第二話 魔界の生活は今日も大変だ!⑥
「や……やっと着いた……」
冒険者ギルドの前に着いた頃には、すでに日が沈んでいた。
俺は深いため息をつくと、ゆっくりとギルドのドアを開け――。
「リョータさん達はまだ帰ってきていないんですか……!? どうしよう……リョータさん達大丈夫かな……」
「心配しないでリムちゃん、きっと大丈夫だから……」
ギルドに入った瞬間、なんかシリアスな雰囲気になってた。
ギルドの中ではリムが心配そうに俯き、そのリムの背中をカミラが優しく撫で、それをギルドの冒険者や職員達が囲んでいる。
やべえ……ここに居ますなんて言える雰囲気じゃねえ……。
「これからどうするんだ? もう外は暗いし、捜索も出来ねえぞ」
「でも、アイツらはアレでも四天王だ。きっと大丈夫……じゃないんだよなあ」
「あの三人の事は俺らもよく知ってんだろ。あの三バカ、下手すりゃこの国でも五本指に入るほどの雑魚だぞ」
「能力だけ見たらマジで強いんだけどなぁ……能力以外が本当に駄目だし」
冒険者達に散々な言われようだなコイツら。
俺はずっとギルドの入り口に突っ立っているが、誰一人として俺の存在に気が付かない。
どんだけ俺影が薄いんだと思いながら人集りを見ていると、一人の女の声が聞こえた。
「ハイハイあんた達、そんなにメガティブな事言わないの」
パンパンと手を叩く音が聞こえた方を見てみると、人集りの中にリーンの姿をを見つけた。
何でアイツここに居るんだ?
「ハイデルもローズもレオンも、確かに強いとは言えないけど……だけど皆ならきっと大丈夫よ」
そのリーンの言葉に、周りの奴らもそうだなと言いながら顔を上げた。
もしかして、俺達を心配して来てくれたのだろうか。
コイツ俺に対してメチャクチャ冷たかったけど、やっぱ本当は良い奴なんじゃ……!
「まあ、あのリョータとか言ったヤツはどうでもいいし、むしろいなくなってくれたらそれはそれでいいんだけど」
「いい加減泣くぞゴラァ!」
俺の精神を尋常じゃない程にえぐり取ったリーンの言葉に、俺は思わず声を上げた。
「リョータさん!?」
その声にやっと俺達の存在に気が付いたのか、みんなが俺の方を一斉に向いた。
「リョータさん、心配したんですよ! 一体どこで何を……って、どうしたんですか!?」
目に涙を浮かべながら駆け寄ってきたリムは、俺を見て目を見開いた。
俺のパーカーは土汚れが染みつき、髪はボサボサ。
おまけに俺の背中には白目をむいて気絶しているローズ。
そして右手にはぐったりしたハイデル、左手にはうなされているレオンが掴まされているのだから。
「コイツらギリギリ生きてるから、多分大丈夫だ」
「どう見ても大丈夫に見えないんだけど!? あんた達、一体何があったのよ……!?」
そんなリーンの質問に、どう答えたら良いのか分からない。
曖昧な表情を浮かべる俺に、カミラがおずおずと訊いてきた。
「リョータ様達は、確かゴブリンの群れの討伐でしたよね? まさか、クエストの最中に強いモンスターが現れたとか……!?」
カミラのその発言で、周囲の冒険者達がどよめく。
もしそうなら、この街にも被害が及ぶかもしれない。
そんなことを考えているであろう群衆に、俺は正直に、そしてハッキリと答えた。
「ゴブリンに……やられました……」
――ヒュウウゥゥ……。
そんな、滑ったときに吹く風の幻聴が聞こえるほど、騒ぎは一瞬で静かになった。
その静けさに耐えきれず、俺は膝を付くと。
「わああああああああああ! 魔王なんてやってられるかああああああ!!」
そう喚きながら拳を床に叩き付けた。
「何なんだよちくしょおおおおお! ハイデルは魔法三、四発撃っただけで魔力切れとか言って動かなくなるし、ローズはゴブリン相手に何故か誘惑しだすし、レオンはもはや論外だし! もうやだ、日本に帰りたいよおおおおおおお! お母ちゃああああああああああああああああん!!」
床に寝転がり泣きわめく俺を、ギルドの全員が驚愕の表情で見てくる。
それもそうだ、この国の魔王に選ばれた人間が、この世界の代表的雑魚モンスターであるゴブリンに返り討ちに遭ったのだから。
何があったのかというと、俺達が十匹以上のゴブリンに襲われた時、まずレオンがゴブリン達に向かって行ったが派手にすっ転び、そこにゴブリン達の攻撃を浴びせられ、レオンは真っ先に戦闘不能になった。
続いてローズが自分の誘惑でゴブリン達の動きを止めるとか頭のおかしい事を言いだし、ゴブリンにセクシーなポーズを見せつけたが、逆にそれがマズかったのか、ゴブリン達にエロ同人誌みたいな事をされそうになっていた。
最後にハイデルはゴブリンの集団の中心にヘルファイアを放ち、三分の一を倒す事が出来たが、その直後、『申し訳ありません、魔力使いすぎました……』と呟くと顔面から地面にぶっ倒れた。
そして、俺はそんな三人を引きずりながらながら、時に使い慣れない剣でゴブリンを倒しながら、なんとか逃げ切り、そして長い道のりを三人を引きずりながら帰ってきたというわけだ。
俺の説明を聞いたギルドの奴らは全員俺に哀れみの目線を向けてくる。
その目線を浴びながら、俺はリーンの言うとおり、デーモンアイがぶっ壊れてたんじゃないかと心から思ったのであった。