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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第六章 レッツ・ゴートゥー・ヘル!?
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第二二話 戦後は今日も大忙しだ!②


「あっ、お疲れー」


留置所を出ると、入り口で待機していたジータが串焼きを持っていた右手を挙げた。

小腹でも空いていたのだろうか。


「お、お待たせ……」

「レイナ? どうしたのさ? 目の下が赤くなってるよ?」


どことなくぎこちないレイナに、ジータは顔を覗き込もうとする。


「あっ、こ、これはその……!」

「さっきお涙ちょうだいな雰囲気になっててな。で、レイナずっとボロ泣きしてたんだよ」

「ま、魔王さん!?」


俺が代わりに説明すると、ジータは納得したように頷く。


「あー、レイナは涙もろいからねぇ。ほーら、いい子いい子~」

「や、止めてよぉ……」


ジータはニヤニヤとレイナの頭を撫でるが、されている側は恥ずかしさで顔が真っ赤だ。

レイナはリーンとの相性がいいと思ってたけど……。

ジータ路線もいいね! やっぱ最高だよ、百合ってやつは!

俺がその場から三歩離れて親指を立てていると、一頻りレイナの頭を撫で回したジータが杖を構えた。


「それじゃ、テレポートの準備するからちょっと待ってて」

「おーう」


詠唱を始めるジータを遠巻きに見ていると、未だに顔を赤くしたレイナが話し掛けてきた。


「あ、あの、さっきはゴメンナサイ……」

「いや、別に謝る事じゃないって」


寧ろあの場で泣けるのは心優しい証拠だ。

それに泣いているレイナ、メチャクチャ可愛かったし。絶対口には言えないが。


「やっぱり、魔王さんは凄いですね」

「え? 何が?」

「元々敵だった人に対しても、あんな風に接してあげられるなんて。普通の人には出来ませんよ?」


まあ、確かにそうかもしれない。

ルボルといいシェスカ達といい、根っからの悪人って訳じゃなければ、俺は元敵だとしても分かり合えると思っている。

でも……。


「違う」

「え?」


俺の否定に、レイナは何でと言わんばかりに俺を見る。


「俺はさ、臆病なだけだよ」

「臆病……?」

「俺は敵でも味方でも、目の前で誰も死んで欲しくないし、不幸になって欲しくない。だから普通なら死刑なはずのアイツらを、権力使って懲役刑にしたんだ」


数週間前。

フォルガント王国でソルトの町の戦いを清算する会議のときに、俺がフォルガント王さんにそう頼んだ。

その全責任は俺が取るとも。

周りの大臣はあまりいい気ではなかったが、最終的に俺の願いは受け入れて貰えた。


「俺はこんなんだけど魔王、一国の王様だ。だから一度でも敵対した奴は、ぶっちゃけ死刑にしちまった方がいい。その方が後々の危険も減るしな。でも、俺はそれが怖くて出来ない。傍から見れば、俺はエゴで魔王の権力を利用してるだけの、クソ迷惑な偽善者だろうよ」

