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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第二十話 力の進歩は今日も荊棘だ!①

投稿が遅れてしまい申し訳ございません!(汗)



「起きろ、起きろって!」

「う……ううん……」

「しっかりしろよ、オイ!」

「……すう」

「起きろや!」

「ぶっ!?」


ペチペチとレオンの頬を叩いていたが、途中から寝息が聞こえやむを得ず全力で引っぱたく。

するとレオンは目を丸くして飛び起きた。


「こ、ここは……?」

「多分レイナ達の拠点と反対方向にある森の中だよ。風圧で目ぇ開けられなかったから、具体的な

位置まで分からないけど」


こめかみを押えて頭を振るレオンに、俺は辺りを見渡しながらそう伝える。

森の木々は月の光をも遮り、暗黒に包まれている。

常人なら一寸先も分からないだろうが、俺とレオンが闇の中でも目が利くのが幸いだった。

しかし、それより目を引くのは今俺達の前にそびえ立つ巨大な鉄の門。

何故こんな場所にこんな物があるのか分からないが、錆など一切無く艶々している門が気になってしょうがない。

と、その時。


「ああ、やっと目が覚めたの?」

「ッ!? 貴様!」


今まで少し離れた場所に立っていたヨハンの存在に気付くと、レオンは座りながら身構えた。

そんなレオンに、ヨハンは軽く手を振りながら。


「ああ、大丈夫大丈夫。君達が人質である以上、無闇に殺したりしないから」


しかしレオンは心底訝しい様子でヨハンを睨んだ。


「……敵の言う事を信用出来るか。オイ、今ここで此奴を倒すぞ」

「そ。ならしょうがないなぁ」


ゆっくりと立ち上がったレオンの正論にヨハンはわざとらしく肩を落とすと、足下に掌を翳した。

その先にはもう一人、俺達と一緒に攫われた騎士が倒れていた。

それを見てレオンの動きが止まる。

この野郎、スカしたツラして人質取りやがって……。

それでも身構えるレオンの前に、俺は両手を挙げて割って入った。


「わーった、大人しくするよ。だからその手を下ろせ」

「へえ、君はちゃんと今がどんな状況分かってるんだね。結構肝が据わってるんだ」


本当は心臓バックバックしてて死にそうだ。

しかし俺は余裕の笑みを浮かべると、吐き捨てるように。


「ケッ。テメーが何の能力持ってるか分からずに戦う気なんざねーだけだよ」


しかもリーンもレイナも手玉に取ったんだ。

現時点の俺達じゃ逆立ちしたって敵わないだろう。

そんな俺の言葉を聞いてヨハンが数歩離れると、俺はその倒れている騎士に駆け寄った。


「大丈夫ですか……?」

「う、うう……ここは……?」


俺が身体を揺すると、その騎士はレオンとは違ってすぐに意識を取り戻した。


「確か食事中に敵襲があって……男と対峙して……意識を失って……」

「その男に俺達は敵の人質として、ここまで攫われちまったんですよ」


こめかみを押えて一つずつ出来事を思い出すように呟く騎士に、俺はあまり刺激しないように話し掛けた。

するとその騎士は俺の顔を目を凝らすように見て、すぐにハッと目を見開いた。


「あ、貴方は……」


ん?

よくよくこの人の顔を見てみると、どこかで見覚えが……。


「ってああ! 御者の兵士さん!」

「何? あの御者か?」


そう、今まで騎士だと思っていたその人は、俺達をソルトの町まで運んでくれた御者の兵士だった。

道理で他の騎士より軽装備なわけだ、よく見てなかったから気付かなかった。

まさかあの場に居て、しかもヨハンと戦っていたなんて。


「兵士さん、落ち着いて聞いて下さい。さっきも言ったけど、俺達は敵の人質として攫われちまいました。だけど今の俺達じゃコイツ相手に勝てる算段も逃げる算段もない。だから今はコイツに大人しく従ってくれませんか?」

