エピローグ
翌日。
タオルケットにくるまりながら爆睡していたが、ローズに叩き起こされた。
抵抗したが、やむなく俺は起きると寝ぼけ眼のままトボトボと城内を歩いていた。
「なんだよもー、何時だと思ってるんだよ……」
「もうお昼なんですけど? リョータちゃんはもう少し生活態度改めなさいな……」
寝起きのせいで更に跳ねに磨きが掛かっているアホ毛をいじりながら言うと、ローズが呆れ顔で言ってきた。
「だって魔王って言っても書類仕事だけだから午前は何もしなくてもいいし……正直に言って、毎日が休日と言っても過言じゃない」
「それを国民に聞かれたら反乱起きかねないわよ……」
んな事言われたって……。
「ってか、いきなり起こしてきて何用? しょうもないことだったら、俺はもう一度寝るからな」
「逆にそんなに寝れることに尊敬しちゃうわ。私最近、どうも寝付きが悪いのに……」
「そりゃあ……うん」
「リョータちゃん、今絶対『歳だからだろ』って言いそうになったでしょ?」
「だったら寝付きが悪いなんてババア臭え事言うんじゃねーよ!」
「何ですって!?」
ああもう、朝から大声出すから頭痛くなってきた……って、朝じゃなくて昼だった。
と、俺がこめかみを押えていると、いつの間にか正門の前まで来ていた。
そしてそこには、俺のある意味因縁の相手が。
「あっ、やっと来たわね」
「うわ出たぁ……」
「人の顔を見るなり随分な挨拶ね!? やっぱコイツ嫌いだわ……」
多分足下にミミズが這っているのを見つけたときのような顔をしているだろう俺に、ベロニカが歯を食いしばりながら睨みつける。
しかしその間に、ローズがまあまあと入ってきた。
「ベロニカ、このままじゃここに来た目的の意味がなくなっちゃうわよ」
「そ、そうだったわね……」
そういやコイツらやけに仲良くなってるな。
ベロニカから最近まで嫌な感情というか、そんな物を感じていたが、今ではそれが無くなってる。
きっと昨夜、ローズと腹を割って話せたんだろう。
「んで、一体何だよ?」
「…………」
仲が戻った事に多少安堵しつつ首を捻ってそう訊くと、ベロニカが無言で俺の前に立った。
……何かよく分からないけど、一応身構えとこ。
しかしベロニカの口から発せられた言葉は、俺の予想とは違った。
「……色々と、ゴメンナサイ」
「…………はぁ?」
「だから、その、私色々ここで迷惑掛けたでしょ……?」
思いも寄らないその言葉に、俺の脳がエラーを起こす。
今コイツ、ゴメンナサイっつったか?
あの俺の事を童貞ってバカにしまくってたコイツが?
「……拾い食いは良くないぞ?」
「アンタ私が変なもの食べたって言うの!?」
「いやだって、今までのお前からの豹変ぶりが凄まじいんだよ……!」
ホントにコイツは昨日、ローズと何を話したんだろう。
いや、性格が良くなるならいいんだけどもさ。
「ベロニカは今までの事を反省してるのよ。だから私に、リョータちゃんやリーンちゃん、色んな人に謝りたいって言ってきたの」
「ちょっ……!?」
未だにエラーが直っていない俺に、ローズが肩を竦めながら言った。
ホントベロニカの奴どうしちゃったんだよ……?
やっぱり変なもんでも食ったのか……?
いやしかし、反応を見るにどうもマジっぽい。
「それで、どうかしら……?」
ベロニカが上目遣いでこちらを見てくる。
俺の許しを待っているのだろう。
そんなコイツを見てると、何となく初めて会った時のことを思い出す。
あの時のベロニカは素敵だった……。
「はああぁぁ……」
俺は大きく息を吐き出すと、ベロニカに向き直る。
そして自分が出来る最大限のニッコリ顔で、
「ナメんな」
堂々と言い放った。
「ちょっとおおおおお!? 今の流れ完全に許すでしょう!?」
「あ? なーに抜かしてやがんだテメーはよ。そもそもローズとの因縁と俺の事騙そうとした事や童貞って蔑んだの関係ねーじゃねえか」
「ぐうぅ……やっぱりコイツムカつく……!」
「悪いなぁ、童貞は執念深いんだぜぇ?」
ここぞとばかりに煽りまくってやると、ベロニカが心底恨めしそうに俺を睨みつけてくる。
今ので少し溜飲が下がった俺は、フンと鼻を鳴らすとベロニカを指差し。
「まあ、今回だけは大目に見てやんよ。あとお前らサキュバスが男を誑かして精気を吸うのも勿論許容する。……でも覚えとけよ、またこの国で俺みたいな純粋無垢な童貞を必要以上にバカにしやがったら、お前のブラジャー剥ぎ取って冒険者達誘ってキャッチボールしてやるからな!」
「ベロニカ気を付けて。リョータちゃんはヤケになったら本気で有言実行する子だから」
「ど、童貞のクセにセクハラ行為に躊躇無しって……面倒くさいわね」
「聞こえてんぞコラァ!」
目の前でコソコソと囁き合う二人に怒鳴ると、俺は頭をバリバリ掻きながらベロニカに訊いた。
「そんで? お前は皆に謝った後どうすんだ?」
「私はもう一度世界を回って鍛錬かしら。だけど今度は復讐じゃなくて、お婆さまを越えるサキュバスになるって目標を掲げて」
お婆さまというのは一体何なのか分からないが、ここでそれを訊くのは無粋だろう。
これはきっと、二人だけの思い出なのだから。
「ま、頑張れよ。それじゃあ俺は腹減ったから食料庫から何か漁ってくるわ」
「魔王らしからぬ発言ね……ううん、今更か」
「そうよベロニカ。リョータちゃんはそういう魔王様なの」
「そーいうこと」
俺は魔王城に入る直前、一度だけチラと振り返る。
そこには、楽しそうに会話をしている二人のサキュバスが。
――どうかこの二人の仲が、もう壊れませんように。
そんな柄でもないことを願いながら、俺は大きなあくびをした。
どうも皆さんお久しぶりです、陶山松風です。
これにて『魔界は今日も青空だ!』第四章が終了となります!
なかなか時間が取れず、この章に五ヶ月という長い月日が掛かってしまいました。いや、別にサボってた訳じゃないですよ? 本当ですよ!?
さて、今回の章は魔王軍のエロ担当、ローズがメインとなる話でした。
あまりバトルといったワクワクするものも書けず、更にはギャグ路線からドンドンシリアスになってしまいましたが、皆様どうかこの章も呼んで下さいませ。
次回から少しずつ敵を増やしたり、世界の謎が見えてきたり、リョータが何故あの世界に転生してしまったか等。物語も徐々に進んでいくので、どうぞお楽しみに!
ではでは!