エピローグ2 ただいま!
ソルトの町での戦いに勝利してから半日ちょい。
捕らえたアダマス教徒達の搬送や、負傷した騎士達の治療など、戦いが終わってからも色々大変だった。
だがやっと諸々の手伝える事が終わり、俺達はフォルガント経由で帰路についた。
レイナ達とはフォルガント王国で別れたが、また明日会うことになっている。
フォルガント王さんや兵士の人達に、改めてお礼がしたかったからだ。
「……凄い惨事だな」
「前のブラックドラゴンの時よりも悲惨ですね……」
一体どれほど過激な戦いだったのだろうか。
至る所にクレーターや隆起が作られ、草が焼かれ、見るも無惨な平原を見ながら、レオンとリムが呟いた。
本当はリムのテレポートで帰るのが良かったのだが、当の本人は魔力を使い果たして、とてもあの距離からテレポート出来る状態では無かった。
その為今俺達は、宮廷魔術師の人達に協力して貰い、転移先の平原からバルファストに向かって歩いている。
「そう言えば、ハイデルちゃんは私達とはぐれた後どこに居たの?」
「たまたま近くにエルゼ様がいらして、その後ろで後方支援をしておりました。……ですが、魔力切れを起こしてしまい、エルゼ様に守って貰う形に……」
「興奮しすぎて魔力量の調整が出来なくなるのは悪いクセよ、ハイデル」
「も、申し訳ございません……」
ローズの素朴な質問にハイデルが不甲斐なさそうに応え、リーンがため息交じりに注意する。
コイツはホント、そういった部分を改善すれば魔王軍四天王の名に恥じない大悪魔になると思うんだが……。
エルゼにも明日お礼を言っておこう。
「…………」
……それにしても、さっきからずっと胸に一物が、いや二物も三物もある。
ヨハンを撃退したのはいいものの、あの謎の力は何だったのだろう。
すぐにその力は消えたが、自分でも感じるほどの圧倒的な力だったし、何よりあの殺戮衝動。
正直、あの時の自分がもの凄く怖い。
それに、ヨハンのあの怪我。
あのまま応急処置をしなければ、恐らく出血多量で死ぬだろう。
そうしたら……俺は立派な人殺しだ。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
とここで、リムが俺に話し掛けてきた。
「さっきから妙に静かですね」
「そりゃあ二徹夜にあの戦いだ、疲れ切ってるんだよ。リムだって一睡もしてないだろ?」
「はい、正直もの凄く眠いです……」
「寝不足はお肌に良くないぜ~。お兄ちゃんはリムにはいつでも可愛くいて欲しいんだ」
「なっ……! きゅ、急に変な事言わないで下さい!」
「おお、照れてんのか? 照れてんのか? 可愛い奴め~。ようし、お兄ちゃんがおんぶしてやろう」
「だ、大丈夫です!」
なんて、いつものように恥ずかしがるリムの頭をウリウリ撫でていると、ふと視線を感じる。
見ると、じっとリーンが俺の顔を見つめていた。
…………。
「んだよ、兄妹のスキンシップに何か文句あんのか?」
「別に」
俺が居心地の悪さを感じながらに訊くと、リーンは短くそう返した。
……流石に今のが空元気だって見破られるか。
そうだもんな、リーンはあの時、あの場に居たんだから。
四天王にはこの事は言っていない。
何となく、話すのが怖かったからだ。
リーンもレイナもそんな俺の思いを察したのか、特に何も言ってこなかった。
「ってかあれ? 何か城壁がえらいことになってない?」
俺が気持ちを切り替えようと前を見据えたとき、不意に城壁の大きな欠損が見えた。
まるで巨大な刃に切り裂かれたように、半月状にえぐられている。
もしかして、あのカロリーナとかいう奴の仕業か?
