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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第四章 サキュバス・ロワイアル!
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第十六話 決闘は今日も白熱だ!①

翌日。


「リョータちゃん……」

「…………」


俺とローズの二人だけしかいない執務室に、気まずい雰囲気が流れていた。


「リョータちゃん、私が言いたいこと分かってるわよね……?」

「…………」


もう一度俺の名前を呼んだローズに対し、だんまりを決め込む。

……昨日、フォルガント王国に向かった俺達は、なんやかんやで危険な採取クエストを請け、巨大なヘビを倒し、翡翠の実という果実を手に入れた。

とまあ、これだけ聞いたら特に問題はなさそうなのだが……。

俺は腕を組むローズに向けて、引きつった笑みで答えた。


「ええっと……クエスト報酬が貰えなかった事……?」

「違うわよ、私の実践練習をするはずだったのに、結局何もなかった事でしょ!?」


そうそれだ。

昨日俺達がフォルガント王国に向かった目的は、ベロニカとの試合で勝利するために、逆ナンの練習をする事だった。

しかし、様々な問題が重なり合い、結果的になんの為にフォルガント王国に向かったのか分からなくなってしまった。

実際、俺自身最後の方は忘れてた。


「ま、まあ。折角だし、翡翠の実でも食べながら落ち着こう……な?」

「あんな食べ物の感じがないの食べたくないわよ!」


自分の失態を誤魔化すように俺がそう提案すると、ローズが嫌そうな顔をしながら言い返した。

ちなみにあの翡翠の実は、結局売らずに魔王城の食料庫に保管してある。

食べたら魔力が爆上がりするという実質パワーアップアイテムだからな。

売るより食った方が色々とメリットがある。


「って、誤魔化そうとしないでよ!」

「……テヘペロ♪」


その俺の対応に、ローズはドスの利いた声で。


「……いい加減にしないと、リョータちゃんの部屋に忍び込んで、毎夜中年のおじさんにイタズラされる夢を見せるわよ?」

「マジでゴメンナサイ許して下さい何でもしますから」


とんでもない脅迫をしてきたローズに、俺は椅子から滑るように下りると流れるように土下座した。

何と恐ろしい……!

ぶっちゃけリーンより怖いぞこの女!


「それで、これから一体どうしましょう……? もうベロニカとの試合まで時間が無いわ」

「そうだなぁ、まずはあのギルドをキャバクラみたくすんのを止めさせねえと。このままじゃ不利になる一方だ」

「何か良い考えはあるの?」

「……ゴメン、まだ」

「そうなのね……」


俺の答えに、ローズはガックリと肩を落とす。

……いや、正直に言うと、一つだけ考えがあるっちゃある。

しかし、この考えを実行したならば、間違いなく俺が……。

いや、考えるだけでも怖いから止めておこう。


「なあ、本当にアイツにサキュバスクイーンの座譲っちゃえば? 別に俺達はお前が普通のサキュバスでも仲間はずれにしないぜ?」


色々と面倒くさくなってきた俺は、頭を掻きながらそう言う。

しかしローズは、首を横に振って。


「いや、ダメよ。もしベロニカがサキュバスクイーンになったら、大変な事になっちゃう」

「大変な事?」

「ええ、あの娘がサキュバスクイーンになってしまったら、きっと……」


そう、ローズが言いかけたその時だった。


「随分な言い草ね、ローズ」

「ふぉあああああああああああ!?」

「ベ、ベロニカ!?」


俺とローズしか居なかったはずの執務室に、いつの間にかベロニカが湧いていた。

思わず奇声を発して椅子からひっくり返った俺の視界に、ベロニカの後ろに開けっ放しにしていた窓が入る。


「なっ!? お前まさか……!」

「ええ、普通に窓から入ったのよ?」

「何『当たり前でしょ?』みたいな顔してんだよ!? 普通に玄関から入れよ!」

「アンタこそ何言ってんのよ童貞魔王。普通に玄関から入ってもアンタに追い払われるでしょうが。それに、夜中に男の枕元に忍び込むサキュバスにとって、玄関は窓なのよ」

「知るかぁ! ハイデル、ハイデール! 侵入者だー!」


ベロニカの冷たい視線にビビりながら、俺はすぐさま魔王城に轟く大声でハイデルを呼ぶ。

その傍ら、ローズがベロニカを睨みながら警戒していた。


「何をしにきたのよ?」

「何って、単なる近況報告よ。サキュバスクイーンに自信の近況報告をするのは決まりでしょ?」

「あなた……今まで一度も私に報告してこなかったクセに何言ってるのよ……」


肩を竦めるベロニカに、ローズが苦い顔をする。

どうやら単なる嫌がらせらしい。


「フフッ……冒険者達がチョロくってね、このままじゃ勝負にもならないかも」


ベロニカは早速勝ち誇ったかのように妖艶な笑みを浮かべてそう言う。


「わざわざソレを知らせるだけに魔王城に侵入するとか、暇な野郎だな」

「アンタは黙ってなさい陰キャ童貞口臭ボッチバカマザコン魔王」

「童貞陰キャは認めるが他は全部認めねえぞ!?」


特に口臭って何だよ!?

童貞とかボッチとかよりもその悪口が一番クるんだけど!?

大丈夫だよね!? 口、臭くないよね!? ねッ!?

