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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第十九話 友情は今日も大切だ!⑤

フォルガント王国の街は、街行く人々の声と露店の呼び声でいつものように喧噪に満ちている。

しかし宮殿の周囲だけは、別の意味で喧噪に満ちていた。


「ハアァ……流石は大国ですね……」

「そういや、ハイデルはここに来んの初めてだったな」


宮殿の大きさに思わず呆然としているハイデルに、俺の言葉にサッと表情を曇らせた。


「ええ……私以外の皆さんはもう既に行っているようですけれど……」


どうした急に?

何、行きたかったのコイツ?


「いやぁ、別にお前を連れて行く意味もないかなと」

「酷い! 私、皆さんが魔王様と一緒にフォルガント王国に向かう度に、魔王様が私を誘ってくれるのを今か今かと待っていたのですよ!」

「怖い怖い! お前影薄いからってヤンデレ属性付け足そうとすんじゃねーよ!」


涙目で顔を寄せてくるハイデルを引き剥がしながら、俺は辺りの様子を注意深く見る。

兵士達は慌ただしく走り回り何だか落ち着きがない。

更に少し離れた所には馬車の荷台が数台あり、兵士達が食料やら武器やらを積めている。

見るに、恐らく補給物資を送りに行くのだろう。

という事はつまり、未だにアダマス教団との戦いは終わっていないという事になる。

ううん、アイツらのことだし、もしかしたらもう終わっていると思っていたが……。

今回の敵はかなり厄介らしい。


「それで、これからどうするの?」


そう俺が眉をひそめていると、ローズが首を傾げて聞いてきた。


「ううん、最初はソルトの町付近まで馬車が出てるか確認して、それに乗ろうと思ってたんだが……」


だが、その馬車は勿論乗り合い用の馬車のためスピードは遅い。

今から出ても、情報通りならば明日に着く。

正直そんなにチンタラしてられない。

しかし、今俺達のすぐ側にはあの補給物資を届ける馬車がある。

あの馬車は恐らく、かなりのスピードでソルトの町に向かうだろう。


「アレに乗れたらいいんだけどな……」


さてと、どうしたものかともう一度辺りをグルリと見渡していたときだった。


「アレ? アソコに居るの……」


俺の視界に、とある人物の後ろ姿が入った。


「どうかしたか? ……うん? あの男、何やら随分と高貴そうな服を身に纏っているが……」


レオンがそう目を細めながら見るが、何者か分かっていない様子。

っていうか、何であの人こんな所に居るんだ?

何やら兵士と話しているみたいだけど……。

ええい、考えてる暇なんてない!

ここは一か八かだ!


「おいお前ら、ここに居ろ。ちょっとあの人と話してくるから」

「あっ、オイ!」


レオンの声を聞き流し、俺はダッシュでその人の元へと向かって行く。

そして、若干躊躇いながらも声を掛けた。


「あの、フォルガント王さん」

「ん?」


するとその人、フォルガント王国国王が振り返った。

と、それと同時に。


「なッ!? 陛下に向かって何と無礼な!」

「今すぐその女を捕らえろ!」

「ゲッ!」


その周りに居た兵士がギョッとしたと思うと、鞘から剣を抜き放ち剣先を突き出してきた。

そうだよね、どこの誰とも知らない女が、急にこの国の王様に向かってさん付けで呼ぶって完全に無礼打ちですよねー!?

