第十九話 友情は今日も大切だ!②
――勇者一行と騎士団が、町を陥落させたアダマス教団を倒しに遠征に出た。
交易商の話を聞いてしまった俺とレオンは、すぐ側の路地に入って話し合っていた。
「リョータよ……彼奴らの会話の内容は……」
「本当……だろうな……」
深刻な顔をするレオンに、俺はコクリと頷く。
あの会話が本当だという根拠は、今朝ローズが見つけたというフィアの手紙だ。
てっきり災害級モンスターの討伐だと思っていたが、まさかアダマス教団が……。
クソ、何でアイツらそんな大事な事を……。
それより今は、もっと詳しい情報が欲しいな……よし。
「レオン、ちょっと来い」
「な、何だ?」
俺はレオンの手を引き、先程の男達の方へと歩いて行き。
「あの、すいません」
「ん? どうし……ど、どうしたんだい、お嬢さん達?」
俺がちょっと萌え声で話し掛けると、男の一人は若干挙動不審になって立ち上がった。
「さっき、アダマス教団って聞こえたんですけど……確か、私達に危害を加えようとしてくる人達なんですよね……?」
「あっ、ヤベエ!」
「オイバカ、声がデカすぎるんだよ!」
俺が上目遣いでそう言うと、二人の男は更に焦ったように顔を見合わせる。
どうやら二人の様子から察するに、この事はこの国の人間には知られたくないようだ。
もしかしたら、上司の人に口止めでもされてたのだろうか?
「アタシ、スッゴく気になるんです。どうか教えてくれませんか?」
「ええ、でもなぁ……困った……」
「お、お嬢ちゃん、悪いけどこっちにも事情があってね。どうか聞かなかったことにしてくれないかい?」
少し媚びるように俺がそう訊くと、二人の男は苦笑いを浮かべてそう返してきた。
ほう、この二人意外とちゃんとしてるな。
だけど、こっちだって知る権利があるんだ。
悪いけど、洗い浚い聞かせて貰うぜ。
俺は一呼吸置くと、男達に一歩歩み寄り、小さな声で。
「もし教えてくれたら……イイコトしちゃいますよ?」
「「ッ!?」」
「き、貴様……」
一瞬で茹でダコのように真っ赤になった男二人とは反対に、レオンは真っ青な顔でドン引きしてきた。
「ああ、勿論この娘も。ね?」
「ほぁ?」
そしてそうレオンに問いかけると、素っ頓狂な声を上げた。
そんな俺達を見ていた二人の男は、ヒソヒソと話し出す。
(イ、イイコトって何だ、何をしてくれるんだ!?)
(そりゃナニをナニするんだろ! こんなチャンス人生に一度だってねえぞ!)
ちなみに、ちゃんとこちらに会話の内容は聞こえてしまっている。
「オイ待て、絶対に我は何もしな――ムグゥ!?」
「レオンちゃんったら、もう興奮しちゃって♪」
「ムグゥー!」
何かを言おうとしたレオンの口を塞ぎ黙らせていると、男達のこんな会話が耳に入ってきた。
(つ、遂に俺も、童貞卒業かぁ……! しかもこんな美少女に捧げられるなんて!)
(ああ……! 俺達にも、神様が微笑んでくれたんだ!)
……おっと、この二人は同士だったのか。
ヤバいな……身体を捧げるのは勿論嘘だが、スッゲエ罪悪感が……!