「…………」


レイナは何も返さなかった。

コイツだって一国の姫様だ、俺の言いたいことは十分理解出来るだろう。


「二人ともー! 詠唱終わったよー!」

「はいよー! ホラ、行こうぜ」

「あっ……」


ジータの明るい声に、先程の重い空気を吹き飛ばすように返事をすると、俺はレイナに促しながら魔法陣の上に立った。


「何話してたのさ?」

「んー、俺の魅力について?」

「……何言ってんの?」

「冗談だって、だからそのマジで可哀想な奴を見る目を止めろや! ホラ早く!」

「まったく、くれぐれもレイナに変な事吹き込まないでよ? 『テレポート』!」


転移の光に包まれ、俺の視界が白く染まる。

その瞬間。


「それでも、魔王さんは凄いんです……」


後ろからレイナの、そんな小さな呟きが聞こえた。






「――結構進んでるなぁ」


俺はレンガやら木材やらを運んでいる人々を見ながらそう呟く。

ここは一ヶ月前、瓦礫の山と化していたソルトの町。

あの時は殆どの建物が崩壊し、とても町の面影など感じられなかった。

しかし今では瓦礫が撤去され、少しずつだか家の骨組みが並べられている。

大国であるフォルガント王国は勿論人が多いため、ソルトの町復興の人員が町民の三倍以上も集まった。

元々小さい町である為、半年もすれば完全に復興できるとのこと。

やはり偉大なるは多勢の力である。


「お待たせ~」

「あっ。やっと来たわね」


そして俺達魔王城のメンバーもその復興のボランティアをやっていた。

そもそも俺達をおびき寄せる為に、アダマス教団がこの町を破壊したと言ってもいい。

ならば、少しぐらい俺達も手伝わなきゃならない。

俺は積まれたレンガを持っていたリーンに声を掛けた。


「早速だけど、コレ向こうの公園までお願いね」


と、リーンは流れるように俺にレンガを渡してきた。


「オイちょ、おっも……!!」

「あっ、二人ともコイツに付き合ってくれてありがと」

「あっ、うん」

「別にいいさ」

「オイ、何で二人にだけ!? 俺もちょっとは労れ!」


腕をプルプルさせながら抗議する俺に、リーンがジト目で睨んでくる。


「最近会議ばっかで全然鍛えてないでしょ? コレも修行よ」

「そういうことなら」

「……えっ?」


その言葉を素直に受け取り、早速レンガを運ぼうとする俺に、リーンが素っ頓狂な声を上げる。


「どした?」

「いや……まさかアンタがこんなにすんなりと言う事聞くなんて、正直思ってなかったから……」

「自分から言っておいて何だよ。もう行っていい?」

「あ、うん……」


俺を見送りながらも、腑に落ちないような顔をしているリーン。

まあ確かに、リーンの気持ちも分かる。

前までの俺なら、きっと何か屁理屈を言ってリーンの言う事に逆らい、最終的に半ば力ずくでやさせられていただろう。

何てことない、ちょっとした心変わりだ。

俺は重いレンガを落とさないよう慎重に進み、やっとのことで公園に着いた。


「おっ、魔王じゃねえか」

「よおエルゼ。それにローズも」

「帰ってきて早々大変ね、リョータちゃん」


そこには、魔王軍と勇者一行の巨乳コンビがレンガを並べていた。

レンガを並べると言ってもかなりの重労働。

二人とも健康的な汗を流しており、谷間に汗が滴っている。

エルゼは胸当てや肩パッドを外しており、普段あまり見えないボディラインがしっかり見える。

ローズの方はここでは流石に露出度の低い服を身に纏っているが、逆にそのおかげで胸の大きさが強調されている。

何て素晴らしい光景なのだろうか……。

レンガ運びしてよかったと思った瞬間である。


「……どこ見てるんだコラ」

「あいだだだだッ! 落とす、レンガ落とすってば!」

「相変わらず視線が分かりやすいわね」


横からエルゼにアイアンクローを喰らい悶絶する俺を見て、ローズがため息交じりに呟く。

単純なパワーならレイナをも上回るエルゼのアイアンクロー。

マズい……頭が潰れる……!


「ったく、次見やがったら承知しねえからな」


乱暴に振り払ったエルゼに、俺は食って掛かる。


「そもそも男である俺の目の前で、そんな素晴らしいものをバインバインさせてるお前らが悪……!」

「ああん?」

「すいませんレンガここに置いてきまーす!」


が、エルゼの一睨みに逃げるように走り出した俺。

流石にエルゼにボコられたら死ぬ!


「アイツ、前々から思ってたけど欲求不満なんじゃねえの?」

「確かに、リョータちゃんスケベだけどいかがわしいお店とか行かないタイプだし」

「ローズさん、アンタサキュバスだろ? ホラ、夜にちょちょっといい夢でも見せてやったら……」

「エルゼちゃんったら、私に夜這いしろって言うの!? さ、流石にちょっと……」

「ちげーよ!?」


背後からそんな会話が小さく聞こえる。

畜生アイツら、人のこと好き放題言いやがって……!

