第十四話 再来ライバルは今日も傲慢だ!②
「ケッ」
「ちょっとは機嫌直してよ!」
所変わって魔王の間。
俺は玉座の上にふてぶてしく座る俺に、ローズがジト目で言う。
「なんかアイツ、ふてくされてない?」
「確かに、機嫌が宜しくなさそうですね……」
「リムよ、何かあったのか?」
「な、何も……」
俺の耳に、後ろでヒソヒソ話しているリーン達の声が聞こえた。
ああそうだよ、今メッチャ機嫌が悪いんだよ。
畜生、後もう少しでリムの膝枕を堪能できたのに……!
しかし、いつまでもその事を気にしている訳にもいかない。
なにせ、理由が理由なのだ。
「それにしても、サキュバスクイーンの座が奪われるってどういう事なのよ?」
「順を追って説明するわね。えっと、まずリョータちゃんには、サキュバスについて詳しく説明しなくちゃね」
リーンの質問にそう答え、ローズは一呼吸置くと話を始めた。
「まず、サキュバスっていうは男性に夢を見せて精力を吸収し、それを生きる糧にしているのは知ってる?」
「まあな。だけど俺ん所に何故か未だにサキュバスが来ないんだよなぁ……なあローズ、今度俺が寝るときにエッチな夢を見せて貰ってもアダィッ!?」
「続けていいわよ」
「ありがとリーンちゃん」
リーンの恐ろしく速い手刀は見逃さなかったのだが、避けることが出来ずそのまま脳天に直撃した。
「それで、そのサキュバスが精力を吸収する以外で能力を悪用しないように管理する存在、それがサキュバスクイーンよ。他のサキュバス達は、この国を出て色んな所で精気を集めているんだけど、半年に一回この街で近況報告をして貰うの。私は魔王軍四天王でもあるから、この街を離れる訳にはいかなかったけどね」
「「へえ……」」
ローズの話しに俺の他にも、リムが納得したように頷いた。
「私、サキュバスがどういった種族かって事しか知りませんでした」
「だな。まさかサキュバスの中にもちゃんとした社会があったなんてな」
道理今まででコイツ以外のサキュバスを見なかった訳だ。
「それで、本題のサキュバスクイーンの座が奪われるというのは?」
「サキュバスは毎年その管理者、つまりサキュバスクイーンを一人決めるの。今までは、候補者が私しかいなかったから、そのまま私がサキュバスクイーンになっていたけど……現れたのよ、私以外の候補者が!」
「候補者って……この世界って何でどこも上層部の人間の決め方がテキトーなの? 四天王はジャンケンだしアダマス教団の幹部は実力主義だし」
「ヴァ、ヴァンパイア族はそんな事はないぞ」
「ハイソコ、話逸らさない!」
コソコソ話を始める俺とレオンに、ローズがビシッと指を差してくる。
「それで、候補者が二人出た場合、どちらがよりサキュバスクイーンに相応しいか勝負しなくちゃいけないの。だけど私、正直に言って自信がなくて……」
「なるほど。それで俺達に助けて欲しいと」
つまり、ローズに下克上の危機が迫ってるって訳だ。
…………。
「いいじゃない、折角だから助けてあげましょうよ」
「少しだけですけど、ローズさんには色々とお世話になってますし」
「本当? ありがとね二人とも。そんな訳だから、お願いリョータちゃん。私を助けてくれない?」
リーンとリムに笑顔を見せると、ローズは俺に視線を向けた。
俺は小さくため息をつくと、ローズに満面の笑みを向けて一言。
「ヤダ」
「そんなぁ!?」
俺の拒否にローズが肩を落とす。
「そんな事言わないで、ローズさんを助けてあげましょうよ!」
「でもさ、いくら同じ屋根の下で暮らしてる仲間だからって、他種族の決め事に首突っ込んだらダメだろ。コレはローズ個人の問題だ、俺達が協力するなんてのはズルい」
なんてリムに言ってるがそんなのは言い訳で、実際はただ面倒くさいだけだ。
「確かに、それだと相手の方が可哀想な気もしますしね」
「それに、もし貴様が負けてサキュバスクイーンではなくなったとしても、魔王軍四天王の立場は変わらないだろう。ならば我らが手を入れる必要はない」
おっと、こちらサイドに仲間が増えた。
それにレオンの言うとおり、ローズがサキュバスクイーンじゃないとしても別に解雇したりはしない。
「……一応聞いておくけど、その勝負ってのはなんなんだ?」
俺が訊くと、ローズは三本指を立て説明しだした。
「勝負は三種類あって、最初に二回勝利した方がサキュバスクイーンになれるの。魔法の精密さ、男を堕とすセンス、そして美しさ。それらを競い合うのよ」
魔法と口説きと美しさ……。
「尚更俺達にゃ無理だよ」
「残念ながら、私も……」
「うむ」
魔法の方は心配ないが、問題は残りの二つ。
男を堕とすなんて男が考えたらアウトだし、美しさとかもよく分からない。
この内容は男がどうこう出来るもんじゃないな。
などと、俺達が渋い顔をしていると、ローズの身体が小刻みに震えだす。
そしてバッと顔を上げ、ローズは頬を膨らませる涙目になりながら。
「分かったわよ! 私達女同士でどうにかしてみるから! 行くわよ、二人とも!」
「えっと、うん」
「分かりました」
ローズがプンプンという効果音が聞こえそうな程捨て台詞を吐き、三人は魔王の間を出て行った。
そして魔王の間に残された俺達男衆は。
「……ローズの事は二人に任せて大丈夫でしょう」
「……だな。だけど男を堕とすなんて、アイツに出来るかな……?」
「……恐らく無理だろうな」
ローズに対する申し訳なさで、ちょっとだけ気まずい雰囲気になっていた。