昔のベロニカはこんな事をしてたってのか……メンタル強えな。
そして二人はコクリと頷き合うと、俺に最終確認とばかりに訊いてきた。
「あー、俺達が知ってる範囲でならだけど……本当にいいんだな?」
「はい、勿論!」
俺はキャピっと両手でガッツポーズを取って応えると、二人の男は鼻の穴を膨らませながら語り出した。
――アダマス教団に陥落されたのは、ソルトと呼ばれる実にしょっぱそうな名前の小さな町であった。
ソルトはフォルガント王国の首都から馬車で約一日ちょっとで着き、その近さ故よく交易商の休憩場として使われているという。
ちなみにソルトの町の特産品は、まさかの砂糖だそうな。
そんなソルトがアダマス教団に攻めて来たのは、昨日の白昼堂々突然に。
総人数は百人程らしいく、その大半が聖職者で残りが戦士やらアサシンやら。
ソイツらの力は並の冒険者ほどだと言うが、その中に異常なまでに強い二人の女が居て、大半がソイツらの力で陥落したらしい。
そして町の人達の被害は大きく、女子供関係なく大怪我を負わされたらしい。
「そう、ですか……」
その話を聞いて、自然と握る拳に力が入る。
アイツら……魔族を滅ぼすのが目的の筈なのに、何で毎回毎回フォルガント王国に……。
一体何がしたいんだよ……。
俺達を殺してえなら直接攻めに来いよ……来て欲しくないけどさ。
「な、なあ、目が怖いぜお嬢ちゃん」
「あっ、ゴメンナサイ」
どうやら憤りが顔に出てしまっていたらしく、俺はすぐにニパーッと笑みを浮かべた。
すると二人の男は、若干頬を赤らめながら。
「取りあえず、俺らが知ってるのはこれで全部だ。そ、それじゃあ、約束守ってくれるよな……?」
「勿論です! あの、ここじゃ何ですし、場所を移動しませんか……?」
「お、おう! それじゃあそこの嬢ちゃんも……」
「うぅ……」
そして俺達は、先程レオンと話していた路地裏の奥へと移動していく。
男二人と女二人が路地裏に。
どう見たって特殊なプレイをするようにしか見えない。
だが……。
「そ、それじゃあ、その……俺達経験無いけど、よろしくな?」
「お、俺はツインテールの娘がいいかな……」
期待に満ちたように振り返った二人の男に、俺は。
「ゴメンな」
「「?」」
「『スパーク・ボルト』ッ」
「「――ッ!?」」
首筋にスパーク・ボルトを流し込み、二人の男は声も発さず崩れるように倒れた。
「リョータ、貴様は本当に……」
レオンがゴミを見る目で俺を見てくるのも仕方が無い。
「ああ、俺だって最低な事したって思ってるさ。チクショー、気分悪い……」
そう自嘲気味に笑った後、俺は倒れた二人の男を壁にもたれ掛からせる。
ああ、同士よ。
どうかこんな俺を許して欲しい。
期待させておいてお預けなんて、本当に辛いのに。
でも、だからって流石に俺は男とヤる気なんてない。
ああ、本当にゴメンよ。
「せめて、迷惑料としてこれぐらいは……」
俺はそう呟くと、ルボルの件で手に入れた報酬金でパンパンになった財布から全額取り出し均等に分け、そっとズボンのポケットに入れた。
そんな俺の様子を見て、レオンは困ったような笑みを浮かべる。
「まったく……貴様、ハイデルに半端者と言っていたが、貴様も同じではないか」
「うっせえな。ホラレオン、せめてもの償いとして、コイツらが気絶してる内に乳揉ませとけ」
「させるか! そもそも貴様が最初に誘ったのではないか!」
財布の中身はスッカラカンになってしまったが、背に腹はかえられない。
取りあえず、俺達は二人の男達をそのままにして、魔王城に帰っていった。
――魔王城に帰って、外に出ていたのがバレてこってりリムに叱られた後。
「オイ、あの事を言わなくて良かったのか?」
俺の部屋に入って早々、レオンが開口一番に言って来た。
そう、俺はあの時、コイツにアダマス教団の事を喋らないように言ったのだ。
かなり真面目な顔をしているレオンに、俺は頭を掻きながら。
「そもそもアダマス教団の狙いは俺達。だから本当は関係の無いレイナ達だけ戦って貰うのはおかしい。そう言いてえんだろ?」
「分かっているなら何故……」
「俺達が行っても足手纏いにしかならないからさ」
「ッ」
そう言うと、レオンが言葉に詰まった。
「それに、アイツらは世界最強の勇者御一行様なんだ。俺達が向こうに行ってる間に終わらせてくるかもだし」
悔しいけど、コレが現実だ。
確かに俺もちょっとは強くなったと思う。
だけどやっぱり、ガチの戦場に行くには足手まといだろう。
それに……。
「フィアがちょっとした仕事って手紙で書いたのも、俺達にその事を知られたくなかったからじゃねえの? さっきの人達だってさ、様子見るに口止めされてたみたいだったし」
「むぅ……」
流石にそこは分かるようで、レオンは眉を顰めた。
……分かる。
アイツらが俺達に心配掛けたくないっていう気持ちも分かる。
だけど、教えるぐらいはして欲しかったなぁ。
逆に教えて貰えないと、ちょっと悔しいからさ。
「取りあえず、この話はもうお終い。さ、出てった出てった」
「…………」
俺がシッシと手を払うと、レオンは無言で立ち上がりドアへ向かう。
そして去り際、最後にレオンは振り返り。
「それで、本音は?」
その言葉に、俺はしばらく黙った後。
「訊くんじゃねえよ」
そうぶっきらぼうに返すと、何故かレオンは少し満足そうな顔をして出て行った。
しばらく俺はその場に立ち尽くし、そしてフラフラとベッドに倒れ込む。
……アダマス教団が動いている時、リーンやリムのような主戦力が国を離れるのは危険だ。
だから、今この場を離れる訳にはいかない。
……でもなぁ。
「アダマス教団にもレイナ達にも、文句の一つでも言いに行ってやりてえな……」