……しかも否定出来ないなんて!

そもそも異世界に風俗以外の欲求不満解消の方法が無いのが悪いんだ!

エロ本を! エロ本を求む!

なんてイライラしながら歩いていると、よく目立つ全体的に黒い奴と白い奴を見掛けた。


「フィアよ、この木材はここでいいか?」

「で、ですです。ありがとです」


普段と変わらない様子のレオンとは対照的に、フィアは若干頬を赤らめている。

相っ変わらず良い雰囲気してるなアイツらは。

ラブコメの波動をビンビン感じるし、周りにオーブみたいな浮遊体が浮いてるし(幻覚)。

おかげでイライラも収まった。

だけど見るに、まだこれと言った進展はなさそうだ。

もうっ、焦れったいなぁ!

こうなったらこの恋のキューピット(笑)のリョータちゃんが、背中を押してあげるわ!

俺は隠密スキルを発動すると、そっとレオンの背後に忍び寄る。

そしてレオンとフィアが一直線に並んだ瞬間。


「なっ、わっ!?」


ドンッ、とレオンの背中を強めに押した。


「え、ひゃあぁ!?」


突き飛ばされたレオンは、そのままフィアを家の壁に押し付ける。

そう、少女漫画で親の顔より見た定番中の定番、壁ドンである。


「すすす、すまん!」

「はわわわわ……!」


顔が近くなり、流石のレオンも顔を赤らめる。

フィアなんて耳まで真っ赤になって、目がグルグルしてる。

ホラ、物理的にも精神的にも、背中を押してあげたわよ?


「だ、誰だ我を突き飛ばした者は……って貴様かリョータ!」

「よーしレオン、次は顎クイだー!」

「な、何を言っているのだ貴様はー!」


そんな置き台詞を吐き走って逃げ出す俺の背中に、レオンの怒声が聞こえる。

リア充死ねとか言うと思ったか?

残念、だったらラブコメなんて好きじゃねーよ!

曲がり角を曲がり、俺は走るのを止めるとリーン達の元へ向かう。

今頃レオンの奴、何やってるんだろう。

でもレオンだからなぁ、流石に顎クイはしないか。

そんできっと、


『リョ、リョータのせいだとは言え、すまなかったな。け、怪我は無いか?』

『だ、大丈夫です……ううぅ……』


みたいなことになってるんだろうな。

カーッ、やっぱ羨まし!

俺もラブコメしてえなぁ!

と、俺が先程リーン達と別れた場所に戻ってくると、何だか妙に騒がしい。

見ると、ジータがリムを抱きしめて頬ずりしていた。

その近くにはハイデルもおり、レイナと一緒にあわあわしていて、後ろの方でリーンが呆れてながら見ている。

リムとハイデル、一緒に行動していたのだろうか。

三角帽子が落ちてもお構いなしに頬ずりするジータは幸せそうな顔をしているが、リムはちょっと困ってる様子。

ったくあの野郎、俺の妹とイチャイチャしやがって。


「コラ、百合の間に挟まるなんざ姫男子の名折れだが、リムを甘やかしていいのは俺だけなんだよ」

「お、お兄ちゃん!?」

「なんだい魔王君、姉妹のスキンシップを邪魔しないで欲しいね」


俺が腕を組みながらジータに近寄ると、フンスと鼻を鳴らして言い返してきた。


「何時ぞやの俺みてえなこと言いやがって。姉妹って何だよ、テメエはリムのお姉ちゃんか」

「だって実際に、リムちゃんにお姉ちゃんって呼ばれたし」

「えっ……?」


その言葉に、俺は一瞬固まる。

い、いやいや、妄想が過ぎるだろ。

リムがそんなこと言うはず……。


「そ、それは……!」


そう思いながらリムを見ると、真っ赤な顔をしてアタフタしていた。

……嘘だろ?


