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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第十二話 捕らわれ少女は今日も幸せだ!⑨


「リョータさん! リョータさんッ!!」

「………………」


私を庇って勢い良く壁にぶつかってしまったリョータさんは、揺り動かしても目を覚ましてくれない。

リョータさんの右腕は赤く腫れ上がり、見ているだけでも自分の腕が痛くなってしまう。

私がリョータさんを起こそうとしている最中、その隣ではリョータさんを殴り飛ばした男の人が、私と同じようにジークリンデさんを揺り動かしていた。


「ジークリンデ様、しっかりして下さい!」

「う、うぅん……」


!? ど、どうしよう……!?

リョータさんの意識が戻る前に、ジークリンデさんの意識が……!


「リョータさん、起きて下さい! このままじゃ……!」

「うぅ……」


私は倒れているリョータさんに、必死になって縋り付く。

だけど、リョータさんは苦しそうな呻き声を上げるだけ。

その間、遂にジークリンデさんは瞼をゆっくりと上げてしまった。


「私……は……」

「ジークリンデ様ッ!」

「…………ッ!?」

「よかった、目が覚めたんですブッ!?」

「男が私に気安く触らないで!」


こ、この人……!

必死になって起こしてくれた男の人を引っぱたくと、ジークリンデさんはヨロヨロと立ち上がった。


「チッ……視覚共有が出来ない……! よくもやってくれたわね……おかげで私の傀儡が全員正気に戻ったじゃない……!」

「じゃ、じゃあその人は……?」

「ああ、コイツはアダマス教団の部下よ。万が一に備えて、ちゃんとした部下も加えたのが幸いだったわね……」

「そ、そんな……!」


じゃ、じゃあ、リョータさんが言っていた操られていたフォルガント王国の冒険者は無力化出来ても、アダマス教徒の人が残ってるから、まだ戦いは終わっていないって事……!?

衝撃の事実に、私がショックで言葉を失っていると。


「ジークリンデ様ッ!」

「傀儡化していた者達がいきなり倒れましたが、一体……!?」


大柄の男の人から遅れて、アダマス教徒の人達がなだれ込んできた。


「お前達、今の戦況は……?」

「は、はい。それが……攫った少女達が魔族に奪われ、現在この砦を脱出しようとしています!」

「な、何ですって……!?」


よかった……あの子達、無事だったんだ……。


「そ、それと……」

「まだあるの……!?」

「は、はい……! 実は、外で防戦していた者達が、我々アダマス教徒含め全員やられたと報告が……!」

「なっ……!」

「何でも、最初は多少の人数差で我々が有利だったのですが、突如として現れた銀髪の魔法使いに一掃されたと……!」


銀髪の魔法使い……。

それって……!


「この能無し共がッ! 本当に使えないわね!」

「も、申し訳ございません……」


ジークリンデさんはそう吐き捨てると、気絶したリョータさんを睨みつけた。


「どれもこれも、全部コイツが悪いのよ……! 今度こそ頭にきた……! 傀儡にするのはもう止めた、コイツは今ここで殺すわ……!」

「そ、そんな……!」

「リムちゃんは大人しくしていてね? すぐに終わるから」


ジークリンデさんは私に笑顔でそう言うと、鞭を地面に叩きながらリョータさんに歩み寄っていく。


「ダ、ダメ……ッ!」

「リムちゃん……」


私が倒れるリョータさんの前に立ち塞がると、ジークリンデさんは悲しそうに目を伏せた。


「リムちゃん、そこをどいて。コレはあなたの為なのよ」

「絶対嫌です……ッ!」

「残念だけど、今のリムちゃんは魔法を使えないのよ?」

「うぅ……!」


だけどジークリンデさんの言う通り、この首輪のせいで私の魔力が抑えられている。

魔法が使えないんじゃ、どうやったって私に勝ち目なんてない……。

そんな事、分かってるけど……。


「……ッ」


私はジークリンデさん達に掌を向け、魔法を放とうとしていた。

だけどやっぱり魔力を抑えられているため、魔法が出ない。


「言ったでしょうリムちゃん。今のあなたに魔法は使えないって」

「……ッ! ……ッ!!」


ジークリンデさんにそう言われても、私は魔法を出そうとするのを止めない。


「あなた達、リムちゃんを捕まえて。そして、あの男を今のうちに始末しなさい」

「「「ハッ!」」」


そんな私を見てジークリンデさんはアダマス教徒の人達にそう命令する。

するとアダマス教徒の人達が私に歩み寄ってきた。

……怖い……凄く怖い……。

正直、泣き出しそうだ……。

だけど皆が、リョータさんが、私を助けるためにたくさん傷付いてしまった。

それなのに、私だけ何も出来ないなんて……。

絶対に……絶対に嫌だッ!


