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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第二十話 力の進歩は今日も荊棘だ!②

ヨハンとかいう奴が一人でここに乗り込んでから、一時間ちょっとが経った。

気絶していた騎士達も動けなかった私達も回復し、少しこの拠点が落ち着きを取り戻した。

だけど、状況は最悪。

あの男にフォルガント王国から一人。

そしてウチからは、リョータとレオンが連れ去られてしまった。


「ホントにマズいわね……」

「うん……」


本部のテントの中で、丸テーブルを囲うように座っている私達。

私のそんな呟きに、横に居たレイナが目を伏せながら頷いた。


「クッ……私が居ながら魔王様とレオンを連れ去られてしまった……! このハイデル一生の不覚……!」

「ハイデルさん一人の問題じゃないですよ……私だって、何も出来なかったですし……」

「そ、そうよ、私なんて寧ろ操られてた騎士ちゃん達を強くしちゃったみたいだし!」


心の底から悔しそうに唇を噛み締めるハイデルを、リムとローズが慰めている。

だけど二人とも、表情が暗い。


「とりあえず、現状を把握をしましょ。あのヨハンってアダマス教団幹部にリョータ達を連れ去られた。奪い返そうにも敵拠点が分からないし、私達が無闇に手を出したらリョータ達の身が危ない。正直、今の私達に出来ることは何もないわ……」


私がそう説明すると、ジータがため息交じりに呟いた。


「あの幹部、本当に何者なんだろうね?」

「ああ、あの能力……ユニークスキルなのは間違いねえけど、なんの能力なのかサッパリだ」


そう言って考え込むジータに、エルゼが腕を組みながら歯を食いしばる。

普通、ユニークスキルは一人につき一能力。

だけどアイツは空中に浮いたり、私達の身動きを封じたり、手を触れずに人を投げ飛ばしたり。

本当に何の能力なのか見当が付かない。

早く何のユニークスキルか特定しないと、あの男に勝つことは不可能だ。


「…………」

「……あの、リーンさん」

「ん?」


私が顎に手を当てていると、今にも泣きそうなリムが、恐る恐る袖を引いてきた。


「お兄ちゃん達は大丈夫でしょうか……? もし、何かあったら……」

「ううん、大丈夫よリム。さっきヨハンが人質って言ってたでしょう? 捕まえてすぐに殺したら、人質の意味なんてないもの」

「そ、そうだよリムちゃん! 魔王君達が余計な事をしなければ……きっと……」


そうジータもフォローしようとしたが、段々声のトーンが落ちていく。

それと同時に、一気にこのドンヨリとした空気が増した。

理由はもう分かりきってる。


「いや、リョータの奴、絶対余計なことするわ……」

「「「「「「「…………」」」」」」」


私の言葉に、この場の全員が押し黙った。

だって、あのリョータだし……。

絶対何かするし……。


「い、いや、魔王も流石に今の状況を理解してんだろ! なあ?」

「それでも絶対余計な事する。アイツ頭いいクセしてバカだもの」

「確かに、あの敵幹部ちゃん、いちいち腹が立つ様な事言ってたし……」

「絶対噛みついちゃいますよね……」

「ま、魔王様はそんな……! ……いえ、何でもありません……」


エルゼの言葉に、私達バルファスト組が口を揃えて否定する。

この半年で、アイツがどんな人間なのか十分分かっている。


「で、でも! レオンはどうです!?」


再び黙ってしまった私達に、フィアが少し食い気味に訊いてきた。

レオンね……レオン……。


「……いや、レオンも何かしそう」

「確かにレオンちゃんって、リョータちゃんに負けないくらい短気だもんね」

「寧ろお兄ちゃんに乗っかっちゃうかも……」

「ああッ! このままでは魔王様とレオンの命が!」

「え、ええ……?」


再び口を揃えて首を横に振る私達に、フィアが困惑した表情を浮かべた。

と、その時。


「ゴメンナサイ……」


今まで静かだったレイナが、いきなり謝ってきた。


「あの場で一番何かしなくちゃいけなかったのは、他でもない私なのに、何も出来ないでいて……。魔王さん達、怒ってるかな……?」


レイナは俯いたままで表情は見えないが、悔しそうに手を握り締めている。

……レイナには勇者っていう立場があるから、誰よりも責任を感じているんだ。


「レイナ、いい?」

「リ、リーンちゃん……?」


私はレイナの手を握ると、安心させるように撫でながら。


「確かにレイナには勇者って立場があるわ。でも、そんなに一人で背負い込もうとしないで? さっきもリョータが言ってたじゃない。それにアイツらの事だし、きっとヘラヘラ笑って気にすんなって言うはずよ」

「……うん……ありがとう……」


レイナは何度も頷くと、顔を上げて少しだけ笑顔を見せた。


「さ、いつまでもクヨクヨしないで、今私達がやるべき事をしましょ?」

「そ、そうだね」


そして私達は、テーブルに広げられた地図を見ながら、今後の動きについて話し合いを始めた。

……リョータもレオンも大丈夫かしら?

