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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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間話 バルファスト魔王国防衛戦(後編)


「『フレイム・ブレイド』!」

「クッ……!」


カロリーナの炎の斬撃を、クラインは真正面から盾で防ぐ。

しかしその炎の熱が凄まじく、盾から伝わった熱がクラインを襲う。

だがカロリーナの隙を作るには十分だ。


「だあッ!」


カロリーナの背後から、ヒューズが大剣で斬りかかる。

だが、カロリーナはヒューズを一瞥すると。


「フッ!」

「ッ!?」

「のわッ!?」


身体を捻るとクラインの盾に回し蹴りを放ち、同時に正面でヒューズの大剣を受け止めた。

クラインは回し蹴りの威力に後方に吹っ飛び、ヒューズはそのまま自分ごと弾き返されてしまった。


「チッ、なんちゅう力だ……! リーンと互角じゃねえのか……?」

「いや、恐らく魔法剣で威力を上げているのだろう。だとしても、全く隙がない……」


地面に着く前にに体勢を立て直した二人は、同時に何人もの冒険者を相手するカロリーナの動きに生唾を飲み込む。

魔法剣から放たれる強力な斬撃に迂闊には近づけず、仮に同時に攻撃できたとしても、それら全てを避けるか弾いてくる。


「隙ありッ!」

「っぶね!? んの!」

「ゴハッ!?」


しかし、カロリーナだけに気を取られてはいけない。

炎の壁を消されてしまった今、他のアダマス教徒も次々と加勢しに来ている。

カロリーナを何とかしなくてはならないが、そちらにばかり人力を割ける訳にはいかない。


「レベルの低い奴は周りの連中を頼む! 俺達辛うじて戦えてる奴はそのままこの女を食い止めろ!」


背後から襲いかかってきたアダマス教徒を殴り飛ばすと、ヒューズはすかさず指示を出す。

アダマス教徒達の足は何とか食い止めているが、カロリーナは着実に正門に近付いてきている。

門が降りていると言っても、あの魔法剣の斬撃を前には無意味に等しいだろう。


「せめて、コイツを足止め出来れば……!」

「それじゃあ、私に任せて」

「うおおおお!? サ、サラさんいつ降りてきた!?」


いつの間にか隣に立っていたサラに、ヒューズは目を見開く。

サラは少し笑っただけで何も返さず、そのままカロリーナの前に立ち塞がった。


「ほう、次は貴女が相手か。私の斬撃を防いだ貴女だ、少し本気を出さなくてはな……」


そう言ってカロリーナはゆっくりと魔法剣を構えると、口角を上げながら、しかし鋭い目つきで。


「さて、貴女を殺し、敵の士気を削ぐとするか」


殺意を込めた言葉と共に、魔法剣がカロリーナの魔力に包まれた。


「フフッ……やってみなさい」


それに対して、サラは背筋が凍るような冷たい笑みを浮かべる。

その瞬間、サラの全身から高密度の魔力が噴き出す。

魔法使いでなくても、サラが本気その場の全員が察することが出来た。

カロリーナとサラ、二人の強者のオーラはこの場の空気を一気に飲み込んだ。


「『フレイム・ブレイド』!」

「『アクア・キャノン』!」


同時に放たれた炎の斬撃と水の砲弾は正面衝突し、その場で激しく拮抗する。

やがて二つの魔法は爆発するように弾け、水蒸気と共に爆風が吹き荒れた。


「おわあああああああああああああぁぁ!?」

「何だこの威力……!? レベルが違いすぎるだろ……!!」


アダマス教徒と冒険者達が吹き飛ばされていくが、二人はすかさず魔法を放つ。

それらが全がぶつかり合い、爆発し、平原の至る所にクレーターが出来ていく。

過去、この平原でブラックドラゴンが襲来したことがあったが、その時よりも被害が大きい。


「いや確かに足止めにはなってるけどさ! 俺らまで巻き込まないでくれ!」

「ゴメンナサイね~!」


地面に突っ伏し頭を抱えるヒューズに、サラは魔法を放ちながら謝る。

だが魔法の威力を下げる気はないらしい。

一方カロリーナは、少しではあるがサラに魔法で押し負けていることに舌打ちする。


「チッ、流石に強いな……ならば」

