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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第二十話 力の進歩は今日も荊棘だ!③

俺達がこの客室に閉じ込められてから一時間ほどが経った。

大きな掛け時計によると、午後十一時に差し掛かろうとしていた。

レオンは何も喋らず、ただ鉄格子の窓から見える外を眺めている。

しかし、ただずっとこうしていた訳ではない。

ヨハンが去った後、レオンはシャドウを使って脱出を試みた。

影を伝ってドアの隙間から外に出ようとしたのだ。

しかしレオンは、影の中に入ることすら出来なかった。

もしやと思い俺もスパーク・ボルトや魔眼を発動してみようとしたが、出来なかった。

どうやらこの部屋は魔法を封じる効果があるようだ。

それから、レオンは落ち込んだように黙り込んでしまったのだ。

それなのに、窓の外をボンヤリと見つめる美少女という絵に、何かいいわと思ってしまう自分がいる。

他人からして見たら、この緊急事態に何思ってんだバカじゃねえのと言われそうだ。

なんて思いながら、レオンの背中をドアを背もたれにしながら見ていると。


「なあ、リョータ」

「うん?」


レオンが振り返らずに口を開いた。


「今回の戦いで、我に足りないものは何だと思う?」

「どうした急に? 大丈夫か?」

「うるさい。我に足りないものは何だと訊いているのだ」


いや、そんな事急に訊かれても……。

レオンに足りないものねぇ……。


「別に今回って訳じゃないけど、単純にステータスじゃね?」

「……フッ、やはりそうか。まさか貴様にそんな事を言われて、すんなり受け止めてしまう日が来るとはな」

「おおん? 喧嘩売ってんのかコラ」


俺の応えにまるで自嘲するように笑ったレオン。

本当にどうしちまったんだろう、レオンの奴。


「なあレオン、今お前が何考えてんのか訊いていいか?」

「…………」


今度は逆に俺がそう訊くと、レオンは少し黙った後。


「……我は今までこの能力に……シャドウに自信を持っていた」


そう、ポツリポツリと話し出した。


「先日ルボルが言っていただろう、ユニークスキルを所有する者はごく希であると」

「でも俺達の周りにいっぱい居るけどな、ユニークスキル所有者」

「たまたまだ。現に、バルファストでもユニークスキルを持っているのは我とハイデルを含めて五人も居ない」


俺の軽い返しに、鼻を鳴らしながら応えたレオンは自分の掌を握り締めた。


「我はその事にこの上ない自信を持っていた。だが今まで我は強敵と戦ってきて、苦戦して。そしてこの頃、我の能力はたかが影の中を出入りし、少し影を具現化することが出来る程度の能力だと思うようになった」

「…………」

「そして今も、こうして無様にやられ囚われの身だ……。我はシャドウを除いたら何もない。他の四天王より圧倒的に弱く、夜になったところで多少強くなる程度だ……」


段々と声のトーンを落としていき、再び黙り込んでしまったレオン。

コイツ、今の今までそんな事思ってたのか。

普段、闇を司り影を操る夜の王なんて格好付けているレオンが、こんなに落ち込んでいる。

先日ルボルに苦戦し、今ヨハンに呆気なくやられた事にショックを受けているのだろう。

それが何だか、らしくないというか……。

……嫌だな。


「はあぁ~あ」

「……?」


俺はわざとらしく大きくため息を付く。

するとレオンが首だけこちらに向けてきた。


「な~に辛気くさい顔してるんだよ。ってか、お前俺と出会った当初からもう雑魚だったぞ」

「ッ……。自分で言うのも何だが、もう少し言葉選びは出来んのか貴様は」

「ヘッ。いきなりシリアスな空気にしたお前が悪い」


俺の挑発にイラついたのか、レオンはクルリと俺に向き直ると眉をヒクヒクさせる。

そんなレオンに、俺は少々ため息交じりに。


「能力取ったら何も残らないかぁ……俺も同じこと考えてたな。自分から魔神眼を取ったら何も残らないって」

「そうか……嫌な似た者どうしだな」


レオンが俺と同じようにため息を吐く。

自分自身は何も凄くなんかない。

凄いのは、最初から授かったチート能力だけ。

魔王になったばかりの頃は、そう思っていた。


「けど、そんなに卑下する事じゃないんじゃねえの?」

「何?」


その言葉に、レオンがふと顔を上げる。

俺は自分の掌をジッと見つめながら、続けた。


「確かに前までそう思ってたさ。でも最近になって俺は、この眼に対して自信が持てるようになったんだ。ほんの少しずつだけど、扱いの精度が上手くなってるから。大事なのは、力がどうたらじゃなくて、その力とどう向き合っていくかなんだよ、多分」


