第三話 魔王の娘は今日も憂鬱だ!②
「リョータさん、本当にごめんなさい……ッ!」
「ははははは、俺ってそんなに影薄いかな? そうなのかな? もしかして俺って幽霊だったりするのかな? ははははははは」
「あわわわわ……!」
あの後、これは俺も付いていってもいいんだろうか? というか俺はお呼びじゃないからスルーしたんだろうかと悩みながらも、俺はそっと五人の後に付いていった。
それから五人が自由行動でバラバラになったタイミングを見計らい、リム呼んでみた。
そして俺に気付いたリムの『あっ、そういえばこの人もいたんだった!』という表情を読み取った俺は、公園のベンチで体育座りしながら病んでいた。
「リョータさん、その……大丈夫ですか?」
「はぁ……大丈夫なわけないだろ……。アレだよ? 自分の近くで自分と仲が良い人達が一緒に遊びに行く約束してるのに、自分だけ誘われていなかったって現象だよ?」
「本当にごめんなさい!」
俺の例え話を聞いて、リムは深々と頭を下げた。
でもよくあるよね、何故このメンバーで俺を誘わないんだって思う事。
俺は深いため息をつくと、ベンチの背もたれに身を預け、空を見上げた。
空はやっぱり青くて、そこに白い雲がゆっくりと流れていく。
やっぱり魔界っぽくねえなここ。
空は赤くないし、台地はひび割れてないし、目の前の砂場で子供達が山作って遊んでるし。
「そういえば、他の奴らは? 各自自由行動してるみたいだけど」
「リーンさんは少し野暮用があると言ってどこかに行きました。一応、ハイデルさんも一緒です。ローズさんとレオンさんは単独行動しています」
「そっか」
俺とリムはそれから何も喋らず、ただ目の前で遊んでいる子供達を眺めていた。
時折通り過ぎるそよ風が心地よく、柔らかな日光が俺を包み込む。
「なんっつうか……平和だな」
「ですね」
でも、この国半年前まで戦争してたんだよな……三日で負けたけど。
戦争なんかより、こっちの方が断然いいじゃん。
何て思いながら、時折リムとベンチでひなたぼっこしているじいさんとばあさんみたいな会話をしていると。
「そこの坊や、あなた立派な息子を持っているのね! どう? 一緒にいいこととしない?」
「うわっ、あんた街の真ん中で何口走ってんだ! ……って、何だローズさんか。嫌ですよ。そもそも俺二十過ぎですよ? 確かにローズさんの年齢からしたら坊やかもしれませブフォッ!」
「あなた今なんて言った!? ぶっ殺すわよ!?」
「おい、またローズさんが暴れてるぞ! 誰か止めろ!」
「バカかアイツ!? ローズさんに年齢の話はダメだって国の男なら誰でも知ってるだろ!?」
遠くであの男にマウントを取っていたサキュバスクイーンが抑え付けられている。
「「……」」
俺達は無言のまま、猛犬ビッチが遅れてやってきた警察らしき人に連行されるのを眺めていた。
アレ? 平和って何だっけ?
と、さっきまでの自分の発言に疑問を持っていると、気を逸らそうとしたのかリムが話題を振ってきた。
「……そ、そういえば、昨日リョータさんが作ってくれたハンバーガー? なんですが……」
「あ、ああ、それがどうした?」
「あのお料理、もし良かったら私に作り方教えてくれませんか? 実は私、お料理の勉強をしているんですが、あまり上手に出来なくて……」
「ああ、それならいいぞ。なんなら、別の料理も教えてやろうか?」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
リムの嬉しそな顔を見て、先程の猛犬ビッチの事が頭から飛んでいった。
ああ、やっぱり平和だ――。
「おい中二! この前ゴブリンにやられたんだってな! しかもすっ転んだところをゴブリンに袋叩きにされたらしいぜ!」
「ギャハハハ! かっこ悪! メッチャかっこわりい!」
「もはや四天王最弱どころかバルファスト最弱なんじゃねえの!?」
「貴様らアアアアアアアアアア! 今日こそは許さん! 我が闇の力の恐怖、思い知るが痛ッ! こ、こら、まだ決め台詞終わって終わって……ギャアアアア!?」
と、今度は遠くでガキ共に散々煽られたあげく現在進行形でボコボコにされている闇を何とかして影を何とかする人が居た。
「「…………」」
またもや無言になった俺達は、子供達を追い払った通りかかりの冒険者に、頭からズルズル引きずられていく中二を眺めていた。
「……お前もほんっと、苦労してるんだな」
俺はなぜだか涙目になっているリムの頭を撫でずにはいられなかった。
「こ、子供扱いしないで……グスン……」
うん、やっぱり魔王になりたくないわ……。