「オイ、アイツ突っ込んできたぞ!?」


カロリーナが魔法の嵐の中に突っ込んで行ったことに。周りの冒険者が目を見開く。

しかしそれだけではなかった。


「嘘だろ、全部避けてやがる……!」


自分に向けられているサラの魔法を躱し、魔法剣で切り捨て、サラに近付いていく。


「皆、少し離れてて~!」

「えっ、離れろって……ってオイマジかよ、逃げろお前ら!」


上級魔法を放つため、サラが詠唱を開始したのを見た冒険者達は、一目散に逃げていく。

そしてカロリーナが、もうすぐ目の前まで迫って来た瞬間。


「『ゴット・フレア』!」


カロリーナの目の前に、先程の炎の壁よりも強力な炎が出現した。

その火力に周りの草が灰になり、熱波が近くに居たアダマス教徒を襲う。

しかしカロリーナは、その炎に怯むことなく、寧ろニヤリと笑い。


「そう来ると思っていたぞ!」


真っ正面から、魔法剣で炎を切り裂いた。

するとカロリーナの魔法剣の刀身が光り出し、切り裂いた炎を全て吸収しだしたのだ。


「へえ、私の魔法を吸収したの?」

「それだけではないぞ」


するとカロリーナは、炎のように紅く光る魔法剣を振り抜いた。


「お返しだッ! 『フレイム・フレア』!」

「……ッ!」


サラはすかさず防御結界を張る。

だが、その威力に耐えきれず、サラは結界ごと後方に吹き飛ばされた。


「キャ……!」

「サ、サラさん!?」

「サラさんが魔法で押し負けたのか!?」


地面に座り込むサラに、慌てて周りの冒険者が駆け寄る。

サラは痺れているのか小刻みに震える手を押えながら、カロリーナの魔法剣を見る。


「イテテ……ううん、私の魔法を吸収して放出、しかも自分の魔力を上乗せするなんてね」

「じゃ、じゃあ……」

「うん。単純な魔力なら私が上だけど、あの魔法剣がある限り、私の攻撃が倍になって返ってくるだけ」

「そんな……サラさんでも勝てないなんて……」


その一人の言葉に、冒険者達の士気が一気に下がる。

目に見えるほどの絶望の表情に、カロリーナは勝ち誇った笑みを浮かべた。

だが。


「でも勝てないなんて言ってないわよ?」


立ち上がって再びカロリーナの前に立ち塞がったサラは、背中を見つめる冒険者達にいつものおっとりとした口調で。


「確かにこの戦いは私達にとって厳しいかもしれない。でも、諦めなければきっと勝てるはずよ~」


そしてサラは、もうすっかり明るくなり始めた空を見上げながら。


「それに、待ってないといけないもの」

「サラさん……」


それは自分達に向けてではない、遠くで戦っているであろう娘に向けた言葉。

しかしその言葉は、再び冒険者達に火を付けた。


「ああもうどうなっても構わねえ! とにかくやるぞ!」

「魔法剣さえどうにかすれば我々の勝ちだ!」


再び武器を握り直し、一斉にカロリーナに向かって行く冒険者達。

そんな彼らを見て、カロリーナはやれやれと肩を竦めながら。


「無駄な事を。このまま全員地に倒れろ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」


カロリーナは魔法剣を大きく振りかぶるり――。


「――総員、放てッ!」

「ッ!?」


突如後方から聞こえた声に、カロリーナは思わず振り返る。


「なあっ!?」


その瞬間目の前の地面が爆ぜ、カロリーナは地面を転がった。

それだけではない、平原のあらゆる場所で同じような爆発が起きる。

それを見てカロリーナは、瞬時に魔法による攻撃だと察した。

しかもそれら全てが、アダマス教徒達に向けられたもの。

だがおかしい、魔法使いは全員城壁の上に居たはずだ。

カロリーナは立ち上がると、魔法が放たれている方を見る。

そして、目を見開いた。


「ア、アレは……!?」


アダマス教徒を遙かに超える数の兵士が、整列していたのだ。

その手前には、杖を掲げた魔法使いも見える。

まさか伏兵?

しかし、このタイミングで伏兵は遅すぎる。


「だ、誰だコイツら……?」

「敵か……? しかし、明らかにアダマス教徒を攻撃していたが……」


近くで部下と同じ反応をするヒューズとクラインを見て、カロリーナは伏兵ではないと確信する。

では、この軍勢は何だ?

