第十六話 決闘は今日も白熱だ!②
「俺達からこの国の覇権を乗っ取る……ねえ」
一人になった俺は、街を歩きながらそう呟いていた。
現サキュバスクイーンでありベロニカと長い付き合いのローズが言うのだ、そうなのだろう。
覇権かぁ……。
言われてみると、改めて自分がこの国の覇権を握っているだなと考えさせられる。
まあ、握ってるからといって特に何もしないが。
しかしあのベロニカの事だ、この国をどういう方角に向けさせるか分かったもんじゃない。
冒険者達に色目使ってる時点で、この国全体がピンク色になってしまうのは必須だ。
嫌だよ? バルファスト魔王国じゃなくて、バルファスト淫夢国になるの。
どこのB級エロゲーの舞台だよ。
そう言うことなので、サキュバス達の中だけだと思っていたが、俺達にとっても見過ごせない問題となってしまった。
だから俺は、ベロニカ達の本拠地と化してしまった冒険者ギルドに向かっていた。
その目的は、有利な状況にあるベロニカをローズと同じスタートラインまで引きずり下ろす事だ。
だけど嫌だなぁ……死にたくねえなぁ……。
「……着いちまったか」
なんて考えている間に、俺は冒険者ギルドの前まで到着した。
扉から中を見ると、相変わらずキャバ嬢とかしたサキュバス達が、冒険者達を誑かしていた。
「ねえ、ベロニカ様とローズ様、どっちがサキュバスクイーンに相応しいと思う? 私は、ベロニカ様が相応しいと思うな~?」
「そ、そうなのか? まあ、俺もベロニカさんの方が優しいしサービスしてくれるからいいけど……」
「ですよね~」
ホラ、こんな風にベロニカの株を上げてる。
確かにいつもファッションビッチ臭漂ってて、オマケに年齢聞いただけでボコボコにするローズよりも、表の顔のベロニカの方が良いに決まってる。
しかし、コイツらは知らない。
いや、知らないというよりも忘れている。
サキュバスという種族の恐ろしいところを……。
「って、ん?」
中に入るタイミングを見計らっているとき、俺の視界に見知った漆黒のマントが映った。
そのマントに身を包んでいる奴は、何故か多くのサキュバス達に囲まれている。
「き、貴様ら、本当に何なのだ!」
「レオンちゃん、反応かわい~」
「こんなウブな子が魔王軍四天王なんて、未だに信じられないよね~」
「ねえレオン君、いっそこのまま私達と一緒にベロニカ様の陣営に入らない? そしたら私達、色々気持ちいいことしてあげるのにな~?」
「そ、そんな気は無い! 止めっ……いい加減にしろぉ!」
その人物、レオンはサキュバス達に詰め寄られ、腕をブンブン振り回していた。
「………………」
ほあー?
何やってんだよコイツ。
敵の本拠地でな~にイチャコラしてんだコラ。
何でだ? 何でコイツここまでサキュバスにモテるんだ、この前もそうだったし。
このヤロー、ずっと仲間だと思ってたのに裏切りやがって。
「アハ……アハハハ……」
多分今の俺は、目からハイライトが消え、狂喜に満ちた笑みを浮かべている事だろう。
端から見れば、今すぐ警察に報告した方がいいほどに。
すると案の定、後ろから恐る恐ると言った感じで。
「あ、あの……」
「悪い今アイツの背中にナイフぶん投げてやろうか本気で考えてるからまた後で……って、カミラさんじゃないですか」
「ま、魔王様!? 今とんでもない事を言いませんでした!?」
バルファスト魔王国の冒険者ギルド随一の美人ともっぱら噂のカミラさんが、書類を抱えて俺の背後に立っていた。
「いや~、すいません。つい……ってそれよりも、何やってんですかレオンの奴? まさかとは思いますけど、サキュバス達にチヤホヤされる為だけにここにいるわけじゃないでしょうね?」
「と、とんでもない!」
再びレオンの背中を見ながら歯を食いしばっていると、カミラさんが首を横に振りながら言った。
「レオンさんは、あの方達を冒険者ギルドから追い出そうとしているんです。『貴様らのせいで冒険者が働かなくなり、モンスターが増えたらどうする』とか、『ギルド職員にも迷惑が掛かる』など、注意してくれて」
レオン……お前って奴は……!
そうだよな、お前って基本善人だもんなぁ。
「……だけどそれだけじゃ、ああはならんでしょ?」
「それが……あの方達はレオンさんが注意しても一向に耳を貸さず、それどころかレオンさんのウブな反応が気に入ったのか、先程からあのような……」
「ええ……」
マジかよ、レオンの野郎、ハーレム気質でもあんのか?
なんて羨まし……妬ましい野郎なんだ!
しかし、ウブな反応ねぇ……。
「……俺もウブな反応したら女の子にモテるのかな?」
「いや、それは無いと思います」
「即答……」
カミラさんって、意外と言いたいことは言うタイプだよな。
まあ分かってたけどね?
俺みたいなのが今更ああいう反応してもただキモいだけって事は?
