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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第十九話 友情は今日も大切だ!⑧

さて、とりあえず気絶しているアダマス教徒達全員をロープでグルグル巻きにした後。

俺は馬車に寄りかかって尻餅をついている御者の兵士に声を掛けた。


「えっと、大丈夫でしたか? どっか怪我してるならポーション持ってますけど……」

「い、いえ、大丈夫です」


リュックの中をゴソゴソしだした俺を兵士は慌てて止め、ゆっくりと立ち上がる。

そして、地面に頭が付きそうなほど深く頭を下げた。


「先程は本当に助かりました。あなた方が居なければ私は殺され、補給物資は全て強奪されていたでしょう」

「いや、いいですよそんな。それよりもコイツらはどうします?」

「勿論連行したいところですが、この人数を荷台を運ぶのは不可能です。ただでさえ、補給物資で一杯ですから」


そう、俺達が乗っていた荷台を一瞥し、兵士は困ったように言った。

確かにさっきまで、補給物資でギュウギュウだった荷台に、更に俺達が押し込められるような形で入ってたからな。

そこにプラス八人は流石に不可能だ。

どうするかと唸っていると、俺の視線がアダマス教団の馬車が目に止まった。


「……じゃあ、コイツらの馬車で運んじまうってのは? さっきのガタがきてるってのも嘘なんでしょう?」

「確かにそれなら可能ですが……騎手は私一人しか居ませんし……」


そう言われればそうだ。

だけどやっぱりここにアダマス教徒達を置いて行くのはないし……。

うええ……こんな所で詰み……?


「マジでどうしよう……」


そう俺が頭を掻きむしっていると、


「魔王様、それならばこの私にお任せ下さい」

「ハイデル……?」


後ろからそう話し掛けてきたハイデルは、そのままアダマス教団の馬車の馬に近付いていく。

そして、馬の長い首筋を撫で始めたのだ。

一瞬噛まれるぞと警告しようと思っていたのだが、ハイデルに撫でられている馬は気持ちよさそうに首を振った。


「私、これでも少々馬術を心得ております故、御者程度ならばお任せ下さい」

「マジかよ」


コレには驚きだ。

まさかハイデルがそんな技術を持っていたなんて。

そういや、コイツは元々地獄の公爵という最上位の悪魔。

お嬢様がピアノやヴァイオリンを習うように、ハイデルもそういった英才教育を習っていたのだろうか?


「最高だぜハイデル! 久々に大活躍じゃないか!」

「フフン」


俺が親指を立てて褒めると、ハイデルはリムの倍ほどのドヤ顔を決めた。

その様子を見ていた兵士は、恐る恐ると訊いてくる。


「あ、あの、宜しいのでしょうか? その方は魔王軍四天王なのでしょう……?」

「いいんですよ、こんな時にいちいち身分とか気にしてたら、何も始まりませんって」

「ええ。それが最善の手ならば、私は一向に構いません」


それに対し俺とハイデルがそう応えると、兵士はもう一度深く頭を下げた。


「んじゃ、メンバー分けしなきゃな……よし、全員集合!」


呼ぶと、俺達はグルッと円になった。


「さっきの話は聞いてたよな?」

「はい。だけどまさかハイデルさんにそんな特技があったなんて」

「ええ……私もビックリしたわ。やるわね、ハイデルちゃん」

「ええ、そうでしょうそうでしょう!」

「ハイデル貴様、最近影が薄かったからとはいえ、ここぞとばかりに調子に乗るな」

「魔王様だけでなくレオンにも指摘されてしまった……」


テンションが上がったり下がったり忙しいハイデルはひとまず置いておき。


「とにかく、今この場で2グループに分かれるぞ。まずリムとローズ、二人はハイデルと一緒にコイツらをフォルガント王国に送ってくれ」

「勿論いいけれど、何で私達?」


首を傾げるローズの横で、リムもコクコクと頷く。

そんな二人に、俺は頬をポリポリ掻きながら応えた。


「まず、ローズには移動中にアダマス教徒達から記憶を読み取って貰いたいからだ。コイツらをけしかけたボスは誰なのか、とかな。だけどこの場でチンタラ記憶読み取ってたら時間が惜しい。だから後で合流したときに教えて貰うよ」

