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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第四章 サキュバス・ロワイアル!
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第十四話 再来ライバルは今日も傲慢だ!⑩


「忘れもしねえぜ、あの時の屈辱をよぉ……」


樽ジョッキを握り締めたまま、アックスはポツリポツリと語り始める。


「初めてアイツに会ったのは数週間前だ。俺がここで酒を飲んでいた時、見るからに雑魚そうな野郎が入ってきたんだ。しかもソイツは妹まで連れてきていた。その時俺は、少し脅せば楽に巻き上げられると思って、俺はアイツに絡みに言ったんだ……」

「へ、へえ……」


その話の出だしから、ローズは苦笑いを浮かべている。

それもそうだ、真面目そうな雰囲気なのに内容は最低だし。

それよりも、なんでどいつもこいつも俺を見るからに雑魚とか言うんだろ?

……まあ、否定はしないが。


「その後、俺にぶっ飛ばされたアイツは強がってヘラヘラ笑いやがったんだ。ソレがムカついて、もう一発殴ろうとしたその時、俺は意識を飛ばした。この俺としたことが、あのアダマス教団の幹部に操られちまったんだ」

「じゃあ、あの時あなたもいたのね……」

「あん?」

「う、ううん、何でもない。それで?」

「操られている間の記憶は殆どねえ。だけど、あの痛みはハッキリと覚えてる……」


そう言いながら、アックスは自分の尻を擦る。

ああそういやあの時、操られてるコイツにカンチョーしたんだ。

……って待てよ? 

なんか嫌な気がしてきた……。


「そしてアダマス教団の幹部が倒され、完全に意識を取り戻した時、あの悲劇が起きた……」

「悲劇……?」


オイ、まさか……!

コイツ……漏らしたのか!?

レオンのシャドウ・バインドで、他の冒険者と一緒に拘束されていたあの状態で!?


「ここからは女に言える話じゃねえな。とにかく、俺はあのムーン・キャッスルって野郎をぶちのめさねえと気が済まねえんだ。だからもし次会ったら勝負を挑む。そして、この斧でズタズタに引き裂いて……」


そんなアックスの話を聞き、俺は柱に背を預けるとふうっと息を吐く。

そして、無駄に高いギルドの天井を見上げながら。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……」


冷や汗をビッショリと掻きながら目を泳がせていた。

最悪だ……いっちばん恨み買われたくねえ奴に買われちゃったよ……。

ってか、傀儡化から解いてやったんだからいいだろ!?

確かに俺のせいで仲間の近くで大きいの漏らしちゃったとしても、大目に見てくれてもいいじゃん!

……いや、もし俺が同じ立場だったら泣くな、うん。

やっばぁい、どうしよう……。


「ムーン、顔真っ青だよ? 大丈夫……?」

「大丈夫じゃないから顔が真っ青になってんだろ……」

「それよりも、最近アックス元気ないなって思ってたら、ムーンのせいだったんだね。もうっ、一体アックスに何したの?」

「まあ、その……しょうがないとしか言いようが……だって実際に殺されそうになったし……」


プンプンという効果音が聞こえて来そうな怒り方をするエミリーから視線を逸らしながら呟く。

するとエミリーは小さくため息をつくと、祈るように両手を握り合わし。


「アックスって、性格悪いけどこのギルドでも結構腕の立つ冒険者なんだ。だから、この調子じゃギルドにも影響が出ちゃうよ。だからお願いムーン、アックスの為にも勝負してくれない?」

「はぁ!?」


この子は一体何言ってんだ!?