口を塞いで涙目になる俺の事なん知らず、ベロニカはハッと鼻で嗤うと。


「ま、変なところで甘いアンタなら、今の私でも余裕で勝てるけどね?」

「グヌヌ……! あなたこそ、正面で戦おうとしないで恥ずかしくないの!?」

「勝負には部下を使ってはいけないなんてルールはないわ。それに、どんなに卑怯な手を使っても、勝った方が絶対なのよ」

「伝統的なサキュバスクイーンの勝負をそんな風に思ってるなんてサイテーよ!」


…………。

すいません、何時ぞやの俺も同じ事思ってました。


「魔王様!? 侵入者とは一体!?」


とここで、俺の声を聞きつけたハイデルがバンッ、と扉を開けて執務室に入ってきた。


「ゆけっ、ハイデル! ヘルファイア!」

「え、えええ!? あの方にですか!?」


唐突にポケ●ントレーナーみたいな命令をする俺に、ハイデルが一瞬たじろぐ。

その瞬間、ベロニカは窓の縁に手を掛けて、


「ま、精々頑張りなさい。ローズ」


捨て台詞を放つと、ベロニカはコウモリのような翼を広げ窓から飛び降りようとしたが、ふと思い出したようにこちらに振り向くと。


「あとあんた。ローズの次は、あんただからね。覚悟しておきなさい」

「は、はぁ……!? それってどういう……」

「じゃあね、クソ童貞♪」

「待てコラアアアアアア! いちいち童貞付けんじゃねえぞクソビッチがあああああ!」


小さくなっていくベロニカの背中に、俺は鼻息を荒くして叫んだ。


「オイハイデル! 何ボケーッと突っ立ってたんだよ! 例のベロニカって奴だぞあの女!」

「で、ですが、国民相手に私のヘルファイアを放つのは流石に……」

「役に立たねえなあ! 最近お前影薄くなってんだからちょっとぐらい活躍してくれよ!」

「酷いッ!?」


ハイデルの肩を揺らしながら地団駄を踏む俺の傍ら、ローズがため息をつきながらベロニカが飛び去っていった空を見る。

そしてしばらく考えるような素振りを見せると、顔を顰めながら言った。


「……リョータちゃん、さっきも言い掛けてたけど、ベロニカがサキュバスクイーンになったら、本当に大変な事になるわ。それは、この国やリョータちゃん達にも関係があるの」

「へ?」

「私達にもですか?」


ローズが負けてベロニカがサキュバスクイーンになったら、俺らにも何かあるのか?

アイツがサキュバスクイーンになったとしても、精々影響があるのはサキュバス達の中だけだと思うが……。


「いい? ベロニカの性格上もし彼女がクイーンになったとしたら、全てのサキュバスが下僕になってしまうわ」

「まあ、そこら辺は想像できるな」


実際に今の段階でも手下とかいるみたいだし。


「それで、この国にも関係があるというのは……?」


そのハイデルの問いに、ローズは真剣な顔で答えた。


「ええ。ベロニカはきっとその下僕になったサキュバス達をけしかけるわ。そしてこの国の男達の殆どが……虐殺されるわ」

「「はぁ!?」」


虐・殺!?

マジで!? アイツそんなエグい事する奴だったのあの淫魔!?

完全に悪役じゃねえか!


「ホラァ! だから今の内にヘルファイアぶっ放せばよかったんだよ!」

「まさか私もあの方がソコまで悪人とは……! そうですね、まずはあのベロニカというサキュバスに懸賞金を掛けて……!」


顔を青くさせて慌て出す俺とハイデルに、ローズは静かに呟く。


「この国には風俗もない。そんな場所にベロニカのような経験豊かなサキュバスが、ただでさえ変態が多いこの国の男達に色目を使ったら、本当に大問題になるわ……」


ん?

風俗? 色目?


「ゴメン、もうちょっと具体的に教えてくれ」


違和感を感じた俺が首を捻りながら訊くと、ローズは真っ直ぐ俺の瞳を見据え。


「つまり、この国の男がサキュバス達によって、全員骨抜きにされるって事よ」

「紛らわしい言い方すんじゃねえよ! つまりアレか、虐殺ってのは童貞殺しって事か!?」


ビビったぁ、マジでビビったぁ!

そうだよな、流石にあんなクソビッチでもソコまでする訳ないもんな!

しかし童貞殺しかぁ……。

実際に、俺もベロニカに夜這いを掛けられ、危うく大切に取っておいた童貞を奪われそうになった。

俺はちゃんとキッパリ断ったんだけどね? 好きになった人としたいって。

まあ、だからお前は一生童貞なんだと言われるかもしれないが……。


「だけど、そんなんで国が揺らぐか? ぶっちゃけ俺達にとっちゃただのご褒美だと思うんだけど。なあハイデル?」

「な、何故私に訊くのですか!?」


この反応、やっぱりお前も仲間だったんだな。

ハイデルの反応に安心感を覚えていると、ローズは首を横に振って苦笑いを浮かべた。


「考えてみてちょうだい。もしリョータちゃんがベロニカの裏の顔を知らない状態で『自分に服従してくれたら、もっと凄いことをしてあげる』って言われたらどうする?」

「間違いなく服従するな」

「ま、迷い無いわね……」


そりゃあ男ですもの。

もし俺にあの信念がなかったら、今頃童貞卒業したとギルドの連中に威張ってるところだ。


「しかし成程なぁ、何となく見えてきた」

「わ、私にはサッパリなのですが……」


まあ、性欲皆無って雰囲気のハイデルには分からないか。

確かに風俗もないこの国では、年中所帯を持っていない男はムラムラしてるだろう(勿論俺も)。

そんな状態でサキュバス達にエロい事をされ、更にもっと凄いことをしてあげるなんて言われたら、絶対そのサキュバスの長であるベロニカに従う。

そしてその影響はギルドや男達の中の範疇を超え、国全体の問題になるだろう。

極めつけは、先程の捨て台詞。

つまり、ベロニカの狙いというのは……。

結論に至った俺の様子を見たローズは、コクリと頷くと真剣な顔で言った。


「そう。ベロニカは私達から、この国の覇権を乗っ取るつもりよ」


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