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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第四章 サキュバス・ロワイアル!
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第十六話 決闘は今日も白熱だ!⑥


「ねえリョータちゃん。私、今更になって何だかもの凄く申し訳なくなってきたわ……」

「何でだよ、さっきも言ったろ? 向こうがインチキしてんならこっちもインチキで対抗するっきゃねえって」

「先代の方々に顔が立たないって言ってるの!」


今は第一試合が終わり第二試合が始まるまでの隙間時間。

ベロニカに勝ったローズは、大きなため息をつきながらそう言った。


「ただでさえ試合内容が変わったのに、更にはインチキの張り合いって! 先祖代々行われた由緒正しき決闘なのに……!」

「…………」


いや、お前がサキュバスクイーンという時点で先代の方々とやらに顔が立たないだろ。

と言いたいのをグッと堪え、俺は話の内容を逸らした。


「それよりもベロニカの奴、他のサキュバスから魔力を貰うとはなぁ……」

「恐らく、あの方は《アブソーブ》という魔法を使っていたのでしょうね……」

「アブソーブ?」


顎に手を当てながら呟いたハイデルの言葉に聞き返す。


「アブソーブって確か……魔力を吸収するって魔法だったっけ?」

「はい。普通、あの距離から魔力を誰かに送るなど、いくら上級魔法使いでも難しいです。なのであの者達は、自身の魔力を外部に放出し、その魔力をベロニカがアブソーブで吸収していたのでしょう」

「成程なぁ……」


流石ハイデル、こういう所は有能だ。


「しかし、魔力をあの魔道具に流しながら遠く離れた場所に居るサキュバス達の魔力を吸うとは……卑怯者だとしても、相当な手練れですよ」

「マジかよ……」


タチ悪いなぁ……。

卑怯者のくせに普通に強いってさ。

俺だって、もしチート野郎だったら今みたいな卑怯者になってないのに。

……多分。


「それより、まずは第二試合の作戦を練ってはどうだ?」

「そうですね。最初からああいう手に出るなら、今後もそうしてくるはずですし。向こうが何をしてくるか分からない以上、こっちも何か考えないと……」

「そうね……リョータ、何かいい事思いつかない? 卑怯者のアンタならパッと思いつくでしょ?」

「一言余計だ。ったく……」


リーンの言葉に顔を顰めるも、俺は顎に手を当てて考え込み……。


「ちょっと待って」

「どした?」


後ろから肩にローズに手を置かれ、ふと顔を上げる。

振り返ってみると、そこには微笑を湛えたローズの顔が。


「皆ありがとう。私のためにここまで真剣になってくれて」

「いや、俺はお前と言うより自分の為にやってるんだけど」

「そこは素直に言葉を受け取ってよ。全くもう、リョータちゃんはリーンちゃんに次ぐツンデレなんだから」

「「誰がツンデレだ(よ)! コイツと一緒にすんな(しないで)!」」

「全くタイミングがズレなかったな……」


ローズの言葉にムキになった俺とリーンに、レオンが冷静にツッコんだ。

その光景を見て一頻り笑ったローズは、真っ直ぐこちらを見据える。


「でも……やっぱり、これからは一人で何とかしてみるわ」

「え~……大丈夫なのか……? そもそも、お前から手伝ってくれって言ったんじゃないか」

「ええ。だけどね、このままじゃこの勝負がただのインチキの張り合いになっちゃう。それだと、いつか代替わりした次のサキュバスクイーンにも、その次の娘にも、悪い影響が出ちゃう」