変な事しなきゃいいけど……。






「――バカにしてんのかコラ」


あの大部屋から連れ出された俺達は、とある一室に移動された。

そしてその部屋を見た瞬間、俺は開口一番にそう言い放った。


「何で?」


そんな俺に対し、ヨハンは訳が分からないと首を傾げる。

ちなみに取り巻きの女達とは一旦別れており、今はヨハン一人だ。


「何でって決まってるだろ……」


俺はヨハンを睨みつけると、部屋を指差しながら応えた。


「何が牢屋だよバカヤロウ! 完全にゲストルームじゃねえか!」


そう、牢屋だと言われ連れて来られた部屋が豪華すぎるのだ。

広さは魔王城の俺の部屋の倍以上で、部屋全体がキンキラキン。

壁には何個もの凄い額のしそうな風景画が金の額縁に納まり、天井には同じく金色のシャンデリアがぶら下がっている。

更に、いかにもお姫様の使っていそうなフカフカのベットや、クローゼットの中に収納されている何着ものドレス。

コレを見て牢屋だとどう判断できよう。


「確かに、ここは客人用の部屋さ。でも何の不満があるんだい? ベッドも付いてる、暖房も付いてる。寧ろコレで満足しないなんてちょっと贅沢じゃないの?」

「違うわ戯け」


腕を組んでう~んと唸るヨハンに、レオンが横目で睨みつけながら。


「貴様が我らをバカにしているようにしか思えんという事だ」


流石レオン、よく分かってらっしゃる。

攫われた敵に手厚くされたって嬉しくも何ともないし、逆にイラッとくる。

その事にヨハンも気が付いたのか、納得したように手を打つと平然とした顔で。


「いやぁ、オレってついつい女の子に優しくしちゃうんだよ。例え相手が敵で中身が男だと分かってるのにさ。うっかりうっかり」

「「…………」」

「えっ、何でオレから離れていくの? オレ変な事言った?」


身を寄せ合い部屋の隅に移動する俺とレオンに、ヨハンが訳が分からないと更に首を傾げた。

変な事言っただぁ?

普通に気持ち悪いわ!

何だよその露骨な『オレ、女の子に優しいですよ?』アピールは!

……いや、様子を見るに冗談でも格好付けでもなく、純粋に素のようだ。


「とにかく、部屋のもあるけど一番許せないのはセルシオさんの事だよ!」

「ええ? あの兵士ぃ?」


俺がセルシオの名を出すと、ヨハンは少し嫌そうな顔をした。

しかしこの場にはセルシオが居ない。

では、どこに行ったのかというと。


「何で俺らだけここで、セルシオさんだけ地下牢なんだよ!? 理不尽じゃねえか!」


そう、何故かセルシオさんだけが俺達と分離させられ地下牢行きにされているのだ。

もう腹が立ってしょうがない。


「はぁ? 君達魔王と四天王なんだよね? 何で他所の国のたかが一兵士の事なんか気にしてんの?」

「身分なんて関係ねえ! ただセルシオさんだけが冷たい地下牢に居て、俺達がベッド付きの客室に居るって事が気にくわねえんだよ! それなら俺はセルシオさんと一緒に地下牢に居た方がマシだ!」

「我も同感だ。ヨハンと言ったな、分かったらさっさと我らを地下牢に案内しろ」

「もう何なのコイツら……頭おかしいんじゃないの……?」


うるせえ、それなりの倫理性と客観性は持ち合わせてるわ!

頭を抱えていたヨハンは大きなため息をつくと、こちらを睨みつけてきた。


「あのさぁ、君達人質なんだよ? 立場分かってる? オレがその気になれば、君達なんてすぐに殺せるんだよ?」

「それじゃ人質の意味ねーじゃん。人質ってのは生きてて初めて成立するんだからな」

「はぁ……それじゃあ」


ヨハンはやれやれと肩を竦めると、少し楽しげに言い放った。


「君達が言うこと聞かないなら、あの兵士殺すよ?」

「なっ!?」

「別に君達が居るなら、あんなついでで攫ってきた兵士生かしておく必要ないしね。それが嫌なら、大人しくオレの言う事をきいてよ?」

「貴様、人として恥ずかしくないのか!」

「ああ、あとオレに対する暴言も禁止。分かった?」

「……!」

「ハハハッ、人質の人質ってところかな? 変なの」


もう黙ることしかなくなり、怒りに震えるレオンの横で、俺は少し呆然としてしまう。

殺すなんて言葉は、ぶっちゃけ誰もが使う。

リーンだってよく俺に対して『ぶっ殺すわよ!?』とか言ってくるし。

だけどコイツがアッサリ言った殺すという単語が、冗談ではなく本気の殺意を帯びているように感じた。

本当に、何なんだコイツは……。


「分かったら大人しくしててね? ああ、そこのテーブルにあるお菓子は食べていいよ?」


ヨハンはそんな余計なお節介を言いながら、ゆっくりとドアを閉め、向こう側からガチャリと鍵を掛けた。


「クッソ……あの男、とんでもないクズだな……!」

「……そーだな」


ヨハンが去った後、イラついているのか吐き捨てるように言ったレオンに、俺は短くそう返した。

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