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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第二一話 朝日は今日も温かだ!③


「あ? 誰だよ?」


俺に迫っていた鉄くずが、目の前でピタリと止まる。


「あ……う……」


本気で死を覚悟したからか、とりあえず今助かったことに気が抜けて、その場にへたれこんでしまった。


「フォルガント王国二等兵、セルシオ・カルロード! 聞こえなかったかアダマス教団! その御方から離れろと言っているんだ!」

「うるさいなぁ、名前なんて聞いてないんだよ!」


自分の事を睨んでくるセルシオに、左腕から剣を引き抜いたヨハンが心底不快そうに吐き捨てる。

何で、セルシオさんはレオンと一緒に拠点に戻ったはずじゃ……。

それよりも、何でヨハンの前に出て……。

まさか俺達を助けるために……!?


「な、何やってるんですか!? 俺は大丈夫だから、早く逃げて!」


慌てて俺がそう叫ぶが、セルシオさんは首を横に振る。


「私は貴方に二度も命を救われました。そんな貴方を見殺しにするなど、私には出来ません」

「ばっ……馬鹿ヤロー! 逃げろって言ってんのが聞こえねえのか! アンタじゃコイツに敵わない!」

「ええ、そうでしょうね」


今度は乱暴な口調で怒鳴るが、セルシオさんは逃げないどころか寧ろ口角を上げる。

この人、俺達を助けられるなら本気で死ぬ気みたいだ。


「……ッ! 足手纏いなんだよ、余計なお世話なんだよ! だからどっか行け! 死にてえのか!」

「ハハッ、貴方は本当に優しい御方だ。剣も魔法もロクに使えず、周りから落ちこぼれと呼ばれた私ですら、そうやって庇おうとするのだから」

「止めろ! こんな時に自分語りは本当に止めろ! 洒落にならないから――のわッ!?」


とんでもない死亡フラグを立ててきたセルシオさんを止めようと立ち上がろうとした瞬間、俺の身体いきなり横にずれた。

いや、担ぎ上げられたというべきか。


「リョータ、無事か!」

「レオン!?」


レオンだ。ヨハンがセルシオに注意が向いている隙に、レオンが俺を担ぎ上げたのだ。

見ると、レオンはレイナを左脇に抱えている。

俺を助ける前にレイナも救出したようだ。


「レオン! 何でお前がここに!? それにセルシオさんも!」

「ああ、本当は拠点に戻ろうとしたのだが、遠くに黒い竜巻を見つけてな! 嫌な予感がして来てみたのだ。セルシオは知らんがアルベルトの静止も聞かずに我に着いてきた!」


マジかよ、あの人誠実そうなのに以外と自由だな!

あんなのでもアルベルトは上司だ、クビになるぞ!


「それよりも、アレは一体どうしたというのだ!? ヨハンの様子がおかしい上に、こんな膨大な力を……!」

「アイツ、ユニークスキルを暴走させる薬を自分で使いやがったんだ! なのに力に飲み込まれるどころか、ただパワーアップしちまってる!」

「何だと!?」


レオンは走りながらレオンをチラ見すると、少し唸った後。


「……もしやあの薬は、ユニークスキルの使用度により差異が生じるのかもしれん」

「どういうこと!?」

「ユニークスキルを始めとする特殊能力は、生まれつき持っていても、最初から自由に使えるわけでは無い。貴様の透視眼もそうだろう。ユニークスキルを操るには、それなりの鍛錬が必要なのだ。恐らくルボルの父親が力に飲み込まれたのは、ユニークスキルを普段から使っていなかったからだ。だか、自分の身体を浮かし、何本もの剣を自由に操れる程ユニークスキルを扱うことが出来るヨハンならば、力に飲み込まれることが無いのかもしれんな」

「マジかよ……!」


もしかしたら、ヨハンはそれを知っていて、あの薬を持っていたのかもしれない。

自分はユニークスキルに飲み込まれないと。

だとしたら、本当にマズい!


「オイ、セルシオさんは!? このままじゃ殺されるぞ!」

「バカ者暴れるな! まずは重傷の貴様らだ! どわッ!?」


レオンのすぐ真横の地面に数本の剣が突き刺さる。

見ると、ヨハンがこちらに手を翳し、鉄くずを飛ばしてきていた。


「チッ、意外と距離取られた……逃がさないって言ってるだろ!」

「オイ、お前の相手はこの私だ! こっちを向け!」

「さっきからうるさい奴だな、お前みたいな雑魚相手にしてる場合じゃないんだよ。調子に乗るなよな」


確かに脅威ではないセルシオをわざわざ相手するより、逃げ出す俺達を狙った方がいい。

わざわざ囮になる覚悟をして来てくれたセルシオには申し訳ないが、俺的には好都合だ。

勿論その代わり、俺達がまたピンチになるだけだけどおおおおおおお!?