カロリーナが警戒しながら、その集団に近付いていく。

その時、遠くの山から顔を除かせた朝日が、堂々と掲げられ風に揺らぐ旗を照らした。


「あの紋章……フォ、フォルガント王国!?」


あの国旗は間違いなく、バルファスト魔王国の同盟国であり友好国、フォルガント王国のものだ。

だがいくら隣国だからと言え、この数を魔の森を越えるのは不可能だ。

自分達でさえ、魔の森を越えるために少数でここまで来たというのに。

それにまず自分達が気付かないはずがない。

何が起きているのか分からず混乱するカロリーナの前に、一人が歩み出てきた。


「どうやら、間に合ったようだな」


高貴な鎧を身に纏い、そう上からも分かるほどたくましい身体をした男の声が、シンと静まり返った平原に響く。

その場の全員が朝日に眼を細め、誰だと首を傾げる中、カロリーナ一人だけが更に目を見開いて後退る。


「な、何故だ……何故ここに居る……!?」


以前、この作戦が行われる前。

勇者一行の次に、ヨハンが警戒すべきだと言っていた人物。

自分の『娘』に次ぎ、フォルガント王国で最強と謳われたその男の名は。


「アーノルド・ブライド・フォルガント……ッ!」


フォルガント王国現国王は、静かに笑いながら剣を掲げた。


「さあ覚悟しろ、アダマス教団」




――先日、リョータ達がソルトの町へ向かうため宮殿に立ち寄ったときの事。


「あの、フォルガント王さん、あともう一つお願いがあるんですが……」

「ん? 何だね?」


補給物資を運ぶ馬車が出発する直前、リョータがフォルガント王にある物を手渡した。


「これは転移版か?」

「はい。転移先はバルファストに登録してあります」


リョータの説明はこうだった。

まず、王宮魔術師の誰かにこの転移版を使ってバルファスト魔王国に転移して貰い、自分のテレポート先にバルファスト魔王国を登録する。

そして数時間置きに、国の様子を見に来て欲しいという。


「そんで、もしバルファストが危険な状態になっていたら、助けに来てくれませんか?」


テレポートは最大五人しか同時に転移出来ない。

しかしその五人が魔術師で、全員テレポートを使えれば、一度に転移出来る人数が二十五人となる。

そしてそれを繰り返せば、魔術師の限り一度に転移出来る人数が増えるのだ。


「勿論、騎士団が遠征に行っててフォルガント王国の守りが薄い事は承知の上です。だけどどうか……」


そう言って頭を下げたリョータに、フォルガント王は思わず感服した。

レイナから聞いた話だが、元々彼は遠い国の出の、何の変哲もない小市民だったという。

しかし国民のことを思い目の前で頭を下げる彼が、とてもただの少年だとは思えない。

フォルガント王は静かに笑うと、リョータの肩に手を置いた。


「頭を下げんでも、そのぐらいいいさ」

「フォルガント王さん……!」


応えを聞いて表情を明るくするリョータに、フォルガント王はニッと笑って見せた。


「もし無事にこの戦いが終わったら、また酒を飲もう。今度はちゃんと毒味してな」

「はい、喜んで!」






「――何故だ、何故……!」


次々とフォルガント兵にやられていく部下を見ながら、カロリーナは唇を噛み切らんばかりに食いしばった。

後もう少し、後もう少しで魔族を皆殺しに出来ていたはずなのに。