「だってさ! ムーンはここの冒険者ギルドを救った英雄なんだよ? そんなムーンならアックスと戦っても問題無いはず!」

「いやいやいや、問題ありすぎなんだよ!」


まず、普通に俺が雑魚過ぎる。

次に、俺の右腕が治ったばかりだから無理できない。

更にこんなんでも俺は魔王。

そんな俺とアイツが正式じゃない戦いをしたら、互いにとって大問題になってしまう。


「あのさぁ……すんごく期待を裏切るかもしれないけど……」


まずは、コイツにいかに俺が雑魚かを教える必要がある。

ホントはそんな事したくないが、緊急事態だ。

ため息を吐いた俺は、渋々エミリーに口を開き……。


「俺、実はメッチャ弱――」

「アックスー! ムーンが来てるよー!」

「いいいいいいいいいいいいやあああああああああああッッ!?」


何やってんだあのヤロー!?

いつの間にかアックスの側まで駆けていったエミリーに、俺は思わず奇声を上げながら柱の陰から飛び出し。


「「あっ」」


ソイツと、目が合ってしまった。


「「…………」」

「ふ、二人とも、互いに見つめ合ったまま固まってどうしたのよ?」


急に黙り転けた俺達を、状況にピンときてないローズが交互に見る。


「よ、よう……元気してた……?」


この沈黙に堪えきれず、俺が思いっ切り引きつった笑みを浮かべながら挨拶すると。


「……ム」

「ム……?」

「ムーン・キャッスルゥゥウウウウゥウウゥウウウゥウウウウウゥゥウウウウウゥウゥウゥウッ!」

「ギャアアアアアアアアアアアァッ!?」


小刻みに震えていたアックスは素早く両手斧を引っ掴むと、ソレを振り上げてこちらに突進してきた。

ハイもう死んだゲームオーバー、今度こそ終わったあああああああああああああッ!


「ストオオオオオオオオオオオオプッ!」

「ああんッ!?」


そう俺が死を覚悟した瞬間、俺とアックスの間にエミリーが割って入ってきた。

すると今まさに斧を振り下ろさんとしていたアックスの動きがピタッと止まった。


「テメエ、邪魔するんじゃねえ!」

「何もギルドの中で戦う事はないよ! 一旦落ち着こう?」

「オイコラ待て、何でもうコイツと戦う事が前提になってるんだよ!?」


エミリーの言葉に思わず食いついた俺の傍ら、アックスは舌打ちをしながら斧を下げた。


「オイ、なんか騒ぎになってるぞ」

「ああ。何でもムーン・キャッスルが現れたんだとよ」

「はぁ!? じゃあ、あの弱そうなのが俺達を救ったのか!?」


野次馬が集まりだすと同時に、アックスは顎を上げて見下すように俺を睨みつける。


「よう、久しぶりだなァ……あの日から、テメエの事を忘れた日はなかったぜ……!」

「そ、そうか……」

「テメエのせいで、最近ここの連中にウンコマンなんて呼ばれたんだぞ……? どう落とし前付けてくれるんだ? ああ?」


このギルドの奴らのあだ名付けが小学生レベルなのは置いておいて、完全にマズい状況になってしまった。

俺がジリジリと後ずさっている知らずに、エミリーがウンウンと頷いている。


「ふう……コレでアックスも本調子に戻るよ」

「だから、何で戦う事前提なの!? はいともイエスとも応とも言ってないんですけど!?」

「ソコをなんとか、ね? アタシとムーンの仲でしょ?」


いや、ぶっちゃけそんな親しい仲ではないと思う。

そんな言葉も、エミリーの上目遣いによって飲み込んでしまった。

あーもうっ、これっだから童貞はぁ!

と、俺がこめかみを抑えていると、横からそっとローズが近付いてきた。


(ねえ、話がよく分からないのだけど……ムーン・キャッスルってリョータちゃんだったの? そもそもムーン・キャッスルって何よ?)

(その話は追々話すとして……なあローズ、どうしたらいいかなこの状況……?)

(よく分からないけど、リョータちゃんがそもそもの原因なんでしょ? だったら素直に戦えば良いんじゃない?)

