プロローグ
「見損なったぞリョータ! 貴様は……貴様という奴はッ!」
「そりゃこっちの台詞だ! ガッカリだよ、本当にお前にはガッカリだよ!」
魔王城のレオンの部屋にて。
今この瞬間、俺とレオンの友情は壊れた。
「前々から貴様は気に食わなかったのだ! 魔王というこの国のトップに君臨しながらも、威厳のいの字も感じない!」
「ああん!? だから何だってんだ、今更だろ! 俺は世界征服しない代わりに、雑魚でクズでスケベな、魔界を代表するヤベー奴、それが魔王ツキシロリョータ様だ! 文句あるか!!」
「ありまくりだ! ならばせめて、これぐらいのこと理解しろ!」
「レオンこそ高貴なとこの生まれなんだろ!? それなのに何で分かんねえんだコノヤロー、所詮高貴って言うのは外面で、程度の低いお家なんだろ!」
「言わせておけば貴様ァ! 我のシャドウの餌食になるかッ!」
「テメエこそ俺のエクスプロージョン(仮)の実験台にしてやるッ!」
不良漫画のごとく、至近距離で睨み合う俺とレオン。
最悪だ……折角分かり合えたと思ったのに……!
俺がタイミングを見計らって、レオンに飛びかかろうとしたその時だった。
「ちょっ、ちょっと! 魔王様、レオン、何をしているのですか!?」
ガチャリと部屋のドアが開き、そこから慌てた様子のハイデルが入ってきた。
「あっ、ハイデル! なあなあ聞いてくれよ、このバカがさぁ!」
「貴様の方がバカであろう!」
「何やら揉めたような声が聞こえて来たと思ったら……一体何が原因で言い合っているのですか?」
「コレだよ!」
深いため息を付いたハイデルに、俺はある物を差し出した。
「コレは……ダガーですか?」
そのある物というのは、柄の部分に赤い宝石が埋め込まれたタガーだった。
「ああ。しかしただのタガーではない。コレは進化の短剣という業物だ。このタガーはモンスターの命を吸収することで進化し、更なる特性を得るという物だが……」
首を捻るハイデルに、レオンが意気揚々と説明するがすぐに俺を睨んでくる。
「その特性というのが、複合毒と呪いの二つでな。なのにこの阿呆は……!」
「だーかーらー! そもそもタガーはアサシンや盗賊が使うもんだろ!? なら、ジワジワ相手を苦しめる複合毒に決まりだろ!」
「いいや呪いだ! 斬り付けることによって相手に身体能力を下げる呪いを掛ける、その方が相手にとっては苦しいに決まっている!」
そう、俺とレオンはこのタガーの特性を、複合毒と呪いのどちらにするかで揉めているのだ。
「毒の方が格好いい!」
「呪いの方が格好いい!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
何とか引き剥がそうとするハイデルに、俺とハイデルはバッと振り返ると。
「「ハイデルはどっちだ!?」」
「はぁ……たかが一振りのタガーで揉めないで下さいよ」
「「たかがってなんだ、たかがって!!」」
「意見が分かれている割に息ピッタリですね!?」
畜生、やっぱハイデルじゃダメだ!
俺は部屋の扉を開けると、レオンに言い放った!
「こうなったらリムにどっちがいいか決めて貰おう! 俺の妹なら、きっと俺を選ぶはずだ!」
「いいだろう! そもそもリムはダークウィザード、呪いのプロだ! なら我を選ぶだろう!」
同時に部屋を飛び出した俺とレオンの背後から、ハイデルのため息交じりの声が聞こえた。
「まったく、魔王様とレオンは、喧嘩するほど仲が良いって事ですね……」