……まあいい。
とりあえず、俺は自分の仕事をするだけだ。
「? 魔王様、それは?」
俺がポシェットから取り出した瓶に入った青色の液体を見て、カミラさんが首を傾げる。
それに対し、俺は瓶の蓋を開け、自分の頭のてっぺんに中身をぶちまけながら言った。
「コレですか? 防御力アップポーションです」
「何故!?」
そりゃそういう反応になるよな。
普通、このポーションは街中で使うことはまずないもの。
俺は目を見開くカミラさんにニコッと笑うと、意を決してギルドに入った。
「レ~オッンく~ん、なにしてるの~?」
「ッ!? リョ、リョータ!?」
後ろから声を掛けられたレオンは俺の顔を見るとたじろぐ。
そして今の自分が、端から見たらどういう状況なのかを察したレオンは、慌てて手を突き出してきた。
「ち、違うのだぞリョータ! 我は此奴らに注意するためにここに来たのであって、決してやましい気があったわけでは……!」
「事情はさっきカミラさんから聞いた。ありがとな。だけどその慌てよう、普通にただの言い訳にしか聞こえないぜ?」
「そ、それより、何故貴様びしょ濡れなのだ? 雨は降っていないはずだが……」
「ご想像にお任せします」
と、俺がレオンに対し肩を竦めていると。
「おっ、リョータじゃねーか。何だ、お前もサキュバスのねーちゃん達に癒やされに来たのか?」
声を掛けてきたのはヒューズだった。
しかもヒューズは、一人のサキュバスに腕を組まれている。
「よう。ってなーにやってんだよお前は。顔がえらいことになってんぞ」
「へっ、いいだろ? こんな美人で可愛い娘が俺の毛繕いしてくれるんだ。いや~、最高だぜ!」
ヒューズはフサフサの尻尾をブンブン振り回しながらニヤける。
俺だってコイツらの本来の目的を知らなかったら、ここに入り浸ってるさ。
ヒューズに美人で可愛いと言われたサキュバス達は、フフンと自慢げにおっぱいを……じゃなくて胸を張る。
そんな様子を見ながら、俺は誰にも気付かれないように深呼吸をした。
――コイツらは忘れている。
サキュバスという種族の恐ろしさを。
国の連中は、サキュバス達の中でもアイツだけが特別変な奴なんだと思い込んでいる。
確かにローズは透視眼で人のチンコを見て、こちらがちょっとでも責めると恥ずかしがるファッションビッチという、サキュバス達の中でも飛び抜けた変人だろう。
しかしサキュバスには、皆共通の特性があるのだ。
女が聞けば羨ましがるが、男が聞けば思わず不安になってしまうその特性……。
「……」
覚悟が完了した俺は大きく息を吸い込むと、ギルドに響く大声で。
「でもさー、ぶっちゃけサキュバスってババアじゃん?」
――ギルドが静まり返った。
「いくら外見良くっても、コイツら年齢不詳何だぜ? もしかしたらお前の隣の奴も、実はババアかもな」
「…………」
ケラケラと笑いながらそう言うと、ヒューズはゆっくりとサキュバスの腕から自分の腕を抜く。
そう、サキュバスの特性というのは、年を取ってもピチピチのままだと言う事だ。
全方向から向けられる視線にショウベンをチビリそうになりながらも、俺はゲスな笑みを浮かべ。
「お前ら、いい加減現実に戻ってこいよ。ローズだけがババアなんじゃねえ、サキュバスの殆どがババアなんだよ。やっちゃったな、お前ら」
すると今までサキュバス達とイチャついてた冒険者達は立ち上がると、今までの全てがなかったかのように仕事の話をしだし、手早くクエストを請けると武器を担いでギルドから出て行った。
「「「「…………」」」」
耳鳴りがするほど静まり返ったギルドには、堂々と突っ立っている俺、目を見開いて固まるレオン、引きつった顔のギルド職員達、そして顔を伏せるサキュバス達が残されていた。
「オ、オイ……きさ、貴様……」
「…………」
レオンは口をパクパクさせて何か言おうとするが、俺はそれを片手で制す。
そう、コレがベロニカをローズと同じラインに引っ張る作戦だ。
尚、この作戦を行った場合。
「「「「……殺す」」」」
サキュバス達に、殺されます。
「はあ…………」
無言で俺を囲むサキュバス達。
そんな絶望的な状況の中、俺は息を吐きながら上を向く。
……俺のモットー、『女であろうが子供であろうが、ソイツが敵ならぶん殴る』
俺はこの世界に来てから、このモットーに従って生きてきた。
しかし、俺がもう一つ心に決めている事は、『相手が攻撃してきたらぶん殴る』だ。
そう、俺のモットーの本質は、単なる正当防衛。
だが今の俺は、自らコイツらに挑発をした。
自分から挑発しといて正当防衛を語って相手をぶちのめすということは、流石にこの俺でもしない。
今回はただ……ボコボコにされるだけだ。
「リョータ、今ならまだ間に合うかもしれん! 謝るのだ! 頭を地面に擦りつけても靴を舐めてまで、全身全霊で謝罪して許して貰え! でないと……!」
サキュバス達の隙間から、レオンが必死に呼び掛ける。
いや、無理だ。
今更後戻りなんて出来ないさ。
俺はもう、助からない。
「レオン」
俺は短くレオンの名前を呼ぶと、眉をひそめながら微笑み。
「妹に……リムに、愛していると伝えてくれ」
「止めろリョータ、そういうセリフはこんな場で使うものではない! 諦めるな、涙を流すなぁ!」
そんなレオンの悲鳴に近い声を聞きながら、俺は正面を向く。
せめて、あの冒険者達にその怒りの矛先が向かないよう、ここでコイツらの怒りの全てを俺にぶつけさせるのだ。
殺意満々の瞳をしたコイツらに向かって、俺はトドメとばかりに爽やかな笑みで、
「ババア共、無理すんな」
サキュバス達が一斉に襲いかかって――