「分かったわ」


納得したように頷くローズに頷き返すと、今度はリムに視線を合わせる為に屈んだ。


「そんで、しっかり者のリムには監視して貰いたいんだ。ああ、アダマス教徒がメインだけど、ハイデルとローズもな。どうせコイツらの事だ、絶対何かトラブルを起こすか巻き込まれる」

「成程……」

「成程……じゃないですよリム! 何故そのようにすんなりと納得してしまうのですか!」

「そうよリムちゃん!」


何やらハイデルとローズが抗議の声を上げてくる。

しかしこの二人がトラブルメーカーのワンツートップである事は間違いない。


「頼んだぞリム。お前が一番の頼りだ」

「わ、分かりました!」

「それじゃあ最後に、バイバイのハグを~……」

「し、しませんよ!」


おっと、妹とのしばしの別れなのに突き放されてしまった。





「――なあリーン、俺、ちゃんと強くなってるだろ?」

「……何よいきなり」


ハイデル達と別れ再び馬車の荷台に乗り込んでしばらく。

少しだけスペースが広くなった荷台で足を伸ばしながら、俺はリーンに話し掛けた。


「いやホラ、俺あの強い敵単独で倒しただろ? だからやっぱ成長してるのかなーって」

「ハァ……調子に乗り過ぎ」

「な、何だよ何だよ!」


しかしリーンにバッサリとため息交じりに言われ、ついムキになってしまう。


「あのね、確かにアンタは強くなってる。だけどあの男よりも強い奴なんてこの世界にわんさか居るのよ? それに比べたら、アンタなんてまだまだよ」

「厳しい……」


確かにリーンの言っている事は正しいのだが、少しは褒めてくれてもいいんじゃなかろうか。

この人生誰とも命を張り合わず、平々凡々温々と育ってきた俺が、危険な異世界に住んでいる為元より身体能力が高い異世界人と戦えているのだから。

転生したての頃の俺からしたら凄い成長だ。


「それにしても……」


とここで、あぐらをかいていたレオンがポツリと呟いた。


「あの程度の者達が百人ほどで、勇者一行が苦戦しているとなると……やはり主戦力は、話に聞いた二人手練れだろうな」

「そうね。どんな奴らなのかは知らないけど、ソイツらを倒せば勝てると思うわ」


……本当にそうだろうか?

そう頷くリーンを見ながら、俺は一人顎に手を当て考え込む。

いや、違うと断言するものは全くない。全くないのだが……。

でも、もしそうだとしたら、ちょっと簡単すぎやしないか?

……いや、気にしすぎかな。


「皆さん、見えてきましたよ!」

「おっ、やっとか」


心の中で首を横に振っていると、御者の兵士の声が聞こえた。

その声に、俺は透視眼で外の様子を見てみる。

俺達がが向かっている方角の遠くに、騎士やレイナ達が拠点としているであろうテントの密集地帯。

そしてその向こうに、小さな町が見える。

アレがソルトの町であろう。

全体の大きさは、バルファスト魔王国より一回り小さいぐらいか。


「……ん?」

「どうかしたか、リョータ」


俺がつい声を出すと、後ろからレオンが首を傾げて訊いてきた。


「いや、アレは……」


俺は透視眼に加え千里眼を発動する。

……間違いない、町から煙が上がってる。

しかも数カ所から。

しかも建物の殆どがボロボロで、地面には瓦礫の山が数え切れないほどある。

コレは結構……激戦区と化してるんじゃないか……?

