第十二話 捕らわれ少女は今日も幸せだ!⑪
全身に感じる軽い振動に、私は目を覚ました。
アレ……私、いつの間に寝ちゃったんだろう……?
「うぅん……」
未だボンヤリとした意識の中で目を擦っていると、私のすぐ近くで声が聞こえた。
「おっ、起きたか?」
「リョータ……さん……?」
顔を上げてみると、すぐそばにリョータさんの横顔があった。
私……リョータさんにおんぶされてる……?
「リム、あの後泣き疲れて寝ちゃったんだぜ?」
「うぅ……恥ずかしいです……」
「しゃーねえよ」
私があまりの恥ずかしさにリョータさんの背中に顔を埋めると、リョータさんは軽く笑いながらそう返す。
「あの……ここは?」
「バルファスト。んで、今は魔王城に帰る最中」
「他の皆さんはどこに……」
「アイツらはギルドに残って色々後始末して貰ってる。あっ、そうだ」
するとリョータさんは、何か思い出したように言った。
「実はリムを助ける時、お前の母ちゃんが居たんだって」
「やっぱり……」
「えっ? 知ってたの?」
「アダマス教徒の人が言ってました。外で戦っていた時、銀髪の魔法使いが現れたって」
「そうだったのか。リムの母ちゃん、お前を助けるって話を聞いてコッソリ俺らの後付けてたんだと。まあ、そのおかげでハイデル達が助かったし、よかったよかった。やっぱり強かったんだな、あの人」
「やっぱり? リョータさんこそ知ってたんですか? ママが元バルファスト魔王国一の魔法使いだって言われてたこと」
私がそう訊くと、リョータさんは思わずと言ったように振り向いた。
「マ、マジ? そんな凄い人だったの……? ああいうおっとりした性格の人は、実は強いって想像はしてたんだけど……」
「何ですか、その考え……」
「まあ、考えてみればお前の母ちゃんだもんな」
リョータさんが納得したように頷いている中、私は頬を緩めた。
そっか……ママ、私のこと助けてくれたんだ。
ううん、ママだけじゃない。
リーンさんもハイデルさんもローズさんもレオンさんも冒険者さん達も。
そして、リョータさんも。
私の事、助けてくれたんだ。
「リョータさん」
「ん?」
「私、こんなにいい人達に囲まれて、幸せです!」
「……そっか」
私が今思っている本当の気持ちを伝えると、リョータさんは嬉しそうに返事をしてくれた。
「さてと、魔王城までもうちょっとだぜ」
「ごめんなさい、わざわざおぶってくれて」
「さっき言ったろ、謝るんじゃなくって……」
「ありがとうございます、リョータさん」
「……おう」
それから、私はもう一度リョータさんの背中に頭を預けた。
リョータさんの背中は湖の水で若干濡れているけど、それでも温かい。
その温かさは、私の心を安らげてくれるような気がした。
そして、私はゆっくり瞼を閉じる。
すると、リョータさんのある言葉が脳裏に聞こえた。
それは私の家にリョータさんが来たときの言葉。
『リム、ちょっと俺の事お兄ちゃんって呼んでみてくれ』
……あの時、リョータさんは私をからかっていたのだろう。
でも、それでも。
あなただけなんです。
生まれて初めて出来た、たった一人の――。
「お兄ちゃん」