「ね?」

「なん……だと……!?」

「ま、魔王様ー!」


勝ち誇ったジータの笑みに、俺は膝から崩れ落ちる。

そんな俺にハイデルが駆け寄った。


「ど、どうしましょうリーン様!? 魔王様が真っ白に……!」

「アホクサ」


ハイデルがリーンに助けを求めるも、一言で結構辛辣なことを吐き捨ててきた。

俺はハイデルを振り払うと、ジ-タに掴み掛かった。


「テメエコラ! リムに何しやがった!? まさか弱み握ってそう言わせたんじゃねえだろうな!?」

「そんなロリコン道に反することするもんか! ボクがミラって魔法使いと戦ってピンチだったときに、一緒に居たリムちゃんが『頑張って下さい、お姉ちゃん!』って言ってくれたんだ! だからボクがお姉ちゃんなんだ!」

「それはリムがお前にお姉ちゃんって呼べば元気になるって思ったからそうしたんだろ!? なあそうだよな、そうだと言ってくれリム!」

「は、はい、まあ……」


俺の必死の懇願に、リムは若干引きながら頷く。

ってか、リムはいつそんな魔性の妹になったの!?


「そ、そんな! ええい、もうこうなったら殴り合いで勝負だ! これで勝った方がリムちゃんのお姉ちゃんになれる!」

「俺が美少女だろうと顔面殴れることは知ってるよな!? 後で後悔しても知らねえぞゴラァ!」

「あわわ……! リ、リーンちゃん、どうしよう……!?」

「アホクサ」


地面を転がり掴み合う俺達を見てレイナが慌ててリーンに訊くも、二度目のアホクサが放たれる。

ジータは魔法使いだが、俺よりレベルが高い分力もある。

ていうか、実際魔法使いであるコイツに近接戦闘で負けた。

だけど、あの頃の俺じゃねえぞ!

と、俺とジータが同時に拳を上げたその時だった。


「あ、あの、お取り込み中申し訳ございません!」


その声に弾かれ、俺は顔を上げた。

そこには真新しい鎧を着込んだ俺の命の恩人が、どうしたらいいか分からない表情で立っていた。


「あっ、セルシオボッフォェ!?」

「っし! 一発入れたよ!」

「ノーカンに決まってるだろーが! どけ!」


俺はジータを退かすと、服に付いた土汚れを払いながらセルシオに歩み寄った。


「いってて……ようセルシオ。聞いたぜ? 功績が認められて、晴れて騎士になったって。似合ってるじゃねえか」


そう、セルシオは今回ソルトの町の戦いで俺と一緒に敵の本拠地を燃やし、そして命がけで俺達を守ってくれた。

その功績を認められ、セルシオは騎士に出世したのだ。


「あ、ありがとうございます、魔王殿」

「んな固くならなくてもいいのに」

「い、いえ、流石にこの場では。それに騎士になったとは言え、まだまだ下っ端ですから」


セルシオは頭の後ろを掻きながらそう言う。

じゃあこのままアルベルトから騎士団長の座を奪ってやれ!

なぁんて、もし本人が居たらキレるだろうけど。


「って、そうではなくて! 実は陛下から魔王殿に伝達がありまして。すぐに宮殿に来て欲しいとのことです」

「フォルガント王さんが?」


ハッとここに来た目的を思い出したセルシオは、俺にそう伝える。

なんだろ、俺に急ぎの用事か?

そう俺が首を捻っていると、セルシオが続けて言った。

……その言葉は、どう受け取っていいか分からなかった。

心のどこかでは、覚悟していたことなんだ。

俺は魔王としてこの知らせを喜ぶべきなのか、人間として絶望するべきなのか。

どっちか分からない、分かるはずがない。


「さ、先程、アダマス教団幹部、ヨハン・ベナーク・アイアントの死体が発見されたのことですッ!」

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