第十八話 女の子は今日も難解だ!③
さて、一旦俺達は魔王の間に移動したのだが。
「本当にリョータとレオンなの? にわかにも信じられないわね……」
「俺だって信じられねえよ……でも本当なんだ」
「せめて此奴らのように攻撃だけはしないでくれ、リーン」
緊急事態という事で、孤児院に居たリーンを呼び出し事情を説明していた。
しかしリーンは未だに信じていないようで、寝間着姿のままの俺達をジト目で見てくる。
「だってレオンはともかく、アンタがこんな澄んだ瞳をした美人になるわけないじゃない」
「酷えなオイ! 流石に元の顔は二枚目とは言えないけど、少しはマシだよ!」
女になったとしても、やはりリーンは俺に対して当たりがキツい。
しかし、リーンの言う事も少し分かる。
確かに鏡で見た俺は、ビックリするほど容姿が整っていたし。
胸だって中々のサイズで……。
胸が……。
「…………」
「あの、どうして自分の胸を見つめて……?」
急に黙り込み視線を下に向けた俺に、リムが恐る恐る訊いてくる。
そう、今の俺は女の子。
ということはつまり、自分のおっぱいを揉んだとしても問題ないわけだ!
素晴らしい、なんて素晴らしいんだ!
セクハラにはならず、思う存分おっぱいを揉めるなんて!
ということで、早速俺は自分の服に手を入れおっぱいを揉もうと。
「待ちなさい、何をしようとしてんのよアンタ!」
「ごへえ!?」
したのだが、あっという間にリーンに抑え付けられてしまった。
「何だよ、別に自分の身体なんだからいいじゃん! 生乳揉ませろおおおおおおおおおおお!」
「絶対にそんな事させない! だけどアンタがリョータだって事は今ので充分分かったわ!」
「判断基準がそれ!? まあ分かってくれたからいいか、それより離せえええええええええ!」
「このっ、いつにも増して往生際が悪い……! ローズ!」
「わ、分かったわ。『パペット』!」
「ああああああああ、畜生めええええええええええッ!」
リーンの指示でローズは俺に操作魔法を掛ける。
すると俺の身体の自由が奪われ、気を付けの姿勢にされてしまった。
クソォ、ローズも覚えてろよ!
「レオンは……まあ、アンタなら大丈夫ね」
「無論だ」
「ズルい、レオンだけズルい! お前だって、後で絶対隠れて自分の胸元見るくせに!」
「そそ、そんな事するわけないだろう! 貴様と一緒にするな!」
「ひゃ、ひゃめろぉ! 今身動きがひょれへえんだよ!」
レオンは若干顔を赤くすると、俺のほっぺを引っ張ってきた。
俺の見解では、レオンはムッツリだと予想しているのだが……。
この反応を見る限り、本当にそんな事をしなさそうだ。
「それで? 何でアンタ達はいきなり女の子になったのよ?」
「ぷはぁ! ……まあ、そこなんだよなぁ」
ローズが魔法を解除し、レオンの手から逃れた俺は、頬を擦りながら今までを思い返す。
……うん、思い当たる節が一つだけある。
「コレ、絶対昨日と関係してるよな」
「だろうな」
そう、つい昨日あのルボルと戦ったばかりなのだ。
ユニークスキルを暴走させる薬の他にも、アイツはあの実験場で様々な薬を創り出していた。
その中に女体化してしまう薬があったと考えると辻褄が合う。
しかし、俺達はルボルの薬を飲んだり浴びたりはしていないはずだが……。
などと考えていると、俺と同じように唸っていたレオンがふと顔を上げた。
「そういえば貴様、あの時薬品の入った小瓶を一つ取っていなかったか?」
「あの時って、ルボルがアソコに来る直前か? ああ、確かその後……アレ?」
そういえば、あの薬は本来証拠品としてエルゼの元に持って行こうとしていた物だった。
しかし最終的には、その薬を突き出す前にルボル自身が大暴れしたため、証拠は必要なくなった。
その後は……。