自分の力に自信を持つことは悪いことじゃない。

色々大変な事に巻き込まれて、段々とそう思うようになってきた。

多分リーンだってレイナだって、少なからず自分の強さに自信を持ってるはずだ。


「それに、最初から自分には何もないって決めつけれる事もねえよ。俺がお前のユニークスキルに、お前の行動に何回命救われたと思ってんだよ? だから、たかが一回歯が立たなかったってだけで落ち込むなよ」

「た、たかがとは何だたかがとは! 我は……!」

「たかがはたかがだ、俺からして見ればな。俺がお前らに出会ってから、何回敵と戦ってボコボコにされてきてると思ってる? まともに格好良く勝った事なんて一度もねえぞ? それに比べたら些細なことだろ」

「クッ……何と凄まじい説得力だ……」


例を挙げるならブラックドラゴン、エドアルド、ジークリンデ、巨大ヘビ。

コイツらと戦ってきたが、俺は毎回命懸けのボコボコ状態だった。


「まあとにかく……」


俺はそう言うとその場であぐらを掻き、複雑な顔をしていたレオンにニヤリと笑ってやった。


「レオンは弱いけど、何もないって訳じゃねえよ」


レオンは確かに他と比べたら弱いだろう。

だけどコイツの行動力とか気持ちとか、単純な能力以外の強さなら他の奴らの比じゃない。

俺はレオンのそういうところを素直に尊敬しているのだ。


「……そうか」


俺の言葉に、レオンは静かに何度も頷くと。


「フッフッフッ……そうであった、我は何をあんなに落ち込んでいたのだろう」


なんてレオンは不敵に笑いながら俺を見据えてきた。

その眼は、いつもの強い眼だった。

そしてレオンは、バッとマントを翻して。


「我は闇を司り影を操る夜の王、レオン・ヴァルヴァイアである! 一度負けたからなんだ、今度は必ずぶちのめしてくれよう!!」

「よく言った! 久々に聞いたぜそのダサい決め台詞!」

「ダサッ……!? き、貴様本当に空気を読まんな!」






「――さて、そう言ったものの、どうやって脱出しようか……」


あれから向こう側に居る部屋の見張りにうるさいとドアを殴られた後、俺達は地面にあぐらをかき話し合っていた。

レオンはそう呟きながらツインテールの片側を弄りながら考え込んでいたが、ふとそのツインテールを見ると手を止めた。

どうやら無意識に弄っていたようだ。


「……そう言えば、我々は一体いつになったら元の姿に戻れるのだ?」

「あー……」


そういや俺達女なんだよなぁ……。

色んな事がありすぎて忘れかけてた。


「サラさんが言うには今夜中らしいけど……って事はおっぱいを揉めるのは今しかないって事か。よし、今まで我慢してたけど、捕まってしまったせめてもの慰めに……」

「させるか戯け。リーンに告げるぞ」

「……すいません」


どうやら俺は女になったというのに、一度もおっぱいを揉むことなく終わってしまうらしい。


「まったく、話を戻すぞ。もしここから出られたとして、問題なのはあの男だ。能力は謎だが、一騎当千の強者と見て間違いないだろうな」


確かにヨハンはチート野郎だ。

だけどそれは能力だけ見ればだろう。

ヨハンは高身長のイケメンだが、何となく体つきが華奢だった。

俺やレオンと違って、多分アイツは能力に頼り切っている。

それならば、その能力の対策を取れば勝ちだ。

それに……。


「その能力についてなんだけどさ」

「何だ?」


ふと首を上げて訊いてくるレオンに、俺は声を潜めて少し得意げに告げた。


「実は、予想が付いてる」

「な、何!? それは本当かッ!?」

「しーっ! 声デケえよ、静かにしろ! ってか顔近い顔近い!」


肩を掴んで顔を寄せるレオンに、俺は顔を逸らしながら念を押す。

コイツ、今の自分が美少女である事忘れてるな……。

レオンは自分の口に手を当てると、そっと訊いてくる。


「しかし、一体いつ予想が付いたのだ?」

「お前が外見てボンヤリしてた時だよ。俺達が連れてこられてここまで来る間、俺が感じた違和感の共通点を挙げてったら、今の結論に至った」

「…………」


そう言うと、レオンは複雑な顔をしてそっと俺から離れた。

そりゃまあ、自分が自分の弱さに打ちひしがれてる間に、俺がちゃんと色々考えてたって知ったらな。


「そ、それで彼奴の能力の正体は何なのだ……?」

「ああ、それはな……」


そう、俺がレオンに言おうとしたその時だった。


『ん? どうしたんだそんなに急いで?』


ドアの向こう側から、見張りの声が聞こえて来たのだ。

俺達は顔を見合わせると、一旦話を中断しドアにそっと耳を当てた。


『あ、ああ。それが、大広間に緊急招集が掛かってるんだ。何でも、今から敵の攻略会議をするってな』


すると見張りではない、もう一人の声が聞こえて来た。

魔神眼が使えないから透視できないが、どうやら見張りは男と話しているらしい。

しかし、こんな夜更けに攻略会議?

