第十四話 再来ライバルは今日も傲慢だ!①
「それで、あの人はどうなったんですか?」
「街の外まで吹っ飛ばされて、見つかったときには黒こげになってたよ」
「まったく、ママに対してパパの悪口を言うからですよ。自業自得です」
「いい夫婦なのね」
翌日。
魔王城の執務室で、俺は書類を見ながらリムに昨夜の報告をしていた。
先程リムが言っていたように、リムの母ちゃんはヤケになったフードの男に自分の夫をディスられた事によってブチ切れた。
リムの母ちゃんは手加減の手の文字も吹っ飛ばす勢いでその男に魔法を放ち、見事ストーカーを自ら倒した。
あのフードの男は黒こげになっていたが一応生きていたので、気絶している内にリムのテレポートで強制送還。
ちなみにフードの男の手の中に、国内立ち入り禁止の罪状(俺のサイン入り)を握らせておいた。
これでもう、あの男はリムの母ちゃんを付け回すことはしない……事を願おう!
「あの……」
「どうした?」
声を掛けられ俺が書類から視線を逸らすと、隣で俺の手伝いをしていたリムが不安そうな顔をしていた。
どうしたんだろうか……?
「ゴメンなさい。お兄ちゃんのお世話をするって言ったばかりなのに、何もしてあげられなくて」
「……あー」
どんな話が切り出されるのやらと身構えていたのだが、何だそんな事か。
しかし、良くも悪くも真面目で頑固なリムのことだ。
俺をほったらかしにする事を重く受け止めているのかもしれない。
「別に気にする事じゃねえよ。普通自分の母ちゃんがストーカー被害に遭ってるなんて知ったら、俺だってどんな用事もほったらかして母ちゃんに付き添うさ」
「そ、そうなんですか。意外ですね……」
「意外ってなんだよ。俺だって母ちゃんの事大切に思ってるんだからな」
だけど、俺の母ちゃんならもしストーカー被害に遭ったとしても、そのストーカー撃退するだろうけど。
母ちゃん、怒ったとき怖いし。
「……そうですよね、ありがとうございました」
なんて母ちゃんの顔を思い浮かべていると、リムがどこか安心したような顔になると、深く頭を下げてきた。
俺はそんなリムに頷くと、俺は一瞬書類に視線を戻して。
「よし、そろそろ今日の仕事も終わりそうだし、戻っていいぞ」
「えっ? でも……」
「昨日色々あって疲れてるだろ? それなのに溜まった仕事手伝ってくれて。今日はもうゆっくりしてていいからさ」
俺はリムにそう言うと、もう一頑張りと仕事に取りかかり……。
ドアの開閉の音が聞こえず、ふと視線を上げてみると、目の前のソファに静かに座るリムが。
「えっと、戻っていいぞ?」
「……お兄ちゃんの仕事が終わるまで、ここにいます」
「そ、そうか……?」
「はい。邪魔にならないよう、静かにしていますから。ホラ、仕事終わらせるんじゃないんですか?」
「は、はい……」
そうリムに言われ、俺は書類に自分のサインを記入していく。
……何故だろう、どことなくリムがムスッとしているような気がする。
まさか……いやまさかな。
「よし、今日の仕事終わり! フワア……」
左手で書いたからミミズの這ったような汚い字だが、まあ読めなくもないから問題はなし。
俺は書類を机の脇にまとめて置くと、あくびをしながら立ち上がる。
「お兄ちゃん、眠いんですか?」
「ちょっとな……」
昨日のストーカーのせいで、昨夜は殆ど寝れなかった。
特にすることないし、部屋で寝てようかな。
そう俺が目を擦りながら執務室を出ようとした時だった。
「あの……」
「ん?」
呼び止められ振り返ると、リムがソファ端に移動し自分の膝を手で払っていた。
そして俺を上目遣いで見ながら、頬を赤く染めて。
「私の膝……使いますか……?」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「な、何で毎回毎回固まっちゃうんですかぁ!?」
「ハアッ!?」
その声に、俺は飛ばしていた意識を戻した。
「お、おま、え、おま、それ……!」
あまりにも衝撃的な提案だったので、俺の頭がオーバーヒートしそうになっている。
私の膝使いますかだと!?
それってもしかしなくても、全ての男の夢である膝枕だよな!?
「お、お前! この前と言い今と言い、なんか大胆になってない!? お兄ちゃん、今までの出来事が全て夢だったんじゃないかって心配になってるよ!?」
「夢じゃないですよ!」
頭を抱えて目を回している俺にリムが目をバッテンにして怒る。
するとリムは、自分の指と指を絡めながら、恥ずかしそうに呟いた。
「お兄ちゃんのお世話をするって言ったじゃないですか……。それに、その……私だって、お兄ちゃんに甘えてみたいんですよ」
「ちょっと抱きしめてもいいかな?」
「さ、流石にそれはダメですッ!」
オイオイなんだよ、なんなんだよこの生き物。
可愛すぎない……? 可愛すぎて泣きそうになってる自分がいるんですけど。
そうか、だからリムに戻っていいと言った時、ちょっとムスッとしてたのか。
俺はどこぞの鈍関係主人公だよ……!
と、俺が顔を覆っていると、身体をプルプル震わせていたリムがヤケになったように言った。
「もうっ! するんですか!? しないんですか!?」
「やりまあああす! ありがとうございまあああす! 使わせて頂きままああああすッ!!」
もうこうなったら選択肢はたった一つ!
ロリコンとでもシスコンとでも言ってればいいさ!
俺は早速リムの隣に座ると、その白くて小さい膝の上に頭を乗せ――。
「リョータちゃん、リムちゃん! 助け――」
「うわあああああああああああああああッ!!」
「キャア!? い、いきなり何するのよ!?」
ノックも無しに入ってきたローズに、俺は全力の左ストレートを食らわせようとするも躱される。
「わざとなの!? ねえわざとなんだろ!? 何で毎回毎回兄妹仲良くしてるとお前が邪魔してくるんだよ、おかしいだろ!」
「な、何よもう、違うわよ! 逆に何で私がリョータちゃんに会うたびにイチャイチャしてる所見なくちゃいけないのよ!」
「やっぱりか! テメエこの前兄妹のスキンシップの邪魔したくないって言ってたけど、やっぱり嘘だったのか! 絶対リア充許すまじとか思ってんだろ!?」
「当たり前でしょ!? 私を差し置いて結婚までする子もいるなんて、絶対許せない……ってそうじゃなくて!」
ローズは少し肩を上下させながら、必死な声で言った。
「助けてリョータちゃん! このままじゃ私、サキュバスクイーンの座が奪われちゃう!」
小ネタ2
リムのジョブであるダークウィザードは、相手を呪う闇魔法を得意としている。
が、リムは人を呪う事はあまりしたくないらしく、結果的に普通のウィザードと何ら変わらない。
では何故そのジョブにしたのかというと、昔『魔王軍四天王の魔法使いなら、ダークウィザード』という話を耳にしたから。