「そうだ、あの薬パーカーのポケットに入れたまんまだった! いや、だとしてもわざわざそんな物を飲むわけねえし……お前だってそんな記憶ないだろ?」
「そうだな。だとしたら何故……?」
と、再び悩み出す俺達。
「あ、あの……」
「うん? どうしたリム?」
すると何故か顔を青くしているリムが、怖ず怖ずと手を上げた。
「じ、実は、昨日二人が浴場にいたとき、脱ぎ散らかしていった服を片付けていたんです……その時、リョータさんの服のポケットから、その小瓶を見つけちゃって……」
「なんですと!?」
「私、てっきりポーションかと思っちゃって……だからその小瓶を、魔道冷蔵庫の中に……」
あの小瓶を、冷蔵庫に……。
待てよ待てよ待ってくれ……。
嫌な予感がして冷や汗を垂らしていると、ふと思い出したようにハイデルが言った。
「た、確かお二人が上がった後、私は冷蔵庫の中から小瓶を取り出して……」
「「それだああああああああああッ!!」」
その時、俺とレオンが同時にハモりハイデルを指差した。
「そうだよ、あの翡翠の実のジュース、本当はルボルの薬だったんだ!」
「通りであの時妙な感覚があった訳だ……」
取りあえず、俺とレオンの女体化の真相が分かった事に安堵した。
いや、真相が分かった所で、この状態が変わるわけじゃないから安心するのは早いが。
「あ、あの、ゴメンナサイ……私が勝手に持ち出しちゃって……」
「私も、注意が軽率でした……」
と、申し訳なさそうな顔で謝ってくる二人に、俺とレオンは顔を見合わせる。
「いや、別にいいよ。ていうか、元はと言えばポケットに入れっぱなしにしてた俺が悪いしな」
「そういう事だ。気に病む必要はないぞ、貴様ら」
俺達がそう言って笑ってやると、二人はコクリと頷いた。
「だけど、これからどうしましょう? やっぱりこのままって訳にはいかないわよね」
「そりゃあな。普通女体化って、時間経過で元に戻るのが一般的だけど……」
「いや一般的って……何よその言い方」
ローズに対しポロッと言ってしまった言葉に、リーンが反応した。
おっといけない。
日本では、女体化は一つのジャンルとして確立しているが、異世界では異端な存在なのだ。
「言い方間違えただけだよ。しっかし、もし時間経過じゃなくて、ずっとこのまま女ってのは流石に嫌だな」
「ああ。このままでは我の夜の王としての威厳が薄れてしまう……」
「お前、俺と同じで威厳なんてねえだろ。昨日ルボルに指摘されたばっかだってのに」
「…………」
黙り込んでしまったレオンの顔を除いてやろうとしたが、顔を押えられてしまい諦めた。
そんな時、リムが何か閃いたように手を叩く。
「そうだ、私のママ……んん、お母さんに訊いてみましょう!」
「リムの母ちゃんに?」
「成程、確かリムの母親はポーション屋を営んでいたな。ならば、この状態を治すすべを知っているかもしれん」
リムの提案に、レオンが納得したように頷く。
「よし、そうと決まれば早速行こうぜ、レオン!」
「うむ」
そして俺はレオンの手を引くと、魔王の間から出て行こうとして……。
「んだよ、まだ何かあるのか?」
もう片方の手を掴んだリーンは、俺の事をジト目で睨んでくる。
そんなリーンにぶっきらぼうに訊くと、ため息交じりに応えてきた。
「もし今のアンタを一人にしたら、何しでかすか分からないのよ。だから私も行く」
「…………」
何でコイツは普段から俺に対して冷たいくせに、俺の事一番理解してるのかな?
何なの、ツンデレなの?
ならいい加減俺にデレの部分を垣間見せて!
「……分かったよ」
もしここで抵抗したら何されるか分からないので、俺は素直に頷いた。
すると脇でその様子を見ていたレオンが。
「すまんな、リーン。流石にこの我でも此奴の行動を止められる自信がない」
「べ、別にレオンの為じゃないからね」
「…………」
何故かレオンにだけ純度100%のツンデレ対応な事に、少し泣きそうになった。