「そーいう事」


そう俺が簡潔に今の現状を説明すると、兵士はヨハンの声を聞き息を呑んだ後コクリと頷いた。


「わ、分かりました。それと、兵士さんというのも何ですし、セルシオとお呼び下さい」


俺はセルシオの手を引っ張り上げて起こすと、ヨハンはパンパンと手を叩いた。


「それじゃあ移動しようか」


そう言ってヨハンはパチンと指を鳴らす。

すると目の前の鉄の門が音を立てながらゆっくりと開いていった。


「さ、早く着いてきて。ああ、あと足下気を付けてね」


コイツの余計な気遣いが癇にさわるが、俺達は黙ってヨハンの後に付いていった。

セルシオはこの暗闇では動けないだろうから、手を引いてあげる。

……しかしヨハンは何故この暗闇の中を迷い無く進めるのだろう。

さっき俺と話していたとき、コイツは俺の目を見ていなかった。

だからコイツはセルシオと同じくよく見えていないはずだ。

コレも何かの能力なのだろうか。

なんて考えていると、目の前にボンヤリと灯りが見えてきた。

バレないようにコッソリ千里眼を発動させて見てみると、ヨハンの言う通りそこには巨大な屋敷があった。

こんな森の奥深くに建っているのに、フォルガント王国の貴族の屋敷よりもデカく煌びやかで、とてつもない場違い感を醸し出している。


「な、何なのだこの豪勢な屋敷は!?」

「オレの屋敷だけど?」


巨大な屋敷を見上げながら後退るレオンに、ヨハンは少々自慢気味に返す。

多分レオンの訊いている事とは違う返答だと思う。

しかしコイツは一体何者なんだ……?

…………。


「多分王都でもここまで大きいのはないんじゃないかな? 元々オレの実家の屋敷を解体してここに再構築したものなんだけど、レンガや塗料なんかは一級品の物を使って――」

「――フギャッ!?」


ヨハンの自慢話を遮るようにズッコケた俺に、セルシオが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか!?」

「いや~、靴紐解けちまって……」

「こんな時に貴様は何をやっているのだ……」


慌てて靴紐を結ぶ俺に、レオンがゲンナリしたような顔で呟く。


「……じゃあ、入ろうか」


自慢話を遮られた事にイラついているのか、少しだけ声音が厳しくなったヨハン。

軽い嫌がらせが出来て、少し胸がすいた。





――この屋敷の中は、腹が立つほど綺麗で掃除が行き届いていた。

廊下には槍やら剣やらを構えた騎士の鎧が両サイドに立っている。

そんなキラキラして目が痛い廊下を進んだ先の、更に豪華絢爛な大部屋に通された。

そしてそこには。


「あっ、アイツら……」

「ただいまー」


今日俺達と戦ったお嬢様と魔法使い、それに弓使いの三人に、ヨハンは気さくに手を挙げる。

すると三人は顔を上げると。


「お帰りなさい!」


その内のお嬢様が、ヨハンに飛びついていった。


「もう、遅いですわヨハン様! いつまでワタクシを待たせるつもりでしたの?」

「ハハハッ、ゴメンゴメン」


お嬢様に抱きつかれ、軽く笑いながらその頭を撫でるヨハン。

その側に、魔法使いと弓使いも寄ってくる。


「お帰りなさいヨハン様、ご苦労様でした。きっとヨハン様の事だから、敵陣に爪痕を残せたことでしょう。流石です」

「…………」


魔法使いの言葉に、賛同するかのように頷く弓使い。

そんな二人の頭を、ヨハンは爽やかな笑みを浮かべて撫でる。

すると二人は、気持ち良さそうに目を細めた。

が、未だ胸元に抱きついていたお嬢様が不満げに。


「あっ、ズルいですわ! ワタクシももっと撫でて下さいまし!」

「もう、シェスカは独占欲が強いなぁ」


そんな光景を、見ていた俺はというと。


「ナニコレ?」


そう言うしかなかった。

ってか何だ、コイツ?

あんな美少女の頭を何の躊躇いもなく撫でれるなんて……。

いや、慣れていると言った方が納得がいく。


「な、何なのだ、此奴らは……?」

「シェスカは元々オレの知り合いの貴族令嬢。そしてミラとルチアはその使用人だったんだ。でも今ではオレの大切な戦力だ」


そんなレオンの呟きに、ヨハンはシェスカの頭を撫でながら返した。

コレでやっとコイツら全員の名前が分かった。

お嬢様がシェスカ、魔法使いがミラ、そして弓使いがルチアか。

しかし知り合いの貴族令嬢と使用人……?

って事は、やっぱりコイツも貴族かなんかなのか。

なんて思っていると、シェスカがドンと胸を張りながら声高々に。


「そして……ワタクシはヨハン様の婚約者でしてよ!」

「なん……だと……!?」


婚約者……!?

