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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第十九話 友情は今日も大切だ!⑬

報告をしにきた騎士の後を追い駆けつけた時には、既に敵と騎士達が抗戦していた。

しかし既に半数がやられており、地面に倒れていた。

そしてその倒れた騎士達の中心に、ソイツはこちらに背中を向けて立っていた。


「ま、こんなもんか」


黒いロングコートに身を包んだ、青みがかった黒髪をした男は、緊張感の欠片も感じない声でポツリと言う。

周りにはコイツの仲間っぽい奴は居ない。

ってことは、コイツ一人でこの数を……?


「何者だ!?」

「いや何者って、アダマス教団以外で誰か居ると思うの?」


剣を構えるアルベルトの問いにその男は振り返り、小馬鹿にしたように言う。

さっきまでコートで見えなかったが、その男は妙に綺麗な服やブーツを身に着けている。

そして見た感じ俺と歳が近い上に、イケメンだ。

貴族か何かか……?

なんて思っていると、その男は何故か俺を見据えた。


「黒髪に黒目の女の子……成程、君があのね……」

「?」


そんな男の呟きに俺が少し身を引いていると、後ろから複数人の足音が聞こえた。


「み、皆さん!」

「お前ら!」


少し遅れてやって来たレイナ達に,俺は少しだけ安心する。

しかしレオンの姿はない。

アイツ、どこに居るんだ……?


「リョータ、ソイツが敵?」

「ああ。多分、コイツだけみたいだ」


鞘に収まっている剣の柄に手を添え俺の横に立ったリーンに、俺も戦闘態勢を取りながら応える。

しかし一気に敵が増えたにも関わらず、その男は何て事なさそうに呟く。


「ふぅん、君達が勇者一行か。それで、その周りに居るのがバルファスト魔王国の助っ人ね」

「チッ……飯時を襲撃するなんて、いい性格してんじゃねえか」


俺は小さく舌打ちをすると皮肉を言ってやる。

それより、やっぱり情報が伝わっちまってるか……。


「それで、お前は誰だ? 敵の大将って事は分かるけど……」

「へえ、よく分かったね」


そんな俺の言葉にその男は感心したように頷く。

そして無駄に爽やかな笑みを浮かべて、


「オレはヨハン・ベナーク・アイアント。一応、アダマス教団の幹部だよ」


その瞬間、俺達は一層警戒を強めた。

アダマス教団の幹部。

ソイツらはアダマス教徒の中から実力で選ばれた強敵だ。

何となくそうなんじゃないかとは思っていたが、やっぱりか……。


「何をしにきたのか知らないけど……君が幹部だとしてもここには僕らが居るんだ。万が一にも、君に勝機はないよ」


顔を顰める俺の隣からアルベルトがそう言うと、ヨハンはハッと鼻で嗤った。


「何大口叩いてんの? 僕らとか言って、どーせ勇者一行に全部頼るんでしょ?」

「そ、そんな訳ないだろ! 僕はフォルガント王国の騎士団長、アルベ――」

「あーハイハイ。そういうのいいから」

「……!」


ヒラヒラと手を振って面倒臭そうに言うヨハンに、アルベルトが歯ぎしりする。

何だろう、何かこっちまでイラッときた。

と、腹が立ったのかアルベルトはヨハンに斬りかかろうと一歩前に出た。


「コ、コイツ……!」

「落ち着けアルベルト! 気持ちは分かるけど、それじゃ相手の思うつぼだ!」

「離してくれ!」


バッと後ろから羽交い締めした俺に、アルベルトは納得いかなそうに喚く。


「だ、だけどこのままコイツの言う通り、全てレイナ様に任せる訳には……!」

「いいじゃねえか任せたって! コイツの周りに倒れてる騎士を見て分からねえのか!? アイツは絶対強い、だったら俺達より強いレイナに任せるんだ! 別に恥じることでもねえ!」