「うぅぅ……ッ!」

「ああもうっ、リムちゃんったら! 健気でほんっと可愛い……うん?」

「くうぅぅ……ッ!」

「ッ!?」


何が起きたか分からない。

どうしてなのか分からない。

だけど。


「何で……何で魔力が溢れ出てくるのよ!?」


私の掌から。

いや、私の全身から魔力が溢れだしてきた。

その瞬間、私の身体に力が漲ってくる。


「ハアアァァ……ッ!」

「ちゃんと首輪は付いてるのに……! 何なのこの魔力量は……!?」

「ジークリンデ様、ここは逃げた方が宜しいかと……!」

「ヤバい、このままじゃ……!」


慌てふためくジークリンデさん達に、私はゆっくりと口を開く。


「ジークリンデさん……私は……」

「リムちゃん待って! おおお、落ち着いて話し合えば、私達は分かり合えるはず……!」

「あなたを絶対に許しませんッ! 大っ嫌いッ!」

「……ッ!?」


勇気を出して、ジークリンデさんに言いたいことを言えた私は、掌に魔力を集中する。

……私も。

リョータさんが全力で私を守ってくれたように。


「リョータさんを、守るんだあああああああ!」

「リムちゃん待――!」


私はジークリンデさんが言い終わる前に。


「『ライトニング・レイ』――ッ!」


私は全力の魔法を放った――!





「――ハァ……ハァ……」


私が放った魔法はジークリンデさん達を巻き込みそのままこの大広間の壁を破壊し、大穴を作った。

その大穴から、月明かりが差し込んでいる。


「あっ、首輪が……」


私が肩を上下に動かしていると、私の首に付いていた首輪がガチャンと音を立てて落ちた。

さっきの魔法の影響で、壊れたのかな……?


「ァ……ァ……」


そして私の目の前には、黒こげになったジークリンデさんとアダマス教徒の人達が転がっていた。


「コ、コレを……私が……?」


今になってみると、さっきまでの記憶が殆ど無い。

ただ、リョータさんを助けようと必死になって……。


「うぅ……魔力が……」


だけどさっきの魔法で魔力を殆ど使い果たしてしまった。

もう、立っているのがやっとだ。

でも、コレで助かった……。

私が、安堵のため息を漏らしたその時だった。


「ぐぅ……!」

「ッ!?」

「まだ……よ……」


そんな……まだ動けるの……!?

黒こげになりながらも地面を這いずるジークリンデさんに、私は後ずさった。


「せめて……この男を……!」


ジークリンデさんは虚ろな目をしながらも、そばに落ちている鞭に手を伸ばす。


「ダ、ダメ……! あぅ……」


私はソレを止めようとするが身体が動かず、そのままその場にへたれこんでしまった。

そんな……そんなぁ……。

ヤダよ……このままじゃ……リョータさんが……!


「コレで……あの男を……!」


そう歪んだ笑みを浮かべて言ったジークリンデさんの指先が、鞭に触れ掛かったその時。


「『投擲』……ッ」


微かな声が聞こえ、私の後ろから何かが飛んできた。

ソレは何かの液体が入った小瓶で、その小瓶はそのままジークリンデさんの手と鞭のそばに落ちる。

すると小瓶の中身の液体が当たりに撒かれ、ジークリンデさんと鞭に掛かった。


「何よコレ……? それより今は……!」


ジークリンデさんはその液体に一瞬対し訝しげな顔をしながらも、鞭を手に取り――。


――ツルンッ。


「なっ……!?」


まるで、鞭が自らジークリンデさんから逃れたように手から飛び出した。


「何コレ……滑って掴めない……!?」


ジークリンデさんが何回も鞭を取り落とし、目を見開きながら言うと。


「そりゃそうさ……さっきぶちまけたのは油だからな……。お前の今の状態じゃ、油でツルツルな鞭なんて取れやしねえだろ……」


後ろから、今度はハッキリと声が聞こえた。

次の瞬間、私の身体を支えるように抱き寄せる感覚が。


「あ……」

「まったく……リムを助けに来たのに、最終的に俺が助けられるなんて……格好つかねえなぁ……」


私がその声が聞こえた方を向いてみると、そこには……。


「リョータさん……ッ!」

「すまん俺、一瞬死んでたわ……」


困ったような笑みを浮かべた、リョータさんの顔があった。


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