その俺の疑問を、見張りが代わりに言ってくれた。


『こんな夜更けにか? 前線で戦っていた奴らはだいぶ疲弊しているようだぞ?』

『ヨハン様はシェスカ様達の事しか気にしねえよ。俺達の気持ちなんて知ったこっちゃねえだろ』

『それもそうだな、ヨハン様だしな』


おや? 

ヨハンの奴、取り巻き三人衆には好かれているようだが、他の奴らにはよく思われていないようだ。

まあ、気持ちは分かる。俺も嫌いだ。

……しかし、見張りの気が逸れている今が、脱出のチャンスなのでは?


(リョータ?)


俺がそっとその場に屈むと、レオンが首を傾げた。

それを横目に、俺は今履いているスニーカーの隙間に指を入れた。

しばらくスニーカーの中をゴソゴソと探り、俺はそこからある物を取り出す。


(…………!?!?!?!?)


ワンテンポ遅れてレオンが驚愕しているのが見なくても分かる。

そんなことは気にせずに、俺は取り出したそれを鍵穴に刺す。

少しカチャカチャと音が鳴るが、幸い見張りは話に夢中で気付いていない。

そして五秒も経たずに、カチャリと音が鳴った。


(リョ、リョリョリョ、リョータァ!? 何なのだそれは!?)

(俺っち愛用、解錠用針金)


声を潜めながらも慌てふためくレオンに、俺はニヤリと笑って応える。


(そ、そうではなくだな!? 何故そんな物を持っているのだ!? 我々はここに入れられる前、身体検査をされて服以外の全てを没収されたはずだ!)


俺の刀やポシェットに入っている便利道具、スマホなどは全部取り上げられてしまった。

その際、身体検査をしていた女アダマス教徒の会話内容を聞くに、どうやら道具はまとめて倉庫室にしまってあるらしい。

では、何故今俺が針金を持っているのかというと。


(身体検査っつっても、流石に靴の中までは見なかったな)


俺はスニーカーの中、それも裏側の部分に針金を引っ掛けていたのだ。

空港の金属探知機ならば引っ掛かっているが、人の目ならばこれぐらいで余裕だろう。


(だ、だとしても、いつそんな物を仕込んだ! 貴様にそんな余裕は……あっ!)


レオンはそう言い掛けて、一層目を見開いた。


(屋敷に入る前か!)

(御名答~)


そう、俺達が屋敷に入る前、俺は隙を突いて靴紐を解きわざと転んで靴紐を結んだ。

その際、手に隠し持っていた針金をスニーカーの中に隠したのだ。


(どうせ牢屋かなんかにぶち込まれるって思ってたしな……っと)

『それじゃあ俺はもう行くからよ』

『ああ、遅れてヨハン様に殺されないようにな』


なんてレオンと話している間に、会話が終わったようだ。

男が離れるのを足音で確認すると、俺はコンコンとドアを叩いた。


『何だ?』

「ゴ、ゴメンナサイ、私ちょっとお手洗いに行きたくて……」


俺はありったけの萌えボイスでそう告げる。

わざとドアの前に誘い出して、そのまま襲いかかるためだ。


『ダメだ』

「そ、そんなぁ……! お願いします、もう我慢できないんです……!」


そう媚びるように言ってやると、


『そうか、漏れそうなのか……ならばそのまま漏らせばいいじゃないか。大丈夫、今ここには俺しか居ない。そして俺はここでその音を聞いてやるから』

「「…………」」


……ほんっと、アダマス教徒ってバルファストに負けず劣らずの変態集団だな。

レオンの顔が凄いことになってんぞ。


『どうした、漏らさないのか? 俺が今こうして、ドアに耳を当てて待っているというのに――』


――あっ、チャンス到来。


「どりゃぁ!!」

「あぶぁふぁッ!?」


俺がドアノブを回すと同時に全力でドアにタックルをかますと、ドアに耳を当てていた見張りが勢い良く吹っ飛んだ。


「な……!? 何故ドアが……!?」

「フンッ!!」

「ガァッ……!?」


地面に倒れ驚愕している隙に、レオンが飛び出し見張りの顔面に蹴りを入れる。

すると見張りはそのまま壁に激突し、鼻血を垂らしながら白目を剥いた。


「ナイスだぜ、レオン」

「フッ。リョータこそ、その抜け目の無さには敵わんな」


俺とレオンはそう言い合いながらグータッチをした。

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