「クッ……」


悔しそうに唇をかむアルベルトの横から、レイナが一歩前に出た。


「そうですよアルベルトさん。私達に任せて下さい。その間、倒れている騎士の人達を任せます」

「……分かりました」


安心させるためか、柔らかい笑顔を向けてきたレイナに、アルベルトは渋々引き下がった。


「レイナ、私も手伝うわ」

「ありがとう、リーンちゃん」

「おっと、ボク達も忘れて貰っちゃ困るよ?」

「ああ。コイツを潰せば形勢逆転だ!」

「やるですよ!」


レイナに続いてリーンやジータ達が前に出て、各々の武器を構える。

すると暇そうに爪いじりをしていたヨハンがふとレイナ達を見た。


「終わった? あのさぁ、そういう臭い友情ごっこはサッサと終わらせて欲しいんだけど?」

「ッ」


一瞬でレイナの怒りの琴線に触れたヨハンに、思わずドン引きしてしまう。

スゲえ、コイツリーン達に対してよくそんな事言えるな……。

敵だとしても失礼すぎるだろ……。


「……なんて言ったの?」

「えっ? いやだから、臭い友情ごっこ止めてって――」

「ッッッ!」


その瞬間、リーンの全身から怒りに満ちたオーラが噴き出す。

そして一瞬でヨハンの間合いに入ると、そのまま横に振り抜いて……。


「えっ!?」

「っと、危ないなぁ」


目を見開いて驚愕するリーンに、ヨハンは見下ろしながら首を鳴らす。

そんなヨハンを見上げながら、口をパクパクさせていたジータが。


「こ、この人空中に浮いてるよ!? 飛翔魔法……じゃないみたい!」

「マジかよ、それ本当か!?」

「うん、普通飛翔魔法のベーズとなるのは風魔法なんだ。だけど、コイツから風魔法の揺らぎが一切ない。でも一体どうやって……ううん、今はいい」


エルゼにそう返し考え込んでいたジータは、ブンブンと首を振り杖を構えた。


「空中に逃げたからって攻撃できない訳じゃないよ! 超増量『ファイア・ボール』ッ!」


するとジータの目の前にもの凄い数の炎の球体が出現し、一斉にヨハンに放たれた。

しかしヨハンはまるで妖精の粉を使ったピー●ーパンのように飛翔し、火の玉の猛攻を避けまくる。


「ハイデル、リム! 数発でいい、ジータの援護!」


その様子を倒れた騎士を抱えながら見ていた俺は、近くに居たハイデルとリムに声を掛けた。


「わ、分かりました! 『ヘルファイア』ッ!」

「『ファイア・ボール』!」


二人の魔法は真っ直ぐヨハンの進行方向から飛んでいく。


「おっと」


しかしヨハンは九十度上に飛翔し、難なくその攻撃を躱した。

そして二人の魔法はジータの魔法とぶつかり、大きな爆発が起きた。


「ちょっと魔王君! 助けてくれたのはありがたいけど、煙で見えなくなっちゃったよ!」

「あわわわ……! ゴメンナサイ、ジータさん!」

「リムちゃんは許す」

「オイコラ!」


思わずツッコミを入れていると、煙の中からヨハンが降りてきた。


「勇者御一行様の魔法使いだからってちょっとは期待したけど……何だ、ミラの方が全然出来るじゃん」

「な、何だよもう! コイツムカつく!」

「ジータちゃん、後は任せて!」


そうジータが地団太を踏んでいる最中、リーンとレイナが飛び出した。

そしてググッと足に力を溜めると、同時にヨハンと同じ高さまで飛び跳ねた。

コイツらがハイ・ジャンプ持ってないのに、俺のハイ・ジャンプより高く跳んでる事に複雑な気持ちになりながらも、俺は声を張った。


「やっちまえ、二人とも!」

「「やあああああああああッ!」」


そして、ヨハンに二人の攻撃が当たる。

そう思った瞬間だった。


「はい終了」

「「ッ!?」」


そんなヨハンの気怠げな声と共に、二人が空中でピタリと止まったのだ。


「なっ、何よコレ!?」

「うう……身体が動かない……!」


突然の事態に混乱する二人に、人差し指を立てているヨハンはため息を付いた。


「本当は女の子相手に乱暴はしたくないんだけど、まあしょうがないかな?」


やれやれと肩を竦めたヨハンは、人差し指を下に向ける。


「「キャアアァ!?」」


それと同時に空中に止まっていた二人の身体が、一気に急降下したのだ。

ってヤバイ、このままじゃ地面に叩き付けられる!


