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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第十九話 友情は今日も大切だ!⑨

……昔、モンスター討伐の帰りに何度かソルトの町に寄った事があった。

小さな町だけど、立ち寄った商人達の笑い声が絶えず、特産品のお砂糖を使ったお菓子は凄く美味しかった。

町の人達は優しくて、私はいつも願っていた。

この町の皆が、ずっと笑顔でいられますようにと。

……だけどその願いは、町と人々の生活と共に一瞬で壊れてしまった。


「ハアァ!」

「「「ぐわあああああああッ!?」」」


私が聖剣を振るうと、その風圧で三人のアダマス教徒が吹き飛び、ヒビだらけの建物の壁に激しくぶつかりバタリと倒れる。

その刹那、後ろから殺気を感じた。


「ッ!」

「ガァ!?」


忍び寄っていたアダマス教徒の剣を躱し、そのまま聖剣の柄でみぞおちを打つ。

するとそのアダマス教徒はお腹を押さえて気を失った。

私は再び聖剣を構えて、辺りを見渡す。


「『エア・ブラスト』ッ!」

「ぐ……!? 風邪で瓦礫が……!?」

「ンの野郎!」

「あぐァ!?」


少し離れた所では、ジータちゃんが風魔法を放ちアダマス教徒の攪乱させ、その隙にエルゼちゃんが一撃で倒していて。


「『ヒール』! 大丈夫です!?」

「は、はい……助かりました」


後方では負傷した騎士を、フィアちゃんが癒やしていた。


「ハァ……ハァ……」


どうしよう、お互いの勢力も拮抗してるし、このまま持久戦になるのはいけない。

だけど今日も昨日とあまり変わりなかった。

そう頭を巡らせながら、少しオレンジがかった太陽を横目で見ながら私が息を整えていた時。


「レ、レイナ様ァ!」

「わぁ!? ど、どうしたんですか!?」


騎士の一人が、必死な顔をして私の元に駆けてきた。

いきなり名前を呼ばれてビックリしたけど、私はすぐに騎士の人に尋ねた。

すると騎士の人は、遠くを指差しながら。


「た、只今、アルベルト団長と数名の同士が例の剣士と魔法使いと交戦中! 戦況は劣勢です!」

「ッ!」


ア、アルベルトさんが!?

それに劣勢って……!

その時、敵の攻撃を大剣で受けていたエルゼちゃんが振り向きながら。


「レイナ! ここはアタシ達に任せて行け! 後で追いかける!」

「うん!」


頷くと、私は跳躍し崩れかけの屋根の上に飛び乗る。

そしてあの騎士の人が指した方向に向かって、次々と屋根に飛び移っていく。

……例の剣士と魔法使い。

私は味方の騎士と戦っている様子を遠くからでしか見てないけれど、凄く強い人達だった。

多分、アルベルトさんや他の人達より強い。

すぐに助けにいかなくっちゃ……皆が危ない!


「あっ!」


見つけた……!

かなり離れた場所に、夕日に照らされ光るアルベルトさんの鎧が見えた。

それと同時にアルベルトさんが地面に座り込み、その周りに兵士の人が倒れているのも。

しかもアルベルトさんの前には、例の剣士と魔法使いが。


「い、今すぐ助けなきゃ!」


私は更にスピードを上げて、アルベルトさん達の元に向かう。

だけど距離があまりにも離れていて、全然近づけない。

とその時、例の剣士がアルベルトさんに向けて、ゆっくりとレイピアを振り上げた。


「ア、アルベルトさんッ!」


私がそう叫ぶと、声が届いたのか剣士と魔法使いがこちらに振り向いた。

いつもあの二人は私達に気付くと、テレポートでどこかへ行ってしまう。

多分今回も、すぐに転移して逃げ出すだろう。

そう思っていたけれど、二人は何かを短く言い合い、再びアルベルトさんに向き直った。

私が来る前に、アルベルトさんを仕留めようとしているのをすぐに理解出来る。


「レイナ様……!」


こめかみから血を流しているアルベルトさんは、私の名前を呼び震えながら手を伸ばす。

それに対し私も手を伸ばすが、剣士がレイピアを振り下ろし――。



「ダメッ!」


間に合わな――


「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


「……えっ?」


突然遠くから聞こえて来た誰かの悲鳴に、剣士のレイピアが止まる。

女の人だ。

女の人のどこか情けなさそうな悲鳴が聞こえてくる。

しかも明らかに、その声は近付いてきている。

私もあの二人も辺りを見渡すが、その悲鳴の主と思われる人影がない。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああッ!?」


う、上!?

