなら、積もる話もあるだろ? 俺達はただ休養しに来ただけだし。だから居ても全然気にしませんよ?」
「うむ。これも何かの縁だ」
俺の提案にレオンが頷くと、アズベルは俺の顔をジッと見つめた。
……何だ? 無表情なのは変わらないのに、目が強いような……。
えっ、ホント何でこんなに見つめてくるんだ?
と、その視線に妙なものを感じ、内心首を傾げていると。
「そういうのならば、ご一緒させて頂こう」
アズベルが、やはり無表情のままそう応えた。




