第十三話 シスコンは今日もデレデレだ!⑤
俺とリーンはパンを咀嚼しながら、トリエル親子の後を追った。
その後も二人は本屋に寄ったりアクセサリーを見たりして、屋台街を廻っていた。
が、肝心のストーカーが一向に現れない。
「……誰もそれらしき人が見当たらなかったわね」
「絶対居ると思ったんだけどな……」
やっぱりこんな白昼堂々と犯行に及んだりしないか……?
畜生、無駄足だったかな……。
と、俺が顔を顰めていると、二人が路地裏とまでは行かないが、人の少ない小道に入っていった。
そして、その刹那。
「あっ……!」
「おいアレ……!」
明らかに二人を追ってその小道に入っていく影が視界に入った。
一瞬だったが、リーンにも見えていたらしい。
ってか何だアイツ!? いきなりフッと現れたぞ!?
「おいリーン!」
「分かってる!」
俺は物陰から飛び出し、買い物袋をその場に置いたリーンが後に続く。
そしてその小道に入っていくと、俺の視界に入ったのは、リムの母ちゃんの背後にもうすぐそこまで迫っているフードを被った男が。
「「危ないッ!」」
俺とリーンが叫んで、男に飛びかかろうとしたのとほぼ同時だった。
「『ライトニング・レイ』!」
「「「ッ!?」」」」
俺達の声に反応したのか、リムの母ちゃんが振り向きざまに、金色に光り輝く魔法の光線を放ったのだ。
「ッ!」
「キャア!?」
「危ねッ!?」
その光線を、フードの男はサイドステップで躱し、リーンはジャンプで躱し、俺はマト●ックスみたく身体を仰け反らしてなんとか躱す。
何にも当たらなかった光線は、そのまま空の彼方消えていった。
「アラ、魔王様?」
「それにリーンさんまで!? な、何でここに……!?」
「話は後! それよりもソイツを……!」
俺達の姿を見て驚いている二人に言う。
早くあの野郎を捕まえないと……!
が、例のストーカーの動きは速かった。
ストーカーは素早く俺達から距離を取ると、脇道においてある木箱や壁を利用して屋根に上がり、そのまま逃げていく。
「ま、待ちなさい!」
「逃がすか! 『千里眼』、『透視眼』!」
それに続いてリーンが屋根に上がり、俺が魔眼の能力を発動する。
リーンの身体能力ならすぐに追いつけるだろうし、俺の魔神眼なら見失わないはずだ!
と、思っていたのだが。
「居ない……!?」
屋根の上には男の姿はどこにも居なく、リーンも辺りをキョロキョロしていた。
何だアイツ!?
アルベルトみたく姿消してるんなら、俺の魔神眼で見えるはずなのに……!
畜生ダメだ、完全に見失った。
「リョータ! アイツは!?」
「ダメだ、俺の眼でも見当たらない!」
屋根から顔を覗かせたリーンにそう伝えると、リーンは屋根から飛び降りた。
「ね、ねえ……」
「ん?」
綺麗に着地したリーンは、何故か顔を真っ青にしている。
何でだろう、急に腹が痛くなったのか?
「ア、アイツ何だったの……? すぐに追いかけたのに霧みたいに消えちゃったし、あんたの目でも見つけられないなんて……。もしかして幽霊……?」
違った、怖がってるだけだった。
「いや、もし幽霊だったらさっきの魔法躱さなくてもいいだろ。アイツは人間だよ。しっかし、何で消えたんだ……? メチャクチャ足が速いとかか?」
「それとも、隠密スキル持っているとか……」
「あの!」
なんて俺達が悩んでいると、頬を膨らませたリムが。
「二人とも、コレはどーいう事なのか、ちゃんと説明して下さい!」
「――で、お兄……ンン、リョータさんはストーカーを捕まえるために、朝から私達の周りを監視していたと」
「すいません! ストーカー二号ですいませんでしたぁぁ!」
俺は二人に事情を説明しながらポーション屋に移動し、最終的には土下座していた。
「そして、そのリョータさんを見掛けたリーンさんも、気になって尾行していたと」
「ゴ、ゴメンね?」
「コラ、お前も同犯なんだから土下座しろストーカー三号!」
「誰がストーカー三号よ! 大体あんたがねえ!」
「まあまあ落ち着いて、魔王様、リーンちゃん」
なんて俺達が言い争いになりかけていると、今まで静かに紅茶を啜って話を聞いていたリムの母ちゃんが宥めに入ってきた。
「二人とも、私を心配してくれてたんでしょう? 寧ろありがとう~」
「「は、はあ……」」
リムの母ちゃんに頭を下げられ、俺達はペコペコと頭を下げた。
そんな俺達を見て、リムはため息をつきながらもどこか嬉しそうな顔をしていた。
「それにしても、あの人は一体何だったんでしょう……?」
「そうだな……見た目と動きからして、アサシンか盗賊だな。しかも俺とリーンよりも至近距離でサラさんの魔法を躱したし、相当な手練れだと思う」
「ウチのギルドにそんな手練れがいたかしら……?」
リーンの言う通り、ウチのギルドにはアサシンや盗賊職はいるが、このレベル六十のバケモノから逃げられるほどの奴、ウチの国には居ない。
「あん? 失礼な事思わなかった?」
「…………」
……コイツ読心術のユニークスキルでも持ってんのかな?
ガンを飛ばしてきたリーンに対し肩を竦めていると、リムが恐る恐る口を開いた。
「あの、もしかしてなんですけど……アダマス教徒の人だったり……」
「「ッ!」」
その言葉に対し、俺とリーンが反応した。
……あのストーカは実はアダマス教徒のアサシンで、この前のリム奪還の際に無双したリムの母ちゃんを危険視してけしかけに来てる。
確かに、そう思えば辻褄が合う。
「考えられなくもないわね……」
「だな。結構重大な話しになってきぞ……」
「ママ……」
深刻な顔になっているだろう俺を見て、リムがリムの母ちゃんの手を握る。
そんなリムに対し、リムの母ちゃんはいつもと変わらない笑顔で。
「大丈夫よ~。こう見えて、ママは強いんだから~」
「そう……だよね」
確かに初めてリムの母ちゃんの魔法を見たけど、アレを喰らっただけで即ぶっ倒れる程の威力だと分かった。
しかも殺さないように手加減してだ。
だから、不意を突かれない限り負けることは無いだろう。
……だが、リムにしてみりゃ自分の母親が暗殺者に狙われているかもしれない。
いくら強いとは言え、心配になるのも当然だろう。
…………。
「……よしッ!」
「「「……?」」」
いきなり声を上げた俺に、三人が首を傾げる。
……もしかしたら、俺にも危険が及ぶかもしれない。
だが、リムの母ちゃんの為にも。
何より、妹と過ごす時間をぶち壊したストーカーをぶん殴る為にも。
「一肌、脱ぎますかねぇ」
「アラアラ~」
「お、お兄ちゃん……?」
「顔がゲスになってるわよ」
一言余計だ。




