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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第五章 まおう1/2
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第十七話 実験は今日も怪しげだ!④

フォルガント王国の宮殿の周りをグルッと囲うように、大きなお屋敷が建ち並んでいる。

身分が高い貴族や大商人ほど、宮殿の近くで大きな屋敷を持っているという、いわゆる上流階級の区域。

そこの丁度真ん中辺りに、アラコンダ郷の屋敷があった。

明るい緑色の屋根に、シミ一つ無い真っ白なレンガ。

まさしく貴族の屋敷に相応しい様相を呈している。

大きな庭には様々な植物が育てられており、バルファスト以外では滅多に取れないはずのマナ・ロータスたポイズン・ティアラ等も見掛けた。

だがその植物のほぼ全てが観賞用のような美しい花ではなく、毒々しい薬草や怪しい花だったので、怪しい実験をしているかもしれないという恐怖心に拍車が掛かる。


「わりーな、付き合わしちまって」

「いえ、大丈夫ですよまお……ムーンさん。これも勇者のお仕事ですし」


頭を掻きながら浴びる俺に、レイナが笑顔で答える。

その隣で、暗い顔をしたレオンが何やら呟いていた。


(わ、我の実家よりもデカいだと……)

(しゃーねえだろ、大国の貴族だ。それより今回の内容は覚えてるよな?)

(無論だ)


今回の内容はこうだ。

まずは俺、レオン、エルゼ、そしてレイナでルボルと話し合い、その隙にジータとフィアが調査する。

調査と言っても、使用人に遠回しの聞き込みをするだけ。

俺達はルボルと出来るだけ長く会話し、その二人の意識を遠ざけつつ、本人の口から不審な点を見つける。

最後に、怪しい事をしていないと分かったら素直に帰る。

逆にもし怪しい事をしているという確証を得たら、堂々と屋敷を調査させて貰う、というのが今回の作戦だ。


「それではジータ様とフィア様はこちらへ」

「は~い」

「分かったです」


廊下の分かれ道でジータとフィアと別れ、残った俺達は使用人に連れられ応接室に通された。

その中央のソファに、例の貴族が座っていた。

吊り上がった細く鋭い瞳に、オールバックのグレーの髪。

何だかヘビを思わせるソイツはゆったりと立ち上がると、胸に手を置き綺麗なお辞儀をした。


「よくいらっしゃいました、レイナ姫。僕がアラコンダ家の当主、ルボル・ウィル・アラコンダでございます。さあ、どうぞこちらへ」

「は、はい」

「それじゃあ失礼して……」


そしてレイナに目の前のソファに座るように促し、俺も続いて座ろうとしたのだが。


「…………」


ルボルが……何かスッゴイ睨んできた。

本当に、マジで、もの凄い眼光で。


「……すいませんちょっと」


読んで字の如く蛇に睨まれた蛙のようになっていた俺は、しばらくすると一歩下がり、ポカンとしていたレオンと顔を顰めていたエルゼの手を引いて応接室から出る。

ルボルの顔を見れない位置に居たレイナは、何が何だか分からずオロオロしていた。

そして笑顔を絶やさず会釈し、ゆっくりと扉を閉めて。


「初っぱなからスゲえ睨まれたんだけど!? 何アイツ、何アイツ!?」

「わ、我も驚いたぞ!? 何なのだ彼奴は!? 扉を閉める瞬間など、まるで道端に落ちている犬の糞を見つめていたような……!」


顔を見合わせアタフタする俺達に、エルゼがこめかみに手を当てながら申し訳なさそうに言った。


「悪い、たまに居るんだよ。ああいうアタシら冒険者を毛嫌いしている貴族……」

「貴族から見れば冒険者は薄汚いだろうけど、アソコまで顔に出すか!?」


あのルボルの人睨みだけで、背筋がゾッとなった。

これは強い奴を目の当たりにした時のような本能的感覚ではなく、まるで道を譲ったら通り過ぎざまに舌打ちされたような嫌な感覚。

どうしよう、もの凄く応接室に戻りたくない。

俺ってこんなお豆腐メンタルだったっけ?

両腕をさすって身震いしていると、エルゼが応接室の扉を見ながらため息をつく。


「しかも今回はレイナが来てるんだ。今更だろうけど、レイナって可愛いし魅力あるだろ?」

「そりゃあな。顔は良い、スタイル良い、オマケにあの性格で、お姫様件勇者ときたもんだ。どれを取っても魅力しかねえ……これ絶対レイナに言うなよ?」

「言わねえよ……とまあ、そんなレイナは勿論若い貴族達の注目の的だ。パーティーみたいな社交の場では、いっつも引っ張りだこだ」

「つまりあのルボルとやらは、今回の話し合いをレイナと近付くチャンスだと思っている。だが我々が邪魔だという事か」


いや、今回は俺の報酬金の話をしにきたんだけど?

何故お見合いになった?