悲鳴が私達の真上から聞こえて来たのに気付き、バッと上を見る。

その瞬間、


「うわあッ!?」

「キャアッ!?」

「ンギャッ!?」


アルベルトさんと剣士の間に、勢い良く人が落ち着てきたのだ。

突然振ってきたその人を警戒してか、剣士はバックステップで身を引く。


「あ……ガクッ……」


そしてアルベルトさんはビックリしてしまったのか、その場で気絶してしまった。


「いってえ、足ぐねったぁ! 畜生、やっぱ着地スキルがあってもダメかぁ……!」


そう言いながら片足を抱えてその場でピョンピョン跳ねているのは、長い黒髪を後ろで結んだ、私と歳が近い女の子。

そ、それにあの女の子の格好、どこかで見たような……。


「たっくオイ、アルベルト。驚いただけで気絶してんじゃねーよ」


その女の子はアルベルトさんを見ずに、鼻の下を擦りながら言う。

そして思わず立ち止まってる私を見ると、ニカッと笑い掛けた。


「助けに来たぜ、レイナ!」

「だ……誰ですか!?」

「ですよねー!?」





――ここは格好良く決める場面だったはずだが、拍子抜けしてしまった。

まあ無理ねえか。

いきなり現れた正体不明の美少女に自分の名前を呼ばれたら、誰だって戸惑うわな。


「だ、誰ですのいきなり降ってきて!?」


アルベルトにトドメを刺そうとしていた、金髪ロールのお嬢様がレイピアを構えながら警戒する。

成程、多分コイツが例の剣士なのだろう。

リーンやレイナと同じ、胸当てや小手などを装着している。

しかし、ドレス姿ではないものの、何故こんな如何にもなお嬢様が?

そしてその後ろに居るのが例の魔法使いか……。

ジータのようなあからさまな魔法使いの格好ではないが、背丈をも超える杖を両手で握っていた。

とまあ、とりあえずは……。


「レイナ! 突っ立ってないでヘルプヘルプ!」

「えっ!? あ、はい!」


いまいち状況が飲み込めていないだろうが、俺はすぐにレイナに助けを求める。

しょうがない、あんな強キャラ風の登場して何だが、あの話を聞く限りコイツらには絶対敵わない。

まあ、レイナのサポートぐらいは出来るかもだが。


「シェスカ様! まともに勇者を相手にするわけにもいきません!」

「クッ……そうですわね、仕方がありませんわ。ミラ! すぐにテレポートを!」


魔法使いがそう促すと、お嬢様は悔しそうな顔をしながら指示を出し、レイナを警戒しだした。

成程、お嬢様がシェスカで魔法使いがミラか。

そんで魔法使いが様付けしてるから、やっぱり上下関係があるらしい。

っと、そんな事は今はどうでもいい。

コイツらはレイナ達が近付くと転移して逃げてしまうらしい。

しかし今は俺達の目前に居る。

こんなチャンスを逃すわけにはいかない!


「レイナはそこの金髪ロールを頼む! オラ、何逃げようとしてるんだ!」


俺はレイナにそう指示すると、怒声を上げながら魔法使い目がけて駆けていく。


「残念ですが、その距離では間に合いませんよ?」


しかしコイツの言う通り距離があったため、テレポートの詠唱が完了してしまった。


「シェスカ様、すぐに転移を致します!」

「ええ! 今日の所はここまでですわ、勇者レイナ。残念でしたわね!」


お嬢様は逃げるくせに、渾身のドヤ顔で煽ってくる。

……しかし油断しすぎだぜ?

戦いはまだ終わってないんだから。

俺の真後ろに沈みかけている夕日で、影がいつもより長くなっている。

そして、今まさに転移して逃げだそうとしていた魔法使いの背後に俺の影が入った直後。


「行け、俺の使い魔!」

「だから誰が使い魔だ!」

「「「なっ!?」」」


俺の影から飛び出したレオンは、魔法使いを後ろから押し倒した。


「何故貴様は我が影から飛び出す度に使い魔扱いする!?」

「だって格好いいじゃん。それに、立場的にはお前は俺の配下だし」

「一応配下なのは認めるが、使い魔と呼ばれる我の身にもなれ!」

「な、何ですかこの人は……!? いつからミラの背後に……!?」


俺とレオンがそう言い合っている中、地面に突っ伏された魔法使いは苦悶の表情を浮かべる。


「は、はな、離しなさい! この……!」

「日が沈みかけている今は、貴様に振り払われるほど弱くなっていないぞ」


そしてジタバタしだした魔法使いに、レオンが鼻を鳴らした。

よし、これでもうコイツらは逃げだせないだろう。

そう俺が思っていた時。


「レイナー! アルベルトさんはー!?」


遠くから、ジータがこちらに手を振りながら呼んでいるのが見えた。

後ろには、エルゼとエルゼにおんぶされたフィアも居る。


「ア、アルベルトさんと他の騎士の人は気絶してるけど大丈夫だよ! この人達がいきなり現れて助けてくれて……」

「コイツら? ……何もんだ?」

「味方の騎士には見えないですし、かといって敵にも見えないです」


仲間の到着に少しホッと息を吐いたレイナは、状況説明をする。

エルゼは俺とレオンを警戒するように、エルゼの背中から降りたフィアは訝しむように見てくる。

戦況はこっちが有利だし、そろそろ正体を明かしますかね。


「フッフッフ……何だかんだ訊かれたら、答えてやるのが余の情け……」


そんな悪役のお決まりの台詞を呟いた後、俺はドンっと胸を張った。


「俺はバルファスト魔王国六十四代目魔王、ツキシロリョータ! 友達のピンチと聞きつけて、やって来ちゃったぜ!」


決まった……!

そう俺がドヤ顔で親指を突き出すと、勇者一行は目を見開く。


「ま、魔王さんの……」

「魔王君の……」

「「魔王の……」」


そして四人は、同時に首を傾げた。


「「「「……ファン?」」」」

「お前らもかよ……」

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