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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第二十話 力の進歩は今日も荊棘だ!⑤


「……そろそろいいかな」


甲冑の影の中に潜むこと数十分。

辺りに人気を感じなくなったのを確認し、俺とレオンは影の中から出てきた。


「よし、アダマス教徒達は外に出たようだな」


ちなみにその間、俺が先程言い掛けたヨハンのユニークスキルの予想やこれからの行動の段取りを話しておいた。


「早く行こう、この暗闇の中アイツらはあまり早く行動出来ないだろうし、その隙にアイツらを追い越したい」

「そうだな。敵が疲弊してようと、この時間の奇襲されれば我々にはかなり厳しい」


レオンの言う通り、敵が疲弊していると言う事はこちらも疲弊していると言う事だ。

しかも今夜は一回、ヨハン単独ではあるが奇襲があった。

少なからず警戒はしているだろうが、どこかでは流石に二回目はないだろうと思っているかもしれない。

そこにあの数の敵が押し寄せてきたら、間違いなくあの拠点は死屍累々の山と化してしまう。

それだけはどうしても避けたい。

俺は魔眼と隠密スキルを駆使し慎重に、尚かつ素早く倉庫室がある二階を目指す。

見張りの数がだいぶ減ったのが幸いだ。


「『スパーク・ボルト』……!」

「ぐあぁ……!?」

「フンッ」

「あがぁ……!?」


その道中で見掛けた見張りは後ろから静かに襲いかかり、次々と気絶させていく。

もし敵に見つかって味方を呼ばれてもいいようにだ。

そして気絶させた見張りはその辺の空き部屋に放り込んでいく。

まるでゲームのスニークキルでもしているようだ。

今の俺達には道具もなければ大佐もいないが。

それを数回繰り返して、俺達は二階へと辿り着いた。


「レオン、この先右曲がって突き当たり真っ直ぐだ」

「うむ」


俺達は目的地が目の前だとつい足早になってしまう。

油断とはまさにこの事だろう。

俺がそのまま突き当たりの角を曲がろうとしたその時。

――俺の目の前に、何かが飛び込んで来た。


「わッ!?」


俺は反射敵に身体を仰け反らせると、俺の舞った前髪の毛をそれが掠める。

そして俺が尻餅を付くと同時に、壁に当たり跳ね返ったそれが俺の手元に落ちた。

見てみると、それは一本の矢。

それを見た瞬間俺は全てを理解し、今度座った状態から身体を捻る。

すると俺が座っていた地面に別の矢が刺さった。


「リョータ、大丈夫か!?」

「ギリギリな……しっかし」


先程曲がったばかりの角に身を隠し、俺はそっと矢の飛んできた方向を見やる。


「何でアイツがここに居るんだよ……!?」


そこには、ジッとこちらに弓を引き絞っている一人の少女が。

アイツはヨハンのハーレムの一人にして超スゴ腕の弓使い、ルチアだ。


「…………」


ルチアは相変わらず何も喋らず、ただ角から飛び出してくる俺達を待っているようだ。

しかし、本当に何でアイツはここに居るんだ?

てっきりヨハンの所に居るかと思ったのに……。

まさかいつか俺達が脱出するし、そのまま倉庫室に行くだろうと読まれてた?

だから見張りにコイツを置いたのか?

だとしたらやるじゃねえかよ、あのハーレム野郎。

ここは幅は広いとはいえ一本道の廊下。

そしてルチアまでの距離はかなりある。

遠距離攻撃を持たない俺達に、あの正確すぎる弓は圧倒的に不利。

いい人選だぜ畜生。


「リョータ」

「分かってる、このままここで時間食ってる場合じゃねえ」


だけどどうしよう。

正直さっき矢を二回も躱せたのはまぐれに等しい。

このまま倉庫室に向かうには、クラインが持ってるような盾がないと不可能だろう。

とここで、ジッと角からルチアを睨みつけていたレオンが。


「……ここは我が引き受ける。貴様は地下牢に捕らわれた兵士を助けに行け」

「はっ!? お前……!」


何でまたそんな死亡フラグの代表例みたいな事言っちゃうかな!?