「とりあえず我慢だ。お前は今は魔王じゃなく冒険者として来てる。だからここで言い争いを起こすと面倒だ」

「分かってるよ。レオン、お前も我慢だからな」

「う、うむ……」


俺達は頷き合うと、再び応接室の扉を開けた。


「いや、申し訳ありません」

「……いえ、構いませんよ」


レイナとの会話を遮り再び入ってきた俺達に、ルボルは一瞬凄い殺気を向けてきたが、スッと愛想笑いを浮かべた。

チラと横を見ると今のに怒りを覚えたのか、同じく愛想笑いを浮かべているエルゼのこめかみに青筋が立っていた。

気持ちを入れ替えるためか、エルゼはわざとらしくゴホンと咳こんだ。


「あー、本題には言って良いか? アタシ達は今回、翡翠の実の採取クエストの報酬金の話をしにきたんだが」

「答えはとっくに決まっています。支払う訳がありません」

「いやだけど――」

「アレは父が勝手に依頼したもの、私が支払う義理は無いです……それよりレイナ様は紅茶の茶葉は何がお好きですか? 私はマジックハーブとスネーク・ストロベリーの葉のブレンドが好みなのですが」

「え、ええっと……」


キッパリとエルゼに言い放った後、レイナに一方的に話し掛けるルボル。

コイツ、昔冒険者の集団リンチにあったのかな?

そう思うほど、冒険者を毛嫌いしているようだった。

ってか、スネーク・ストロベリーの葉って、もしかしなくてもヘビイチゴだろ。

確かヘビイチゴってマズいはず……と、うっかり思考がヘビイチゴの世界に取り込まれそうになっていたとき、レイナが怖ず怖ずと。


「あの……話を戻しますが、どうか私からもお願いです、報酬金の件を改めて考えてはくれませんか?」


上目遣いで、祈るようにルボルにお願いするレイナ。

無意識でやっているのだろうが、メチャクチャあざと可愛い。

この美少女のお願いを真っ正面から喰らったら、俺なんてお願いのおの字の時点で承諾しているだろう。

しかしルボルはこめかみを手で押え、深くため息を付く。


「そう言われましても……そもそも、クエストを請けた冒険者というのはどちらですか?」

「あっ、俺です」

「貴方ですか……」


ルボルはそう呟きながら、品定めするように俺を見てくる。


「……本当に貴方がクエストを達成したのかですか? この鎧すら着けていないようですが?」

「ま、まあ」

「にわかにも信じられないですね、その華奢な体つきであのクエストを請けるのは。さては、この私に嘘をついているのですか?」

「いや、まさかまさか」


うん、正確にはあの化け物ヘビを倒したのはリーン何だけどね。

それを知っているレオンが、ルボルから見えない角度で脇腹をどついてきた。


「私はてっきり、隣に居る者が例の冒険者だと思っていましたが……。ッ!?」

「む?」


そう言って俺からレオンに視線を移したルボルは、しばらく固まったと思いきやバッと身を引いた。

それに対してレオンが首を捻っていると、ルボルが指を差して叫んだ。


「こ、コイツはまさか、魔族!?」

「あ、ああ。我はヴァンパイア族だが……」


そう聞くや否や、ルボルは近くの机に置いてあった花瓶を引っ掴むとレオンに向かってぶん投げた。


「ゴへッ!?」

「「!?」」

「レオオオオンッ!?」


見事顔面にヒットした花瓶は、レオンと共にそのまま床に落ちていき。


「ウゲエ!?」


滑り込んだ俺は花瓶を両手でキャッチし、レオンの頭を腹で受け止めた。


「ふ、二人とも大丈夫ですか!? ルボル様はいきなり何故こんな事を……!?」

「何故だ、何故魔族がここに居る!?」

「いや、コイツは俺の仲間で……!」

「魔族などを仲間にするなど頭が狂っているのか!?」


いきなり口調が変わり、こちらを指差し真っ青な顔をして喚くルボル。

何だコイツ、まさかの魔族嫌いか!?

確かにコイツ人種差別しそうだけど、ここまでするかよ!


「貴様ぁ……」


そんなルボルの言葉に、レオンがゆらりと立ち上がった。

あっ、ヤベえ!


「もう許せん、我のシャドウの餌食にしてくれる――ムグウ!?」

「ステーイ! ステイレオンー!」


今にも飛びかかろうとしたレオンを、俺は後ろから羽交い締めした。

何故だと言わんばかりにバタバタ暴れ出すレオンに、俺は慌てて耳打ちする。


(落ち着けって! 今お前がコイツをボコボコにしたら本当に取り返しが付かない!)

(プハァ! リョ、リョータは悔しくないのか!? あんなクズにいいように言われて!)

(悔しいに決まってんだろ! 今すぐアイツに気絶するまでカンチョーしまくって脱糞させてやりてえよ! だけどここは食いしばれー!)

(ぐぬう……!)


レオンは悔しそうにルボルを睨みつけていたが、やがて落ち着いて立ち上がった。

そんな様子を見たルボルは、レオンをゴキブリを見るかのように顔を顰めながら。


「早くこの者を摘まみ出してください!」

「チッ。レオン悪い、席外してくれ」

「クッ……仕方がない」


ここは大人しく従うしかないと、レオンは悔しそうに扉に向かう。


(もしコイツの裏が取れたら、全力で嫌がらせしてやろうぜ)

(勿論だ……!)


そんなレオンに俺は肩を叩きこっそりと約束を交わしながら見送くる。


「まったく……後で屋敷全体を除菌しなくては……」


そしてもし裏が取れなくても、最後にこのクソ野郎に自分が魔王だって事を思いっ切り暴露してやろうと心に決めた。

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