やらかしたー! と身体を仰け反らせていると、フォルガント王さんが一人の兵士の剣の腹をヒョイと摘まんだ。


「よさんか。たかが呼び方如きで大袈裟だぞ」

「し、しかし陛下……!」


さ、流石レイナのお父さん……前会った時も思ったけど、やっぱり心が広い。

そしてフォルガント王は兵士に剣を収めるように命令すると、頬をポリポリ掻きながら少々困ったように。


「まあしかし、流石に国王の私に向かって、さん付けはいかんぞ?」

「超すいません」


まったくのド正論を言われ、俺が頭をペコペコ下げていると、


「何やってんの、このバカ!」

「ンギャ!?」


後方からリーンが飛んで来て、俺の頭をぶっ叩いた。


「今のアンタが女だって事忘れたの!?」

「ってーな、悪かったよ! いつもの格好だから、もしかしたら察してくれるかなーって淡い期待を抱いちゃったんだよ!」

「そんなの理由をちゃんと説明しなくちゃ誰も気付けないわよ!」


ぶたれた後頭部を押えながら、いつもの調子でギャアギャア言い合ってると、その様子を見ている兵士が囁き合う。


「何なんだコイツらは……」

「陛下の御前であるというのに……やはり無礼打ちにすべきでは?」


まったくですね、すいません。

しかしフォルガント王だけは驚いたように目を見開き。


「リーン殿ではないか」

「あっ、えっと、どうも……」


フォルガント王名前を呼ばれ、少し控えめに頭を下げるリーン。

やはり目上のフォルガント王には相応の態度だ。


「……悪い、お前達。少し場を外して貰えるか?」


そんなリーンを見て、何かを察したのかフォルガント王は兵士に向けて言った。


「えっ……ですが……」

「心配するな、彼女はバルファスト魔王国の使者のような者だ。待っている間、他の兵士を手伝ってくれ」

「わ、分かりました」


兵士達は未だに納得のいかなそうな顔をしながらもこの場を離れ、俺達三人だけになった。

するとフォルガント王は、覗き込むように俺の顔を見てきた。


「ところで、君は一体何者だ?」

「あー、その……」


信じてくれるか分からんけど……。

俺は頭をバリバリ掻いた後、自分の顔を指差して言った。


「実は俺、ま、魔王です。魔王ツキシロリョータです」

「………………んん!?」


フォルガント王はしばらく硬直した後、目を丸くさせた。


「な、何? リョータ殿? た、確かに髪の色や服装は似ているが……君は女ではないか」

「それが斯く斯く云々ありまして……まあ、こんなになっちゃいました!」

「んんんん!? んんんんんん!?」


アハッと笑う俺に、フォルガント王は目を擦ってみたりパチパチ瞬いたりして、とうとう頭を抱えだしてしまう。


「あー、リーン殿。今のは本当なのか……? この者がリョータ殿……?」

「ええっと、それが……はい」

「そ、そうか……」


真面目なリーンの正直な応えに、フォルガント王はもう一度俺を見てきた。

そして、次の瞬間。


「……ブフッ!」


盛大に噴き出した。


「ハッハッハッハッ! まさかリョータ殿が女になってしまっているとは!」

「ちょっ、何笑ってるんですかフォルガント王さん!」

「いやぁ何があったか知らんが、大変だなリョータ殿! しかし、なかなか良い顔立ちだぞ?」

「そうですかそりゃどうも!」


そうだ、この人は顔は怖いけどこんな感じだった。

まあ、その方がとっつきやすくていいけども、まさかフォルガント王に大笑いされるとは。

そしてフォルガント王さんは一頻り笑った後。


「うむ……君達がここに居るという事は……」


俺達を交互に見て、コクコクと頷きながら困ったように笑った。


「そうか……やはり情報が漏れてしまったのだな」

「はい」

「リョータ殿のことだ、その内バレてしまうだろうとは思っていた」


フォルガント王の言い方に、俺はやっぱりと呟いた。


「俺達にこの事を知らせないようにしたのは、レイナ達ですね?」

「ああ、そうだ」


フォルガント王は俺の言葉に頷いた後、遠くの空を見上げながら語り出した。


「事の始まりは二日前、交易商が頻繁に利用するソルトの町に、アダマス教団百名以上が突如として攻めて来た。情報によれば、敵にはかなりの腕利きが少なくとも二人おり、奴らの手こずっているそうだ」

「腕利きが二人……」


その二人は、あのレイナ達を手こずらせている。

という事は、ソイツらはメチャクチャ強いんだろう。

正直そんな奴らに俺が敵うとは思えないけど……。

それでも。


「フォルガント王さん」


俺はフォルガント王の名前を呼ぶと、真剣な表情で言った。


「俺達は、レイナ達を助けるためにここに来ました。だから、俺達を連れて行ってくれませんか?」

「…………」


フォルガント王は少し考え込んだ後、重々しそうに口を開けた。


「さっきも言ったが、敵はかなりの難敵だ。それに相手はアダマス教団。少なからず、魔族絡みなのは間違いない。もしかしたら、今回の襲撃は君達を誘き出す為かもしれんぞ?」

「その事は分かっています。だからウチの国の冒険者達に、国の防衛を任せてここに来たんです」

「いくら同盟国の王とその配下とはいえ、君達の命の保証はできんぞ?」

「重々承知です」


フォルガント王が俺達を心配してくれているのは分かる。

だけど、もうここまで来たなら行くしかない。

俺は姿勢を延ばすと、そのまま頭を深く下げた。


「確かに俺達が行ったら、レイナ達の気持ちを踏みにじる事になります。でも、だからって全部アイツらに任せるのは嫌なんです」

「リョータ殿……」

「わ、私からもお願いします」


俺が頭を下げるのを見たリーンは、同じように頭を下げた。


「同盟国としてもありますけど、何よりアイツらの友達として、助けに行きたいんです」

「…………」


らしくはないけれど、すんなりとそんな言葉が出てきた。

俺は思っていた以上にアイツらのことを友達と思っていたようだ。

そんな俺達にフォルガント王は少しの間黙ると、嬉しそうに笑った。


「レイナ達は、本当にいい友人を持ったな」


その言葉に俺とリーンが顔を上げると、フォルガント王は頷いた。


「私からも同盟国ではなく、単なる娘の友人としての君達に頼む。どうか助けてやってはくれないか?」

「「はい!」」


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