いや、確かに貴族なら若くして婚約者とか作っても別に違和感はない。

ないのだが……何だろう、この敗北感は……。

と、その時。


「シェスカ様だけズルいですよ! ミラだって、ヨハン様のお嫁さんになりたいのに!」

「……! ……!」


なんとミラがそうシェスカに言い放ち、ルチアが力強く頷いたのだ。


「ミラ、ルチア、何度も言っているでしょう。ヨハン様はワタクシの夫になる方ですわ!」

「そもそも、シェスカ様はヨハン様に一方的に婚約を言い寄ってるだけじゃないですか! いくらシェスカ様に仕えている身でも、そこは譲れません!」

「……! ……!」


一人の男を巡り、身分なんてお構いなしに言い合う三人の美少女。


「ふぅ……やれやれ……」


その光景をため息を付きながらも誇らしげに見ていたヨハンは俺に視線を向け……。


――その瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。


「オイ、リョータ!?」

「だ、大丈夫ですか!?」


急に床に両手を突き黙りこくる俺に、何事かとレオンとセルシオが駆け寄る。

そんな二人に、俺はポツリと呟いた。


「ま、負けた……」

「「え?」」


……俺がこの世界に来て早半年。

その間に色々な事があった。

ドラゴンと戦って死にかけたり、アダマス教団と戦って死にかけたり、ヘビと戦って死にかけたり、マッドサイエンティスト貴族と戦って死にかけたり。

そんな戦って死にかけてるばかりのこの世界で、俺には色恋沙汰のいの字もなかった。

なのに……なのにコイツは、まごう事なきハーレム野郎。

何故だ……何故コイツが……やはり顔と金なのか……?

と、酷く現実に打ちひしがれている俺を、不思議そうにヨハンが見てくる。

……しかしコイツらはいつまでイチャイチャしているんだ?

いい加減腹が立ってきた。


「オイコラ、いつまで俺達ほったらかしてイチャついてるんだ。わざわざこんなの見せに俺達を攫ったのか? ええ?」


ユラユラと立ち上がりながら皮肉全開で言ってやる。

するとヨハンはキョトンとした顔をして。


「は? いや、人質ってさっき言ったはずだけど? 話聞いてた?」


――ヨハンを殴りかかろうとしたが、後ろからレオンとセルシオに取り押さえられる。


「オイリョータ貴様、さっき勝てる算段がないなどと言っていたくせに、何をするつもりだ!?」

「落ち着いて下さい! 殺されてしまいますよ!」

「ああああああああああああああああッ!」


大人しく従おうと言っていたあの時の俺は何処ヘやら、俺は目を血走らせて怒鳴り散らす。


「テメエ、さっきから何なんだよ腹立つなァ! 俺や仲間を散々煽った上にいつまでもイチャイチャイチャイチャしやがって! チンコもぎ取るぞコラァッ!」

「な、なんて口の悪い……! 本当に女なんですの!?」

「うるさーい!!」


顔を引きつらせて後退るお嬢様を睨むと、ヨハンがこちらに掌を向けてきた。


「まったく、分かったからちょっとは静かにしてようるさいなぁ」

「グッ……」


目一杯睨みながらも大人しくした俺を見てため息を付くと、ヨハンはコホンと一つ咳をして。


「あとシェスカ、コイツは一応あの魔王ツキシロリョータだ」

「ッ!?」


今コイツ……!


「オ、オイ、何の根拠があってそんな事言うんだよ? 魔王ツキシロリョータは男なんだぜ?」

「確かに、オレの手元にある情報だと、魔王ツキシロリョータは男だ。だけど君、さっきからリョータとか魔王様とか呼ばれてるじゃん」


た、確かに、ハイデルとかレイナとか全力で俺に対して魔王って叫んでたもんな。

だけどそれだけで俺が本物だという事は分からないだろ。

そう言おうとした時だった。


「それに君とそこの君、この前勇者一行とアラコンダの所に行ったろ?」

「「なっ!?」」


指を差されその家名が出てきた瞬間、俺とレオンは同時に声を上げた。

何でコイツ俺とレオンがルボルの所に行ったことを!?

驚愕に目を見開いている俺達に、ヨハンは首を傾げた。


「アレ、アイツ言ってなかったの? 君達が倒したアイツ、ルボル・ウィル・アラコンダはアダマス教団の協力者だってこと」

「はあ!? アイツアダマス教徒だったのか!?」

「いや、アダマス教徒じゃないよ。でも魔族を滅ぼしたいって言う利害が一致したから、協力者って形でアダマス教団に薬を流して貰っていたんだ。その換わりに、オレ達が屋敷の地下の設備やらを色々改造した」

「マジかよ……」


いや、でも確かによくよく考えてみれば、あの異常なまでの魔族嫌いを見れば納得出来る。

そしてあの規模の地下実験場。

一人では到底作れるわけがないのは分かっていたが、まさかスポンサーがコイツらだったとは……!


「君達も、その薬の内の一つのせいでこうなってるんだろう?」

「チッ……状況把握が早くて助かるぜ……」

「感じの悪い奴だったけど色々と便利だったんだよ、アラコンダは。こっちからしたら、アイツを捕まえた君達には恨みがある」


ルボルは三人の美少女の美少女を侍らせながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

ヤバイ……戦力でも情報でも、こっちが圧倒的に不利だ……。

多分、今までで一番ピンチかも……。

冷や汗を垂らす俺達に、ヨハンはニコッと笑った。


「それじゃあとりあえず、君達には今から牢屋に入って貰おうか。そしてフォルガントの連中を倒した後に、君達には罰を受けて貰うよ」

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