レイナ達が居るにも関わらず、だ。


「…………」

「リョータ?」


後ろで少し不安そうな顔をしていたリーン。

そんなリーンに、俺は困ったような笑みを浮かべて。


「やっぱ……引き返す?」

「ここまで来てヘタレてるんじゃないわよ!」


脳天にリーンのガチのチョップが入った。





――お兄ちゃん達と別れた後。

アダマス教団の馬車の荷台に、私は腕を組みながら揺られていた。


「むう……」

「オイ、あの幼女が凄い睨んでくるんだけど……」

「幼女に蔑まれるのも……ありありのありだな」

「聞こえてますよ!」


ボソリと呟いた盗賊の人の言葉に、さっき私が魔法で倒した男の人が鼻の穴を膨らませながら言った。

それにしても何だろうこの人。

何を言ってるかよく分からない。

そう私が顔を顰めていると、今度は向かいの聖職者の人が隣の男の人に話し掛けた。


「あの、大丈夫ですか? さっきからずっと変な顔してますけど?」

「変な顔って言うな! いや、実はな……俺が戦ってたあの女居ただろ?」

「ああ、あの口が悪かった黒髪の」

「ソ、ソイツが……俺に何とかほいっぷって変な事叫んで、俺の頭に足を絡めてきて……!」


…………。


「何!? 顔面にあの子の股間を押し付けて貰ったってのか!? なんて羨ましい!」

「いい加減お前は黙ってろ! ああでも、あの女に負けた屈辱よりも忘れられねえんだ……まさかあんな大胆な……!」


……リョータさんに投げ飛ばされた男の人は、頬を紅潮させながら身体をくねくねさせる。

どうしよう、本当に何を言っているのかよく分からないし、分かりたくない。

何だかバルファストの皆に……いや、多分それ以上に危険な気がする。

と、ここで。


「ねえ、あなた達?」

「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」


静かに発せられたローズさんの声に、その場の空気が一気に凍った。

な、何でだろう……ローズさん、すっごくニコニコしてるのに怖い……。

どことなく、リーンさんに似てるような……。

私もアダマス教徒の人達と同様に震えていると、ローズさんは微笑を崩さずに。


「一応私サキュバスクイーンだし、そういった話は別に気にしないわ。でも……流石にリムちゃんの前でそこまで過激な発言をされたら……ね?」


うっすらと開けられた瞳が冷たくアダマス教徒の人達に刺さる。

ロ、ローズさん……。

そう、私が少しだけジンとしていると、静かになっていたアダマス教徒の人達が。


「いや、そもそも格好事態が子供の教育に悪いテメエに言われたくねえ!」

「そうだそうだ、お前が一番アウトだろうが!」

「その無駄にデカい胸をちょっとは私に頂戴よ!」

「おおお、お黙り!」


……さっきまでの空気は何処に行ってしまったのだろう。

今度は逆に、ローズさんがアダマス教徒の人達に悪口を言われていた。

というか、確かに言われてみればローズさんの格好って……エッチだ。

うう……慣れって怖いなぁ……。


「ちょっとリムちゃん! 黙ってないで何か言ってちょうだい!? ああもうあなた達! これ以上私をバカにしたら怖い目に遭うわよ!?」

「ハッ、怖い目って何だよ?」


ムキになって揺れる荷台に立ち上がったローズさんの言葉に、盗賊の人が鼻で嗤って訊く。

するとローズさんは顔を伏せながら、口元をニヤつかせて。


「私はサキュバス。そう、相手に自分の思い通りの夢を見せられる……今からあなた達に、汚いおじさんにイタズラされる夢を見せてあげるわ」


その言葉に、再びシンと静まり返る荷台の中。

だけど今度は、アダマス教徒の人達があからさまに震えていた。


「な、なんて恐ろしい事を!? 止めてくれええええぇ!」

「わああああゴメンナサイゴメンナサイ、何でも答えますから許してくださいいいい!」

「嫌だアアアアアアア!?」

「アーハッハッハッハ! ええそうよ! それが嫌なら知っていること全てを吐き出すことね! ああ、わざわざ記憶を読み取る手間が省けたわ!」

「ローズさん、悪い顔してますよ! 落ち着いて下さい!」


そして縄で縛られ身動きが取れない状態のアダマス教徒の人達が、荷台の中を涙目になって這いずり回るのを、ローズさんが高笑いをして見下していた。


『ちょ、ちょっと、荷台が凄く揺れているのですが!? 何かあったのですか!?』

「ゴ、ゴメンナサイ、ハイデルさん! 何でもないです!」


荷台が激しく揺れ出したことで、御者席に座っているハイデルさんの戸惑いの声を出す。

それに対し慌ててそう返すと、私か頭を抱えた。

お兄ちゃんに頼むって言われたけど、ちょっと自信が……!

ううん、私がしっかりしなくっちゃダメだよね!

頑張れ、私!

そう、私が自分に鼓舞している時、何故か一人だけ静かに座っていた例の変態さんが、頬を紅潮させて呟いた。


「き、汚いおっさんにメチャクチャにされるとか……結構ありかも」

「「「「「「「「「「ええ……」」」」」」」」」」

『こ、今後は急に静かに……本当にどうかしたのですかー?』


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