「レオンヤバイ、もうちょっと走るスピード上げて!」

「無理を言うな! 影が無い上に明け方が近付いて力が出ないのだ! というか、貴様動けるなら自分で走れ!」


そんな言い合いをしている最中、セルシオさんの声が背中に聞こえた。


「オイ、ヨハンといったな! お前はこの町を壊し、人々を傷付けた! 人として恥ずかしくないのか!」

「何も出来なかった奴が正義面するなよ……」


セルシオは剣先をヨハンに向け、実に真面目な騎士のような事を言い放つ。

ただの正義の味方面してるわけじゃない、どうやら挑発してヨハンの注意を自分に向けようとしているようだ。

だけど流石のヨハンも引っかかりはせず、目元を引くつかせながら俺達を攻撃し続ける。


「お前は自分の欲求のためだけにそのような事をしたのか!? ならば快楽殺人者と何も変わらないな!」


それでも尚、セルシオはヨハンの琴線に触れそうな事を言いまくる。

オイ止めてくれ、頼むから!

俺は助けて貰うためにアンタを助けたわけじゃないんだ!


「いい加減黙れよ。騎士でもない分際でさ」

「お前が巨大な富や屋敷を持っていたとしても、アダマス教団の幹部だとしても、何も偉くなどない! ただの犯罪者だ!」


ただ俺は、目の前で人が死ぬのが怖くて……!


「ああもう! レオンコレ!」

「あっ、貴様!」


俺はレオンに聖剣を手渡し乱暴に腕から脱出すると、方向転換してヨハンへと走り出す。


「レイナを頼む! あと目が覚めたら絶対に戻ってくるだろうから、全力で阻止! そんですぐにリーン達を呼んできてくれ!」


俺はそう振り返りながらレオンに言い放ち、ヨハンに向かって走り出した。

そんな俺を、ヨハンが哀れな奴を見る目で俺を見てくる。


「バカだろ、何のため実力差を見せたと思ってるんだよ。それにあんなのでもコイツが囮になって……」


そう言い掛けたとき、ヨハンの顔が不気味に歪んだ。

その瞬間、俺の全身の毛穴がブワッと開いた。

まるで、悪魔のような顔だった。

いや、悪魔なんて比じゃない。

邪悪な人間の悪意の具現化のような、そんな悍ましい顔。


「まさか……」


その瞬間、ヨハンは今まで無視し続けていたセルシオに掌を向けた。

そして俺はこの時ヨハンの考えを察した。

俺はセルシオに向かって手を伸ばす。

届かないと分かっている。でも……。


「逃げろおおおおおおおおおおお!!」


俺が叫んだ瞬間、セルシオの腹に複数の剣が突き刺さった。


「ぁ……ガフッ……!」


セルシオはしばらく何が起きたか分からない顔をして固まっていた。

しかし剣が乱暴に引き抜かれると、口から血を吐き出し、その場に崩れるようにして倒れた。


「セルシオさんッ!!」

「待てこの……ええい、助けを呼ぶまで死ぬなよリョータ!」


走り出した俺を見てレオンはしばらくその場で躊躇うが、すぐに走り出した。

そんな俺は絶好の的のはずなのに、ヨハンは何も攻撃をしてこない。

あえて、セルシオの元へと向かわせるように。


「しっかりして下さい! オイ、しっかりしろセルシオ!」


セルシオの傷口から、かなりの量の血が流れ出す。

俺は外したマントで傷口を塞ぐが、マントに染みた赤い血が止まることなく広がり続ける。

それとは対照的に、セルシオの顔が徐々に白くなっていく。


「ふざけるなよ、俺なんかのために死なないでくれ! アンタが死んでいいはずがないんだよ! セルシオ……ッ!!」


セルシオが刺されたのはヨハンが挑発に乗ったからじゃない。

ヨハンは、俺が絶望するのを見たかったんだ

たったそれだけのために、セルシオを刺したんだ。


「クク……ッ……アハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


ボロボロと涙をこぼす俺を見て、ヨハンが今までで一番耳障りな声を出して笑ってくる。


「たかが兵士一人死んだ程度で魔王が何泣いてんだよ! それにソイツ、このオレに刃向かっておきながら一撃でやられやがって! 本当にダサい奴だな!」


……ああ、そうか。

今やっと実感した。

ここは日本とは全く違うんだ。

ここがゲームの様な世界でも、全てが殺るか殺られるかなんだ。

寧ろ今まで人が死ぬところを見なかったのが奇跡だったんだ。


「あ~あ。作戦は失敗して、屋敷は燃やされて。その全ての切っ掛けを作った君から、全部奪ってやろうって思ってたけど……今はそんな時間無いしな」

「――ぁがッ!」


俺の脳天に強い衝撃が走り、視界が揺らぐ。

そして身体が、勝手に横に傾いていく。


「ソコで寝ててよ。勇者一行も魔王軍も全員殺してから、ちゃんとその代償を払わせるから」


ああ、ダメだ……止めろ……。

もうこれ以上、誰にも死んで欲しくないんだ……。

絶対に……絶対に……。

絶対に――。






「――ぅ、ううん……」


アレ……私、いつの間に気を失って……。

それに……誰かに担がれてる……?