(死ぬよ? 俺)

「何ゴチャゴチャ言ってやがんだ!」


と、ボソボソ話し合っていると、アックスが痺れを切らして吠えた。


「ってか女ァ、テメエこの男の連れだったのか……どういう目的だコラ」

「い、いや、それは……」

「何か言えねえ理由があるみてえだな」


あなたで逆ナンの練習してましたなんて言えねえもんな。

コイツはローズを何だと勘違いしているのだろうか?


「まあいい。このギルドの裏には闘技場がある。ムーン・キャッスル、俺と勝負しろ」


いきなり飛びかかって来たくせに今になって勝負を挑む辺りちょっとイラッとしたが、改めて勝負を申し込まれたなら何かしら返答しなくてはいけない。

しかし、あの時はリーンとレオンと協力したから勝てたわけで、俺一人が真正面から勝負したところで瞬殺されるだけ。

どうしよう……正々堂々なんて俺には無理だ。

何か良い打開策はないか……!?

と、俺が目を泳がせていたその時、俺の視界にとある物が入った。

その瞬間、俺の頭にコイツとのタイマンを回避するアイデアが浮かんだ。


「ちょっと待て」

「ああん?」


俺は動悸を何とか押さえ、余裕を持った表情で手を突き出した。


「このままじゃ埒が明かねえ。仕方ねえから相手してやる」

「へっ! その余裕の表情、一瞬で泣き顔にしてや……」

「ただし! 普通にタイマンってのも面白くねえだろ?」


アックスの言葉を遮り、俺はそう言うとギルドのとある場所に向かって歩き出す。


「俺達は冒険者だ。それならタイマンじゃなくて、もっと冒険者らしい勝負にしよう」


そう言って立ち止まった俺の目の前には、所狭しと埋め尽くされている紙。

そう、クエストの依頼書が貼られたボードだ。

俺はその中から、他の紙に埋もれた一枚の依頼書を引きちぎると、アックスに向かって突き出した。


「このクエストは、この街から出てすぐの山の頂上になっている《翡翠ひすいの実》って言う果実を採取するクエストだ。コレをどっちが先に採取できるかで勝敗を決めよう」


そう、俺のアイデアというのは、一対一のタイマンではなくクエスト、それも至って簡単な採取クエストで対決するというものだ。

コレならば俺でも勝てる自信があるし、何より危険じゃない。


「「「…………」」」


依頼書をヒラヒラさせる俺を、アックスを始めとする冒険者達が呆気にとられてる。

そんなに俺がバカな事を言ったと思っているのだろうか。

こんな簡単な勝負を出来るかなんてキレられるかもしれないと俺が身構えていると、冒険者の一人がポツリと言った。


「マジかよ……アイツ、この中で一番ヤバイクエストを選びやがった……!」

「……ん?」


聞き間違えかな? 

今、コレが一番ヤバイクエストって聞こえたんだけど……。

と、俺が小さく首を傾げていると、他の冒険者達も騒ぎ出した。


「あのクエストって、挑んだ奴が誰も達成できなかった最難関クエストだよな!?」

「ああ。採取クエストだが、討伐クエストの何倍も危険と言われて、いつしか塩漬けクエストになったヤツだ……」

「確か翡翠の実がなる山頂には、ヤバイモンスターがいるって噂が……!」


マジかよッ!?

いや、何でこんなの選んじゃうの俺はぁ!

採取クエストって文字が目に入ったから咄嗟に取っちゃったけど、そんなにヤバイヤツなの!?

と、俺が冷や汗をビッショリかいていると、アックスが俺の元に歩み寄ってきた。


「流石ムーン・キャッスル。確かに、タイマンだけじゃつまんねえよなぁ!」

「いや、あの、やっぱコレ止めにしない……?」


そんな俺の言葉は、ギルド内の喧噪に掻き消される。

いや、その、マジで勘弁して……!

そんな願いも叶わず、アックスは不敵な笑みを浮かべて言い放った。


「いいぜ、その勝負受けて立つッ!」


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