もう少しで、主であるヨハンに褒められたのに。


「うあああああああああああああああああああああああッ!!」


カロリーナはヤケになると、兵士に介保されている冒険者に突っ込んで行く。


「うわっ、こっちに来た!」

「死ねええええええええ! 『フレイム・ブレイド』オオオォォ!」


だが斬撃が放たれる直前、横から魔法剣を受け止められた。


「させんぞ」

「なっ!?」


横を見ると、そこにはフォルガント王の姿が。

自分の全力を剣一本で受け止められ、カロリーナは驚愕するがすぐに距離を取った。


「どこの誰だか知らねえけど、スゲえこのおっさん!」

「無礼者、この方をどなたと心得る! フォルガント王国現国王、アーノルド・ブライド・フォルガント様であらせられるぞ!」

「マジかよスゲえ! よし、お礼に後で奢るぜおっさん!」

「なああああああああああああああああッ!?」

「ハッハッハッ! 流石リョータ殿が治める国だ。よし、後は任せろ!」


王様だと知っても悪びれないその冒険者の態度に思わず笑ってしまうフォルガント王を見て、カロリーナは目を吊り上げる。


「アーノルド・ブライド・フォルガント、何故貴男がここにいる!?」

「何、娘達だけに身体を張ってばかりさせられんからな」


フォルガント王は顎髭を撫でながらそう返すと、ゆっくりと剣を構え。


「それに、私はこの国の魔王に命を救われた事がある。その恩を返したかった」

「ッ!?」

「さあ、これ以上好きにはさせんぞ、アダマス教団」


勇者レイナに劣らないどころか、それ以上の覇気を放つフォルガント王に、カロリーナは息を呑む。

いくらレイナと言えど、自分の倍以上の鍛練を重ねてきたフォルガント王のプレッシャーには敵わない。


「く、くそおおおおおおおッ!」


カロリーナは残りの魔力全てを魔法剣に注ぐと、フォルガント王に斬りかかった。

せめて、この男だけは倒さなくてはならない。


「『フレイム・ブレイド』――ッ!」


今までで、一番激しく燃え上がる業火の斬撃。

それに対し、フォルガント王は真上に剣を振り上げると。


「ハァッ!」


そのまま地面に叩き付けるように、豪快に振り下ろした。

その刹那、地面を揺るがす程の衝撃波が生まれ、業火の斬撃を打ち消した。

フォルガント王の剣はカロリーナの魔法剣と同じような美しい装飾が施されているが、決して魔法剣ではない。

魔法剣の力ではないただ純粋な斬撃は、カロリーナの全力を打ち破ったのだ。


「嘘……だ……」


その言葉を最後に、魔力切れをおこしその場で倒れたカロリーナ。


「ああ、そんな、カロリーナ様が……!」

「クソ、もう終わりだ……!」


自分達の最高戦力を失い、負けを確信したアダマス教徒達がその場で膝を突く。

もう、戦おうとする意志のあるアダマス教徒は居なかった。


「やった……勝った……」

「ああああああ、もう生きた心地しねえ……!」


一晩中戦い続けていた冒険者達は、緊張の糸が解けたのかその場に座り込む。

そんな彼らを見て、フォルガント王はその場で剣を掲げた。


「よくぞここまで粘った、魔族達よ! 我々の勝利だ!」


その瞬間上がった歓声は、一晩に渡る壮絶な戦いの終わりを告げたのだった。

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