「そりゃあ、まあ……」

「このままこんな戦いが続くんだったら、皆の協力無しに正々堂々戦う。そしてベロニカに卑怯な手を使っても何も変わらないって教えてあげるの。大丈夫、絶対負けないから」


…………。

正直に言って、絶対に信用出来るわけではない。

普段ローズと過ごしてきて、コイツのダメっぷりは身にしみて分かっている。

だけど……。

こうも真っ直ぐ目を見られると、なぁ。

俺が後ろを振り向くと、リーン達は皆同じ表情を浮かべていた。

その表情は、心配だとか、無理だとか、そんな感情はない。

ただ、ローズと同じように真っ直ぐとした目だった。

しょうがねえなぁ……。


「……分かった。じゃあ、俺達は今後お前の助太刀はしない」

「ありが――」

「ただし!」


俺はローズの言葉を遮ると、小さく息を吐く。

ここで素直に頑張れだとか、負けるなだとか言っても、何だか俺達らしくない。

それなら俺らしく、魔王様が直々に激励してやろう。

俺はいつものように不敵な笑みを浮かべると、手をワキワキさせながら。


「もし負けたら、お前が全力で泣くまでその双子山を揉みまくってやるからな」

「ブフッ!?」


俺の堂々たるセクハラ宣言に、キマッタ顔をしていたローズが思わず噴き出した。


「アンタねえ!」

「にっげろー!」

「コラッ、待ちなさーい!」


そして俺がリーンから逃げる最中、遠くからこんなやり取りが聞こえて来た。


「魔王様はもしかしたら、ローズの緊張を解こうとしていたのかもしれませんね。あの方は、素直じゃありませんから」

「そうね……魔王軍四天王として、リョータちゃん。いや、魔王様の期待に応えられるようにしないとね!」





「――アイツ……よくもやってくれたわね……」


バルファストのとある小さめの屋敷。

そこは、サキュバス達が近況報告会の会場に使う場所で会った。

その屋敷には明かりはついておらず、天窓から入る月明かりが広間を静かに照らしていた。

その広間の中心に備え付けられたソファに、一人のサキュバスが踵をカツカツ鳴らしながら座っていた。


「ベ、ベロニカさま……」

「何?」

「い、いえ、何でも!」


その前で跪いているサキュバスの一人が、心配そうにベロニカと呼ばれたサキュバスに声を掛ける。

ベロニカがそのサキュバスをキッと睨みつけると、慌てて首を横に振って黙り込んだ。


「クッソ……」


ベロニカは勝てる自信があった。

手下のサキュバス達の魔力をアブソーブで吸い取り、その魔力を水晶玉に流す。

魔力量ではローズに敵わないが、技量ならいくらでも鍛えられる。

いままでの長い長い苦労と努力が培った、ベロニカの荒技であった。

しかし、彼女は負けたのだ。

あの貧弱でいかにも雑魚そうな魔王の横やりが入って。


(何なの……何なのよアイツは……!)



――バルファストに戻ってきた腕試しに、帽子をわざと木に引っ掛けて困ったような顔をしていたときに現れた、一人の少年。

顔立ち、身長は普通。

黒髪黒目の、右腕にギプスを嵌めている事以外は至って平凡な人間の少年だった。

最初は騙しやすそうだけど何も持っていなさそう、それに自分の投げた木の枝が自分に当たるというマヌケっぷり。

こんな奴、てきとうにあしらって次の標的を待とう。

そう、思っていたのだが。


『ああ、ええっと、リョータって言います』


その名前を聞いて、ベロニカは内心酷く驚いた。

リョータというのは、この前噂で聞いた、このバルファスト魔王国の新魔王の名であったからだ。

ベロニカはひとまず、彼を喫茶店に誘って様子を見た。

彼からは魔王と呼べるほどの覇気など微塵も感じず、逆にベロニカに緊張していたぐらいだ。


(こんな奴が魔王? 大丈夫なのかしら、この国は?)


彼女は久々に戻ってきた故郷の将来の心配と共に、チャンスだと思った。

魔王と関係を持てば、色々使えそうだと思ったからだ。

魔王を堕としたという事実があれば、ローズよりも自分が上になれると思ったから。

そうすれば、他のサキュバス達に自分の方がサキュバスクイーンに向いていると言い張れると思ったから。

そうすれば、ローズに……。


『だけど、こんな俺でも、ちゃんと好きになった人としたいんです』


しかし、彼は若干押されながらも、キッパリと断った。

自分は変態だと言い張った奴に、この自分が断られたのだ。

ベロニカはそれが腹立たしくてしょうが無なかった。

だから、彼女はあの日あの夜、夜空を飛びながら。


(こうなったら、どんな手を使ってでも、サキュバスクイーンになってやる。そしてその暁に、この国を裏から乗っ取ってやる! そして……そして……)



「――ベロニカ様……」

「……今度は何よ?」


考え事をしていたベロニカは、声を掛けたサキュバスを睨む。

そのサキュバスは怯えながらも、怖ず怖ずと切り出した。


「そろそろ第二試合が始まります……ご準備を」

「……分かったわ、先に行ってちょうだい」

「はい」


手下のサキュバス達が去り、広間にはベロニカだけが取り残された。

ベロニカは静かにソファから立ち上がると、天窓から覗く三日月を見上げる。

そんな彼女は、どことなく寂しそうな表情を浮かべながら、ポツリと呟いた。


「ねえローズ。私はどうしたら、あなたに――」


その小さな呟きは、広間に静かに反響し、すぐに消えていった。


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