「『エア・クッション』!」


そう思った瞬間、隣に居たジータが振りかざした杖から、強烈な風が吹き荒れる。

その風はリーンとレイナの真下に渦巻き、二人の身体を受け止めた。


「ナイスだジータ!」

「うん! それより二人は大丈夫なの!? 何か地面に手を突いてるけど!」


そう言われて見ると、リーンもレイナも苦しそうに地面に手を突いていた。


「オイ、大丈夫か!?」


そう声を掛けながら駆け寄ると、リーンが苦しそうに声を絞り出した。


「リョータ……身体が……重いの……ッ!」

「身体が重いって、お前……」

「た、体重が増えたって意味じゃないわよ、だからそんな目で見ないでぶっ殺すわよ……!?」

「そ、そんな事思ってねーよ!」


ゴメン、ちょっと思ったわ。


「っていうか、身体が重いってどういう……いや、もしかしなくてもアイツか」

「そーゆー事。さてと、それじゃあそろそろ本当に終わらせようかな」


ヨハンは澄まし顔で俺に向けて手をかざす。

何か来る!?

そう身構えていたのだが、特に俺の身体に変化はない。

一瞬不発かと思ったが、後ろからガチャンと音が鳴った。


「グッ……何だコレ……!?」

「お、重い……!」

「エルゼ、アルベルト!?」


振り向くとエルゼやアルベルト、更には周りを囲んでいた騎士達も、地面に膝をついた。


「えっ何!? どうしたのよ!?」

「皆さん急に膝をついて……!」


しかし何故かハイデル、ローズ、リム、ジータ、フィア、そして俺だけが何ともない。

何でだ? どうしてこのメンバーだけ……。

いや、今はアイツを!


「『ハイ・ジャンプ』ッ!」

「!」


俺が足に力を込め跳び上がり刀を振り抜くと、サッと後ろに避けたヨハンは少し驚いたように眼を丸くした。


「アレ? 他はともかく、何で君が動けるの?」

「それはこっちが訊きてえよ!」


地面に着地しそう怒鳴ると、ヨハンは少しだけ考え込む素振りを見せる。


「ううん……君のその変わった剣、もしかしてモンスターの素材か何か?」

「……!」


確かにこの刀の刀身は、ブラックドラゴンの角純度百パーで作られているが……何で分かった?


「ケッ、テメエに教えてやる義理はねえよ! 『ハイ・ジャンプ』ッ!」


ヨハンの質問には応えずもう一度斬りかかろうとすると。


「ま、どうでもいいか」


ヨハンは軽くそう言い放ち、倒れている一人の騎士を見下ろす。

そしてその騎士に指を差すと、騎士の身体がフワリと浮き上がった。


「な、何じゃそりゃあ!?」

「よっと」


そしてヨハンが指をこちらに振ると、騎士の身体がもの凄いスピードで俺に迫ってきた。


「ギャー、何そのホラー!?」


空中では避けることも出来ず、俺は直撃を覚悟し眼を固く瞑り……。


「おわぁ!?」


急に、俺の身体がグワンと動いた。

いや、動いたというより、誰かに受け止められているような……。


「ああもう、また新手?」


そんなヨハンの苛立った声を聞き俺が目を開けると、そこには満月に照らされたソイツが。


「フッ、待たせたな」

「レオン!」


誰よりも主人公っぽい、ツインテールの美少女が立っていた。

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