第四話 成り行き魔王は今日もくたくただ!①
――魔界生活七日目。
「何で……何で俺が国民の前で話しなくちゃいけないんだよ!?」
ただいまの時刻は午後十二時丁度。
俺は魔王城のバルコニーの後方で頭を抱えて叫んだ。
「仕方ないことです、リョータ様が新たな魔王だという噂が国中に広がってるんですから。国民に自分の口で自分が魔王だと言わないと!」
「何でもうすでに俺が魔王になってんだよ!?」
ハイデルの発言に、俺は思わずツッこむ。
そして俺はバルコニーの下をこっそりと覗き込んだ。
下の広場には国民達で渋滞状態、中には顔見知りの冒険者までいた。
「……やっぱり明日にしないか? 眠いし」
予想以上の人の多さに、俺は恐る恐る提案した。
「ダメですよ! あと、眠いのはあんな真夜中にリーンさんと追いかけっこしてたからですよ!」
やっぱりか……。
「確かに真夜中に誰かが叫んでる声が聞こえたけど、アレリョータちゃんだったの?」
「我も同じく。貴様のせいで目が覚めたではないか」
「ヴァンパイアなのに夜眠るのか……わ、悪かったよ」
ジト目で睨んでくるレオンに両手を合わせ謝っていると、ハイデルが首を傾げた。
「でも、何でリョータ様の事をリーン様が追いかけていたんでしょうか?」
「もしかしたら、昨日リョータちゃんがリーンちゃんのアレ見ちゃったからじゃない?」
「アレ? ……ああ、アレの事か」
「確かに、昨日リーンさんの顔はどことなく赤かったです。もしかしたらやっぱり……」
「そうかもしれもせんね」
そう言い合いながら、俺の後ろで集まってボソボソしている四天王。
ってか、リーンのアレって何だよ!? スッゲー気になるんだけど!?
一旦魔王城内に入った俺が、リーンのアレとは一体何なのかと考えていると、その本人がやってきた。
「想像以上に集まったわね。で、何頭抱えてるの? もしかして緊張してんの?」
「そーだよ、悪いか。普通の人間がいきなりこの人数前に話すなんてできっか」
「そう。それはともかく、決まったの?」
「何が?」
「魔王になることに決まってるでしょ」
「ああ、それか……」
……正直、しつこいようだがやっぱり魔王になるメリットが無い。
だって自分が魔王ですと宣言したら、それは勇者に殺しに来てくださいと言ってるようなもんだ。
……だけど、もし魔王にならないのなら、コイツらとの関係はどうなってしまうんだろう?
「……実はもう決めてある」
「ふ~ん……で、どっちなの?」
「それはこれから話すさ」
俺はそう言うと、再びバルコニーに出た。
「リョータ様時間です、前へ」
「分かったよ、喋ればいいんだろ喋れば」
無駄に表情が良くなったハイデルにイライラしながらそう言うと、俺はバルコニーの前へ出た。
俺が前に出たことによって、今まで騒がしかった下に居た国民たちが、まるで学校の全校朝会で急に静かになるかのように黙り始めた。
「…………」
やべえ、手汗が止まんねえ……!
全校生徒とかの前で話した事もないのに、いきなりこの大人数の前で話をしなければいけないなんて無謀すぎる。
ど、どうしよう……何喋れば良いんだ!?
とりあえず、まずは簡単な自己紹介から入ってその後に魔王の件の事を言って終わろう。
うん、それがいい、それだけで十分だろう。
よーし、月城亮太! お前ならやれる! アイキャンドゥーイット!
そう自分を鼓舞し、俺はメガホンのような拡声器に向かって。
『あー、どうもー俺は――』
――カーンカーンカーンッ!
そう言いかけたその時、街中にけたたましい音が鳴り響いた。
「うおおおおわああああ!? なになになに!?」
「こ、これは……緊急時に流れる警報音……!?」
「警報音!?」
目を見開くハイデルの言葉に、俺は思わず聞き返した。
何!? 警報音って事は何か危険が迫ってるって事か!?
もう! 何でよりによってこんな時に!
ラノベじゃこんな感じでイベントしょっちゅう起きるけど、現実でそういうのいらないから!
『皆さん、とりあえず全員魔王城の中に入ってください! 親御さんはお子さんの手を離さないで!』
俺が下で動揺していた国民達にそう言うと、国民達は慌てて魔王城の中に入っていった。
「なあハイデル! こ、この後はどうすればいいんだ!? ってか、何が起きてるんだ!?」
「わ、私に言われても……!」
「警報音の存在知ってるなら何か対策しとけよバカぁ!」
「しょ、しょうがないじゃないですか! 私もこんな経験無いんですから!」
「二人とも、言い争いしてる場合じゃないですよ!」
お互いの胸ぐらを掴んでガクガク揺らす俺達にリムがそう言った直後。
『緊急! 緊急! 外に出ている方々は大至急建物の中に避難してください! また、全冒険者の皆さんは直ちに武装し、正門前に集まってくださいっ!』
今度はギルドの職員と思われる切羽詰まった声が街中に響く。
「リョータ! 我らも直ちに正門へ向かうぞ!」
「えええ!? 俺も行くのか!?」
「当たり前じゃない! リョータちゃんも冒険者登録してあるんだから! ほら早く!」
「ああもう分かったよ行けばいいんだろ行けば!」
俺達はそう言い合うと、バルコニーを出ようとする。
ふと後ろを見てみると、リーンがバルコニーから身を乗り出し必死に何かを探していた。
「何しているんですかリョータ様!」
「先行ってろ! すぐに行く!――おい、リーン!」
ハイデル達を先に行かせると、俺は振り返ったリーンに向かって叫んだ。
「お前はここに残って、国の連中とあのクソガキ共の事見ててくれ!」
俺はそう言うと、リーンの返事も待たずにバルコニーを出た。
ああもう何で毎日毎日こうなんだ!
頼むから少しは平穏に過ごさせてくれよ!
どうか、この警報が何かの間違いでありますように――!