「修繕にはかなりの費用が必要になるな」
「うぅ……俺のお小遣いが……」
レオンの現実的な話に、俺は拳を握り締めて嘆いた。
ヨハンからぶんどった財宝。
あの時、その財宝は全部自分の懐に入るなんて挑発していたが、実際その殆どはソルトの町の復興資金に充ててしまった。
まあしょうがない、全てを失ってしまったソルトの町民じゃなく、俺が財宝を手に入れるなんてあまりにも不平等だ。
勿論、その際に余った資金はちゃんと俺の懐にあるが、この城壁の修繕費と、冒険者達の労いの席で全部吹っ飛ぶことは間違いなしだ。
何だかなぁと口で言いながらも、俺はその辺結構スッキリしている。
と、俺達が正門が見える所まで進んできた時。
「オーイ!」
その声に、俺達はハッと顔を上げる。
正門の前に、所狭しと冒険者達が立ち並び、こちらに手を振っていた。
みんな頭や腕に包帯を巻いているが、表情は底抜けて明るかった。
「アイツら……」
「国を救った英雄達のお戻りだぞー!」
国を救った英雄達って……そりゃ、お前らの事だろうが。
まったくもう……コイツらは本当にいい奴らだよ。
「ただいまー!」
「おわッ!?」
俺は助走を付けたまま、先頭に居たヒューズに飛びつく。
すると勢いに耐えきれなかったヒューズはそのまま尻餅を付いた。
「ああ~、疲れた心身にこのモフモフが染み渡る~」
「何訳の分からねえこと言ってんだよ! 気持ち悪い、離れろコラ!」
本気で嫌がるヒューズを尚ホールドする俺を呆れた目で見ながら、冒険者達が笑う。
一方。
「リムちゃん、お帰り~」
「マ……ママぁ!」
その隣では、いつのもにこやかなサラさんに、リムが泣きながら抱きついていた。
「ママ、怪我は無い!? 大丈夫!?」
「平気平気~。リムちゃんも、よく頑張ったわね。流石、私の自慢の娘だわ~」
「う、うえぇぇん……!」
心の底から安心したのか、年相応に泣きじゃくるリム。
やはり母親だと安心するのだろうかと、ちょっと嫉妬心がうずく。
「うぅ……よかったなぁ、リムちゃん、サラさん……!」
「ああ、ダメだ……! 感動して涙が……!」
「リムたああぁぁん……!」
その周りを囲んでリム大好きファンクラブの冒険者達も貰い泣きしている。
久々に聞いたぜ、リムたん。
「ようハイデル、レオン。また何かやらかさなかったろうな?」
「戯け、我をハイデルと一緒にするでない。何せ、我は敵の副将を単独で撃破したのだからな!」
「ひ、酷いじゃありませんかレオン! 私だって色々活躍しましたからね!?」
ハイデルとレオンに絡んできた冒険者達は、その話を聞いて胡散臭そうな目で二人を見てくる。
それに怒ったレオンが掴み掛かってくるが、軽くあしらわれた。
しゃあねえ、後でフォローしておくか。
「「「ママー! おかえりなさーい!」」」
「ア、アンタ達!? どうしてここに……」
その少し奥の辺りで、孤児院の子供達が我先にとリーンに抱きついていた。
戸惑うリーンに、少し遅れて現れたカインが苦笑しながら歩み寄る。
「みんなねーちゃんが心配で、小さい奴らは夜泣きが酷かったんだぜ? でもまぁ、無事みたいだし安心した。お疲れ、ねーちゃん」
「カイン……皆……」
「うおおおい!? 俺まで抱きしめなくていいっての!」
感極まったのか、嫌がるカインごと皆を抱きしめるリーン。
そんなリーンを見ていると、何だか安心して……。
あれ……?
今になって、何だか眠くなってきちまった……。
「あっ、オイ! 何寝落ちしようとしてんだリョータ! 俺はベッドじゃねえぞ!」
「いいじゃないヒューズちゃん、このまま寝かせてあげましょ。リョータちゃんずっと寝てないしね」
「ふ、ふざけんじゃねー! オイリョータ、そのまま寝たらマジで許さねえぞ!」
「お休み、リョータちゃん。『スリープ』」
「コラああああッ!」
騒がしいのに、心の底から安心する。
そんな喧噪に包まれて、俺は深い眠りに落ちた……。
皆さん、どうもお久しぶりです、陶山松風でございます。
これにて第五章、『まおう1/2』終了となります!
だいぶ長い章になってしまいましたが、いかかでしたでしょうか?
今回の話は、リョータとレオンが薬を間違って服用し女の子になってしまったという話から、一気にシリアスな話になってしまい、書いてて自分でも温度差激しいなと思った次第です。
書いている内にドンドンアイデアが湧いて……! 色々収拾できなくなってしまう事がしばしばありますが、大目に見て頂けると幸いです。
さて、ここからは個人的な話になります。
実は私、今年から受験生になり、それに伴いこの物語の投稿頻度がだいぶ落ちてしまいます。
しかし、決してこの物語を投げ出すことはありません。
この『魔界は今日も青空だ!』。まだまだ書き切れていない部分がたくさんありますし、回収し切れていない伏線なんかも沢山あります。
なので皆さんにこれからもご愛読頂けるよう、頑張っていきたいです。
今後の物語の展開は、ここから大きく加速していきます。
リョータの夢に出てきた初代魔王を名乗る人物や、リョータが最後に見せた謎の力。
そして教皇と名乗る存在は、一体何なのか……。
……でも、あまりシリアスになりすぎないよう気を付けよう。
それでは皆さん、第六章も宜しくお願いします!
ではでは!