うっすらとした意識の中、私はゆっくりと目を開けた。


「レ、レオンさん……?」

「む。目が覚めたか。ならばこの聖剣を持ってくれぬか。握った手が痛くてたまらんのだ」


するとそこには、レオンさんの顔があった。

でも、何で私はレオンさんに運ばれて……。

そうだ、私はヨハンさんに不意打ちを食らったんだ。

アレ、でもおかしいな……。

私は魔王さんと一緒に居たはずじゃ……。


「ま、魔王さんは!?」


魔王さんの事を思い出した瞬間、私の意識が一気に覚醒した。

そうだ、私が気絶している間、魔王さんはどうなったの!?

するとレオンさんは、険しい顔をして前を見据えた。


「あのバカ者、今一人でヨハンの元にいる。我と一緒に助けに来たセルシオ……我々をここまで運んだ兵士がやられ、助けにいっているのだ。だかかなり気が動転していた」

「えっ……」


そんな……。


「あ、あの、降ろして下さい! 助けにいかないと……!」

「そうしたいのは山々だが、リョータから貴様が戻るのを阻止しろと言われている。それにその怪我、これ以上動くのは危険だ」

「でも……!」


そう言うレオンさんだけど、明らかに顔に心配の色が浮かんでいる。

私があの時、ちゃんとトドメを刺していたら……これ以上、誰も傷付くことはなかったのに……。

私が手を握る力を強め、そう後悔していた時だった。


「レオン、レイナ!」


その声に視線を上げると、そこにはこちらに大きく手を振っているリーンちゃんがいた。

しかも、ハイデルさん達やジータちゃん達までいる。


「おお、貴様ら! 無事だったか!」

「レオンこそ! 心配していたのですよ?」

「それより、何でレイナちゃんをお姫様抱っこしてるの? 浮気?」

「浮気する以前に我に恋人などいないわバカ者! フィア、此奴を頼む!」


大きく息を吐いたレオンさんに、ハイデルさんとローズさんがそう言って駆け寄る。


「い、今すぐ回復するです!」

「オイ、大丈夫かよレイナ!? 血が……」

「まさかレイナがここまでやられるなんてね……やっぱりあのヨハンって奴、強いね」

「みんな……」


レオンさんから降ろされた私に、皆が心配そうに駆け寄って来る。

みんなの顔を顔を見た瞬間、少し元気が出た。


「アレ? レオンさん、お兄ちゃんはどこに?」

「そうだ、魔王さんが! あう……!」

「う、動いちゃだめですよ!」


辺りを見渡していたリムちゃんのその言葉に、私が立ち上がろうとしたけど、そのままよろけてしまった。

フィアちゃんが私を支える中、リーンちゃんが腰を落として私の目を見てきた。


「リョータがどうしたの?」

「魔王さん、今もヨハンさんと戦ってるの! このままじゃ魔王さんが……!」

「……分かった、今から行くわ。レイナも、よく頑張ったわね」


リーンちゃんは優しい目で私を見て、頭を撫でてくれた。

だけどすぐに鋭い目になると、立ち上がって私達が来た方向を見据える。


「……皆、先に行ってるわ」


それだけ言い残し、リーンちゃんは走って行ってしまった。


「あっ、待て! クソッ、オイ貴様ら、リーンに続くぞ! 現在ヨハンはユニークスキルを暴走させる薬を自ら服用し、とてつもない力を得てしまっている! リーンが相手でも、精々何分持つかだ!」

「そんな……じゃあ、今戦ってるお兄ちゃんは……」

「リョータならきっとまだ生きている! 彼奴が弱いがしぶとさだけはあるのは我々が一番知っているだろう」


口元に手を当てて動揺しているリムちゃんに、レオンさんが安心させようとそう言うが、声に焦りが混じっていた。

それを見ながら、私は自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。

もうこれ以上大切な人達に傷付いて欲しくないのに、結局皆に迷惑を掛けてしまった。

私は勇者なのに、皆を守らなきゃ行けないのに、何も出来ないで……。


「レイナ……? どうした、泣いてんのか……?」

「エルゼちゃん……」


思わず涙が零れてしまった私に、エルゼちゃんが心配そうに頭を撫でてくれた。

……ううん、自暴自棄になっちゃダメだ。

今、後悔してる場合じゃ無い。

このままじゃ、もっと後悔することになるかもしれないから。


「……ありがとうフィアちゃん」

「あっ、レイナ!? まだ回復が終わってないですよ!?」

「ゴメンナサイ、レオンさん! やっぱり私も行きます!」

「あっ、コラッ!」


私はレオンさんの静止を聞かずに、そのままリーンちゃんの後を追った。

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