そう言い掛けた俺に、レオンは。


「どうせ貴様は『ふらぐ』とやらを気にしているのだろう? だが今はそうするしかない。なに、勝つ算段がないわけではない」


そう言うと、レオンはクイと顎を上げ廊下を見るよう促す。


「廊下の装飾や甲冑に影が出来ている。それを辿っていけばギリギリ奴に届く」


確かに少し隙間はあるが、あの影を辿っていけばグンと近づける。

だがアイツの弓の腕を侮ってはいけない。

あの長距離からの正確な狙撃。

少しでも隙を見せたら、ヘッドショット間違い無しだ。

なんて考え込みながら戸惑う俺に、レオンはフッと笑ってきた。


「貴様は先程我に言ったな、我は弱いが何もない訳ではないと。確かにそうかもしれない……だが、やはり弱いままなのは頂けない」


するとレオンはマントをバサッと翻して。


「この我がこんな女一人に臆してられるか! 何故なら我は魔王軍四天王にして、闇を司り影を操る夜の王、レオン・ヴァルヴァイアなのだからッ!!」


……今のレオンの発言は、ただの意地みたいなものだ。

意地を張っても危険何は変わらないし、強くなるわけでもない。

だけど。


「オッケー、分かった。でも少しぐらい、手伝わせてくれ」

「何をする気だ?」

「ちょっと目瞑ってな」


俺はレオンに不敵にそう笑うと、上半身だけ角から身を乗り出す。

するとルチアは俺に標準を向けようとして。


「『フラッシュ』ッ!」

「……!」


その隙に、全力の閃光魔法をお見舞いしてやった。

いつもより眩しいその光は、遠くに居るルチアの視界をほんの一瞬奪う。

その瞬間、レオンが角から飛び出していった。

……俺が何故レオンにここを任せたのか、自分でも正直よく分からない。

勝てる確証があった訳じゃないし。

でも、レオンならきっとルチアを倒すんじゃないかと、何となく思ったのだ。

きっと俺は、レオンを信頼してるんだろう。


「レオン!」


俺は、すぐ側の甲冑の影に飛び込んだレオンの背中に向けて。


「そう言い切ったんだから、サッサと勝ってこいよ、親友!」


影の中に消える直前、チラと見えたレオンの口元が、少し笑っているような気がした。





「――ハァ、ハァ……!」


ルチアをレオンに任せて、俺は廊下を駆けていく。


「!? 誰だ……!?」

「魔王様だこんにゃろう!」

「ヴッ!?」


途中で通り過ぎる見張りに腹パンをお見舞いしつつ、一階の階段を降り、そこから真っ直ぐ進んでいく。

すると目の前に、今まで綺麗だった廊下から一転、薄暗い石造りの階段が見えた。

ここが地下牢の入り口だろう。

俺は呼吸を整えると、今度は慎重に階段を降りていく。

壁に固定された篝火の灯りがあっても、不気味なほど薄暗い。

階段を降りた先には、いかにも地下牢と言った空間が現れた。

俺は両サイドに鉄の格子を覗き込みながら奥へと進んでいくと。


「あっ、居た!」

「!? その声は……!」


一番奥の牢屋の中に、鎧を剥がされたセルシオの姿を見つけた。

俺は素早くポケットから針金を取り出し、鍵穴に突っ込む。


「大丈夫、今出しますから!」


そう俺が安心させるようニカッと笑うが、セルシオは何故か必死な顔をして。


「ここは危険です、すぐに逃げて下さいッ!」


危険?

でもここには俺とセルシオしか居ないが……。

そんなセルシオの切羽詰まった声に、俺が首を傾げたその時。


「オラッ!」

「ンブッ!?」


いきなり野太い男の声と共に、俺の左の脇腹に鋭い痛みが走った。


「ガァッ!? ゲホゲホッ……!」


俺は地面をゴロゴロと転げ回り、脇腹を押えながら咳き込む。

上手く呼吸できねえ……何だ……!?

すると、野太い男の笑い声が地下牢に響いた。


「ハッハッハ! 人質の見張りなんて退屈な仕事押し付けられたと思ったが、受けて良かったぜ。わざわざこんな上玉が来るなんてな」

「なぁ……!?」


声の方向を見てみると、そこには高身長の男が腕を組みながら仁王立ちしていた。

コイツ、どこから現れた!?

今までそこに居なかったよな!?

困惑している俺を実に愉快そうに見下ろしながら、男は鼻を鳴らす。


「お優しいこった。こんな何の力も無いただの雑魚兵士をわざわざ助けに来るなんてな。いや、優しいって言うよりただのバカか?」

「随分と言ってくれるじゃねえかコラ……」

「おっ、まだ強がるか? いいねぇ、おらぁそういう女が好みなんだよ。そして、その女を痛めつけて犯すのもなぁ……」


俺がヨロヨロと立ち上がりながら吐き捨てると、男は舌舐めずりをして嫌な笑みを浮かべる。

うわぁ、またかよ畜生……!

俺女になってから敵さんにモテまくりじゃねえか、嬉しくねえ!

だったら普段の俺が女の子にもてないのはおかしいだろが!

なんて思ったものの、俺は身構えて相手を観察する。

装備は腰のタガー一本と軽装備。

そして一見ヒョロッとしてるが、かなりがたいが良い。

アサシンとかシーフとか、そこら辺か?

多分、隠密スキルを使って潜んでいたのかもしれない。

魔神眼を持ってても、最初から気配を消されるとどこに潜んでるかなんて分からないからな。


「早く、私の事はいいから早く逃げて下さい!」


ジリジリと後退る俺に、セルシオは鉄格子を掴みながら必死にそう俺に呼び掛ける。

だが俺はルチアをレオンに任した。

なのに俺だけ逃げるなんて事は出来ない、出来るわけがない。


「……バルファストは節度を守った変態ばっかだが、そちらさんはただの性犯罪者ばかりだな」

「ああん?」


俺の挑発に、男はカチンと来たように目をヒクつかせる。

そんな男に、俺は拳を握り締めて。


「いいぜ、やってやるよ。テメエみたいな性犯罪者より、俺みたいな変態の方が格上だって教えてやるぜ!」

「何言ってんのか分かんねえけど、やる気なら掛かってこい! 目一杯遊んだ後に、メチャクチャにしてやるよ! テメエが泣いて謝る姿が目に浮かぶぜ!」


負けられない戦いがある。

譲れないこの戦争の勝利も、譲れない国民の命も。

そして、譲れない性癖も。


「第一、俺は調教プレイや拷問プレイは大っ嫌いなんだよ! 男は黙って、純愛一択じゃろがいいいいいいいいいいいいッ!」


俺はそう叫びながら、男に飛びかかった!

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